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9 条自衛隊明記のうそ

寄稿:弁護士・市民連合@国分寺共同代表・梓澤和幸

2022年2月12日


 「憲法 9 条 1 項 2 項はそのまま。自衛隊を憲法に書きこんで違憲論争に終止符をうつだけです。ご安心ください」「岸田は宏池会でリベラル。護憲派です」
 ここにあるウソを 3 分間のプレゼンで打ち破ることができないといけません。
 次の 3 点にご注目ください。

第 1 9 条 1 項 2 項が国に禁止した三つのこと。
1 . 自衛戦争を含むあらゆる戦争をしてはならない (戦争の放棄)、2 . 戦力を持ってはならない (戦力の放棄)、3 . 交戦権 (相手国の兵士を殺傷しても戦争犯罪にならないという権利) の放棄、この三つのことの放棄の結果、日本は戦争できない国になったのです。

第 2 自衛隊明記の条文をよく知りましょう。
 自民党2018年 3 月24日の党大会でまとめた改憲素案に注目しましょう。その条文は 9 条 1 項 2 項はそのままとして新しく次の条文を加えるというものです。

第 9 条の 2
(第 1 項) 前条の規定 (梓澤注 9 条 1 項 2 項のこと) は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

(第 2 項) 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
 必要な自衛の措置とは条文をよむだけだと「専守防衛」のことだと誤解します。
しかし違う。

 ウソを解き明かす玉手箱は自民党HPに掲載されている2012年自民党改憲草案 Q & A 第 9 問にあります。
Q 9 集団的自衛権についてはどう考えていますかとの質問への答え。
A 「この自衛権には国連憲章が認めている個別的自衛権や集団的自衛権が含まれていることは、言うまでもありません。」
 自民改憲素案の下線部はこの答のいう集団的自衛権というキーワードを念頭におくと一挙にその正体を現します。
 人々をして 9 条 1 項 2 項は残すからと安心させます。そのうえで前条の 9 条 1 項 2 項は自衛隊が集団的自衛権を行使できる実力組織として行動することを妨げないという改憲素案下線部の条文を憲法9条に織り込むのです。
 「後法は前法に優先する」という法律のことわざがあります。前の法規範があることを知っていて後の法規範を定めたのだから、後の法規範が優先するという考え方です。
 9 条 1 項 2 項という前法に下線部の9条自衛隊明記条文という後法は優先します。自衛隊は集団的自衛権を行使することができる軍隊となるのです。

第 3 9 条自衛隊明記で何がおこるか。
 集団的自衛権とはアメリカなど軍事同盟の同盟国の兵士、艦船、領土が攻撃を受けたときはこれを自国への攻撃とみなして軍事行動をおこすことができる権限です。
 ウクライナ、台湾有事のことを考えてみましょう。
 前者で東欧に派遣された米軍がロシア軍に攻撃されれば、2015年安保法制で導入された重要影響事態法で自衛隊はウクライナにも後方支援のため出動を余儀なくされるかもしれない。台湾有事で中国艦船と米軍艦が現場接触すればそこに自衛隊の護衛艦の出動を要請される羽目にもなりかねない。奄美南西諸島、宮古、石垣など沖縄先島列島には自衛隊の基地が配備されつつあります。集団的自衛権を認める自衛隊明記憲法の下では、ミサイル基地に米軍から自衛隊幕僚本部を通じてミサイル発射による支援を指揮命令されてもこれを拒むことができない。
 9 条がいまのままなら、自衛隊員が無理やり現場に向かわされるとき、ミサイル発射を指示されたとき、従来の解釈に従えばそれは憲法違反として争える。任務を拒否する自衛隊員が訴訟を起こすかもしれない。実際に戦争法憲法違反を主張する隊員が違憲訴訟を起こした事例もあります。
 当然、市民は憲法違反の軍事行動が起こされる兆候があれば、反戦デモを起こし、大きな抵抗運動が発展するでしょう。
 それをあらかじめ抑え込もうとするのが 9 条自衛隊明記です。自衛隊員の生命や自衛隊員のご家族の深い悩み、悲しみをわがこととして考えるときこれはぜひとも葬るべき改憲提案です。

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