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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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ギャンブラーの賭け金になることを拒否した沖縄

2014年11月21日

沖縄県知事選挙は翁長雄志氏が10万票の大差をつけて圧勝しました。普天間基地を辺野古崎に移設することに反対したオール沖縄の勝利です。日米同盟の「抑止力」強化の象徴が普天間基地の辺野古崎への移設でした。それを明確に拒否した沖縄の選択は、私達全体に共通する問題だと思います。

普天間基地移設は、元々は95年に発生した海兵隊員による少女暴行事件で、沖縄県民の米軍基地への怒りが沸騰し、全国の世論調査でも安保条約に反対する意見が過半数に達し、このことが当時すすめられていた安保再定義(日米同盟強化)の大きな障害になったことから、沖縄の負担軽減という名目で持ち出されたものでした。しかし県内移設という条件がついたことから迷走を始めたのです。

その後ブッシュ政権になり、テロとの戦争という新しい米軍戦略に併せて日米同盟の強化が図られます。日米防衛政策見直し協議(米軍再編協議とも称される)です。すると今度は普天間基地移設は、アジア太平洋でグアムを米軍の拠点として強化するという政策に位置づけられました。普天間移設を海兵隊部隊のグアム移転と結びつけられました(パッケージ論)。

ところがオバマ政権になり、大幅な国防費削減の中でアジア回帰(リバランス)という軍事戦略をすすめる上で、海兵隊のグアム移転と普天間基地移設を結びつけていることが逆にアジア太平洋での米軍再編を阻害することになりました。そこで登場したのが米軍再編見直しです。

この様に普天間基地移設問題は、米軍事戦略の中で位置づけを変えられながら、普天間基地の辺野古崎移設だけは一貫して目指されてきたのです。パッケージ論が破綻したのは、沖縄県民の長年にわたる粘り強い反対運動の力です。現在では普天間基地の辺野古崎移設は、アジア太平洋での米軍再編にとり不可欠なことではないと思います。むしろ日本政府側が、「抑止力」神話に取り憑かれて、海兵隊の沖縄駐留に固執し、使い勝手のよい新品の基地を提供するので、海兵隊の駐留を続けてくれと米国へ頼んでいるようなものです。

米軍再編見直しを合意した2012年4月27日の2+2共同発表文に次の一節があります。「(米軍再編見直しが)アジア太平洋地域において、地理的により分散し、運用面でより抗堪性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢を実現するために必要であることを確認した。」。

この一節の意味は、沖縄の米軍基地は中国に近すぎて、且つ沖縄に密集しているので、不測の事態では中国軍の攻撃に脆弱であるということです。だから米軍再編見直しでは、在沖米海兵隊の実戦部隊第4海兵連隊をグアムに移転し、ハワイ、オーストラリアとローテーション配備するというのです。米軍再編合意では、在沖縄海兵隊の司令部要員をグアムへ移転するはずでした。「抑止力」が低下するので実戦部隊を残さなければならないという理屈だったはずです。実戦部隊をグアムへ移設するというだけで、普天間基地の辺野古崎移設の根拠はなくなるはずです。沖縄に残される実戦部隊は第31MEU(海兵遠征部隊)だけです。2000人規模ですが、佐世保の強襲揚陸艦に乗艦して運用される部隊です。MEUは、大隊上陸チーム、ヘリコプター飛行隊、戦務支援群で構成され、戦闘部隊は大隊上陸チームで、およそ600ないし800名の兵員と思われます。戦闘部隊としては小さいものです。しかもこの部隊は1年の内大半は海外での任務(共同訓練や能力構築支援など)に就いています。ですから、第31MEUが沖縄に駐留していても、抑止力にはならないはずです。普天間基地の移設が日米同盟の「抑止力」維持に必要ということは騙しの手口です。

通常弾頭の弾道ミサイル数発で壊滅するような基地を、沖縄県民を苦しめ抜き、1兆円とも言われる膨大な国費をつぎ込んで造る価値がどこにあるのかということを述べるのが目的ではありません。米中間の本格的な軍事紛争となれば、真っ先に犠牲になるのが沖縄県民なのです。それを「抑止力」と称してごまかしているのが安倍晋三なのです。

「抑止力」とは、もし相手国側がわが方を攻撃すれば、相手国に対して耐えがたい惨害を与えるという軍事態勢をとることで、相手国は攻撃を控えるという力です。「抑止」が効くためには、不測の事態で軍事力を使う意思と能力が必要です。「抑止」はきわめて主観的な概念ですから、本当に「抑止力」が効いているか客観的、定量的には測ることが出来ません。「抑止」が成り立つ前提には、互いに相手の能力(軍事力)と意図(軍事戦略)が正確にわかること、相手も自分と同じように理性的に判断するとお互いに信頼できることという二つの条件が最低でも必要です。互いの国内でナショナリズムという非合理的な感情が高まり、政府がコントロールできなくなると、「抑止」は破れるでしょう。歴史問題を抱える日中間ではそのリスクは高いものがあります。

「抑止力」は平和と安定を維持する仕掛けとしてはきわめて脆弱です。武力紛争がないから「抑止力」が効いていると感じているに過ぎないかも知れません。「抑止」は破れやすいと言えます。基盤の脆弱な「抑止力」に国の平和と安全をゆだねるのは、博打のようなものです。

互いの国が相手に対して「抑止力」を働かしているという状態は、互いに相手国に対して耐えがたい惨害を与えるぞと威嚇している構図です。言い換えれば、互いの国民を人質に取る軍事政策です。「抑止」が破れたときは、国民が犠牲になるのです。つまり「抑止力」とは、それをもてあそぶ安倍晋三という政治家の博打に、私達の平和と安全、生命財産を賭け金として預けることに等しいことです。「抑止力」を発揮しようとする決定的な段階では、秘密保護法で私達にはその本当の理由は秘密にされるでしょう。私達の置かれた立場と沖縄県民が置かれた立場は基本的には変わらないのです。私は安倍晋三にだけは自分と家族の安全を絶対にゆだねたくありません。

解散になった臨時国会へカジノ法案が議員提案されました。その母体は「国際観光産業振興議員連盟」です。安倍晋三は麻生太郎と並んで最高顧問です。さすがに法案が提出されたことで安倍晋三は最高顧問を辞したが、安倍晋三は首相として5月にシンガポールのカジノ施設を視察し、俄然積極的になりアベノミクスの第三の矢の成長戦略に組み込むつもりです。法案は衆議院解散で廃案になりましたが、次期通常国会へ提出されるでしょう。

安倍晋三がギャンブル好きかどうかはここでは関係ありません。7・1閣議決定を貫いている安全保障政策の要は、安倍晋三の大好きな「抑止力」です。尖閣を防衛するためには、日米同盟の「抑止力」を高めなければならない、そのための集団的自衛権という理屈です。「抑止力」は破れやすく、いわば勝率の低いギャンブルのようなものです。賭け金は私達の平和と安全、生命と財産です。閣議決定は、中国の脅威に対抗し尖閣防衛のために私達を人質に差し出すことに等しいものです。さらに集団的自衛権行使と称して、米国の国益のために私達の平和と安全、生命財産を差し出すことに等しいものです。

沖縄県民は県知事選挙でこれを拒否しました。次は私達の番です。総選挙では安倍晋三の安全保障政策にきっぱりと「NO」を突きつけなければなりません。

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