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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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我が国の安全保障防衛政策の根本的転換を求める自民党提言を読む 3

2022年5月19日


10 日米同盟の抑止力、拡大抑止につき、提言は自衛隊と米軍との相互運用性・補完性を強化して、日米同盟の抑止力、対処力を強化するとしています。つまり、提言は日米同盟における自衛隊と米軍の役割分担をなくしてしまおうというのです。我が国が米国と一体となって「脅威対抗型の防衛戦略」の下で、日米による共同軍事行動をとることになります。その結果米国本土は安全地帯でありながら、我が国は敵国からの攻撃にさらされるということを容認することになるでしょう。

 提言は拡大抑止の信頼性を一層確保するための政治のリーダーシップを求めており、緊急事態には内閣総理大臣が政治生命をかけて、米国の核兵器を我が国へ持ち込むことに同意すべきことを示唆しています。緊急事態で米国の核兵器が我が国へ持ち込まれ、さらに緊急事態が進展して有事になれば、在日米軍基地は核攻撃任務の出撃基地となりますから、わが国内の米核兵器と核攻撃任務に使用される在日米軍基地は確実に敵国からの核攻撃の対象になります。提言が核シェルター設置を求めているのはこのことを想定しているからでしょう。

 しかしこのようなことに政治生命を掛けられたのでは、その結果核攻撃被害を受ける私たちにしてみれば、「たまったものではない」と言わなければなりません。むしろ私が望むのは、このような我が国への核攻撃を招かないよう、安保条約第5条の運用として合意されている事前協議に際して、核兵器の持ち込みに「NO」というために政治生命をかけてほしいのです。

11 防衛予算の急拡大
 提言は、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標 ( 2%以上) も念頭に、我が国としても、 5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指すこととする。」と述べて、防衛予算の急速な拡大を求めています。

 この提言は極めてご都合主義に思えます。NATOの主要な同盟国は、冷戦終結後大幅な軍縮を実施し、兵員数では半分から 3分の 1まで縮小しました。他方わが国だけはその間でも防衛予算は増加させているのです (民主党政権下の 3年間だけは若干の減少に転じたが、第一次安倍内閣ですぐさま増大に転じた) 。

 そのことに一言の言及もないまま、NATOが軍拡の局面に入っていることだけを取り上げて、それに倣って我が国の防衛予算の増大を求めるのは、ご都合主義の何物でもないでしょう。

 自民党は2021年衆議院選挙公約において、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標 ( 2%以上) も念頭に、防衛関係費の増額を目指します。」と述べていました。提言はこれを「5年以内」と短期間に達成しようと期限を切った形です。

 でも翻って、何でGDP 2%以上なのでしょうか。NATO諸国に見習う以外に数値目標の合理的な根拠につき、提言は何も語っていません。
 GDP 2%超の理由として提言は、ロシアによるウクライナ侵略と「我が国周辺の安全保障環境が約 5年から10年の間に一層厳しくなる」と述べて中国の軍事的脅威の高まりを示唆します。それでもなぜそのことでGDP 2%超になるのか説明になっていません。目標数字の一人歩きですし、火事場泥棒のような軍拡予算の要求です。

 5年から10年の間の一層厳しくなるとの認識は、提言が中国に対する脅威認識として、中国が「2027年『奮闘目標の実現』と2035年『国防と軍隊の近代化の実現』という目標」を掲げていると述べていることと連動していると思われます。また2022年 1月 7日 2 + 2共同発表文での中国脅威認識とも重なっています。

 2022年度防衛予算 (当初予算) は 5兆4005億円です。防衛省は2021年度補正予算を合わせた16か月予算として計算し、「防衛力強化加速パッケージ」と称して、合計 6兆1744億円、対GDP 比 1.09%となったことを自慢しています (防衛省作成「令和 4年度予算の概要」2021年12月) 。

 今後 5年間でこれを倍増して10兆円超を目指すものになります。防衛予算10兆円は、現在は国際比較で 8番目の防衛予算を、ロシアを抜いて中国に次ぐ 3番目の水準にします。これにより我が国は世界の軍事大国の仲間入りです。
 
 ではこの財源はどこにあるのでしょうか。すでに政府発行の国債は1000兆円を超えて世界一です。これ以上国債発行を続ければ、我が国は財政破綻し、これを立て直すため、私たちの公的負担は耐え難いくらいに増大することになるでしょう。国債の大増発ではないとすれば消費税の増税か社会保障・教育費の削減、あるいはその合わせ技によるしか捻出はできないでしょう。どちらの途でも、国民負担の大幅な増大ということは避けられません。

12 防衛法制(安保法制)の改正
 提言は、いくつかの防衛法制(安保法制)の改正を求めています。
 ( 5 ) 海上保安能力の項で、我が国への武力攻撃に至らない領域への侵害行為に対処をするために、法整備を含めて早急に検討することを要求しています ( 8頁) 。

 安保法制制定の際には、武力攻撃に至らない領域侵害行為 (いわゆるグレーゾーン事態) への対処としては、特段法整備をすることなく、自衛隊による海上警備行動、治安出動、海賊対処のための閣議決定の迅速化 (閣議に参集できない国務大臣と携帯電話で連絡を取り、閣議了解を得るというもの) を図る閣議決定で済ましています。当時民主党は領海警備法案を提案していました。唯一グレーゾーン事態対処としての法整備としては、外国軍隊の武器等防護 (自衛隊法第95条の 2) を追加したのみでした。

 自衛隊法第81条の 2警護出動の規定の改正も提言しています。警護出動の規定は、2001年同時多発テロを受けて、対テロ戦争を行う米国を支援するため、テロ対策特措法案を審議した、いわゆるテロ対策国会において、自衛隊法改正で追加された条文です。警護出動により自衛隊の施設と在日米軍の施設を武装した自衛隊が警護することを可能にしました。当時原子力発電所や政府の重要機関の警護も可能にしようとの動きもありましたが、そこまでは拡大しなかったのです。

 ロシアによるウクライナ侵略では、原子力発電所が攻撃されたことを引き合いにしながら、原子力発電所を警護対象に加えるよう自衛隊法第81条の 2の改正を求めています (15頁) 。

 しかしながら、よく考えてみれば提言が述べる説明はおかしいのです。ロシアとウクライナとは陸続きで、ウクライナ国境を越えたロシア陸軍は地上を侵攻したので、ウクライナの原子力発電施設を攻撃しました。しかし、我が国は大陸とは数百キロ以上海で隔てられており、敵国の地上部隊が我が国領土へ大規模に侵攻して、我が国の原子力発電施設を攻撃するなど考えられません。

 我が国の原子力発電施設の個所は17か所です。これを全部警護するためには、陸自の相当な兵員が必要になります。このような余裕が陸自にあるのでしょうか。
 この提言は、「なんとなく」「フワッと」した空気間で作られたものに違いありません。三正面作戦といい、まともに冷静に議論した結果とは到底考えられないのです。

 提言は、ウクライナへの支援として、非殺傷装備品しか輸送できなかったことを踏まえて、防衛装備移転三原則とその運用指針の見直しを求めるとともに、自衛隊法第116条の3による自衛隊の装備品の譲渡が、武器弾薬を除外していることを暗に指摘しながら、「幅広い分野の装備の移転を可能とする制度の在り方について検討する」として、自衛隊法第116条の 3の改正につながる検討を要求しています。

13 以上自民党提言について思いつくままに述べました。まだこれ以外にも言及しなければならない内容が残っていますが、長くなるので (これだけでも十分長い、とおしかりを受けそうです) このあたりでとどめます。

 自民党提言は、憲法 9条やその下の専守防衛を否定し、他国に対するアグレッシブな攻撃的防衛政策を求めるものとなっています。そのための急速な軍拡予算を要求し、国家組織の改編や自衛隊のあり様の変革、防衛法制の改正を求める広範な内容の提言です。提言に先んじて注目されていた敵基地攻撃能力 (反撃能力) の保有にとどまらない、戦争ができる国造りの詳細なメニューを示すものとなっています。

 私たちは安保法制法を戦争法と称して、戦争をする国造りの法制度だと批判してきましたが、提言は戦争をする国造りの一端をはしなくも物語るものになっています。

 提言は、我が国の防衛政策の転換を求めるものですから、日米同盟についての言及は必要最小限度にとどまっています。しかしこの提言は、2022年 1月 7日の 2 + 2で合意された「我が国の防衛力を抜本的に強化する」との対米公約を実行するためのわが国独自の取り組みを求めるものであることは間違いありません。

 その狙いは中国を軍事的に封じ込め、中国が覇権国家として台頭することを抑え込むこと、中国による台湾への武力侵攻の際には、台湾防衛のため米国と我が国とが共同して軍事介入することを目指すというものです。これこそが日米共同の「自由で開かれたインド太平洋戦略 (FOIP) 」の最大の目的です。そのために、日米共同で南西諸島を対艦、対空ミサイル網による要塞化を目指しています。万一中国との武力紛争になれば、南西諸島は中国軍の攻撃の正面に立たされることになるはずです。

 この提言内容が、今年の12月に予定されている安全保障関連三文書へどこまで取り入れられるか不明ですが、もし参議院選挙で与党が勝利すれば、岸田総理は長期政権を目指して、自民党の支持基盤である保守層や右翼陣営の支持を取り付けるため、ほとんど丸呑みするかもしれません。そもそも敵基地攻撃能力を「反撃能力」とした張本人は岸田首相なのですから。


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