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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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2022年度防衛予算の分析
―台湾有事を想定した中国との武力紛争への備えの視点から

2022年2月14日


第 1 16か月予算による大幅な軍拡予算
 防衛省が2021年12月に作成した、「令和 4 年度予算の概要」では、2022年度本予算を「16か月予算」として編成したと説明しています。その意味は、2021年12月の補正予算の 4 か月 (2022年 3 月末まで) と2020年度本予算12か月を合算したという意味です。

 これを防衛省では、防衛力強化加速パッケージとネーミングして、2021年12月補正と合算して 6 兆1744億円、対GDP比 1.09%、令和 2 年度補正と令和 3 年度本予算の合計よりも10.7%も増額したと自慢しています。財政危機と消費税増額、格差と貧困の拡大の中で、軍拡予算をこのように自慢する防衛省の感覚には、いささかあきれてしまいます。

 おそらく2022年 1 月 7 日に予定されていた日米安全保障協議委員会 ( 2 + 2 )、1 月22日に開かれる日米首脳電話会談に向けた、対米アピールの意味を込めたのでしょう。しかし防衛予算の大幅増額をこれほど誇らしく説明したことの意味は重要と思われます。「防衛力強化加速パッケージ」と防衛省が自らネーミングした意味は、台湾有事を想定した日米同盟の軍事態勢を急速に構築すること、そのための自衛隊の態勢を整備することを狙っていると思われます。いま米国が我が国に対して最も求めている内容です。

 以下、台湾有事を想定した中国との武力紛争への備えの視点から、この16か月予算の分析を試みます (分析というよりも内容の整理ですが) 。予算の分析は私にとって大変地味な作業で、これまであまり手掛けたことはないので、不十分なものですが、それでも、現在の我が国の防衛政策がどこに向かっていこうとしているのかを、いくらかでも描けたと思っています。

第 2 南西諸島防衛態勢の強化
1 台湾有事への備えとして、自衛隊の南西諸島での軍事態勢の強化が進んでいます。これは自衛隊独自、単独での態勢ではなく、米海兵隊、米陸軍の対中軍事態勢と連携することを前提にしています。

2 南西諸島有事での緊急展開部隊と島嶼奪還部隊
 台湾有事から波及する南西諸島有事では、南西諸島の島嶼部へ事前配備された緊急展開部隊と、南西諸島の一部が中国軍に占領された場合の島嶼部奪還作戦部隊が必要です。

 沖縄本島配備の陸自第15旅団は、真っ先にその任務にあたる部隊です。これに加えて、陸自は2018年に組織の大きな変革を行い、5 個の方面隊を一元的に指揮する陸上総隊を創設し、陸自の基幹部隊である師団、旅団の半数を機動師団、機動旅団へ再編し、新たに水陸機動団を新編しました。平成の大改革と称されており、その目的が南西諸島有事への備えです。 むろん第15旅団は機動旅団へ編成される予定です。

 機動師団・旅団へは、戦車に代えて、戦車砲を搭載した16式機動戦闘車を配備します。機動戦闘車は装輪走行で、戦車よりも早く、市街戦に使え、C135輸送機で空輸できます。22年度防衛予算ではこの機動戦闘車33両 (237億円) を取得します。

 南西諸島有事では、兵員や兵站物資の輸送がカギを握ります。佐賀空港へのオスプレイ配備の造成工事 (30億円) などを予算化しているのはこのためです。南西諸島の島嶼部の港湾の水深が浅いことから、海自の大型輸送艦は運用できないため、中・小型輸送艦を取得 (102億円) します。

 後方支援基地として、佐世保の崎辺東地区へ大型船舶が接岸できるバースや支援施設を整備 (86億円) します。
 馬毛島についても、単なる米空母艦載機の離着艦訓練基地にとどまらず、陸・海・空自衛隊の総合的な基地にして、訓練、装備の備蓄、輸送を含む兵站基地、南西諸島有事の際の後方支援基地とする計画です (施設整備費3180億円) 。

3 スタンド・オフ、敵基地攻撃兵器
 中国との武力紛争・戦闘では、南西諸島を防衛拠点として、そこから中国海軍艦船と航空機を攻撃し、それに対する反撃を排除することが重要です。
 そのための自衛隊の作戦構想がクロスドメイン戦闘です。米海兵隊の遠征前方基地作戦と米陸軍のマルチドメイン戦闘と連携します。自衛隊のクロスドメイン戦闘と米陸軍のマルチドメイン戦闘は、後継の図のように、ほとんど同じです。

 違いは、マルチドメインの方は、敵領土のミサイル基地を攻撃していることが、自衛隊のクロスドメインには含まれていないという点です。クロスドメインの図は防衛白書掲載のものですから、いまだ敵基地攻撃を行うとの政策決定を行っていない以上、自衛隊はできないからです。敵基地攻撃を実施すると政策判断すれば、全く同じ作戦構想となるでしょう。

 これらの作戦では、電子戦、スタンド・オフ攻撃、敵基地攻撃、対艦・対空戦闘能力が必要です。
 陸自電子戦部隊は現在熊本の健軍師団へ 1 個部隊を置いていますが、新たに新潟県高田市、鳥取県米子市、鹿児島県川内市へ編成されるほか、与那国駐屯地、対馬駐屯地等へ電子戦部隊を配置するための施設整備 (61億円) を行います。2023年には与那国島へ電子戦部隊を配備する予定です。

 電子戦部隊には、移動式の電子戦用車両 (ネットワーク電子戦システムNEWS) が配備されます。これにより、敵の人工衛星を無力化したり、敵部隊や敵領土のレーダー、通信システムを妨害して、味方の作戦行動を支援します。

 電子戦戦闘システム

 電子戦には地上配備のもの以外にも、スタンドオフ電子戦機の開発 (190億円) を行います。
 スタンド・オフ電子戦機は、中国領域より離れた空域から、中国領土へ設置された防空レーダー、通信システムの機能を阻害して、中国領土内での一時的な航空優勢を確保しながら軍事施設への攻撃 (敵基地攻撃) を支援します。

 スタンド・オフ攻撃を行うため、南西諸島へ配備されている12式地対艦ミサイルの射程を900キロまで伸延し、地上発射型に加えて、空中・海上発射型にするための改良 (393億円) を行います (2020年12月閣議決定) 。最終的には射程1500キロまで伸延する計画です。
 南西諸島の陸上へ配備された改良型12式ミサイルは、そのまま中国本土の軍事施設を攻撃できます。航空機や艦船から発射すれば、中国軍のミサイルの射程外から、中国本土の軍事施設を攻撃できます。

 スタンド・オフ攻撃のための新たな装備である、「島嶼部防衛高速滑空弾」の開発 (145億円) 「極超音速巡航ミサイル」の開発 (40億円) を進めます。
 「島嶼部防衛高速滑空弾」は、あたかも島嶼部防衛用の印象を与えますが、その実態は、弾道ミサイルの先端にある弾頭部が高速で滑空して標的を攻撃するもので、迎撃が困難で、射程によっては中国本土を狙うものになります。北朝鮮が発射実験している変則軌道の弾道ミサイルや、中国軍が配備しているDF17弾道ミサイルと同じタイプのミサイルです。

 極超音速巡航ミサイルは、中国やロシアが配備しているといわれていますが、迎撃が困難な敵基地攻撃手段です。この二つのミサイルは、ステルス形状をしており、敵レーダーでも捕捉しにくいものになりますので、余計に迎撃が困難になります。

      島嶼部防衛高速滑空弾と極超音速巡航ミサイル

 南西諸島島嶼部の拠点防衛用の短距離対空兵器として、陸自近距離地対空誘導弾と空自防空誘導弾をファミリー化 (共通仕様) により効率的に開発 (18億円) します。

 ステルス性能と無人攻撃機との連携した作戦が可能な、次世代国産戦闘機 FX 開発も、敵領土を攻撃できる有力な装備です。このための開発予算として1001億円が計上されました。
 F35A 8 機 (768億円)、F35B 4 機 (510億円) を取得します。 F35は、レーダでは捕捉しにくいステルス性能の優れた第5世代戦闘機です。長射程ミサイルを搭載したF35は、敵領土内での防空レーダーを回避し、敵防空システム (防空レーダー、防空ミサイル、通信システム) を攻撃し (敵防空網制圧 SEAD作戦と呼びます)、敵領域内での航空優勢を確保する能力があり、いわゆる敵基地攻撃兵器の最たるものです。

 また、多機能先進データリンク機能 (MADL) があり、敵のミサイル、攻撃機を探知し、味方の戦闘情報ネットワークへデータを中継し、他の戦闘アセットとの統合した戦闘が可能です。F35Bは、宮崎県の新田原基地へ配備される計画です。これは南西諸島有事を想定した配備です。

 自衛隊が保有するF35A,B は米空軍や海兵隊のF35と共同戦闘を行うことを可能にします。米軍の戦闘情報ネットワークに組み込まれての一体的な作戦行動です。

4 中国との戦闘で優位に立つための宇宙作戦
 日本を含む先進諸国は、宇宙は戦場と位置付けて、宇宙での軍事作戦で優位に立とうとしています。米国は第 6 番目の軍種 (陸・海・空・海兵・沿岸警備隊の 5 軍種以外) として、宇宙軍を創設しています。その元で宇宙作戦を担当する機能統合軍として宇宙軍を設置しています。自衛隊は、宇宙作戦を強化しつつあり、米宇宙軍との連携を深めています。米宇宙コマンド (カルフォルニア) には、自衛隊から空自 2 等空佐の連絡員 (連絡将校) が派遣され常駐しています。

 自衛隊は、現在1個宇宙作戦隊がありますが、第 2 宇宙作戦隊を新編し、第 1 宇宙作戦隊と合わせて宇宙作戦群とします。人員も70人から120人へと増員します。
 宇宙作戦群が行う宇宙状況監視 (SSA) のため、SSA衛星 (宇宙設置型光学望遠鏡) の整備 (39億円)、SSAレーザー測距装置の取得 (190億円)、SSAシステム等の整備 (77億円) を行います。

 自衛隊宇宙作戦隊が得た情報は、米宇宙軍と共有し、日米共同で宇宙作戦を遂行する体制を作りつつあります。

 衛星コンステレーションは、敵の移動式ミサイル発射機を探知・攻撃、敵の極超音速滑空ミサイルの探知・迎撃のために必要なシステムです。2020年 6 月30日に閣議決定された「宇宙基本計画」では、衛星コンステレーションの開発を米国と連携して進めるとしています。衛星コンステレーションは、ミサイル防衛と敵基地攻撃には必要な装備という位置づけです。

 2022年 1 月 7 日 2+2 共同発表文で、「閣僚は、低軌道衛星コンステレーションについて議論を継続することも含めて (中略) 一致した。」と書き込んでおり、既に日米間では衛星コンステレーションについて共同作業が始まっていることを述べています。
 これに資するための技術開発として、極超音速滑空兵器の探知・追尾に係る調査研究 ( 3 億円)、そのための AI 技術に関する研究 ( 1 億円) を行います。

5 ミサイル防衛
 ミサイル防衛はわが国ではこれまで、防御兵器であるから専守防衛に資すると位置付けて説明されてきました。既に 2 兆円を超える予算をつぎ込んでいます。今後我が国が敵基地攻撃を行なおうとする場合、相手国からの反撃を想定した装備になりますので、先制攻撃に資する装備という性質を帯びてきます。敵基地攻撃とセットでミサイル防衛能力を高めようとしています。

 まや型護衛艦 ( 2 隻) へ搭載する長距離艦対空ミサイル SM6 の取得 (202億円)、最新式の PAC-3MSE 取得 (600億円)、イージスシステム2基の艦船搭載型への変更 (58億円)、レールガンの研究 (65億円)、高出力マイクロ波照射技術の実証研究 (72億円) が挙げられます。

 専門家が驚いたものに、レールガンの研究があります。高圧の電流により生じた磁場の中を弾丸が極超音速で発射される未来兵器です。しかし米軍は先んじて長年開発研究を行った結果、実現不可能と断念した代物です。装置の巨大化や高速で弾丸が発射されるため、砲身の摩耗が早く実用に向かなかったようです。無駄な予算となるでしょう。なぜこのような代物が予算化されたのかわかりません。

 高出力マイクロ波兵器は、敵のレーダー、通信施設、攻撃兵器のアンテナや電磁的隙間から、マイクロ波を侵入させて、敵の装備を無力化する装置です。敵ミサイルや攻撃ドローンによる飽和攻撃があれば、現有のミサイル防衛では対処不可能なため、高出力マイクロ波兵器の開発を進めようというものです。それにより、敵ミサイルや攻撃ドローンの誘導装置を無能力化し、同時多発的な飽和攻撃へ有効に対処しようとするものです。

第 3 台湾有事での最前線 = 南西諸島
1 台湾有事で日米同盟の下、自衛隊が米軍と台湾防衛作戦に参加すれば、中国は確実に南西諸島の日米の軍事拠点を攻撃してきます。南西諸島の島嶼部では、奄美大島、宮古島に陸自の対艦、対空ミサイル部隊をすでに配備し、2022年度内に石垣島へ同じ陸自基地が作られ、2023年度には沖縄本島の第15旅団の第51連隊勝連駐屯地へ陸自対艦ミサイル部隊が配備され、同年度に与那国島へ電子戦部隊が配備されます。南西諸島を、中国軍にとって突破できないバリヤーにするものです。

 台湾有事では、機動旅団となった第15旅団の第51連隊が南西諸島へ事前配備の機動展開を行い、16式機動戦闘車で敵上陸部隊を迎え撃つ態勢をとり、電子戦部隊を集めて、敵レーダーや敵人工衛星への電子戦攻撃を行い、小型の輸送艦で兵站支援を行いながら、中国軍に対してクロスドメイン戦闘を行います。

 米海兵隊、米陸軍の小規模の部隊 (電子戦部隊、対空・対艦ミサイル部隊、中距離対地ミサイル部隊、通信、兵站部隊を伴う) がこれらの島嶼部へ事前配備されて、自衛隊と基地を共同使用しながら、遠征前方基地作戦 (海兵隊)、マルチドメイン戦闘 (米陸軍) により中国軍との戦闘を行います。基地の共同使用についても、2022年 1 月 7 日 2+2 共同発表文へ書き込まれています。

 九州や北海道、その他の本州の機動師団・旅団も南西諸島へ増援のため機動展開を行います。その際馬毛島は後方支基地としてフル稼働するはずです。九州では、佐世保の水陸機動団が、佐賀空港に配備されたオスプレイに搭乗したり、LCAC を積載したおおすみ型輸送艦に乗船して、島嶼奪還作戦を行います。

 中国軍とのこのような戦闘では、短期間に膨大な弾薬を消費しますので、弾薬の事前備蓄は極めて重要になると思います。22年度予算では弾薬備蓄に21年度12月補正を含めて2480億円を計上しています。

2 海兵隊の遠征前進基地作戦 (EABO) にしても、米陸軍のマルチドメイン戦闘にしても、南西諸島の島嶼部へ事前配備された小規模の部隊に対して、中国軍が激しい攻撃をしてくることを想定しており、部隊が生き残って作戦を継続するため島嶼内を移動し、カムフラージュし、さらに島嶼間を移動しながら戦う戦法です。

 この作戦の肝は、台湾侵攻作戦を行う中国軍に対して、攻撃の標的を増やして作戦を複雑にし、且つ台湾侵攻兵力をそちらへ振り向けることで、台湾侵攻作戦を遅延させること、その間に米本土やハワイからの増援部隊を待つというものです。

 南西諸島の島嶼部の陸自の基地を米軍部隊と共同使用すれば、当然自衛隊部隊への攻撃を想定せざるを得ません。陸自部隊も増援態勢と兵站支援が極めて重要になります。

3 2021年度12月補正と2022年度本予算の防衛予算は、以上に見たように、本格的に自衛隊と米軍とが南西諸島で中国との戦闘を行うための準備をするものとなっています。
 私はこの間、いくつかの弁護士会の勉強会に参加し、台湾有事と南西諸島での日米の軍事作戦がどのようなものになるのかを、いくつかの論文や資料の図などを使って説明してきました。しかし防衛予算ではそれがどのように実現されようとしているか、これまではほとんど言及していません。

 防衛省が作成した防衛予算説明資料 (我が国の防衛と予算-令和 4 年度概算要求の概要、防衛力強化加速パッケージ~「16か月予算」として編成~令和 4 年度防衛予算の概要) を基にして、防衛予算を、台湾有事を想定した武力紛争への備えという視点から整理してみました。

 それにより、我が国の防衛政策、自衛隊の防衛態勢が具体的にどのような内容、構想となっているかを、幾らかでも可視化できたと考えています。残念ながら、衆議院予算委員会での本年度防衛予算についての議論は極めて不十分です。昨年12月臨時国会での補正予算の審議は、会期が短期間であったこともあり全くと言ってよいほど防衛予算には言及されていません。まるで防衛予算は「アンタッチャブル」であるかのようです。

 この防衛予算で実行しようとしている、台湾有事に伴う南西諸島有事を想定した自衛隊の軍事態勢は、南西諸島へ住む人々の平和と安全を奪うものですし、九州を含む本土に住む人々の平和と安全を脅かすものです。

 南西諸島は、本土からはるか離れた離島です。そこに住む人々の避難については、22年度本予算では何ら顧みられていません。まるで、政府を挙げて「南西諸島捨て石作戦」を容認しているように見えます。

 今年の参議院選挙後、次の参議院選挙や衆議院選挙までの間 3 年間は、国政選挙はないため、憲法改正のための「黄金の 3 年間」とささやかれています。
 憲法改正の目的がこのような南西諸島での日米の共同した作戦行動をとるためであることは間違いないでしょう。そのような憲法改正をさせてはならないと考えます。

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