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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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7・1閣議決定、ガイドライン改訂、安全保障法制改正はこの国と私たちをどこへ導くのか

2015年2月3日

2014年7月1日「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」という名称の閣議決定がなされました。内容はQ&Aで詳しく解説しますが、これまでの憲法9条に関する政府解釈を180度ひっくり返し、我が国の安全保障法制を全面的に改正することを安倍内閣が宣言したものです。この内容は、我が国を戦争が出来る国に作り替えるものです。

閣議決定を実行するため、早速日米防衛協力の指針の見直し作業が始まり、2014年10月8日には中間報告が公表されました。最終報告は今年の春ころになると言われています。閣議決定はガイドラインの見直しと表裏一体です。

さらに閣議決定を実行するため、今年の5月連休明けには通常国会へ安全保障法制改正法案を提出する予定と言われています。そのために与党自民党と公明党の協議が始まろうとしています。安全保障法制の改正は閣議決定、ガイドライン見直しと三位一体です。

10数本と言われる安全保障法制の改正法案は,それ自体がかなりの分量になると思われます。自衛隊法や武力攻撃事態対処法、周辺事態法などをどの様に改廃するのか、日頃なじみがないだけに市民の多くの方には取つきにくいと思います。しかし、今予想されている安全保障法制の内容は、憲法第9条の明文改憲に相当するくらい重大なものです。

ですから憲法第9条の改悪を阻止するためには絶対に安全保障法制の改正を許してはいけないのです。今から運動を起こして行く必要があります。

わたしは昨年来日弁連憲法問題対策本部で、安全保障法制の改正やガイドラインの見直し問題に取り組み、今年に入ってからいくつかの講演会やシンポ、学習会を行い、予定もしています。その準備の中で,安全保障法制という取つきにくい問題をどの様にして市民に分かりやすく説明できるか考えてきました。

法律の条文は抽象的で難解な法律用語を使用していますが、それにより何を行おうとしているかを理解すれば案外分かりやすいのです。そこで、まず閣議決定ではどんなことを行おうとしているのか、ガイドライン見直しで日米同盟はどんな姿になるのかを説明すれば、自ずから安全保障法制の改正で何を目指しているのかが分かるはずだ、と思いました。それをQ&Aとしてまとめてみたものが、以下の「7・1閣議決定、ガイドライン改訂、安全保障法制改正はこの国と私たちをどこへ導くのか」です。

早く読んでいただこうと急ぎまとめたものですから、不十分な内容かも知れませんが、これからの反対運動にお役立ていただければ幸いです。

2015年2月12日改訂版について

2月3日にアップした「7・1閣議決定、ガイドライン改定、安全保障法制改正はこの国と私たちをどこへ導くのか」を改訂しました。人質事件のその後の進展や、安保法制改正のついての与党協議が2月13日から開始されることを控えて、国会での安倍首相の答弁、新聞での予想される法案内容の報道があり、これらの新しい情報を取り入れて改訂しました。今後与党協議が始まればさらに安保法制改正では新しい情報が次々出てくるでしょうから、時期を見ながら改訂をする予定です。

今回の改訂ではこの他に、二つのQ&Aを加えました。Q37とQ38です。尖閣を中国が占領したらどうするという脅威論にどう向き合うべきか、安倍内閣の積極的平和主義に対する対案はどのようなものがあるのか、という学習会ではよく出る質問を加えました。

2015年2月26日改訂版について

安全保障法制改正についての与党協議が始まりました。実態は政府自民党と公明党との協議というものです。政府から改正法案の概要が示され、自民党は賛成し、公明党に譲歩を迫るというもののようです。主導権を握っているのは政府です。公明党は次々と譲歩を迫られなすすべ無いという状態のようです。

2月13日を第一回として、一週間に一回開く予定で3月末までには終える予定です。なぜ3月末までかといえば、高村自民党副総裁(与党協議では自民党の座長)が3月26日に訪米して安全保障法制改正法案を米国政府へ説明して理解を求めるというからです。対米従属もここで極まれり、と言いたくなります。

与党協議の進展につれて新聞報道の内容も核心に触れるものが多くなり、政府が作ろうとしている安全保障法制改正法案の骨格が見えてきました。浮かび上がった安全保障法制改正法案は、「グローバル」に自衛隊を海外へ派遣し、警察活動=武器使用から「切れ目無く」集団的自衛権行使・国連安保理による集団的措置=武力行使が出来る態勢を作るものです。自衛隊海外派遣の理由は、我が国の平和と安全に重要な影響を与える、国際社会の平和と安全維持の活動への協力、我が国の自衛のためなど、勝手良く使い分けることが出来る仕組みです。閣議決定の内容をどんどん拡大するものです。閣議決定で制限しているということがいかにでたらめであったのか、もはや明白です。

2月12日に改訂しましたが、2月20日第二回の与党協議に関する新聞報道を踏まえて、内容を改訂しました。今回の改訂版には、2月20日までの与党協議彼見えてきた論点を整理した「安保法制与党協議の論点(2,015年2月21日現在)」を入れましたのでご参照下さい。

今後与党協議が進み安全保障法制改正についての新しい情報が出てくれば、さらに改訂する予定です。

Q1 7・1閣議決定はどのようなことを決定したのですか

A1 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」という名称がその内容を物語っています。閣議決定は三つの分野で防衛法制の改正をしようとしています。

(1)武力攻撃に至らない侵害への対処、(2)国際社会への平和と安定への一層の貢献、(3)憲法第9条の下で許容される自衛の措置の三分野です。(1)はいわゆるグレーゾーン事態への自衛隊による対処、(2)は自衛隊による国際平和協力活動、(3)がいわゆる集団的自衛権行使にかかわる分野です。ただし、(3)には国連による集団的措置(軍事的措置)も含まれます。これらの分野にわたる現行の防衛法制を全面的に改正または、新たに制定しようというのです。

閣議決定は、集団的自衛権行使はできない、海外での武力行使はできないというこれまで政府が40年にわたり取り続けてきた憲法第9条の解釈を180度変更し、憲法第9条の意義を捨て去るものです。現行防衛法制は、これまでの政府による憲法第9条の解釈を踏み外さないように作られてきましたので、この閣議決定を実行するためにはこの内容を反映させた防衛法制に作り変えなければせっかく閣議決定をした意味がないのです。

Q2 なぜ今このような閣議決定をする必要性があるのでしょうか。我が国の存立が危ないとか、国民の生活が危険にさらされている事情があるのでしょうか。

A2 閣議決定はその事情として、わが国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していると述べています。具体的には、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡散、国際テロなどの脅威を挙げて、アジア太平洋地域で問題や緊張が生じ、世界のどの地域で脅威が発生しても、我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼしうる、と説明しています。また、海洋、宇宙空間、サイバー空間の自由な利用に対するリスクが拡散、深刻化しているとも説明しています。そのためには、わが国の防衛力を強化し、日米同盟を強化しなければならないとしています。

Q3 では、そのような事情があるからといって、なぜ憲法第9条の解釈を180度変えてまで閣議決定をする必要性、防衛法制を作り変える必要性はあるのでしょうか。

A3 まったく理由も必要性もありません。大量破壊兵器と運搬手段である弾道ミサイルの開発と拡散、国際テロの脅威は、冷戦時代の主権国家間の戦争といった脅威と異なるいわゆる「新たな脅威」と称されていますが、その特徴は軍事力による抑止には効果がないということです。集団的自衛権では抑止できないことはイラクやアフガンの事態が示しています。これらを防止するために必要なことは、国際法(条約)の強化と国際協力など国際的なレジュームを構築することです。海洋、宇宙空間、サイバー空間の自由な利用への脅威も同様です。

*国際法(条約)として、テロ防止に関する12本の条約、核不拡散条約、化学兵器禁止条約があります。国際的なレジュームとして、国際原子力機関(IAEA)による査察、オーストラリアグループ、ミサイル技術コントロールレジューム(MTCR), 核供給国グループなどがあります。

グローバルなパワーバランスの変化がなぜ集団的自衛権行使につながるのでしょうか、理解に苦しみます。閣議決定は名指しこそしていませんが、中国、北朝鮮の脅威を念頭にしています。しかしこの両国の脅威が仮に存在しているとしても、それは我が国の個別的自衛権の問題で、集団的自衛権には結びつかないはずです。

Q4 でも、中国や北朝鮮の脅威が現実化した場合、日本が集団的自衛権を行使することで日米同盟を強化して、米国に守ってもらうことができるのではないですか。

A4 そもそも日米安保条約は第6条により日本が米国へ基地を提供し、米国はそれを使用してアジア太平洋地域での戦略を遂行できるようにする見返りとして、第5条により米国は日本を防衛するという双方の条約上の義務で成り立っています。日本が集団的自衛権を行使しなければ米国は日本を防衛しないということは安保条約上の義務に反することです。

閣議決定が示している安全保障政策は、国家安全保障政策と呼ぶにはあまりにも未熟(幼稚)なものです。国家安全保障政策というなら、なぜ個別的自衛権では不十分なのか、日本が集団的自衛権を行使すれば米国は必ず日本を防衛してくれるのか、逆に集団的自衛権を行使しなければ米国は日本を防衛してくれないのか、集団的自衛権を行使すれば国の存立と国民の命、平和な暮らしが守れるのか、その逆に集団的自衛権を行使することで国民が犠牲を強いられることは無いのかといったこと、すなわち政策決定、遂行に伴うリスク評価を厳密にしなければなりません。ところが閣議決定もそれを解説する政府が作った一問一答集でもこれに答えていません。さらに、なぜじっくり時間をかけて国民的議論ののちに憲法改正をするというプロセスを省いて、性急に閣議決定で憲法第9条の解釈を変更する必要性があるのかという当然の疑問にも答えていません。

安倍首相もこれらに何も語っていません。それどころか安倍首相は「断じて戦争をする国にはならない」とか「日本が戦争に巻き込まれることはない」などと、事実をあべこべに描こうとしています。国民には都合の悪いことを隠して憲法第9条の解釈を180度変更しようとしているのです。

Q5 でも米国の若者は日本を守るために血を流すのに、日本は米国にために血を流さなければ、米国はいざという時日本を守らないのではないでしょうか。日米安保条約はその意味で対等ではないので、この際対等な条約にすべきではないでしょうか。そのためには憲法第9条の解釈の変更は必要ではないでしょうか。

A5 在日米軍がどのようなものかが分かればこのような考え方を持つ必要がないことがわかると思います。次の表を見てください。

在外米軍基地の資産価値・上位10位(単位・100万㌦)

①横須賀

日本

5418

②嘉手納

日本

5245

③三沢

日本

4508

④横田

日本

4234

⑤ラムステイン

ドイツ

4233

⑥グアンタナモ

キューバ

3472

⑦ディエゴガルシア

英領

2799

⑧キャンプ瑞慶覧

日本

海兵

2750

⑨トゥーレ

グリーンランド

2725

⑩グラーフェンベアー

ドイツ

2400

世界中に展開している米軍基地の中で、資産価値が高い上位10を並べたものです。1位から4位を日本が占めています。これだけでも2兆円を超す資産です。在日米軍基地全体の資産価値は5兆300億円を超します。それに加えて、日本は在日米軍に対して多額の財政負担を行っています。2014年度では思いやり予算を含む6739億円です。それだけではありません。日本には米軍が唯一海外に駐留させている海兵隊、空母の母港があります。さらに不平等な地位協定により、在日米軍には特権が与えられており、在日米軍基地も自由に使用でき、低空飛行訓練もやりたい放題ですし、首都圏には広大な米軍の航空管制空域(横田ラプコン)があります。在日米軍基地がなければ、米国はアジア太平洋地域での超大国としての振る舞いは不可能なのです。

ですから、集団的自衛権行使をしなくても米国は日本防衛義務に見合うだけのものを日本政府から受け取っているのです。米国が、日本が集団的自衛権を行使しなければ日本防衛義務を果たさないなどと言えば、その時は在日米軍基地を撤去するよう要求すれば、集団的自衛権を行使するよりもはるかに有効です。

Q6 「切れ目のない」安全保障法制と言いますが、「切れ目」とはどことどこの切れ目でしょうか。

A6 閣議決定では「切れ目のない」が5か所登場します。2014年10月8日に公表されたガイドライン見直しの中間報告では7か所登場します。つまり「切れ目のない」は日米同盟を強化するためのキーワードです。

「切れ目」とは平時と有事との切れ目、個別的自衛権と集団的自衛権の切れ目、自衛権と国連集団的措置との切れ目と思われます。平時と有事との切れ目以外は、憲法第9条により出来ることとできないこととの切れ目であることが分かります。「切れ目のない」とは憲法第9条を否定するとことと同義です。集団的自衛権を行使できないため、自衛隊は海外で活動する際にも他国の軍隊の武力行使と一体化する活動はできない(一体化論といいます)、活動する地域は「非戦闘地域」(現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域)に限定、活動地域で戦闘行為が行われそうになれば、活動を中断したり撤退するとしています。周辺事態法、テロ対策特措法、イラク特措法はこのような仕組みです。PKO協力法は同じ仕組みをPKO5原則と表しています。自衛隊が活動を中断、撤退しなければならないことを「切れ目」と称しています。「切れ目」をなくすという意味は、危険な戦闘現場近くまで行って活動しろ、攻撃されれば反撃しろということです。そのために自衛隊の武器使用権限を強化しようとしています。「任務遂行のための武器使用」です。自衛隊の活動を妨害する武装勢力に対しては攻撃できる権限です。

平時と有事では「切れ目」があるでしょうか。我が国の防衛法制は、平時の治安維持は警察力(警察と海上保安庁)、有事(日本への武力攻撃)では自衛隊が武力行使をすると区分けをしています。ですからもともと「切れ目」などはないのです。平時と有事の「切れ目」論は、グレーゾーン事態なるものを提起します。グレーゾーン事態とは「領域主権や権益等を巡る純然たる平時でも有事でもない事態」と定義しています。具体的には、尖閣諸島へ武装集団が上陸した、国籍不明の潜水艦が日本の領海を潜没して航行しているケースを挙げています。このような事態で海上保安庁が対処できない場合を想定して例外的に自衛隊による海上警備行動、治安出動が規定されています。つまり平時での自衛隊による警察権の行使です。つまり「切れ目」はないのです。

グレーゾーン事態を強調する「切れ目」論は、自衛隊の出番を前倒しするものです。尖閣諸島を巡る日中の国際紛争は、双方とも海上警察権行使でとどめていますが、自衛隊が出動する事態になれば、中国は必ず中国海軍の艦艇や空軍機を差し向わせるでしょう。日本が中国に対して軍事的な挑発をする行動です。不測の事態も懸念されます。尖閣諸島を巡る日中間の紛争では絶対に行ってはならない行動です。

国連安保理による集団的措置は武力行使ですから自衛隊は参加できません。出来ることは、港地域、非戦闘地域での後方支援活動、人道復興支援活動です。危険になれば活動を中断し、撤退するという「切れ目」があります。

「切れ目」をなくしてしまえば、国際平和協力や米軍支援に関しても、自衛隊が武力行使をする危険性が極めて高いものになります。

Q7 安倍首相は抑止力を強化して日本は戦争に巻き込まれなくなると説明しますが、本当でしょうか。

A7 閣議決定が示す安全保障政策は、日本の防衛力を強化し、日米同盟を強化して軍事的抑止力を高めて日本の平和を守ろうとするものです。しかしこの論理にはいくつものごまかしがあります。

ごまかしその(1)

抑止力という概念は極めて主観的なものです。抑止力を主観的要素の面から表すと次のような説明ができるでしょう。

相手国がこちらを攻撃した場合、攻撃による利益よりももっと大きい打撃をこちらから受けると相手国が理解しているとこちらが認識でき、それにより、相手国はこちらを攻撃しないであろうこちらが考えることができる場合、抑止が効いていると判断できる。

太字部分が主観的要素です。何重にも主観的要素を重ねた判断ですから、平和の維持と抑止力との因果関係は客観的に立証できません。

ごまかしその(2)

抑止力が働く前提があります。相互に相手の能力(軍事力)と意図(軍事戦略)が正確にわかること、相手も自分と同じように理性的に判断できるであろうと互いに信頼できること。

北朝鮮の金正恩は何を考えているかわからない危険な人物だとか、中国の軍事力は不透明だと言えば、それは抑止が働かない可能性を認めることです。抑止力の前提条件はぜい弱なのです。

ごまかしその(3)

抑止論は抑止が破れた時のことは語りません。実はとても破れやすいのです。政治家は国民に対して、抑止力で安全であるとばかり説明したのでは政治家失格です。破れた時にどうするのかということこそが問われているからです。日中間の紛争を考えた場合、歴史問題によるナショナリズムの高まりは、日中間の相互抑止をきわめて不安定にします。その結果事態のコントロールができなくなり、破滅的な武力紛争になりかねません。

ごまかしその(4)

実は抑止力論は平和を維持するためのものではないのです。抑止力は、相手に不測の事態を起こさせないように力で抑えることです。そのためには相手よりも強い軍事力を求めるし、いざとなったらその軍事力を使用するという態勢です。いつでも戦争をしますよという意思と能力を持たなければ抑止力は働きません。また、抑止力は小規模な武力紛争を防ぐことはできません。それが起きても互いの国が破滅的事態には至らないようにするのが抑止力です。日米韓で抑止されているはずの北朝鮮による核開発、弾道ミサイル開発は防ぐことができませんでした。尖閣諸島を巡る日中韓の小規模な武力紛争も防ぐことはできません。

ごまかしその(5)

抑止力を高めればその国の国民はそれだけ安全になるのでしょうか。もしそうであれば、世界中で一番安全な市民は米国市民であるといえますが、本当はそうではありません。テロの脅威に一番おびえている市民は米国人でしょう。

ごまかしその(6)

現在最も脅威とされている国際テロは、抑止が聞かない相手です。抑止力が強い国ほど国際テロの脅威にさらされているのは実に皮肉なことです。安倍首相はこう言うべきでした。「抑止力で平和と安全が守られる。ただし国際テロの脅威はこの限りにあらず。」と。

ごまかしその(7)

抑止力論は相手の脅威ばかり強調し、自分の国が相手の国にとっていかに脅威とされているかを語りません。その結果、相手の脅威に対抗するために軍事力強化に走ります。今の安倍政権がそうです。しかし相手国にはこちらの脅威が強まるわけですから、それを上回る軍拡に走ります。とめどもない軍拡のスパイラルに陥る危険性があります。その結果互いの国の安全は一層危機にさらされます。「安全保障のジレンマ」に陥るのです。

「安全保障のジレンマ」とは、自分の国の安全のためにとった措置がかえって相手国に対する緊張を与え、相手国がとる対抗措置により、自分の国の安全が逆に阻害されるということです。

Q8 閣議決定で「武力攻撃に至らない侵害への対処」ではどのようなことを決定したのでしょうか。

A8 我が国に対するいわゆる「グレーゾーン事態」(私は「平時における自衛隊による警察権行使」と正確な用語を使用します)では、自衛隊の対処行動を迅速にするための運用態勢を整備することとし、この点では新しい法整備は想定していません。治安出動は内閣総理大臣が命令しますが(自衛隊法第78条)、その際には内閣法第6条により閣議決定が必要です。海上警備行動では、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を受けてから命令します(自衛隊法第82条)。総理大臣が承認する場合には内閣法第6条により閣議決定が必要です。「切れ目のない」論は、閣議決定に時間がかかり、自衛隊が出動するまでに事態が進展するので間に合わないと主張するのです。

小泉内閣時代の内閣官房副長官補(安全保障危機管理担当)であった柳澤協二氏は広島での講演会で、閣議決定には2時間あれば十分なので、迅速な対処ができると断言しておられました。新聞報道によると電話での閣議で済ませるよう運用を変えるとのことです。

Q9 運用を変えて迅速に対応できるのは良いことではないでしょうか。

A9 自衛隊法で海上警備行動や治安出動に内閣総理大臣の命令や承認と閣議決定を要件としている理由は、軽々に自衛隊を使うことがないよう政治が判断するためです。これを「切れ目」というのであれば、意味のある「切れ目」です。わが国の治安維持活動は警察、海上保安庁という警察力が一義的に行うという仕組みにしているのです。軍隊を否定している憲法第9条や基本的人権を保障している憲法の原則があるからだと考えられます。だから、自衛隊法では治安出動を「一般の警察力をもっては、治安を維持できないと認められる事態」と、海上警備行動では「海上における人命もしくは財産の保護、又は治安の維持のため特別の必要がある場合」と極めて例外的な場合に限定しているのです。

平時における自衛隊による警察権行使の発動へのハードルを下げて、自衛隊の出動を前倒しにすることは、A5で述べたように中国に対する挑発になりかねず、極めて危険な事態に陥る危険性があります。閣議決定を踏まえて閣議の運用を変更することは、自衛隊の出動要件を厳しくしている自衛隊法の趣旨を、国会の審議を経ない曖昧な「運用」という方法で潜脱することになるでしょう。中国との武力紛争という我が国の命運を左右しかねないことを国家安全保障会議(国家安全保障局と4大臣会合)だけで内閣総理大臣が決定するということになりかねません。閣議決定が形骸化して、内閣総理大臣の独裁的権力行使につながるおそれがあります。

Q10「 平時における自衛隊の警察権行使」では、閣議決定はこれ以外にどのようなことを決定していますか。

A10 米軍と自衛隊が連携して行う平素からの諸活動(共同演習や、北朝鮮の弾道ミサイル発射に際して共同で行う弾道ミサイル対処などでしょう)に際して、米軍部隊に対して武力攻撃に至らない侵害が発生した場合、武器等防護のための武器使用(自衛隊法第95条)と同じような米軍防護活動をさせようとしています。現行法と憲法の下ではこのような自衛隊の活動はできませんので、自衛隊法の改正が必要になります。

平時の武器使用だから問題はないと言えません。このような活動を行わせる趣旨は、米軍に対する侵害が状況によっては武力攻撃に至る事態であるから、それに備えて「切れ目なく」自衛隊が対応する必要があるというのです。このような事態では米軍は個別的自衛権行使で反撃します。これに対して自衛隊は平時の武器使用として米軍を防護すると言ってみても、相手方からすれば集団的自衛権行使と何ら異なりません。さらに事態が発展して米軍に対する武力攻撃となれば、わが国は個別的自衛権行使で反撃することになります(日本防衛に資する活動をする米軍に対する武力攻撃では、わが国は個別的自衛権行使ができるというのが政府の憲法第9条解釈です)。

自衛隊法の武器等防護活動には内閣総理大臣の命令も承認も、防衛大臣の命令も必要ありません。米軍等の防護でも同様の仕組みにすれば、国会も内閣の関与もないまま、自衛隊の現場司令官、護衛艦艦長の判断で米軍との事実上の集団的自衛権行使という事態に陥ります。それが速やかに武力紛争になる可能性を秘めている以上、自衛隊の現場司令官や艦長の判断で我が国は他国との武力紛争に陥るでしょう。立憲主義、国民主権の下では許されないことです。歯止めなき自衛隊の暴走です。

2月13日から始まった安保法制改正に関する与党協議で、政府から米軍以外の他国軍の防護も出来るものにする提案がありました。公明党には異論があるとのことです。自衛隊と米軍だけではなく他国の軍隊も一緒に共同演習を行っている、ミサイル防衛では豪軍も共同でする、その場合米軍だけを防護するのでは「切れ目」があるという理屈です。この説明には誤魔化しがあります。

2年に一回行われている多国間海軍によるリムパック演習では2014年度中国海軍が参加しています。中国海軍艦艇の防護もすると言うのでしょうか。

豪軍にはミサイル防衛が出来るイージス艦を保有する計画はありませんし、防衛予算規模からイージス艦のような高価な兵器を保有は出来ないでしょう。豪軍と自衛隊がミサイル防衛を一緒にやることはありません。

米軍以外の国の軍隊(例えば豪軍)の防護も出来るように仕様と検討中であるとの新聞報道がありました。これは閣議決定の拡大適用です。

A9とA10で述べたように、平時の自衛隊による警察活動であっても、閣議決定が想定している事態は、極めて深刻な武力紛争に「切れ目なく」陥る危険性があり、集団的自衛権行使に劣らず重大な問題です。

Q11 「国際社会の平和と安定への一層の貢献」ではどの様なことを決定したのでしょうか。

A11 これまでの憲法第9条に関する政府解釈に関して、二つのことを決定しました。一つは「武力行使一体化論」をやめたことです。「武力行使一体化論」とは、憲法第9条で日本が武力行使が出来る場合は、我が国に対する武力攻撃を排除するための個別的自衛権行使の場面だけでした。それ以外に国際平和協力として自衛隊が海外へ派遣した場合、後方支援を行う他国軍隊の武力行使と一体化した活動は、武力行使を禁止した憲法第9条に違反することになるため出来ないとされてきました。これが「一体化論」です。

この解釈の下でこれまでの自衛隊海外派遣法制は、必ず法文に「武力による威嚇、武力の行使にわたるものであってはならない」との原則を入れ、その上で非戦闘地域での後方支援活動、人道復興支援活動に限定されていました(周辺事態法、テロ対策特措法、イラク特措法、PKO協力法)。

閣議決定は戦闘現場以外の場所での後方支援活動を行わせるというものです。自衛隊の活動場所が戦闘現場になれば、活動を中断し、場合によっては撤退するという内容です。

もう一つの内容は、海外での自衛隊の活動の拡大と武器使用権限の強化です。国際平和協力活動としてこれまで自衛隊が行ってきたのは、人道復興支援、後方地域支援のように前線での危険な任務ではありませんでした。なぜそのような活動に限定したかと言えば、前線での危険な任務、例えば、警護活動や安全確保活動を行わせようとすれば、武装勢力との戦闘になる可能性が高いので、それは武力行使となるため、憲法第9条で禁止されている武力行使にならないような活動に限定したのです。

閣議決定は「駆け付け警護」をやらせようとしています。後で述べますが,自衛隊海外派遣恒久法では、警護活動、安全確保活動もやらせようとする可能性があります。自衛隊が武装勢力から武力攻撃を受けるおそれが高い前線での危険な任務を遂行しようとすれば、武器使用権限も拡大しなければなりません。

現行の海外派遣法制では、自衛隊員は自己保存のため(自分の身が危なくなったときに身を守るためのみの)武器使用権限が与えられています。自衛隊の活動を妨害する武装勢力に対する妨害排除のための武器使用は認められていません。これを「任務遂行のための武器使用」と言いますが、禁止されている理由は武力行使にわたるおそれがあるからです。しかしこの程度の武器使用権限では、危険な前線での活動を行わせるにはいきません。そこで武器使用権限を拡大して、「任務遂行のための武器使用」を行わせようというのです。自衛隊の活動を妨害する武装勢力に対して、武装勢力側が攻撃する前から、自衛隊が攻撃できる権限です。

Q12 その程度の法制度の見直しでは大して問題ではないのではないでしょうか。自衛隊が武力行使を行うことは考えられないのではないでしょうか。

A12 決してそうではありません。現代の武力紛争は多くは対テロ戦争です。国内が分裂して武装勢力が入り乱れた交戦状態となっています。それも市街戦です。相手は正規軍ではなく、市民の服装をしたものがあるときは武装勢力として武器を使用します。部族、宗教で分裂した勢力が武装しています。比喩的に言えば、表通りでは戦闘が行われているが,裏通りでは戦闘の現場ではないという状態でしょう。そこへ自衛隊が戦闘現場ではない裏通りで後方支援活動を行っているとして、何時攻撃されるか分かりません。陸上自衛隊がイラクに派遣されていたサマーワの駐屯地ですら、22回もロケット砲攻撃を受けていたのです。非戦闘地域でもこの様な状態です。

2014年7月15日参議院での閣議決定に関する集中審議で、安倍首相はこの様な場合に自衛隊が攻撃されれば、武器を使用すると答弁しています。つまり反撃をするのです。そうなるとどういう事態になるかはおわかりでしょう。

自衛隊は、活動の場所が戦闘現場になれば活動を中断し、撤退するというのであれば、敵対している武装勢力は自衛隊を「ソフトターゲット」として攻撃しやすいでしょう。閣議決定で危険な場所で活動をする自衛隊は、攻撃されれば反撃する態勢で臨まなければなりません。「任務遂行のための武器使用」を行う態勢です。ではこの様な活動は他国の軍隊の武力行使とどこが違うというのでしょうか。

警護活動も安全確保活動も武装勢力との交戦を想定しなければならないものです。

集団的自衛権行使を容認したとしても、自衛隊は直ちに米軍と並んで最前線で共同戦闘を行うなどは想定すべきではありません。自衛隊は実戦経験がありません。他方米軍は第二次大戦、その後も現在まで常時どこかで戦争してきており、そのための軍隊として作られていますが、自衛隊はそのような編成や装備、指揮官や個々の隊員の能力や意思、精神力などどれをとってもまだ戦闘ができる軍隊ではありません。米軍も最前線で自衛隊と戦うと足手まといと感じるでしょう。米軍が期待しているのは後方支援です。国際平和協力活動も後方支援活動です。その際攻撃されば相手と交戦するというのであれば、「国際社会への一層の貢献」も集団的自衛権行使容認と何ら異ならない危険な活動になるでしょう。

さらに、後述(Q35)するように、自衛隊海外派遣恒久法を制定すれば、政府の判断でいつでもどこでも自衛隊を派遣して危険な任務に就かせることが出来るようになります。「派兵自由法」とでもでも呼ぶべき法律です。安倍首相はイスラム国への空爆を行っている有志連合への後方支援も出来ると述べたのはこのことです。わたしは集団的自衛権行使よりもさらに国際平和協力分野での自衛隊の派遣の方が危ないのではないかとさえ思います。

Q13 「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」ではどの様なことを決定したのでしょうか。

A13 ここではこれまでの「自衛権行使の三要件」を「自衛の措置の三要件」と変更しました。どう違うかと言えば、「自衛権行使の三要件」の第一要件が「我が国に対する急迫不正の侵害行為(武力攻撃の意味)の発生」でしたが、この点を「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」と変更しました。これがいわゆる集団的自衛権行使を容認するものです。

Q14 集団的自衛権行使だけを容認するのでしょうか。国連安保理による集団的措置(軍事的措置)は含まないのでしょうか。

A14 安倍首相は、我が国が湾岸戦争のようなものへ参加することはあり得ないと断言しています。湾岸戦争は国連安保理決議678号による多国籍軍のイラク攻撃でした。しかし閣議決定をよく読んで下さい。「自衛権行使の三要件」と言わないでわざわざ「自衛の措置の三要件」としたのはなぜでしょうか。「自衛の措置」は個別的集団的自衛権に限定していないからです。国連安保理による集団的措置も含ませようとしているからです。現に閣議決定についての内閣官房が作成した一問一答集では、国連の集団的措置へ参加すると述べています。

憲法第9条についての政府解釈は、個別的自衛権の場合以外には武力行使を禁止しています。国連安保理の集団的措置は武力行使ですからこれは出来ません。閣議決定はこれをもやらせようとしています。

Q15 でも国際法では主権国家に集団的自衛権が与えられていますから、我が国がこれを行使しても何ら問題はないのではないでしょうか。

A15 集団的自衛権は国際法上与えられているからといって、決してきれい事ではありません。これまで集団的自衛権を行使した事例はいずれも軍事大国であるソ連や米国が弱小国への侵略、武力干渉の口実に使われてきました。いくつかの事例を挙げておきましょう。

ソビエト連邦によるものでは

ハンガリー介入(1956年)

民主化を求めた大規模な民衆運動から、ナジ政権が誕生して民主化を進めようとしたことに対して、ソ連軍が軍事介入し、首都ブダペストを軍事的に支配し、ナジ政権を崩壊させた事件。国際社会の批判に対してソ連は、ハンガリー政府の要請で集団的自衛権行使と正当化しようとした。

チェコスロバキア介入(1968年)

民主化運動の高まりから政府と党の責任者が解任されて新しい指導体制となり、国内の民主化が進み始めたチェコスロバキアに対して、ソ連と東欧4カ国の20万人の軍隊がチェコへ侵攻し、チェコの政府と党の指導部をソ連へ拉致した。ソ連が介入の口実にしたのが、チェコスロバキア政府の要請により、ワルシャワ条約加盟国として集団的自衛権行使であった。

アフガニスタン介入(1980年~)

ソ連軍はアフガニスタンへ軍事侵攻し、ソ連に批判的なアフガニスタン首相を殺害して、傀儡政権をうち立てた。ソ連は国連安保理と国連総会でアフガニスタン政府の要請による集団的自衛権行使と説明した。

その後に続く戦乱は現在のアフガニスタンの状況へとつながっている。

米国によるものでは

ベトナム戦争(1966年~)

日本敗戦後再びベトナムを植民地支配したフランスに対して、植民地独立戦争となり、フランスは敗退する。フランスを支援してベトナム独立を阻もうとして、ベトナム南部に傀儡政権を作り、相互防衛条約を締結し、フランスが敗退後米国が軍事介入し、北ベトナムやベトナム解放戦線との大規模な戦争となる。米国は最大で55万人の兵員を駐留させ、延べ260万人を派遣した。使用弾薬量は第二次世界大戦を上回った。米国は北ベトナムの南ベトナムへの武力攻撃による集団的自衛権と説明した(米上院への1966年国務省報告書)。

ニカラグア介入(1984年)

1979年親米独裁政権を倒して、左翼政権が樹立され、反政府ゲリラとの内戦状態になる。隣国のエルサルバドルでも反政府勢力の動きが活発になり、ニカラグア政府はエルサルバドルの反政府勢力を支援する。米国はニカラグアの反政府武装勢力を支援し、エルサルバドルの反政府勢力に対するニカラグアの支援を阻止するため、ニカラグアの港湾への機雷封鎖と爆破、海底パイプラインや石油貯蔵施設の爆破などの武力行使を行った。ニカラグア政府は国際司法裁判所へ訴え、米国はエルサルバドルに対する集団的自衛権行使を主張したが、国際司法裁判所は米国の武力行使を違法と判断した。

NATO諸国によるもの

アフガニスタン攻撃(2001年~)

9・11同時多発テロの実行犯がビンラディンであること、アフガニスタン政府がビンラディン一味をかくまっていることから、米国は個別的自衛権行使としてアフガニスタンを武力攻撃し、タリバーン政権を崩壊させた。NATOは史上初めて共同防衛条項を発動し、米国との集団的自衛権行使として参戦した。

ベトナム戦争では、わが国は憲法9条があったため、沖縄と本土の米軍基地が米軍の出撃、後方基地として機能したことにとどまったが、韓国は延べ約31万人を越える兵士がベトナムへ出征して、韓国政府の発表によると、4687人の兵士が死亡した。

いかがでしょうか。集団的自衛権を行使した場合我が国もこの様なことへ自衛隊を差し出すことになります。憲法第9条の元では絶対に許されないでしょう。

その上「自衛の措置の三要件」で集団的自衛権を行使した場合、我が国は国際法に違反する集団的自衛権行使になります。

Q16 それはどういうことですか。

A16 ニカラグアへの米国による集団的自衛権行使が国際司法裁判所で審議され、国際法違反とされました。国際司法裁判所は国連憲章上国際法の解釈適用では最高の権威とされており、その判決は国際法を構成します。集団的自衛権行使に関する国際司法裁判所の判決は現在までニカラグア事件判決のみです。この判決で国際司法裁判所は集団的自衛権行使の要件を厳格に絞りました。一つは、被侵害国が侵害国から武力攻撃を受けたことを宣言すること、もう一つが被侵害国が援助を要請していることという要件です。ところが「自衛の措置の三要件」はこの二つの要件をあげていません。なぜなのでしょうか?おそらく閣議決定は国民にすこぶる評判の悪い集団的自衛権を行使するということを正面から書くことを避け、あたかも我が国の自衛のための措置であるかの印象を与えようとしたからではないかと想像しています。集団的自衛権は国際法上は他国の防衛です。安倍首相は戦争する国には断じてならないと言いました。そうでも言わないと閣議決定は国民から総スカンを食らうからでしょう。そのため他国の防衛に関する上記の二つの要件を入れることが出来なかったのだと思います。

その結果、「自衛の措置の三要件」では上記の二つの要件を入れていませんので、安全保障法制の改正でもその点は考慮されないと思われます。そうすると我が国が「自衛の措置の三要件」で武力行使をすれば、国際法に違反する事態となるのです。

閣議決定が集団転機自衛権行使の国際法上の要件を無視していることは、2月2日の参議院予算委員会で安倍首相の答弁でも明らかとなりました。我が国と密接な関係にある国が先制攻撃を行った結果相手国から攻撃された場合でも自衛の措置三要件を満たせば集団的自衛権行使が出来ると答弁したのです。先制攻撃は国際法上は違法な武力行使になります。米国やイスラエルが行ってきたことです。国際法上違法な武力行使をした国と我が国が一緒になって闘えば、我が国も無法者国家になるでしょう。

国際法違反の集団的自衛権行使になるのはホルムズ海峡機雷掃海でも起こりえます。

Q17 ホルムズ海峡での機雷掃海へ参加するのかしないのか、自民党と公明党との間で意見が分かれていると聞いています。安倍首相はホルムズ海峡での機雷掃海をするといっています。本当のところどうなるのでしょうか。

A17 安倍首相は、武力紛争でホルムズ海峡が機雷封鎖されれば、「自衛の措置の三要件」である我が国の存立が脅かされる明白な危険があると考えています。従って集団的自衛権でも国連安保理決議による集団的措置でも可能だという考えです。しかし、武力紛争下での機雷掃海はそれ自体が武力行使である上、機雷を敷設したイランから掃海部隊に対して地対艦ミサイルや航空攻撃を想定しなければならず、それを防護するためのイージス護衛艦を随伴させる必要があり、大規模な武力紛争へ我が国が参加することになります。

公明党は今までのところ表向きはこの様な活動に参加することに同意していません。同意するようであれば「平和の党」としての看板に傷がつくからでしょう。他方で最近の新聞報道では、ケースバイケースで認める場合もあるとの方針だとしています。しかし、山口代表は事実上の停戦合意があればやってもいいような発言をしています。掃海部隊の派遣は武力行使ではなく国際平和協力活動だとでも主張するのでしょう。湾岸戦争が終結した後で掃海部隊がペルシャ湾へ派遣されたことがありますが,それと同じことと考えているのでしょう。しかしこれは大きな間違いです。

ペルシャ湾への掃海部隊派遣は、安保理決議687号で戦争が終結した後でした。安保理決議687号は湾岸戦争による戦争状態を終結させる講和条約でした。ですからこのときの掃海部隊派遣は武力紛争が国際法上終結した後のものですから、武力行使には当たらずいわば平時での活動という位置づけでした。

ところが,事実上の停戦合意は未だ戦争状態が続いた状態に過ぎません。この状態での機雷掃海は武力行使になります。また事実上の停戦合意は破れやすいものです。このことはウクライナの内戦で2014年9月に正式な停戦合意がありながら、その後も激しい武力紛争が継続していることを見ても理解されるでしょう。事実上の停戦合意下で掃海部隊を派遣するのは、武力行使ではなく国際平和協力だとこじつけることは出来ません。

ホルムズ海峡機雷封鎖は、イスラエルがイランの核施設へ国際法違反の先制攻撃をすることから、イランがそれに対する自衛権行使として行われるものです。イスラエルと集団的自衛権を行使する米国へ,日本が集団的自衛権を行使して機雷掃海をする行為は、国際法違反になります。

以上ご説明したように、閣議決定で見直そうとしている安全保障法制の三つの分野は、どれも劣らず我が国を戦争に巻き込むことになるものです。決して集団的自衛権行使容認だけが問題ではないのです。次に日米防衛協力の指針見直しについて質問にお答えします。

Q18 日米防衛協力の指針とはどんなものですか。

A18 通称日米ガイドラインと称される防衛協力の指針とは、日本と米国との軍事的な協力を定める基本的な合意です。その内容は日本(自衛隊)と米国(米軍)との共同作戦計画の基本的な合意、それをどの様に作り上げて行くのかの指針を示ししています。日米の外務大臣・国務長官、防衛大臣・国防長官との会議(2+2と読んでいます)で合意されています。これまで1978年、1997年に策定されました。78年ガイドラインは日本の防衛についての日米両軍の共同作戦計画を策定することを合意しました。97年ガイドラインは78年ガイドラインを全面改定し、日本の防衛から重点を周辺事態へ移して、その際の日米両軍の対応について合意しました。周辺事態として具体的に想定されたのは,朝鮮半島での大規模な武力紛争(第二次朝鮮戦争)と台湾海峡での中台間の武力紛争に米軍が台湾防衛で介入する事態です。

Q19 これまでのガイドラインの内容と憲法第9条とはどのような関係だったでしょうか。

A19 78年ガイドラインは日本が武力攻撃を受けた場合の日米共同作戦計画を定めていました。その限りでは憲法第9条に抵触するという問題は起こりませんでした。

97年ガイドラインは周辺事態対処を重点にしています。そのため、なぜ我が国が武力攻撃を受けていない事態で自衛隊が米軍を支援するのか、支援の内容が武力行使であれば、集団的自衛権行使になるのではないか、安保条約第5条でもないのにどうして自衛隊が米軍を支援できるのか、安保条約第6条は米軍基地を貸与するだけだから、どうして米軍を支援しなければならないのだ、ということが問題になるわけです。ここでは安保条約との関係は言及しません。

97年ガイドラインには次のように憲法第9条との関係を意識して、憲法第9条に違反しないということを述べています。

「日本は、日本領域および戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の海域において捜索・救難活動を実施する。」「後方地域支援は、主として日本の領域において行われるが、戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の公海及びその上空において行われることがあると考えられる。」

「武力行使一体化論」による「非戦闘地域」という概念が初めて導入されたのです。これを踏まえて周辺事態法が作られました。つまり、97年ガイドラインまではかろうじて政府による憲法第9条解釈の枠組みを維持していたのです。

Q20 ではどうして今回の見直しをしなければならなくなったのでしょうか。

A20 実は、97年ガイドライン策定後の日米同盟は米国が期待したように強化されませんでした。その不満を述べたものがいわゆるアーミテージレポート(2000年10月)でした。レポートの中でその不満を「同盟漂流」という言葉で表しています。その最大の原因は集団的自衛権行使を禁止している憲法第9条でした。レポートはそのことを指摘しながら、日本に対しては有事法制制定を第1の政治課題としました。このレポートの内容はその後の日本の政治過程で忠実に実行されたことが知られています。

その後日米同盟の大きな見直しプロセスが始まりました。「日米防衛政策見直し協議」です(米軍再編と呼びならわされていますが正式にはこのように呼んでいます)。2003年から始まりましたが、2005年9月には「日米同盟:未来のための変革と再編」が合意されます。ここでは、日本と米国が世界と地域(アジア太平洋地域のこと)における共通の戦略目標を持ち、それを実行するための日本と米国の役割・任務・(軍事的)能力を合意し、それを互いに履行するために在日米軍の再編、自衛隊の変革を約束しました。この約束の一つに「日本は、日本の有事法制に基づく支援を含め、米軍の活動に対して、事態の進展に応じて切れ目のない支援を提供するための適切な措置をとる。」ということを入れました。ここで初めて「切れ目のない」という言葉が日米同盟の文脈で使用されたのです。その後現在では憲法第9条解釈改憲の合言葉になっているルーツです。ここではまだ周辺事態対応の文脈で使われています。

さらにこの「日米防衛政策見直し協議」で合意された米軍再編を見直すことになります。具体的には民主党内閣で行われた米軍再編見直し協議です。野田内閣が米国と合意した米軍再編見直し協議内容は、アジア太平洋地域(西太平洋から、南シナ海、東シナ海を含む)で自衛隊と米軍が平時から共同の警戒監視、情報協力、共同の偵察活動を行う、グアムやテニアンの米軍施設で日米の共同訓練を行うことなどです。この新たな共同体制を「動的防衛協力」と称しています。これは言い換えれば平時からの日米両軍による集団的自衛権行使の軍事態勢です。実はこの軍事態勢は第三次アーミテージレポートが求めている内容とぴったり符合します。第三次レポートは、平時、情勢緊迫時、危機、戦時いかなる事態でも対応できることを求めています。野田内閣の合意内容は必ずしもそこまでの内容であるかは不明確ですが、いかなる事態でも「切れ目のない」対応をしようとすれば、集団的自衛権行使を禁止している憲法第9条の解釈を変更せざるを得ないことは明らかです。実は第三次レポートはこの点もきちんと要求しています。明文改憲をするのではなく解釈改憲をすべきであると指摘しています。

ここまで書き進めれば、今回のガイドラインの見直しの方向性は明らかでしょう。97年ガイドラインが乗り越えることができなかった集団的自衛権行使禁止の壁を取り払うことを前提にした、日米同盟の強化です。それも周辺事態対応に限定されるものではなく、より広範囲な地域での集団的自衛権行使です。

その意味で、今回のガイドラインの見直しは、7・1閣議決定と初めからセットものというわけです。

Q21 ではガイドラインの見直しの具体的な内容はどうなるのでしょうか。

A21 2014年10月8日にガイドライン見直しの中間報告が発表されています。中間報告が述べている見直しの内容のキーワードは、「グローバル」と「切れ目のない(シームレス)」です。

「グローバル」とは文字どおり世界規模です。中間報告は、日米同盟をグローバルな軍事同盟とすることを今回の見直しの一番の理由としています。そのために地理的限定のない集団的自衛権を行使する、国際平和協力活動においても、米軍や他国の武力行使と限りなく一体化した活動を展開する、その際武力行使もいとわない、というのが「グローバル」の意味です。「周辺事態」という概念も取り払いました。

「切れ目のない(シームレス)」は、中間報告では7か所も使用され、中間報告のほとんどの項目に登場するくらい重要な言葉です。その意味は、平時、緊急時、危機、戦時あらゆる事態で日米が軍事的協力を行う。言い換えれば日米両軍の一体化を強化するということです。

Q22 見直されたガイドラインと7・1閣議決定とはどのような関係になるでしょうか

A22 その点が最大の焦点です。すでにご説明したように、今回のガイドラインの見直しは閣議決定とセットものです。

中間報告は「閣議決定の内容を適切に反映し、日米同盟を強化」する、(最終報告では)「(集団的自衛権行使の事態で)閣議決定の内容に従って日本の武力行使が許容される場合における日米両政府の協力について詳述する。」と述べています。中間報告ではどのように「適切に反映」するのか、どのように「詳述する」のかは何も述べていませんが、その大まかな方向性は述べています。そこに描写されている日米同盟は、私達がこれまで知っていたものとは全く異質のものです。私達が知っている日米同盟は、安保条約に基づく日本の防衛と、周辺事態での米軍支援です。それ以外の自衛隊の海外活動は米国への協力にしても、国際社会への平和協力という武力行使にわたらない支援活動でした。

ところが中間報告が示す日米同盟は、地理的限定のない集団的自衛権行使の同盟、国際社会への協力の分野でも武力行使は否定されず、国連安保理による集団的軍事的措置や有志連合へも戦闘地域で後方支援をする、その際戦闘も行う、PKOでは武装勢力との戦闘を辞さない警護活動を行う、この日米同盟を基軸にして、日本とオーストラリア、フィリピン、インドなどの友好国との軍事協力を深め、日米の軍事協力は宇宙空間、サイバー空間にまで及ぶ、これらのあらゆる分野の軍事協力は、あらゆる事態においても「切れ目のない」一体化したものになる、というものです。

このような日米同盟にすることを狙ったのが7・1閣議決定なのです。第二次安倍政権が行ってきたことはすべてこのことに密接に関係しています。武器輸出三原則を廃止したのは、オーストラリア、フイリピン、インド、英国など友好国へ武器や武器技術を輸出して、日本との防衛協力関係を深めるためです。宇宙基本計画を定めたのは、宇宙技術、産業を軍事利用するためです。2015年2月11日に開発協力大綱が閣議決定され、これまでのODA大綱が見直されました。ODA大綱を見直そうとしているのは、これまで非軍事分野でかつ後進国の開発に限定されていたODAを、戦略的に活用すると称して、友好国に対する軍事分野への支援に活用して、友好国との安全保障関係を深めようというものです。

安倍首相は,これらの政策を「積極的平和主義」と称しています。今年1月に中東を歴訪した際に「イスラム国と闘う周辺諸国を支援するため2億ドルを援助する」と発表しましたが、これもODA資金です。これをイスラム国は理由として身代金2億ドルを払わなければ人質を殺害すると映像とともに公表しました。結果として2人の日本人は殺害されましたが、その際の映像で、日本人はどこにいてもテロの対象になると宣言しました。この事件は、安倍首相の「積極的平和主義」がいかに私達へリスクをもたらすのかを物語る象徴的な事件といえます。

Q23 ガイドラインの見直しはいつ頃なされるのでしょうか、安全保障法制の改正問題と関係してきますか

A23 はじめは昨年12月中に最終報告を出すといわれていました。そのために大慌てで閣議決定を無理やりまとめたのです。ところが閣議決定に対する国民の強い批判を受けて、今年の前半までにはまとめると変更されました。実際には通常国会へ安全保障法制が提出される4月末から5月にかけてまとめられると言われています。5月大型連休中に安倍首相が訪米し、その際の手土産にするとの報道もあります。その理由は、閣議決定を実行するためには安全保障法制の全面改正が必要ですし、安全保障法制の内容が閣議決定とセットもののガイドラインの内容と齟齬があれば、ガイドラインを十分実行できなくなりますので、同時に並行して作ろうとしているからです。したがって、ガイドラインの見直しは阻止できなくても、安全保障法制の改正を許さなければ、閣議決定も見直されたガイドラインも「絵に描いた餅」になるでしょう。私達が今年5月以降の戦いによって安全保障法制の改正を許さないということの重要な意味はここにあります。この戦いは憲法第9条の明文改憲を許さない戦いの前哨戦として、それと同等あるいはそれ以上の力を入れなければならないものです。

Q24 では政府が行おうとしている安全保障法制はどんな内容なのでしょうか。

A24 この質問にお答えする前に、我が国の安全保障法制(防衛法制と言うべきものですが)はどんな仕組みでどんな法律があるかを理解していただく必要があります。

我が国の安全保障法制は、政府の憲法第9条解釈である自衛権行使の三要件を基に、次のような原則で作られています。

①    我が国に対する武力攻撃に対処するための個別的自衛権行使に限定した武力行使、②個別的自衛権行使以外の場面での武力行使の禁止(武器使用に限定)を2大原則とし、その副次的原則として、③他国の武力行使との一体化禁止、④非戦闘地域、後方地域での支援に限定、⑤武器使用も自己保存権に基づくものに限定=任務遂行のための武器使用禁止、⑥相手に対する危害射撃は刑法第36条、37条に限定、⑦武器使用権限は部隊ではなく個々の自衛官に付与されている、⑧海外での自衛隊の活動を後方支援、人道復興支援に限定(警護活動、安全確保活動、船舶検査活動のような前線での活動を行わない)⑨PKO参加五原則などです。③以下の副次的原則は、①,②の原則を踏み外さないための歯止めという位置づけです。

(注)自衛権行使の三要件とは、①我が国に対する武力攻撃が発生、②これを排除するに他に適当な手段がない、③必要最小限度の実力行使

以上の原則により作られている安全保障法制には、自衛隊の活動の基本となる武力攻撃事態対処法、自衛隊法、防衛省設置法があります。自衛隊の個別の活動に関するものとして、有事法制の個別事態法(国民保護法、米軍支援法、特定公共施設利用法など)、周辺事態法、周辺事態船舶検査法、PKO協力法、海賊対処法、国際緊急援助隊法があります。すでに廃止されたテロ対策特措法、イラク特措法もありました。その他国際条約として日米ACSA協定、日豪ACSA協定があります。これらの自衛隊の個別の活動に関する法律に対応して自衛隊法にも規定が置かれています。自衛隊法のインデックス規定と呼ばれているものです。自衛隊の具体的な活動や権限はこれらの個別の法律に規定されます。防衛省設置法では、自衛隊の組織、編成、権限などは自衛隊法で定めるとしているためインデックス規定が置かれているのです。

Q25 2006年から2007年第一次安倍内閣は、自分の任期中に憲法改正を行うと公言していましたが、その当時安全保障法制を大きく変更したことがあったと聞きましたが、どんな内容でしたか。

A25 第一次安倍内閣では、日本版NSC設置法案を提出しました。また秘密保護法制定を密かに進めました。しかし1年の短命に終わったため日本版NSC法案は廃案になり、秘密保護法制定の動きは麻生内閣に引き継がれました。その中で実現させたものがあります。それが自衛隊法と防衛庁設置法改正です。

自衛隊法改正では、自衛隊法第3条自衛隊の任務規定に2項を付け加え、そこで自衛隊の海外活動(周辺事態法による活動とPKOなど国際平和協力活動)を自衛隊の本来任務にしたのです。それに伴い、防衛庁設置法を改正して、それまでは防衛庁であったものを防衛省にしました。

Q26 その改正はどんな意味を持っていたのでしょうか。今回の安全保障法制の改正とどのようなつながりがあるのでしょうか。

A26 2006年12月の防衛二法改正は、わが国の防衛政策の大転換というべき重大な改正でしたし、私は憲法第9条に反する改正であると考えていました。そしてこれが今回の安全保障法制改正へとつながっていると考えています。順序立てて説明します。

これまで自衛隊は、憲法違反との意見もありながら我が国の防衛政策を遂行してきましたが、それが政府憲法解釈で許されたのは、専守防衛政策により、わが国が武力攻撃を受けた際に必要最小限度でこれを排除するための実力組織との位置づけであったからです。専守防衛政策とは「相手から武力攻撃を受けた時にはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限度にとどめ、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度に限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」と政府自ら定義しています。専守防衛政策は、自衛権行使三要件と殆ど同じ定義ですし、憲法第9条を踏まえたものです。ですから自衛隊を我が国の安全保障政策に活用するということはできませんでした。このことを「存在するだけの抑止力」と、いわば揶揄するような言い方をする方もいました。防衛庁はこのような自衛隊を管理するだけの官庁として、安全保障政策にはかかわることはなく(政策官庁ではない)、内閣府の外局という位置づけでした。ところが、冷戦終結後自衛隊の海外活動が活発となりました。しかしそれでも専守防衛を任務とする自衛隊にとり、海外活動はいわば余技という位置づけ(付随的任務)として、自衛隊法では雑則という自衛隊法の最後当たりの条文で規定されていました。

しかし、冷戦終結後の国際社会にとり、主権国家間の武力紛争よりも、国際テロの脅威、大量破壊兵器と運搬手段である弾道ミサイル拡散といった「新たな脅威」が強調されるようになり、軍事力の役割が拡大されました。そのような流れの中で自衛隊による国際平和協力活動が日米同盟の重要な柱であり、国際的安全保障環境を改善し、国際社会での日本の政治的立場を強化するものであるとして、自衛隊を安全保障政策の重要な手段として活用しようとの意見が政府や財界から強まりました。自衛隊の海外活動を「余技」と位置付けるのではなく、本来任務にすべきであるとの要求となり、自衛隊法第3条の改正となったわけです。

このように自衛隊の海外活動を我が国の安全保障政策に積極的に位置づけるのですから、自衛隊を管理するだけの防衛庁では役不足となり、安全保障政策を主管とする政策官庁にすべきとのことから防衛省にしたのです。

しかしながら、憲法第9条は仮に自衛隊の存在を合憲としても、我が国の安全保障政策は非軍事であることを政府に要求するものです。自衛隊を有効活用するという軍事力を背景にした安全保障政策は、憲法第9条の趣旨に反することは明らかでした。

しかしそれでもまだ憲法第9条の規範力は厳に政府の安全保障政策を縛っており、自衛隊を活用するといっても、安全と考えられる後方地域、非戦闘地域での人道復興支援、後方支援にとどまりました。自衛隊を安全保障政策の手段として有効に活用しようとしていた勢力からすれば、まだまだ不十分でした。米国も日米同盟を背景にして、日本による強力な軍事的貢献を求め続けました。そこで行き着いたのが7・1閣議決定ですし、これを実行するための安全保障法制の全面改正となったわけです。

Q27 7・1閣議決定は三つの分野で安全保障法制を改正すると述べていますが、現行の安全保障法制では三分野にどのような法律がありますか。まずグレーゾーン事態関連の法律から説明してください。

A27 三分野とは、グレーゾーン事態に関係する分野、国際平和協力に関係する分野、武力行使(自衛権行使)に関係する分野です。

グレーゾーン事態という呼び名はごまかしの呼称です。正確には自衛隊による警察権行使といったほうがよいでしょう。なぜなら、日本の安全保障法制は有事(我が国が武力攻撃を受ける事態)とそれ以外の平時を明確に分けており、そこにグレーゾーンなる事態は入り込む余地はありません。グレーゾーン事態を強調する論者は、いかにも平時と有事の中間で切れ目があると主張していますが、そのようなものはありません。

グレーゾーン事態についてはすでにA6,A8,A9で詳しく説明していますので、ここではこれ以上触れません。

自衛隊による警察権行使では、自衛隊法に海上警備行動、治安出動、弾道ミサイル破壊措置、警護出動、自衛隊法第95条の武器等防護などがあります。

などがあります。

自衛隊による警察権行使ではありませんが、グレーゾーン事態論で主張されている自衛隊法第95条の武器等防護があります。

安全保障法制改正の焦点の一つである在外邦人の輸送活動も警察活動と位置付けられるでしょう。自衛隊法第84条の3、第94条の5で規定されています。

治安維持は本来は警察の出番です。海上での治安維持は海上保安庁の主管です。治安出動も海上警備行動も極めて例外的に、警察力、海上保安庁では手に負えない場合に限定されています。発動手続きも厳格です。治安出動は内閣総理大臣が閣議決定を経て命令します。海上警備行動は内閣総理大臣が閣議決定を経て承認して防衛大臣が命令します。このような厳格な手続きを設けた理由は、自衛隊という防衛力を使用する場合、必ず政治が責任をもって判断すべきであるという趣旨からです。一握りの政治家、軍人に委ねてしまえば、軍事力が暴走して憲法が想定している民主主義、国民主権という統治システムを破壊しかねないからです。

Q28 国際平和協力に関する分野にはどのような法律がありますか。

A28 PKO協力法、海賊対処法、国際緊急援助隊法があります。すでに失効した法律ではテロ対策特措法、イラク特措法がありました。現在自衛隊は国際平和協力活動として、海賊対処法によるジプチへの海上自衛隊と陸上自衛隊の派遣、南スーダンへ国連PKOとして陸上自衛隊を派遣しています。南スーダンでは陸上自衛隊の施設部隊を中心にした部隊が派遣され、道路の復旧などのインフラ支援を行っています。ジプチへは海上自衛隊のP3C哨戒機2機とジプチ基地を防衛する陸上自衛隊の警護部隊を派遣しています。

Q24で説明したように、いずれの法律でも武力行使は禁止されています。そのため派遣されている自衛隊の部隊の任務や編成も、武力行使を前提にしないものとなっています。任務遂行のための武器使用も認められていません。ただし、例外的に海賊対処法では一定の要件の下で、海賊船に対して船体への危害射撃が認められています。

Q29 武力行使(自衛権行使)に関する分野ではどのような法律がありますか。

A29 武力攻撃事態対処法と自衛隊法が基本的な法律となります。武力攻撃事態対処法は、わが国に対する武力攻撃に際して自衛隊をどのように使用するのかということ(対処基本方針)を定め、国会の承認を得る手続きを規定(第9条)しており、この分野の法律の最も基本となる法律です。

自衛隊法で重要な規定は、第3条自衛隊の任務、第6章の第76条防衛出動以下の規定、第7章自衛隊の権限(防衛出動や待機命令の際の自衛隊の武力行使権限、武器使用権限を定めます)です。

周辺事態法もこの分野に入れることができます。周辺事態は我が国に対する武力攻撃予測事態となる場合があるからです。

武力攻撃やその予測事態で発動される個別の有事法制があります。国民保護法は武力攻撃事態、予測事態に際しての住民避難や国民の統制を規定する重要な法律です。米軍支援法は我が国を防衛する活動を行う米軍に対して、自衛隊のみならず、地方公共団体や民間企業団体に協力をさせる法律です。注意しなければならないのは、周辺事態でも発動される可能性があることです。

特定公共施設利用法も重要です。特定公共施設とは、道路、港湾、空港、海域、空域、電波帯のことです。これらはいずれも住民避難のインフラですし、米軍支援の際のインフラです。双方の要求がぶつかる場面でその利用を調整するものですが、武力攻撃を排除するための米軍支援が優先させるでしょう。

Q30 ではこれらの安全保障法制はどのように改正されようとしているのでしょうか。

A30 与党協議が2月13日から始まり、2月20日に2回目が行われ、27日には3回目が行われます。与党協議は3月下旬には終了して与党が合意する予定です。それにつれて新聞報道の量も増え、安保法制改正法案の骨格が分かってきました。予想以上に進んでいる印象です。それを踏まえて、一応基本的なところを述べておきます。

改正法案を巡る与党協議は2月13日から開始されました。法案提出は、統一地方選挙後半の投開票日である4月26日の直後といわれています。

提出される法案の形式は、10本以上の改正法案を一括した安全保障法制改正一括法案の形式であろうとされています。内閣が今通常国会へ提出予定の法案リストを発表しています。内閣官房が提出予定の法案は五件で,その一つが「国の存立を全うし国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備関連法律案(仮称)」があります。おそらくこの名称での一括法案となることは間違いないでしょう。その狙いは、一括法案にして国会審議も特別委員会を設置して、国会審議を速やかに集中的に進めるということです。秘密保護法案の国会審議を思い出してください。国会へ法案が提出されてかられ連日の特別委員会での審議の結果、わずか44日で法案を可決成立させました。国会で慎重に時間をかけて議論するという姿勢は政府与党には最初からないのです。この通常国会で会期を延長してでも法案を可決成立させるつもりです。法案が提出されたころにガイドライン見直しの最終報告が日米両政府で合意されるからでしょう。見直されたガイドラインを確実に実行しようというわけです。

Q31 詳細なことは法案が明らかにならないと正確な議論はできないでしょうか、改正で問題になる争点としてはどのようなことがあるでしょうか。

A31 まず集団的自衛権行使を可能にする自衛隊法と武力攻撃事態対処法の改正です。この分野での与党協議はまだです。むろんこの改正では集団的自衛権行使を可能にするだけではなく、国連安保理決議による集団的措置(軍事的措置)への参加も可能にするものになります。その際地理的限定を付けることは無いでしょう。公明党は集団的自衛権行使に地理的限定を付けるかの主張をしているようですが、閣議決定の「自衛の措置三要件」にはそのような文言は入っていませんので、これを法文にすれば、地理的限定などしようがありません。

例えば自衛隊法第3条1項は次のような法文になるのではないかと思われます。

現行自衛隊法第3条

「直接侵略及び間接侵略に対してわが国を防衛することを主たる任務とし」

予想される第3条1項改正法案の条文

「我が国に対する武力攻撃が発生し、又は我が国と密接な他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合(以下存立事態という)並びに間接侵略に対してわが国を防衛することを主たる任務とし」

これではいささか長すぎると判断すれば、次のような法文も考えられます。

「直接侵略及び我が国の存立が脅かされる明白な危険がある事態(以下「存立事態」という)並びに間接侵略に対して(以下略)」

自衛隊法第76条は次のような改正条文が考えられます。

現行自衛隊法第76条1項

「我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるにいたった事態に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合には(内閣総理大臣は自衛隊の防衛出動を命じる)」

予想される自衛隊法第76条の改正条文

「我が国に対する武力攻撃が発生し、又は我が国と密接な他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(以下「存立事態」という)」

この条文を第76条1項に付け加えるか、あるいは第76条2項として付加する。

防衛出動を定めた自衛隊法第76条に「存立事態出動」を規定する条文を付け加えることはしないと思います。なぜなら、集団的自衛権行使も国連の集団的措置への参加も、閣議決定は「自衛の措置」としてあたかも我が国の自衛のためであるかの見せかけをしているからです。「存立事態」でも防衛出動とするのではないでしょうか。

次に基本法である武力攻撃事態対処法はどんな修正になるでしょう。次のような改正が考えられます。

現行武力攻撃事態対処法第2条定義規定の「武力攻撃事態」に「存立事態」を付加し、第9条対処基本方針の条文の「武力攻撃事態」へ「存立事態」を付加する。

自衛隊法にしても武力攻撃事態対処法にしても改正法案は大変単純で、一見してとんでもない改正とのイメージを持たせないでしょう。注意すべきは決して「集団的自衛事態」という言葉を使用しないことです。なぜなら「集団的自衛権」という言葉は、国民に極めて評判が悪く、いかにも憲法を改正しますよと言わんばかりの印象を与えるので、これを使用すれば改正法案に対する国民世論の反対が強まることを恐れているのだと思います。そのため「存立事態」という奇妙な法文を編み出すのでしょう。政府による世論を誤魔化す手口はすでに見えています。それに惑わされてはいけません。

Q32 確かに集団的自衛権なのか我が国の防衛(個別的自衛権)なのか曖昧な改正のようですが、何か法的には問題はないのでしょうか。

A32 私は国際法の観点から大変重大な問題があると考えています。なぜなら、

集団的自衛権行使を可能にするのであれば、改正法案は集団的自衛権行使の国際法上の要件を備えていないからです。その結果、改正法案により海外で武力行使をすれば、国際法違反になるからです。

国際法上の集団的自衛権行使の要件につき、国際司法裁判所(ICJ)の唯一の判決にニカラグア事件判決があります。A15で述べたニカラグアに対する米国の軍事攻撃を国際法違反だとして、ニカラグアがICJに提訴し、それに対する判決です。ICJは集団的自衛権行使の要件として、二つの要件を付け加えました。

一つが、被侵害国が他国から武力攻撃を受けたと国際社会へ宣言すること、もう一つは被侵害国が援助を要請したことです。この二つの要件は、これまで大国が集団的自衛権を乱用してきた歴史を踏まえて、その行使を制限しようとしたと思われます。

ところが、閣議決定にはこの二つの要件は考慮されていません。当然これを反映する改正法案も同様になるはずです。なぜこのようなことになるのでしょうか。その理由は、閣議決定は集団的自衛権ということを極力隠そうとしたからです。閣議決定が集団的自衛権という言葉を使用しているのは1か所しかありません。それも自衛の措置の三要件は国際法上集団的自衛権が根拠になる場合もあるという書き方で、正面から集団的自衛権を論じていません。「自衛の措置」として、いかにも我が国の防衛との印象を与えて国民の目から集団的自衛権を隠そうとしたからです。その結果、閣議決定は集団的自衛権行使の国際法上の要件を考慮できなかったのです。

集団的自衛権は国際法上は明らかに他国防衛の権利です。ニカラグア事件ICJ判決はこの点をよりはっきりと示したものです。あくまでも「自衛の措置」などと誤魔化すのであれば、わが国は今後国際法に反する武力行使を公然と海外で展開することになるでしょう。過去大国が集団的自衛権を口実に(乱用)して小国の独立と主権を蹂躙した歴史を、わが国は自ら繰り返すことになるのかもしれません。その危険性を示しているのが2月2日参議院予算委員会での安倍首相答弁です(A16を参照)。

Q33 武力攻撃事態法では「武力攻撃予測事態」があり、自衛隊法ではその際に防衛出動待機命令を出すことになっていますが、改正法案ではどうなるでしょうか。

A33 ご指摘の点は「存立予測事態」についての質問です。私は「存立予測事態」も入れてくるだろうと見ています。閣議決定で協調しているように、「切れ目のない」安全保障法制にするなら、「存立予測事態」は必要になるからです。

周辺事態法を改正するのか廃止するのかというところとも関係してくると思われますが、自衛隊法、武力攻撃事態対処法を改正して集団的自衛権行使が可能になれば、周辺事態法の必要はなくなるはずです。政治的な事情から残すにしても、周辺事態に対応した集団的自衛権行使をする際には、改正された自衛隊法、武力攻撃事態対処法が適用されます。

ところで周辺事態とはどのような事態でしょうか。周辺事態法案が国会で審議された際周辺事態の概念が問題になり、2009年4月26日に政府見解が提出されました。その中で6事例を挙げていますが、最初の事例は「我が国周辺の地域において武力紛争の発生が差し迫っている場合であって、わが国の平和と安全に重要な影響を与える場合」を挙げています。この事例のケースを「存立予測事態」とするのではないでしょうか。閣議決定で協調しているように、「切れ目のない」安全保障法制にするなら、「存立予測事態」は必要になるからです。

しかしこのような場合にまで自衛の措置として武力行使を準備することは、集団的自衛権行使の要件はもとより、個別的自衛権の要件すら満たさない予防段階での武力行使の準備となり、行使の仕方によっては、違法な武力による威嚇になる可能性があります。

新聞報道では「存立危険事態」という概念を導入するとのことです。その趣旨は、ホルムズ海峡機雷封鎖の際でも集団的自衛権行使で機雷除去活動をするためだとしています。

ホルムズ海峡が機雷封鎖された場合に「存立危険事態」を認定して、掃海部隊を中東へ派遣し、いよいよ「存立事態」となれば、直ちに掃海部隊をホルムズ海峡へ入れて掃海活動をするというのでしょうか。

Q34 周辺事態法はどうなるのでしょうか。

A34 おそらく自公の間でせめぎあいがあるのかもしれません。政府自民党は廃止の方針でしょう。閣議決定の観点からは周辺事態法は極めて中途半端な法律です。個別的自衛権なのか集団的自衛権なのか曖昧です。おそらくどちらでもないというのが政府の見解なのでしょう。適用範囲も「我が国周辺地域における」事態と地理的限定があります。かつてテロ対策特措法の際、周辺事態法を適用しようとしましたが、インド洋や中東では「我が国周辺地域」からはずれるとして断念したことがあります。さらに支援する国は米国に限定されています。朝鮮半島有事の際には「国連軍」として行動しますので、参戦するのは米国だけではありません。

集団的自衛権行使が出来れば、周辺事態法で出来ることは全部カバーできます

ので、周辺事態法は不要になるのです。

2月20日の与党協議で周辺事態法と恒久法について検討されたようです。新聞報道では、政府は周辺事態法を改正して、周辺地域という制限を取り払い、米軍以外の他国軍隊への支援も可能にする提案をしました。地球上どの地域で発生した事態でも「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と認定すれば自衛隊を海外へ派遣する法制度にするというのです。「重要影響事態」とでも称するのでしょう。周辺事態法という名称も変更するでしょう。「重要影響事態に際して我が国の平和と安全を確保するための他国の活動への支援に関する法律」などの名称を考えているのでしょうか。

自衛隊による支援地域も「戦闘現場」以外であれば可能にし、支援活動も現行周辺事態法で禁止されていた「武器弾薬の提供」、「発信準備中の航空機に対する給油」も認めるでしょう。支援活動中に自衛隊が攻撃されれば、任務遂行に対する妨害排除のため武器使用が出来る(交戦する)ようにするでしょう。

次で説明する自衛隊海外派遣恒久法と並んで、地理的限定のない他国軍隊への後方支援を可能にする二つの法制度が作られようとしています。

ではこれらをどう使い分けるのでしょうか。地球上のどこかで発生した事態が、「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態」と認定すれば、改正された周辺事態法を適用し、「国際社会の平和と安全の維持のために活動する国際社会への協力」であれば恒久法を適用するということでしょう。

しかし,閣議決定は「脅威が世界のどの地域において発生しても、我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状況となっている。」という認識ですから、発生した事態がどちらにも該当することがあるでしょう。二つの法律により、政府の判断で使い勝手良く自衛隊をどの地域にでも派遣できるチャンネルが開かれるのです。

改正される周辺事態法は集団的自衛権との関係も出てきます。現行周辺事態法でも個別的自衛権行使との深い関係があります。周辺事態は武力攻撃予測事態と重なるからです。周辺事態になれば、武力攻撃予測事態を認定し、防衛出動待機命令や陣地構築命令を出し、有事法制を発動できる仕組みです。その集団自衛権版が改正される周辺事態法になるでしょう。「重要影響事態」が認定されれば、それは他方で「存立予測事態」ともなります。つまり「重要影響事態」で自衛隊が世界のどの地域にでも派遣されますが、その場合はいつでも集団的自衛権を行使できる態勢(「存立予測事態」)をとって派遣されるということになります。「切れ目のない」武力行使の態勢です。

Q35 国際平和協力活動の分野では、PKO協力法はどうなるのでしょうか。自衛隊海外派遣恒久法を作る動きがあると聞いていますが、どのようなものなのでしょうか。

A35 ご指摘の点も安全保障法制改正の大きな争点です。2月20日の与党協議で、政府は恒久法制定を提案しました。公明党が周辺事態法の廃止に反対しているので、それを廃止しない代わりに恒久法制定を受け入れろという取引でしょう。公明党も恒久法自体には反対しないとみられています。

恒久法とは、これまでのように事態の必要に応じて国会で立法されてきた特措法ではなく、政府の判断でいつでも自衛隊を派遣できる期限のない法律のことです。特措法は何年という法律の有効期限があり(これを時限立法といいます)、

期限が近付けば、期限を延長する改正法案を国会で審議しなければならなくなります。第一次安倍内閣が短命に終わった政治的な理由は、テロ対策特措法の期限を延長できる見通しがなくなったことでした。特措法にすれば、それだけ政治問題化しやすくなるのです。恒久法にすればそのリスクはなくなり、自衛隊を海外へ派遣しやすくなります。

自衛隊海外派遣恒久法にはモデルがあります。2010年5月174通常国会へ自民党が議員提案した国際平和協力法案です。2012年11月に衆議院が解散されたため廃案になりましたが、それまで一度も委員会審議がされていないので、新聞も報道しなかったため知らない方が多い法案です。実はこれが憲法第9条に反するとんでもない法案でした。

多国籍軍への後方支援活動、安全確保活動、警護活動、船舶検査活動を行う、任務遂行のための武器使用、刑法第36条、37条の要件がなくても危害射撃可能、安保理決議による多国籍軍、PKOや有志連合だけでなく、日本独自の国益判断でも自衛隊を海外へ派遣できるという内容で、7・1閣議決定の先取のような法案です。しかも全文65条の分厚い法案です。実はこの法案の附則第2条でPKO協力法を廃止するとしています。国際平和協力法案はPKO協力法で行う自衛隊のすべての活動ができるからです。無論この当時は閣議決定はありませんので、第2条6項で国際平和協力活動を非戦闘地域に限定しています。この点を変更すれば、いつでも法案として提出できる状態です。注意を要します。

公明党は恒久法に反対し、特措法方式を主張していると報道されています。その都度国会で法案審議をして国会のチェックを働かせようという意図です。

政府自民党は恒久法制定を強く求めています。自民党は長年にわたり恒久法制定を狙っていました。安倍首相が第一次安倍内閣を1年で投げ出さざるを得なくなった原因がテロ対策特措法を延長できる見込みがなくなったからですから、

安倍首相の恒久法制定にかける執念は並大抵のものではないと思われます。

政府が作ろうとしている恒久法案には、安全確保活動や警護活動、船舶検査活動を入れる可能性が高いと考えられます。既に2月22日の読売新聞では、安全確保活動を行うと報道しています。

PKO協力法改正では、警護活動を認める、任務遂行のための武器使用を認める、武器弾薬の提供も行うなどになるでしょう。現在のPKO活動は、国連安保理決議で国連憲章第7章による武力行使権限を一定の任務遂行のために認められています。自衛隊も国連安保理決議で付与された武力行使権限を行使することになるのではないかと思います。

恒久法を制定しながらPKO協力法を改正するという選択肢では、自民党国際平和協力法案の中から、国連平和維持活動に関する部分を削ることになるのでしょう。

PKO協力法改正では、駆けつけ警護活動を認める、任務遂行のための武器使用を認める、武器弾薬の提供も行うなどになるでしょう。

Q36 イスラム国が日本人二人を人質にしましたが、在外邦人救出ができるような法改正を考えているのでしょうか。

A36 イスラム国による日本人拘束人質殺害事件は許しがたいことです。そのため、にわかに在外邦人救出を可能にする法改正の必要性に関心が集まることでしょう。

自衛隊法では、在外邦人輸送を行うことができる規定があります。周辺事態法を審議した際に、同じく自衛隊法の改正で在外邦人輸送のため自衛隊の艦船を派遣できるよう改正されました。朝鮮半島有事の際3万人を超える日本人を輸送するためには、それまでの航空機だけでは到底追いつかないと考えたからです。その後長い間改正されませんでしたが、アルジェリアでの過激派武装集団による石油プラント施設攻撃で、日本人従業員10名が殺されるという事態から、2013年に改正され、陸上自衛隊が派遣可能になりました。その際自民党は任務遂行のための武器使用を可能にしようと考えましたが、世論や公明党の反対で断念した経緯があります。しかしこの自衛隊法の規定は在外邦人救出ではなく、あくまでも輸送しかできない規定となっています。

閣議決定とそれを踏まえた法改正では救出活動を可能にさせようとしています。在外邦人が拘束されている場所まで部隊を送り、抵抗する武装勢力に対しては、任務妨害を排除する武器使用を行いながら、在外邦人を救出するというものです。そうなれば、自衛隊と武装勢力との激しい交戦を想定しなければなりませんし、巻き添えとなって死亡する在外邦人も出るでしょう。極めてリスクが高く犠牲を伴う作戦にならざるを得ません。現在の自衛隊にそのような能力があるとも思えません。

イスラム国による日本人人質殺害事件で、果たしてこのような自衛隊による救出が法的に可能かといえば、それは全く不可能です。相手はテロ集団といっても国家を名乗り、支配地域を持ち、独自通貨を発行するなど、野盗・盗賊とは異なります。そこへ自衛隊を派遣するなら武力行使目的での派遣となり、閣議決定でも憲法違反となります。シリアやイラクが自衛隊派遣に同意するとは考えられません。

在外邦人救出のための自衛隊派遣は、極めてリスクの高い、かつ成功の見込みの薄い軍事行動となります。米軍特殊部隊ですらヨルダン空軍パイロットの救出作戦を失敗しています。それだけではありません。中東のイスラム過激派は相互に連携していると言われています。我が国はこれまで中東で自衛隊が戦闘行為を行っておらず、長年多額の経済援助を行っており、中東の宗教対立には中立で、決してイスラエルを後押ししたことは無く、パレスチナ自治政府に対しても支援を行うなど、中東に対する米国や欧州諸国とは著しく異なった立ち位置にありました。このことが中東地域で活動しているNGOの安全にもつながっていると認識されていました。我が国もテロ攻撃を受けることはありませんでしたし、そのような脅威とも無縁でした。しかし、在外邦人救出活動で自衛隊が過激派武装集団と戦火を交えれば、中東で長年築いてきた日本の立ち位置は一挙に崩れ、わが国もテロ攻撃の脅威を現実に受けることになるでしょう。安全保障政策としても最悪の選択です。失うことの方があまりにも大きいのです。安倍総理の言に反して、私たちの安全が脅かされることになるのです。

Q37 今後安全保障法制の改正を許さないということの重要性は理解できましたが、どうやってそれを阻止できるのでしょうか。

A37 安全保障法制の改正問題は、抽象的な法律の条文をどう理解するかということから始めなければならないため、大変とっつきにくい感じがするでしょう。

しかし、閣議決定とガイドラインの見直しを理解すれば、法改正でどのようなことを行おうとしているのかを具体的に理解できます。決してむつかしいものではありません。まず閣議決定とガイドライン見直しをしっかり学習することです。私も各地から学習会の声がかかり、遠方でも出かけています。各地の弁護士会には憲法問題を扱う委員会があり、講師を派遣しています。日弁連憲法問題対策本部でも講師を派遣しています。ぜひご活用ください。

秘密保護法反対運動では、法案概要が分かったのは2013年9月25日でしたが、その後の新聞等の報道機関が連続して大きく報道したこと、短期間に市民の反対運動が立ち上がったことから、政府与党を追い詰めることができました。残念ながら私たちの反対運動と報道機関の報道がもう数か月早ければ、秘密保護法は廃案に追い込めたのではないかと思います。このことの反省から、私たちの反対運動を早く立ち上げることが必要です。すでに法案提出は政府も公言していますし、法案の内容も閣議決定やガイドライン見直しで、かなり推測が可能になっています。法案が明らかになってからでは運動は立ち遅れます。

この戦いは憲法第9条の明文改憲に劣らず重要です。

法案が成立すれば、日米両政府によるガイドライン見直しという日米同盟の誓約を背景に、年間5兆円という防衛予算を使って自衛隊を海外遠征軍に変質させ、海外へ派遣する、安全保障政策が軍事力を背景にしたものに変質するなど、70年にわたり作られてきた日本の姿が大きく変わることを意味します。これを元に戻すのは容易なことではありません。安全保障法制の改正を許さない戦いのほうがはるかに取り組みやすいはずです。

Q37 閣議決定や安保法制の改正が憲法第9条に違反していることは分かりましたが、北朝鮮が弾道ミサイルを撃ち込んだり,中国が尖閣を占拠したらどうするのだ、と問われれば、どう反論すればよいのでしょうか。

A37 ご質問は北朝鮮や中国の脅威とどう向き合うべきかという質問です。

中国が攻めてきたらどうするのか?という問題の立て方がそもそも間違いです。

これらのことは地震のような自然災害ではなく,必ず政治的な背景やきっかけがあります。

まず相手を脅威にしないことが重要です。抑止力では互いに脅威度は高まるだけです。抑止力が如何に当てにならないものであるかはA7で説明したとおりです。「脅威」度は、相手にこちらを攻撃する意思と能力の程度で判定されます。能力を相互に高めればそれだけ脅威度は高まり、意思を強めればそれだけ不安定な関係となり、不測の事態発生のリスクが高まります。

北朝鮮の脅威とは,核兵器と弾道ミサイル開発です。いくら米国の軍事力でも抑止されていません。結局外交的な手段(米朝、日朝、南北の協議、6者協議)での解決しかあり得ないことは明らかです。

中国の脅威とは、海洋戦力の強化、尖閣をめぐる領土紛争です。海洋戦力の強化に対抗する軍事的抑止政策は逆効果です。かえって中国の日本を想定した軍事力の増強のテンポを速めるだけです。尖閣をめぐる脅威は軍事的脅威ではありません。国際紛争ではあっても武力紛争でもありません。中国にとっても日本にとっても尖閣には軍事的価値はありません。あるのは互いのナショナリズムの衝突です。相互のナショナリズムの衝突をコントロール不可能にしかねないのが歴史問題です。中国を脅威としないためには、歴史問題を日本人はきちんと認識することがまず重要です。次に国際紛争を武力紛争に発展させないための、双方の自制と挑発をしないこと、そのための信頼醸成措置が重要となります。尖閣諸島をめぐる領土紛争は棚上げすべきです。日中国交正常化以来尖閣問題は棚上げにより,日中間の紛争とはなっていませんでした。日本にはこれで失うものはないはずです。尖閣を実効支配しているのは日本ですから。棚上げ方式は、日中国交回復の際の日中共同声明(1972.9)方式がその先例となるはずです。

日中国交正常化交渉で台湾の帰属問題が最後の最大の争点になりました。中国政府は、台湾が中国の領土の不可分の一部であることを認めさせようとしました。日本政府は台湾を実効支配している中華民国政府との関係からこれは受け入れられませんでした。そこで日本政府が提案したのが、日中共同声明第三項でした。第三項は、中国政府は台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを表明し、日本政府は中華人民共和国の立場を十分理解し,尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する、としたのです。ポツダム宣言八項は、カイロ宣言を履行すべし、としており、カイロ宣言は「台湾・・・のような日本国が清国から盗取したすべての地域を中華民国に返還する」としています。つまり日中共同声明では、台湾が国際法上どちらに帰属するか曖昧にしているのです。

これと同じような発想により外交交渉で尖閣諸島をめぐる日中間の紛争を解決できるはずです。

ところが安倍政権が中国に対して行っていることは、以上のことの真逆の政策です。安倍政権は私達の平和と安全にとりきわめて危険な政権といえます。

Q38 安倍政権はあたかも私達の平和と安全のために憲法第9条の解釈を変更する閣議決定を行い、安保法制の全面改正をしようとしていますが、それに反対するだけでは説得力があまりないと思われます。これに代わるべき安全保障政策はあるのでしょうか。

A38 解釈改憲、立法改憲と日米同盟深化論に代わる安全保障政策を提案しなければならないと思います。

その際基本的な視点とすれば、グローバル化した国際関係と北東アジアの特異な国際関係を踏まえた安全保障政策を考えるべきでしょう。

むろん、いかなる場合にも国際紛争を武力行使で解決する選択肢をとらないことが基本です。

武力紛争は自然災害ではありません。政治的選択の結果か選択の失敗であり、防ぐことはできるものです。「攻められたら、尖閣を占領されたら」論は、武力紛争を自然災害のように見立てる議論です。なぜ起きるのか、起きないようにするにはどうするのかを考えるのが政治であり、安全保障政策です。

北東アジアの国際関係の特徴としては次の4点を挙げることが出来ます。

特徴1 冷戦時代の地域分断と対立が強く残っている。朝鮮半島と台湾海峡問題(分断国家)、軍事同盟による分断

特徴2 米、露、中という核保有国の存在(北朝鮮もこれに含まれる可能性)

特徴3 個別の紛争の存在 日中、日韓、日露の領土問題

特徴4 日本の歴史問 領土紛争に歴史問題が絡んで、世論の圧力をコントロール不可能になる事態が最悪だ

特徴5 地域的安全保障の枠組みがない

この様な日本を含む東アジアの国際関係の中で、安倍政権が進めようとしている安全保障政策は、きわめてリスクの高いものであるといえます。

安倍政権の「積極的平和主義」に代わりうる安全保障政策として、わたしは「共通の安全保障」を推奨しています。

共通の安全保障とは1982年パルメ委員会報告書「共通の安全保障―核軍縮への道標」で提言された考え方です。

ボーダレスな国際関係、相互依存関係という新たな時代を背景にして、それまでの安全保障概念を根本から変えることを打ち出したもので次のような基本原理で構成されます。

基本原理

すべての国は安全への正当な権利があることを認める(他国の犠牲において自国の安全保障を追求しない)

軍事力は国家間の論争を解決するための正統な道具ではない

他国より優位に立とうとしたり、他国を犠牲にして安全を得ようとしてはならない

安全保障は軍事的優位によっては達成されない

共通の安全保障には、軍備削減および質的制限が必要、共通の安全保障が軍事的抑止という戦略にとって代わるべき安全保障と協力に関する地域会議、平和地帯、非核地帯などの地域的アプローチを国連の活動を補い補強するものとして提唱します。

この考え方は、現在の欧州安全保障協力機構(OSCE)、ASEANの基本的な思想となっているものです。憲法9条、平和的生存権保障という徹底した恒久平和主義と合致する安全保障政策です。しかも既に実践で成功しつつあるものです。

北東アジアには、北朝鮮の核開発問題、環境問題、災害復旧、国際テロ問題をはじめ、日・中・韓が協力しなければならない地域問題が山積しています。歴史問題を巡る長年にわたる日中、日韓の不安定な関係の中で、憲法の徹底した恒久平和主義は、中国、韓国との信頼関係を維持するうえでもきわめて重要なメッセージです。憲法の徹底した恒久平和主義は、これからの北東アジアで日本が採用すべき安全保障政策の基本となるべきものであるといえるでしょう。

「共通の安全保障」観に立った協調的地域的安全保障の枠組みを作りながら、日米安保体制を「基軸」から相対化(一つの手段化)させ、北東アジア非核地帯を目指す取り組みと合わせて、非核三原則法制化と核の傘政策の放棄、日米安保体制から核抑止機能を排除、将来の廃棄を目指す、自衛隊は海外での軍事活動をしない、日本の防衛に任務を限定する(厳格な専守防衛にとどめる)、そのために不必要な装備の削減など軍縮を進める、災害救助任務を拡大強化しながら自衛隊の組織・任務を変革する。

これらのことは、国民の支持と政治的意思があれば実行可能なものばかりです。

重要なことは、協調的地域的安全保障の枠組みを作るための関係各国の取り組み自体に、互いの信頼関係を積み重ねて紛争を未然に防ぐ機能があるということです。さらにその取り組みは政府間レベルだけではなく、トラック2,トラック3というように、準政府レベル、民間レベルの対話を重層的にすすめることにより、北東アジアの国際関係を一層安定化させる役割を果たすことが出来るでしょう。

Q39 今後安全保障法制の改正を許さないということの重要性は理解できましたが、どうやってそれを阻止できるのでしょうか。

A39 安全保障法制の改正問題は、抽象的な法律の条文をどう理解するかということから始めなければならないため、大変とっつきにくい感じがするでしょう。

しかし、閣議決定とガイドラインの見直しを理解すれば、法改正でどのようなことを行おうとしているのかを具体的に理解できます。決してむつかしいものではありません。まず閣議決定とガイドライン見直しをしっかり学習することです。私も各地から学習会の声がかかり、遠方でも出かけています。各地の弁護士会には憲法問題を扱う委員会があり、講師を派遣しています。日弁連憲法問題対策本部でも講師を派遣しています。ぜひご活用ください。

秘密保護法反対運動では、法案概要が分かったのは2013年9月25日でしたが、その後の新聞等の報道機関が連続して大きく報道したこと、短期間に市民の反対運動が立ち上がったことから、政府与党を追い詰めることができました。残念ながら私たちの反対運動と報道機関の報道がもう数か月早ければ、秘密保護法は廃案に追い込めたのではないかと思います。このことの反省から、私たちの反対運動を早く立ち上げることが必要です。すでに法案提出は政府も公言していますし、法案の内容も閣議決定やガイドライン見直しで、かなり推測が可能になっています。法案が明らかになってからでは運動は立ち遅れます。

この戦いは憲法第9条の明文改憲に劣らず重要です。

法案が成立すれば、日米両政府によるガイドライン見直しという日米同盟の誓約を背景に、年間5兆円という防衛予算を使って自衛隊を海外遠征軍に変質させ、海外へ派遣する、安全保障政策が軍事力を背景にしたものに変質するなど、70年にわたり作られてきた日本の姿が大きく変わることを意味します。これを元に戻すのは容易なことではありません。安全保障法制の改正を許さない戦いのほうがはるかに取り組みやすいはずです。

安保法制与党協議の論点整理(2015.2.21現在)

第1 周辺事態法の取り扱い

1 周辺事態法を存続させる(合意)

(解説)恒久法を制定し、自衛隊法、武力攻撃事態法を改正して集団的自衛権行使ができれば周辺事態法は不要になる。周辺事態の場合集団的自衛権が行使できるのであれば、周辺事態法でやれることはすべて集団的自衛権行使でできる。恒久法も国際平和協力だけではなく我が国の平和と安全のためだと規定すれば、周辺事態法を残す意味はない。

自民党は公明との要求に妥協をするそぶりをしながら、恒久法制定と取引しようとしており、公明党もこれに乗っている。

改正される周辺事態法と恒久法との関係は、他国軍隊への支援では同じだが、「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態」では改正される周辺事態法を適用し、それ以外の事態では恒久法を適用するという関係になる。しかし恒久法も「国及び国民の平和と繁栄には国際社会の平和及び安全の確保が不可欠」(自民党国際平和協力法案第1条)との認識で制定されるのであるから、二つの法律の適用関係は明確に区分されるものではない。そのときに発生した事態に応じて政府が判断する。

2 米軍以外の他国軍隊への支援(公明異論)

(解説)米軍以外の他国軍隊を入れる必要論は、朝鮮半島有事の際には米軍は国連軍として、韓国軍、豪軍やカナダ軍とも共同して軍事行動をとるので、これらの国の軍隊への支援が必要だというもの。地理的概念である「我が国周辺地域」を取り払った場合、政府自民党の論理と思惑は、米国だけが単独で行動するわけではないこと、「自衛の措置三要件」で集団的自衛権行使をする前段階の事態を「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態」として、地理的限定なく使いたいというところだと思う。具体的な事例として、ホルムズ海峡機雷封鎖のケースが考えられる。いきなり集団的自衛権ではなく、「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態」として、他国軍隊への支援活動を行うケース。ただそれは「切れ目なく」集団的自衛権行使になることも想定される。

3 「周辺地域」を無くす(公明異論)

(解説)「周辺地域」概念を無くすのは、ガイドライン見直しとの整合性を図るためである。公明党には異論があるが、おそらく政府自民党の提案に同意すると思われる。「周辺地域」概念を無くせば、法律の名称も「我が国の平和安全確保活動支援法」といったものになるのかもしれない。集団的自衛権行使の前段階で活用されるであろう。「切れ目のない」法制となる。

4 適用される事態

「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」(公明異論)

(解説)「周辺地域」概念を無くすることと裏腹の関係。7・1閣議決定は「脅威がどの地域において発生しても、我が国の安全保障に直接影響を及ぼしうる」「他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、…我が国の存立を脅かすことも現実に起こりうる。」との脅威認識を示しているのであるから、「切れ目のない」安全保障法制のためには、地理的概念を無くそうというのである。「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態(重要影響事態)」とは、「存立事態」の前段階にもなりうる。

5 支援内容

武器弾薬の提供、発信準備中の航空機への給油を入れる(公明の意見不明)

(解説)武力行使一体化論をとらないのであるから、他国との武力行使と一体化した活動もできる。周辺事態法制定の際、一体化論から禁止された支援活動を可能にする。

6 武器使用権限

任務遂行のための武器使用を容認(合意)

(解説)後方支援活動は、戦闘現場以外の場所まで拡大されているので、それだけ攻撃を受ける危険性が高いものになる。そのため後方支援活動を行う際、現行の自己保存型の武器使用では自衛隊員は任務の遂行はできない。そのために武器使用権限を強化する。任務遂行のための武器使用とは、任務を妨害する武装勢力、他国軍の部隊があれば、先に攻撃も可能な権限だ。7の危害射撃に正当防衛の要件を無くせば、いきなり先制的に致死的攻撃を行うことが可能だ。

7危害射撃に正当防衛要件を無くす(不明)

8「非戦闘地域」概念を取り払う(合意)

戦闘現場以外の場所での支援

(解説)「非戦闘地域」概念を取り払えば、戦闘現場以外の場所まで支援活動が可能になる。それだけ攻撃を受けるリスクは高くなる。攻撃を受ければ当然反撃する。そうすると、自衛隊による後方支援は、武装勢力や敵国軍隊との戦闘行為を想定した部隊編成となるはず。

第2 PKO協力法の取り扱い

1 PKO協力法を存続させる(合意)

2 警護活動を新設(合意)

3 武器使用権限

任務遂行のための武器使用を容認(合意)

4 危害射撃に正当防衛の要件を無くす(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。しかし、任務遂行のための武器使用を容認すれば、危害射撃に正当防衛要件をなくすことは当然的に伴うであろう。任務遂行のための武器使用が必要な危険な任務を遂行させるのであるから、任務を妨害する武装勢力が目前に現れれば、先制的にでも危害射撃を行わなければ、派遣された自衛官の犠牲が大きくなる。

5 「非戦闘地域」概念を取り払う(合意)

戦闘現場以外の場所での支援

(解説)これまではPKO活動では施設部隊を中心にして、駐屯地や施設部隊を警護する警護部隊を伴っていたが、1~5により改正されたPKO協力法による自衛隊の活動は、武装勢力との交戦を常に想定した部隊編成と装備を伴うものになり、国連安保理決議で創設されたPKO活動に参加する部隊へ安保理決議が付与する武力行使権限を自衛隊が行使することになると思われる。これは自衛隊による武力行使になる。

6 武器弾薬の提供(公明の意見不明)

7 停戦合意、受け入れ同意要件の緩和(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。PKO参加五原則を修正しようとの動きは、かねてより公然となされている(22大綱や26大綱)。ただこの点に関する改正法案の内容の報道が全くないので現時点では不明。例えば国連安保理決議があれば、停戦合意や受け入れ同意は不要とするような改正が考えられる。

第3恒久法案

1 自衛隊海外派兵恒久(一般)法制定(合意)

2 国連安保理決議を要件にするか

公明は必要論、政府自民党は不要論

(解説)自民党から、安保理が拒否権で機能しない場合にはどうするとつめられれば公明党は妥協するであろう。後は国会承認要件を残すだけになる。それも原則事前承認で,事後承認もあり得るというもの。

3 国会の承認

公明は国会の事前承認

政府自民党は事後承認もありうる(公明は認める見込み)

4 武器使用権限

任務遂行のための武器使用容認(合意)

(解説)恒久法ではどのような活動を規定しようとしているのかいまだ具体的な報道はないが、2010年5月に衆議院へ法案提出された国際平和協力法案は、後方支援活動、警護活動、安全確保活動、船舶検査活動をさせる内容だ。2月22日読売新聞によると、政府は安全確保活動を入れるとのこと。前線での危険な任務を行わせるため、現行の自己保存権に基づく武器使用権限では任務遂行はできない。任務遂行のための武器使用権限を付与する必要がある。この場合、武器使用権限を個々の自衛官に与えるのか、自衛隊の部隊等へ与えるのかは法案をみないとわからない。

5 危害射撃に正当防衛の要件を無くす(不明)

(解説)新聞報道がないから不明だ。任務遂行のための武器使用を認めれば、危害射撃に正当防衛の要件を無くすこともセットで規定されるであろう。国際平和協力法案はそうなっている。

6 自衛隊の活動

後方支援、警護活動、安全確保活動、船舶検査活動(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。国際平和協力法案はこの活動を入れているので、恒久法案にも入る可能性が高いのではないか。

第4 武器防護のための武器使用

1 米軍以外の他国軍隊の防護(公明異論)

(解説)ミサイル防衛に共同で対処するのは米軍だけではない、平時の共同訓練に米軍以外も参加することがあるとの論理である。では、リムパックには中国軍艦船も参加するようになっているが、中国軍艦船も防護するのであろうか。

豪軍は、予算規模も兵員も小さく、ミサイル防衛ができるイージス艦を保有できる余力はない。これからも保有することはないであろう。豪軍がミサイル防衛を一緒になってやるという事態はあり得ないのだ。

平時に米艦に侵害行為をする国があるとは到底考えられない。

米軍はこのような場合個別的自衛権行使で防衛する。それに対して自衛隊が一緒に防護すれば集団的自衛権行使だ。しかも国会承認なし、総理大臣の承認、命令もないかもしれない(3の論点を参照)。自衛隊の暴走が始まる。

米艦への侵害行為は、ニカラグア事件ICJ判決からは、武力行使とはならない。それに対して自衛隊が防護活動をすれば、国際法違反の集団的自衛権行使となる。

2 適用地域は無限定(合意)

(解説)自衛隊はインド軍とも共同演習を行うようになっている。今後将来にわたり二国間軍事協力が増えるので、共同演習下での侵害行為に対する共同防衛の必要性は、地理的に無限定である。

3 総理大臣または防衛大臣の命令を要件(不明)

(解説)自衛隊法第95条武器防護のための武器使用には、総理大臣の命令や承認、防衛大臣の命令は要件ではない。米軍やその他の軍隊にまで拡大する場合、同じような枠組みにするのか、それとも、防衛大臣の命令、総理大臣の承認または命令を要件にするのかは報道されていないので不明である。

4 武器使用権限行使の主体

自衛官か自衛隊の部隊等か(不明)

(解説)武器防護のための武器使用権限は、現に武器防護任務に就いている自衛官に与えられている。他国軍隊の艦船を防護するには、護衛艦が丸ごと当たることになるので、艦長の指揮命令は当然前提になり、個々の自衛官の武器使用権限では護衛艦がこれに当たることは不可能だ。そうすると自衛隊の部隊等へ武器使用権限を与えることになるのかもしれない。あるいは、個々の自衛官(護衛艦乗員)を束ねる指揮官である艦長の命令が必要という枠組みにすることもあるかもしれない(治安出動に関する自衛隊法第90条第2項で準用されている同法第89条第2項で「当該部隊指揮官の命令によらなければならない」との規定を参照)。報道されていないので不明だ。

5 武器使用権限

船体や人への危害射撃に正当防衛の要件を無くす(不明)

(解説)この論点は報道されていないので不明だ。事態の性格からこの武器使用権限は必ず入ると思う。事態の性格から必ず入ると思う。国籍不明船がもし対艦ミサイルを装備しており、それが先に護衛艦へ向けて発射されれば、近接防衛システム(CIWS コンピューター制御されたバルカン砲)で防護できなければ、護衛艦は撃沈される。

第5 邦人救出活動(自衛隊法改正)

1 武器使用権限

任務遂行のための武器使用容認(合意)

2 危害射撃に正当防衛の要件を無くす(不明)

(解説)任務遂行のため有効な武器使用をするために,この要件は必要だ。

3 「安全に実施できる」を無くす(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。邦人救出作戦はきわめて危険性の高い(武装勢力との交戦を想定した)活動だ。そのために「任務遂行のための武器使用」「正当防衛要件がなくても危害射撃」が出来るようにするのであるから、「安全に実施できる」要件は外すのではないか。

4 防衛大臣の命令または総理大臣の命令(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。

現行法は邦人輸送規定であるが、改正により邦人救出活動規定になる。武装勢力との激しい交戦を想定した派遣になる。そのためには、武装勢力の兵装、数、邦人の所在場所(たとえば地下室なのかビルの何階の部屋か、周辺が人家が密集していないかなど)と人数、どのような状態で武装勢力に囚われているのかなどの正確な情報が必要であり、その上で、入念な救出作戦(どのような部隊を編成し、どんな装備を持ってゆくか、装甲車両かヘリコプターかなどどのような輸送手段をとるのか、無関係な市民の犠牲を伴わない作戦が可能か、その作戦を支援する後方基地をどこに設置するのかなど)が必要だ。しかも軍事作戦の中でも最も困難なものだ。到底自衛隊に遂行できる能力はない。主権国家(イラクやシリアなど)が同意するわけはなく、想定されるのはソマリアなどのように中央政府が機能していない破綻国家であろう。いずれをとっても非現実的な想定だ。自衛隊の準機関誌「朝雲」新聞2月12日付コラムは国会での議論に対して、「現行法を改正すれば,人質救出作戦が可能であるかのような内容だ。国民に誤解を与える無責任な質問と言っていい。」と述べている。

第6 集団的自衛権行使

1 自衛の措置三要件の第1要件を自衛隊法第3条、第76条の法文にする(不明)

地理的限定を無くす

(解説)新聞報道がないので不明だ。自衛の措置三要件には、ニカラグア事件ICJ判決が要求する集団的自衛権行使の二つの要件(被侵害国が武力攻撃を受けたことを宣言する、被侵害国が援助を要請している)には一切言及していない。その結果自衛の措置三要件該当性だけで集団的自衛権を行使すれば、国際法違反になる可能性が出てくる。自衛の措置三要件になぜこの二つの要件を入れなかったのか。おそらく、閣議決定は国民の評判の悪い集団的自衛権行使という言葉の使用を極力避けて、あたかも我が国の自衛のためであるかの印象を与えようとしているからと思われる。ニカラグア事件ICJ判決の二つの要件は、集団的自衛権行使は他国の防衛であることを明確にしているからだ。

この点はまだマスコミ報道では触れていないが、法案審議で問題にすべき論点になるのではないであろうか。

2 武力攻撃事態に加えて「存立事態」を新たに加える(合意)

3 「存立予測事態」または「存立危険事態」を新たに加える(不明)

(解説)新聞報道がないので不明だ。

4 武力攻撃事態対処法

第1条、第2条、第9条へ「存立事態」を付け加える(不明)

(解説)集団的自衛権行使については未だ与党協議は行われていないので、これに関する報道はないので不明だ。閣議決定から推測すると、地理的限定のない集団的自衛権行使は明らかだ。「切れ目のない」集団的自衛権行使のためには「存立予測事態」概念を導入するはず。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の恐れ(明白な危険)」を「存立予測事態」にする可能性がある。周辺事態法の「周辺事態」の具体的な意味として、我が国周辺地域で他国に対する武力攻撃の恐れがある事態を挙げているのが参考になる。「他国に対する武力攻撃の恐れ(明白な)事態」の外に、「他国に対する武力攻撃」であっても、いまだ事態が「我が国の存立を脅かす明白な事態」ではないが、その前段階の事態という場合も含むかもしれない。

そのような予測事態で、我が国が軍事的対処(たとえば、事態が発生している周辺まで自衛隊が出動して軍事的示威活動をするなど)の仕方によっては国際法違反になるかもしれない(先制的自衛権行使として)。

 

 

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