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“裏の顔” を見逃すな

寄稿:飯室勝彦

2021年7月6日


 庶民に寄り添う政治家を装う表の顔に惑わされて、「民主主義、平和主義の破壊者」としての “裏の顔” を見失ってはならない。二つの顔の主である菅義偉首相は世論を無視してオリンピックを強行開催しようとしている。30~40%台を低迷する内閣支持率の V 字回復と、秋の総選挙での勝利を五輪成功にかけようとしている。新型コロナウイルス禍での五輪成功か会期中の感染爆発か、バクチの観がある思惑にかけられるのは内外の多くの命。これが民主主義の破壊でなくてなんだろう。

◎多忙を押し現地で献花
 6 月28日、千葉県八街市で下校途中の学童のグループに飲酒運転のトラックが突っ込み 5 人の死傷者が出た。3 日後、事故現場に菅首相の姿があった。献花した首相は通学路の安全点検を表明した。コロナ対策などに追われる身にしては素早い対応と言えよう。
 7 月 3 日に起きた静岡県熱海の土石流災害では、即座に、そして当然ながら翌日曜日も関係閣僚を集めて会議を開き「被災者支援の徹底」を指示した。
 いかにも民の生活に深く思いを寄せる政治家のようにみえる。八街行きが本人の発案か周囲の助言によるかはともかく、本人もそれを意識していたに違いない。

 携帯電話の値下げに熱心だったのも菅首相だ。時期的には安倍晋三内閣、就任早々の菅氏の内閣の業績か微妙だが、主導したのは菅氏自身。内閣官房長官のころから「携帯電話会社は儲け過ぎ「 4 割値下げできる」と強引に誘導し、大幅値下げを実現させた。
 コロナ対策の迷走や、五輪を意識しての対策不徹底で内閣支持率は急落したが、強引すぎる誘導に疑念が残ったものの値下げ誘導自体は好評だった。

◎安倍政権のパートナー
 しかし菅首相の裏の顔を見落としている人も多いのではないか。戦後の日本人が営々として築き、日本社会に定着していた民主主義、平和主義の諸システムを次々否定する安倍前首相を、菅氏は支え、協力してきた。いわば安倍政権のパートナーだったのである。
 内閣法制局長官の首をすげ替えて強行した憲法の政府解釈変更、100回を超える虚偽答弁・発言に象徴される国会軽視、行政文書の隠蔽や書き替え、参戦を可能にした安保法案の強行採決・・・・・・などなど安倍政権のもとで行われた破壊は「二人でやった」ことである。

 菅氏の政権に変わっても路線は変わっていない。学術会議の新メンバー任命問題で、法律や慣例を無視して意に沿わない一部の研究者の任命を拒否した。自衛隊や米軍の基地周辺の土地の所有や利用に政府が介入できる重要土地規制法も成立させた。「安全保障にとって重要」を名目に基地周辺の土地利用を規制したり、地権者に関する情報を集めたりすることが許される。私権の制限になるばかりか平和主義など憲法の柱との関係が問われる軍事優先の法案だったのに、突き詰めた議論がないまま国会を通過してしまった。

◎本質を見極める
 とかく人は表に現れた派手な言動や身近な利害に目を奪われがちだが多くの場合、それらには裏がある。
 「戦後レジームからの脱却」を唱えた安倍前首相のイメージとその政治が、派手で危険性が分かりやすかったのに対し、菅政権では菅氏のリーダーシップ不足のせいで国民の目には危険性が相対的に薄まって見えがちだが、両者の本質は変わらない。有権者国民は菅政権を厳しく監視し、その本質を見極めたい。

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