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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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連載「憲法9条と日本の安全を考える」
集団的自衛権の限定容認論

2014年5月29日

安倍首相はつくづくデマゴーグ政治家だと思います。彼は昨年9月ブエノスアイレスで開かれたオリンピック招致委員会の席で福島原発は完全にコントロールされている、放射能は港湾内に完全にブロックされていると世界に向けて大ウソをつきました。

安保法制懇報告書が出された5月15日、政府の「基本的方向性」を説明する記者会見で、子供や年寄りを守るための集団的自衛権だと大ウソをつきました。集団的自衛権は、日本が武力攻撃を受けていない状況でも戦争に参加するもので、それにより、私たちが危険にさらされるかもしれないからです。

彼はまた、私たちの暮らしが突然危機に直面するかもしれないと、私たちを恫喝しました。その危機とはテロリストのことを挙げました。それに対して抑止力を高めなければならないと述べました。テロリストには抑止力が効かないというのが、安保防衛政策の基本認識なのに、そんなことは意に介さないのでしょう。とにかくどんなウソでも、憲法解釈を変更したいのです。

集団的自衛権の限定容認論も大ウソの類です。しかしこの大ウソは始末が悪い。自民党内にあった慎重論をねじ伏せてしまったし、国民には何となく受け入れやすい論理だからです。毎日新聞が4月19,20日に行った世論調査は、そのことを衝撃的に表していました。「限定的に認めるべきだ」が44%、「全面的に認めるべきだ」の12%を合わせると過半数が憲法解釈変更による集団的自衛権行使を容認しているという結果だったからです。

集団的自衛権の限定的行使については、政府は何が限定になるのかきちんと説明していません。毎日新聞の世論調査の設問でも単に「限定的に認める考え方」についての賛否を問うているに過ぎないのです。同じときに行われた朝日新聞の世論調査では、集団的自衛権を行使できるようにすることの賛否を問う設問で、反対66%で賛成25%の2倍を超えていました。

集団的自衛権の限定行使という言葉とそのイメージだけが先行して、私達が安倍首相の大ウソに騙されてはたまりません。彼が記者会見で説明した政府の「基本的方向性」には、「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」「そのためには必要最小限度の武力の行使は許容される」と述べているだけです。集団的自衛権の行使の仕方や地理的範囲などどこにも限定するとは述べていません。「限定」という言葉だけが踊っているのです。

安倍首相は、総理大臣になる前の衆議院議員当時から、必要最小限度の武力行使なら集団的自衛権も憲法上可能だとの「理論」に憑りつかれていました。

集団的自衛権行使は憲法上許されないとする政府解釈が定式化された1981年5月29日政府答弁書が、憲法9条の下での自衛権行使は「必要最小限度の範囲にとどまるべきもの」として、集団的自衛権はこれを超えるから行使できないと説明していました。安倍衆議院議員はこれをあたかも数量的概念と捻じ曲げて、2006年1月26日に国会論戦を挑みました。必要最小限度の範囲には集団的自衛権も含まれる、数量的概念だというのです。

これに対して、当時の内閣法制局長官秋山氏が丁寧に諭すように答弁しています。彼は必要最小限度の意味を自衛権行使の三要件のことと説明し、第一要件である我が国への武力攻撃がないので、集団的自衛権は必要最小限度を超えると説明しました。さらに秋山内閣法制局長官は、「従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの(自衛権行使の)第一要件を満たしていないという趣旨で申し上げているものでございまして、お尋ねのような意味で、数量的な概念として申し上げているものではありません。」と答弁しました。

安倍さん、あなたの理解は間違っていますよと諭しているのです。安倍首相が内閣法制局を目の敵にしたのは、この時の論戦がトラウマになっているのかもしれません。これに懲りず、安倍首相は再び誤った理解を前提に、政府解釈を変更しようとするのです。

5月27日第2回自民党と公明党の協議で、自民党側から15事例が示されました。これらの事例でも地理的限定はありません。中東、湾岸地域が含まれています。事例を挙げれば、さも限定的な場面で集団的自衛権を行使するかの印象を与えます。しかしこれは単に議論のための事例に過ぎず、これに限定されないことは安倍首相も再三述べています。これらの事例は、議論のために作られた架空のケースです。仮にこのような事例で集団的自衛権を行使すれば、その先には敵国と日本との全面的な武力紛争となり、集団的自衛権行使を限定するなどできっこないのはわかりきったことです。

限定行使容認論はかえって事態をわかりやすくしてくれました。「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」があるときに、安倍首相が国家安全保障会議の決定を受けて、集団的自衛権行使を決断するのです。しかし、どんな事態が「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」があるのか、それを判断する情報はどのようなものなのかは最も機密度の高い秘密情報になりますので、特定秘密保護法で厳重に秘匿されます。むろん国会へもそのまま提供されないでしょう。すべて安倍首相にお任せするしかないのです。安倍首相が「俺が限定的に行使するといっているのだから限定なのだ。」と言うようなものです。安倍首相が言えば言うほど、集団的自衛権の限定行使といっても、何らの歯止めのないことは明白です。特定秘密保護法は、私達が知らないまま戦争に巻き込まれてしまう仕組みになります。

自衛権行使の三要件の内第一要件が歯止めになっています。この要件も、日本への武力行使が現実になされたという意味に理解すれば、極めて明白な歯止めになるでしょうが、「武力攻撃が切迫している明白なおそれ」と時間軸を少し前倒しすれば、必ずしも明白な歯止めとはいいがたい点があります。しかしこの第一要件すら外してしまえば、限定も何もあったものではありません。

そもそも憲法解釈変更により集団的自衛権行使が必要だとする議論は、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなったという現実から出発して、それに対処する必要性から始まった議論です。そしてその必要性の度合いが、憲法改正を待っていては間に合わないくらい切迫しているというのです。わたしにはこの議論は全く理解不能ですが、彼らはそう言うのです(その証明はしていませんが)。

安全保障上の必要性があれば、立憲主義を否定しても憲法解釈で憲法9条を無意味にできるという議論ですから、今限定的行使といっても、それがいつまた変わるか分かったものではありません。いったん自衛権行使三要件のうちの第一要件を踏み越えれば、その先は自在に集団的自衛権を操れるのです。

憲法9条の歯止めがなくなったのだからと米国からの要求も次第にエスカレートするでしょう。日米同盟を強化するために憲法解釈を変更するのですから、エスカレートする米国の軍事的要請を日本は断ることはできないでしょう。それこそ日米同盟は崩壊すると安倍首相は考えるからです。見捨てられる恐怖です。限定的行使などと言葉では述べていますが、限定することなど考えてもいないし、できっこないのは安倍首相もわかっているはずです。

もう一つ安倍首相は大きなウソをついています。「基本的方向性」の中で、憲法解釈を見直して抑止力を高めて我が国が戦争に巻き込まれることがなくなるのだ、と言い切りました。私はこれを聞き、イスから転げ落ちるほど驚きました。集団的自衛権行使は、米国をはじめ他国の武力紛争をわざわざ買って出ることです。日本が武力攻撃を受けていなくても戦争に巻き込まれるからです。

彼は二つのことを敢えて一緒くたにして説明したと思っています。憲法解釈見直しで日米同盟を強化し、中国・北朝鮮を抑止することと、そのために米国をはじめ他国の武力紛争に集団的自衛権行使で参戦するということです。そして、他国の武力紛争に参戦するというところを敢えて説明せず、あたかも中国・北朝鮮を抑止できると説明しているのだと思います。これをわかりやすく例えれば、尖閣諸島を中国から守るため、米国と世界中で一緒に戦うということでしょう。

ところが、安倍首相の論法は、二つの仮定を重ねた非現実的な論理です。集団的自衛権を行使すると日本の領土が侵害されそうになったときに米国が日本と一緒に戦ってくれるという仮定と中国が抑止されるという仮定です。この仮定が現実的とは思えません。尖閣ごときで米国が中国と武力紛争を構えるでしょうか。中国が本当に抑止されるでしょうか。極めて危うい仮定です。日本と中国との間で軍事的抑止が機能し、武力紛争が防止できるとは思えません。

軍事的抑止は極めて曖昧で主観的で破れやすいものです。私は中国との間で軍事的抑止は機能しにくいと考えています。双方のナショナリズムというコントロールしにくい国内問題があるからです。ナショナリズムに歴史問題が絡んでいますから抑止は極めて脆弱です。安倍氏が首相であればなおさらです。彼は中国を挑発し(靖国参拝など)、中国の挑発に乗りやすいと思います。軍事的抑止は危険なチキンゲームみたいなものです。中国との間の不正常な関係を元に戻し、紛争の平和的解決を図ること、当面日中間で偶発的な武力紛争にならないよう、軍事的な信頼醸成措置をとることが求められます。

集団的自衛権の限定的行使論は、以上に述べたように徹頭徹尾ウソで塗り固められた議論です。安倍首相が言えば言うほどそのウソは際立ちます。このような内閣に憲法解釈見直しなどをさせてはならないでしょう。

 

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