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「専守防衛」の内実

寄稿:飯室勝彦

2022年4月26日


 「憲法の範囲内」や「専守防衛の考えの下」などと修辞を重ね、「敵基地攻撃能力」を「反撃力」と言い換えても、要するに軍備拡張の宣言ではないか。安全保障に関する自民党の提言のことである。少なくともそのように読まれかねない。次は「核共有を」などと言い出すのではないか。自衛と称してウクライナを侵略したロシアのプーチン大統領を想起するのは深読みが過ぎるだろうか。

◎軍拡競争への参加宣言?
 日本の外交・安全保障政策の基本方針「国家安全保障戦略」(NSS) の改定に関して自民党がまとめた提言の重要ポイントは二つ。一つ目は「弾道ミサイル攻撃を含む我が国への武力攻撃に対する反撃能力を保有する」としている点だ。当初の案では「敵基地攻撃能力」だったが「先制攻撃の是認ととられかねない」との異論が出て言い換えた。
 「憲法及び国際法の範囲内で「専守防衛の考えの下」と留保をつけているがミサイルの発射拠点だけでなく「指揮統制機能」も攻撃対象にすべきだという。反撃と称する越境攻撃や、相手から第一撃を受ける前の自衛のための攻撃を想定している。
 さらに提言は防衛費の大幅増額を求めている。「 5 年以内に必要な予算水準の達成を目指す」との表現で具体的数値はあげていないが北大西洋条約機構 (NATO) 諸国がGNP (国民総生産) の 2%以上を目標にしていることが念頭にある。
 反撃能力といい、防衛費の増額といい、まるで軍備拡張競争への参加宣言のようではないか。

◎中国、北朝鮮の脅威をテコに
 背景にあるのは中国の軍備増強と海洋進出、北朝鮮のミサイル、核開発などの動きであることは言うまでもない。自民党の提言をまとめた議員たちは中国、北朝鮮の脅威を意識するあまり「専守防衛」の理念を棚上げしてしまったかのようだ。
 日本の防衛戦略の基本方針である専守防衛は、相手の攻撃を受けてから防衛力を行使し、その程度も最小限にとどめるというものである。いわば第一撃は甘受することで国際紛争解決手段としての武力行使を禁じている憲法との整合性を図っている。装備もそれにふさわしくなければならない。自民党提言はこの方針を事実上覆そうとするものと言えよう。
 あえて皮肉な見方をすれば、ウクライナの不幸をダシに軍拡という自説の実現を図っているようにも見える。
 もっとも専守防衛の内実は安倍晋三政権によって着々と空洞化が進められてきた。「積極的平和」を唱える安倍首相のもと、安保法制の成立などで自衛隊の海外での活動、米国をはじめとする同盟諸国の軍隊との共同軍事行動も活発になった。

◎武器輸出も緩和
 かつては武器輸出三原則で厳しく制限されていた武器輸出は、防衛装備品移転三原則に変わって緩和され、ウクライナには攻撃用に使い得るドローンまで提供した。その他、防弾チョッキ、防毒マスク、化学兵器の防護衣など戦いのための物資があれこれ提供されている。
 西欧諸国と連携した、被侵略国への支援の一環ではあるが、だからといって思考停止に陥ってはいけない。プーチン大統領の非道は許せない。ウクライナ、とりわけ市民には十分な支援をして速やかな停戦を実現しなければならない。そのために世界に誇るべき憲法を持つ国としてふさわしい貢献の道を探りたい。それは今度の自民党提言が示す思想からは決して生まれない。

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