【NPJ通信・連載記事】読切記事
それでも五輪を強行するのか
新型コロナウイルスの猛威はとどまるところを知らず、医療は逼迫している。 “切り札” とされたワクチンもかけ声だけで実際にはなかなか届かない。国民の不安は深まるばかりだ。それでも政府と国際オリンピック委員会 (IOC) などの関係機関の姿勢は「まずオリンピック、パラリンピックありき」である。ウイルス感染を恐れながらの五輪などあり得ない。
◎「期間が短すぎる」と異論
新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて東京、大阪など 4 都府県に 3 回目の緊急事態宣言が発令された。期間は 4 月25日から 5 月11日までの17日間。発令前、専門家で構成され政府に意見を言う分科会でも了承されたものの、席上「それだけの期間では感染拡大を抑え込めない」「もっと強い措置が必要だ」などの議論が噴出したという。
政府側は「短期集中的な対策で感染を抑え込む」と押し切ったが、分科会における了承は「期限が来たから自動的に終了ではなく、期間延長もあり得る」と一種の条件付きだったという。
政府の「短期」へのこだわりは、宣言が経済活動に与える影響を考慮したこともあるが、「五輪開催」へのこだわりの要素も大きいと見られている。菅義偉首相の政権はスタート直後の勢いが消え低支持率にあえいでいる。さらに支持率が下がる可能性の高い五輪中止は避けたい。五輪の成功で支持率は反転上昇という期待もある。
◎「開催」は共通の思惑
「まず開催ありき」は IOC のバッハ会長も同じだ。記者会見で「緊急事態宣言は五輪と無関係」「日本政府が連休中の感染拡大を防ぐためにやったことだ」と言ってのけた。バッハ氏にとって巨額のテレビ放映権料を失うことになる「五輪中止」などあり得ないのだろう。
そのバッハ氏が 5 月中旬、来日するという。短期決戦に固執する政府には、それまでに感染を一定程度減らし、バッハ氏来日で五輪開催への弾みをつけたいとの思惑がうかがわれる。
しかし開会式まで 3 ヶ月足らず。短い期間に現在の事態を収束するのは不可能というのが常識的見方だろう。政府関係者や小池百合子東京都知事などからは「安全、安心な大会にする」「人類が新型コロナウイルスに勝った証しとして開催する」などと強気発言が伝わってくるがいずれも根拠不明確だ。
このまま大会を強引に開けば、日本国内はもちろん、国際的にもさらに重大な災禍を招くことになるのではないか。これは多くの人が抱く不安であり、口にはしなくても心中に抱く懸念である。
◎失敗続きの菅政権
菅政権のコロナ対策は失敗の連続である。前回の宣言は前倒しで解除して感染再拡大を招いたし、変異株の広がりが明らかになって専門家が対策強化を求めたのにもたつくなど対応が後手続きだ。日本国内でも今年に入って死者が急増し、 1 万人を超えた。
すでに一部地域では医療が崩壊している。医師や看護師がコロナ患者の治療に追われ、救急患者に早急、十分な対応ができない、がん患者の手術が後回しにされるなど、救える命を救えない恐れも生じている。
コロナ患者についても、せっかく治療の効果が出て転院可能となっても満床で転院不能だったりしている。それがまた他の患者の転院を困難にするという悪循環だ。
“切り札” と期待されたワクチンも「いつになるやら」である。担当の河野太郎・行政改革担当相は「・・・の見通しとなった」「供給の目処がついた」などの活発な発言、接種を担当する自治体へのあれこれ指示などで「やってる」観を演出する。
だが現場では接種する医療関係者の人手不足に悩み、ワクチンがなかなか届かないこともあって、優先される高齢者でさえ接種がすんだのはごくわずか。ほとんどの国民は自分がいつ、どこで接種を受けられるのか分からないで不安を募らせている。
そんな情況へ五輪関係者が加わったらどうなるのだろうか。対応するには看護師だけで500人、医療スタッフ全体では 1 万人が必要との想定もある。果たして対応可能だろうか。可能としても本来のコロナ対策への影響はないだろうか。
万一、入国時のチェックを免れて選手団などに感染者が紛れ込んでいたら、選手などが街に出て感染したら、予想される選手村での選手交流は安全なのか、対応を誤ればクラスターが発生しかねない・・・など心配のタネは尽きない。それらを吹っ切って大会を開催しようとするのは無謀、無責任との批判を免れないだろう。
目に見えない敵、新型コロナウイルスとの戦いの収束に向けて、これ以上の失敗は許されず、政治的思惑を絡ませている余地などない。
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