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“抑止力”という幻

寄稿:飯室勝彦

2022年5月14日


 国際社会の厳しい批判にもかかわらず、ロシアのウクライナ侵略はいっこう終息しそうにない。西側諸国はほぼ一致してウクライナを支えているものの侵略戦争終結の目処はたたず、軍事力に頼る抑止力論のもろさが見えてきた。

◎防衛力強化論を後押し
 ロシアのウクライナ侵略開始後に行われたメディアによる世論調査結果は、自民党の国防族を勇気づける数値が並んだ。防衛力強化に賛成派が64%に上り、反対派の10%を大きく上回った。賛成はここ数年、50%前後で推移してきたが有権者はウクライナ侵略を身近な危機と感じていることを示している。別の調査では「改憲必要」派が過去最多の56%だった。
 さらに別の調査によると、岸田政権下での改憲に「賛成」は44%で「反対」は31%。安倍政権下の改憲には「賛成」「反対」が36%と46%だったから逆転だ。
憲法第9条を改め、自衛隊の存在を明記することに賛成も58%で反対の26%を大きく上回った。
 これらの数値は安倍政権から岸田政権に変わり、政権に対する警戒感が薄れたことをうかがわせるが、ウクライナ侵略により危機感が募ったことも示しているのだろう。
 その危機感が「軍備増強意識につながったといえよう。背景は「軍備増強は戦争抑止力になる」という考え方だ。

◎抑止にならなかった増強
 だが軍備拡大は本当に抑止につながるのだろうか。NATO (北大西洋条約機構) 諸国はロシアを意識しながら参加国を拡大し、軍事力も目に見える形で増強してきた。米国も後押し、ウクライナはそのNATOに接近した。ロシアのプーチン大統領はそのことを侵略の一つの理由にしている。日本でも、中国の軍拡、とりわけ海軍力増強、北朝鮮のミサイル・核開発を意識して防衛費をGNPの 2%まで増やせという声が自民党内では盛んだ。核を同盟国と共同運用しよう、敵の司令部など中枢部を攻撃できる軍事力を保有すべきだなどと声高に語られるようになった。
 だがウクライナ侵略をみると、結果として軍拡は抑止力にはならなかった。NATOの拡大は抑止どころかロシア暴発の一因になった。軍備増強=抑止力増強は幻だった。中国、北朝鮮を意識した自衛隊の増強は抑止力という幻を追って果てしなき軍拡競争に陥ることとなりかねない。

◎最大の犠牲者は市民
 軍備増強の理由にしばしば使われる「国民を守る」も幻だ。戦争の最大の犠牲者は市民であることは歴史が物語る。古くは中国大陸における旧日本軍の蛮行、米軍による東京など日本の都市に対する、焼夷弾を使った絨毯爆撃と広島、長崎への原爆投下、ベトナム戦争における枯れ葉剤散布――など数え切れないほどの実例がある。
 ウクライナでも連日民間人が犠牲になっている。集合住宅、病院、ショッピングセンター、駅・・・・・・ロシアの無差別攻撃の様子が連日伝わってくる。ロシア軍は「攻撃は軍事目標に限っている「市民は攻撃しない」と弁解するがそれを信じる人はいない。ウクライナ軍も市民を守り切れていない。UNHCR (国連難民高等弁務官事務所) によると 5月上旬の時点で少なくとも3000人を超える民間人が犠牲になったというが、実際はこれよりはるかに多いとみられる。女性や子どもが避難しているビルにミサイルが撃ち込まれたり、虐殺を隠すためとみられる多数の墓も発見されたりしている。国外へ避難した人は600万人に達するとされる。
 ひとたび戦争になれば軍事が優先され市民は無視されがちだ。本当に「国民を守る」のなら幻の抑止力論を脱却し武力に頼らない平和を全力で目指さなければならない。

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