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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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スタンド・オフミサイル部隊の配備は、確実に攻撃の標的になる

2023年12月13日

1 九州から南西諸島 (奄美大島、沖縄本島、先島諸島) へ陸自対艦ミサイル部隊 (12式ミサイル装備)、対空ミサイル部隊 (中SAM装備) が配備されています。
 現在は12式ミサイルの射程は約200キロですが、26年度から配備が始まる能力向上型の射程は1000キロと見られています。現在の12式ミサイルとは全く別種類のミサイルとなります。

 現有12式ミサイルはロケット推進で、長さ5mですが、能力向上型は長さが9m、ターボファンジェット推進、ステルス形状した亜音速の巡航ミサイルになります。

 陸自対艦ミサイル部隊は現在5個連隊ですが、24年度中に大分と沖縄本島へ新たな連隊が編成され7個連隊となります。しかし陸自ミサイル連隊へ配備されている対艦ミサイルは2種類あり、旧型の88式は北部方面隊 (北海道) と東北方面隊の合計4個連隊だけで、最新式の12式は九州健軍駐屯地と奄美、宮古、石垣駐屯地と沖縄本島 (24年3月までに配備) だけです。

 能力向上型12式地対艦ミサイルは、現在12式が配備されているミサイル部隊となることは間違いありません。
 陸自対空ミサイルの最新型である中SAMは、沖縄本島、奄美、宮古、石垣へ配備されています。

2 防衛省は12式ミサイル能力向上型の配備先については固く口を閉ざしています。その理由は、これの配備は中国からの攻撃の標的になるからです。これを住民に説明すれば、到底受け入れてくれない恐れがあると考えているからです。

 NHKBS1で今年3月に報道された「BS1スペシャル密着自衛隊ミサイル防衛のリアル」は
中SAM部隊の実射訓練を見せてくれました。対空ミサイル部隊が中SAMを発射すれば、直ちに車両群
(発射機、レーダー搭載車、指揮車両、弾薬補給車両、電源車両がセット) は、敵に発見されにくい次の発射地点へ移動します。その理由は、ミサイルを発射すれば、敵に発射地点が特定されて、攻撃されるからです。むろん車両群は迷彩を施しています。

 このことは、南西諸島へ配備されているミサイル部隊の車両群も同じ運用になることを物語ります。奄美、沖縄本島、宮古、石垣のいずこから発射し、直ちに次の発射ポイントへ移動する、いわば「ヒット・エンド・ラン」を繰り返しながら戦闘を遂行します。

3 これは米軍も同じことです。海兵隊は現在海兵連隊を再編して、中国軍との戦闘を行う部隊への再編を行っています。それが海兵沿岸連隊 (MLR) です。

 小規模の部隊に分かれて島嶼部へ展開し、中国海軍艦艇と航空機を攻撃し、攻撃すればすぐに移動を繰り返す作戦構想で、遠征前方基地作戦 (EABO)と称しています。配備される対艦ミサイルは、現在はHIMARSですが、今後MLRとなった部隊には最新型のNMESIS (ネメシス) になります。NMESISは、6輪のHIMARSよりもさらに小型で、運転席を取り外した4輪車両にミサイル発射機を装置し、海兵隊員が有線誘導の遠隔操作で車両の運転とミサイル発射を行います。

 非常に小型で島しょ部へ機動的に配備されること、敵のミサイル攻撃を受けても、海兵隊員には被害が及ばないように、有線誘導で離れた位置から操作していることは、作戦中にミサイルを発射すれば、敵から発射車両を攻撃されることを想定しているのです。

4 車載搭載型のミサイル発射機の運用は、どこの軍隊でも同じです。そうだからこそ、敵ミサイル基地を攻撃するといっても、現代のミサイル戦争では、敵ミサイル発射機をとらえて確実に破壊することが極めて困難だといわれています。

5 陸自中SAMは防衛省において能力向上が進められています。防衛省作成のロジックモデルによれば、2028年ころまでには実用試験を終える予定となっていますので、配備はその後となると思われます。中SAM能力向上型は、PAC3と同様の弾道ミサイルのターミナル防衛に加えて、極超音速滑空ミサイル対処能力まで持つよう設計されています。むろん車載移動式です。

 これが将来与那国島へ配備されると見られています。むろん現在の陸自対空ミサイル部隊へ順次配備されるでしょう。南西諸島への配備が優先されるでしょう。

6 12式ミサイルや中SAMミサイルが現在配備されている南西諸島や、将来配備される能力向上型ミサイルの配備先の島嶼部では、有事となれば確実に中国軍からのミサイル攻撃にさらされることになります。これは可能性や杞憂などではありません。そこに住む住民には現実の脅威です。

 国家防衛戦略はスタンド・オフ防衛能力を抑止力の中心に位置づけています。戦略国際問題研究センター (CSIS) が23年1月に公表した「次の大戦の最初の戦い‐中国による台湾侵攻を想定したウォーゲーム」が紹介している、「偉大な戦略家」トーマス・シェリングの言葉を最後にご紹介します。「優れた抑止力は優れた標的になりうる」。

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