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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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民間空港、港湾を軍事目標にすることも辞さない、自衛隊の対中軍事態勢

2023年12月14日

1 武力紛争下における国際人道法の重要な原則に、軍事目標主義があることは私たちの常識です。
 しかしここにきて、安保三文書の内容を具体化すべき自衛隊による訓練で、民間空港、港湾を作戦行動で利用することが次第に明らかになってきています。

2 令和5年度自衛隊統合演習 (実動演習) 実施に関する統幕プレスリリース (2023.10.27) によると、参加自衛隊員30,800名、車両約3500両、艦艇約20隻、航空機約210機で、前回の自衛隊統合演習 (実動演習) は令和3年度で、令和5年度はこれと比べても規模が大きく拡大し、さらに米軍参加兵員も約2倍の10,200名です。
実施場所では、令和3年度実動演習ではなかった「民間空港・港湾」が入りました。

 これは国家防衛戦略で、「特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大」で自衛隊の機動展開能力を強化するとし、防衛力整備計画で、自衛隊の機動展開能力の強化のため、「政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾を (自衛隊の - 井上注) 運用基盤として使用するために必要な措置を講じる。」と明記したことを、実戦で使えるようにするための訓練です。

 自衛隊にとって、南西諸島で大規模な戦闘を遂行する上で、最大の障害は距離です。北海道の陸自部隊を南西諸島迄機動展開させるためには2000キロの距離を移動しなければなりません。

 政府は安保三文書を受けて、南西諸島の民間空港・港湾の一部を特定重要拠点空港・港湾に指定して整備する方針を示しました。例えば、新石垣・宮古・与那国空港の滑走路を延長、石垣港・平良港の岸壁を延長するなどです。戦闘機の離発着や大型艦艇、輸送船の離着岸や複数艦船の同時離着岸を可能にするためです。

 24年度予算の概算要求の内、防衛予算に非ざる沖縄振興予算(内閣府所管)には、この特定重要拠点空港・港湾の整備費が事項要求として計上されていることは、琉球新報記事で知りました。

3 令和5年度自衛隊統合演習のプレス発表では、訓練の詳細は不明です。11月5日のしんぶん赤旗1面と2面の記事は、その詳細の一部を報道していました。

 北海道・東北沖や三沢沖、四国沖から侵攻する航空機などに対処する「統合防空ミサイル防衛 (IAMD) 訓練」で、攻撃を受けた自衛隊基地が使用できなくなる事態を想定して、岡山・大分空港や、徳之島、奄美両空港に戦闘機を一時避難させ、燃料補給やF2,F15戦闘機の離着陸を行うという内容です。

 このような民間空港・港湾の軍事利用は、元は米空軍が開発した戦闘構想を真似したものです。米空軍は中国との戦争に備えて、三沢、横田、岩国、嘉手納のような大規模な在日米空軍基地は、真っ先に中国軍のミサイル攻撃を受けるので、そこに配備されている戦闘機等が破壊されてしまって戦力が削がれることを避けるため、小規模部隊に分けて、民間空港や臨時に整備した空港へ分散させるという部隊運用を構想しています。

 ACE (Agile Combat Employmentの略 迅速戦闘運用) と呼ばれるこの戦闘構想は、単に被害を限局するだけではなく、中国軍にとって重要となる標的の数を増やして、中国軍の作戦を複雑にし、且つ中国軍のミサイル在庫を消耗させるという目的までも含まれます。

 ですから、この戦闘構想は、空軍部隊が分散配置された場所を攻撃されることを想定しているものになります。このような戦闘構想を自衛隊は米軍と共同して行うことになります。

 人里離れた荒れ地や山間部のゴルフ場などに新たな臨時滑走路等をつくるのならまだしも、既存の民間空港へ分散配備し、そこから戦闘作戦行動に移るのであれば、これは民間空港の軍事利用として、国際人道法上は、正当な攻撃目標になってしまいます。

4 上記のしんぶん赤旗記事では航空自衛隊の戦闘機が岡山・大分などの民間空港を使用することが紹介されています。米空軍戦闘機はどうなるか不明です。

 ですが、2023年1月11日 2+2共同発表文において、「閣僚は、空港及び港湾の柔軟な使用が有事における防衛アセットの坑たん性及びその運用効果を確保するために重要であることを強調し、そのような使用を可能にするために、演習や検討作業を通じて協力することを決定した。」と述べているように、我が国の民間空港、港湾を日米による共同軍事利用が合意されており、令和5年度自衛隊統合演習においても、実際に米空軍戦闘機が使用する可能性もあると思われますので、11月10日から11月20日まで行われる自衛隊統合演習の実際がどうなるのか注目しなければなりません。

5 政府は中国との武力紛争に際しては、南西諸島の住民を避難させるため、民間空港、港湾を使用することを想定しています。内閣府と共同で行った令和4年度沖縄県住民雛訓練では、先島諸島の住民は、それぞれの島嶼部の民間港湾、民間空港を利用し、定期航空便や定期旅客船運航便、臨時便などに同乗し、宮古島へまず避難し、そこから九州各県へ航空機や民間船舶により避難する計画でした。

 しかしその一方で、国民保護法で住民避難が開始される武力攻撃予測事態では、既に自衛隊の事前配備部隊や大量の兵站物資、車両等が全国から輸送されており、民間空港・港湾はフル稼働しているでしょう。国民保護法による住民避難計画が発動された時点で、中国からの武力攻撃がなされれば、住民避難は不可能になります。民間空港・港湾周辺の住民は巻き添えになるリスクを負うことになります。

 民間空港・港湾を国際人道法上の正当な軍事目標にしてしまう安保三文書とそれを実行する自衛隊統合演習には、その危険な含意に対する何らの懸念も配慮も見えません。私たち国民の犠牲を当然の前提として行われている日米の共同訓練をやすやすと実施させてはならないと思います。

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