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安倍政権の反知性主義とメディア恫喝

寄稿:飯室勝彦

2014年12月1日

安倍晋三首相に対する「反知性主義」との批判は定着したようだ。アベノミクスに代表される客観性、実証性無視の政策を推進し、異論について道理に従い対応することができないで、自分に同調しない相手には居丈高に振る舞う。民主主義の長い実践の中で揺るぎないものになった「権力の謙抑」という“知”とは無縁である。

その代表例がメディアに対する露骨な支配欲と恫喝だ。「批判されない権力は必ず独善と腐敗に陥る」「権力は批判に甘んじなければならない」「自由な報道は社会の風通しをよくして権力の腐敗を防ぐ」など、民主主義のイロハさえ知らないかのようだ。

安倍首相は政権に復帰すると早速、NHK支配に着手した。2013年秋には経営委員に“お友達”を送り込み、04年1月にはイエスマンの籾井勝人氏を会長に据えた。

同年8月、朝日新聞が、従軍慰安婦の強制連行、いわゆる慰安婦狩りを告白したとされていた「吉田証言」と、東電福島原発事故に関する「吉田調書」の報道をいずれも誤報と認めると、得たりやおうとばかりに朝日批判を強めた。強制連行がなかったのだから慰安婦制度もなかった、と言わんばかりだった。

閣僚の不祥事が次々明るみに出た10月には国会の委員会における答弁で虚偽の事実まで持ち出した。首相が側近議員との昼食会で「撃ち方やめになればいい」と事態収束を期待する発言をしたと、朝日以外のメディアも報じたのに朝日だけを名指しして「捏造報道」と攻撃したのである。

実際は出席した側近が自分の発言を首相発言だと記者に説明したための誤報で、側近も公式に釈明したのに、首相は確認も捏造発言の謝罪もしなかった。

おまけに「朝日新聞は安倍政権を倒すことを社是としていると、かつて主筆がしゃべった」と荒唐無稽の事実まで挙げた。常識で考えればとうてい真実とは思えないことでも、平気で公式の場で話すのは異常だ。

同じ予算委で野党議員が各閣僚の問題点を記した顔写真入りのパネルを使って追究すると、首相は「名誉毀損だ」「公共の電波を使ってイメージ操作をするのはやめろ」といきり立った。その目は質問する議員ではなく、質疑を中継するテレビカメラを睨んでいた。恫喝におびえたのか、NHKの画面はアップからロングショットに変わり疑惑を列挙したパネルは映されなかった。

11月、衆議院が解散され選挙戦が始まると自民党は在京のテレビ各局に選挙報道の「公平中立、公正確保」を求める文書を突きつけた。◇出演者の発言の回数、時間◇ゲスト出演者選定◇街頭インタビュー、資料映像などの公平中立、公正を期し、◇特定政党に対する意見の集中がないようにせよ、など個別具体的に注文をつけた。批判封じの脅しと言わざるを得ない。

 

この申し入れ文書の中にも虚偽があった。1993年にあったテレビ朝日の“椿発言”問題を指すとみられる「過去にあるテレビ局が政権交代を画策して偏見報道を行い、それを事実として認めた」という部分がそれだ。この問題では当時の所管官庁だった郵政省の調査でも「偏向報道はなかった」との結論が出ており、自民党の指摘はまさに捏造である。

日本がファシズムへの道を歩み始めた昭和の初期、国家による統制は「教育と言論の統制」から始まり、「情報統制」「弾圧強化」「テロの発動」と進んでいった。メディアはそれに抗しなかった。

最終的には憲法改悪で「戦争のできる国」にすることを目指し、集団的自衛権の行使容認を決めた安倍政権の動きは、特別秘密保護法の強引な国会通過、教育基本法改悪、道徳教育の正式教科化など当時とよく似ている。

憂慮すべきはメディア側がさして抵抗しないことである。支配、恫喝の効果は既に出ている。NHKニュースにおける安倍首相の露出度は大幅に増えた。「放送を語る会」のモニター結果によれば、2014年5月16日から7月6日までの間、NHKが集団的自衛権の行使容認問題をニュースで取り扱った167分の70%は政府与党の動きとその主張で、反対する側の声や動きの報道は極めて少なかった。

選挙報道の公正を求められると、テレビ朝日は早速、各党討論番組への評論家参加をやめてしまった。萎縮現象はテレビ界全般に広がり、自由で活発な報道が減り有権者に判断材料が十分提示されなくなっている。

かつてメディアは権力に抵抗しなかったばかりか、先導役を果たしさえした。平和憲法が危うくなっているいまこそ、その償いをしなければならない。ジャーナリストは、国民のために、権力の恫喝をはねのけ、正しい情報と課題、主権者の選択肢を提示し続ける覚悟を求められている。

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