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“現実”を疑い暴走を止める

寄稿:飯室勝彦

2015年2月23日

「現実」に流されず、現実なるものを疑い、洗い直す。安倍内閣のこれ以上の暴走を阻止するために基本に戻る必要がある。

2015年2月20日、首相の安倍晋三は衆院予算委で憲法改定についてこんな答弁をした。

「国民投票にかけようか、発議をしようかというところに至る最後の課程にある」「(具体的な改憲項目は)私の思いがかえって邪魔になる場合もあり、与野党で議論する中で建設的に決まってくる」

この発言をどう受け取るべきか。「改憲の議論が進み、具体的な手続きに入るための最終段階に入った」というのか、「既成事実の積み重ねで、憲法の骨抜き、事実上の改憲を進め、条文変更は他に手段がなくなってから」という余裕の意思表明なのか微妙だ。

同じ日、政府は安全保障法制をめぐる与党協議で、自衛隊の活動を大幅に広げる次のような方針(骨子)を示した。

①      朝鮮半島有事などを想定して自衛隊が米軍を後方支援するための周辺事態法を改め、「周辺事態」という地理的制約を撤廃して自衛隊の活動範囲を無制限にする。

②      米軍に限っていた後方支援の相手を広げる。

③      PKOについては国連安保理の決議がなくても後方支援を可能にし、武器を使用できる範囲も拡大する。

これが実現すれば、自衛隊は世界のどこでも出かけて行って米軍と共同作戦ができる。国連中心主義を標榜してきた外交方針とは裏腹に国連の意思に沿わない軍事行動もできる。「ブレーキのない自動車をつくるようなものだ」と評した新聞があったが、自衛隊の“第二米軍化”あるいは“米軍予備隊化”とも言えよう。

後方支援できるのは「日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と法に規定されていても、集団的自衛権行使に関する憲法解釈をねじ曲げた自民・公明党内閣にとって、法の解釈をねじ曲げることなど朝飯前に違いない。日本に対する武力攻撃に至っていなくても適用されるのだから、明白な地域的限定を外せば法には歯止めがなくなるも同然だ。

後方支援といっても作戦に参加する以上、相手にとっては日本も敵になる。それはいわゆるイスラム国による日本人殺害事件で学んだばかりのはずだ。ところが、暴走する安倍晋三は、ブレーキを踏み込むどころか、「戦争ができる国」の実現に向かってますますアクセルを踏み込んでいる。

いつも安倍内閣に寄り添うかのような一部メディアはともかく、まっとうなメディアは総じて批判的だ。しかし、有権者の関心はさして高まらず、大規模な反対運動は起きていない。世論調査の数値には国民の警戒心が反映されているものの、それが大きな声、具体的な行動となって表舞台に出てこない。

背景には中東の混乱、中国の軍拡、北朝鮮のミサイル、核開発など国際情勢の懸念材料がある。他方で政府は、インド洋での多国籍軍への給油、イラク戦争時の輸送支援など自衛隊海外派遣の実績と現実を強調する。突きつけられた「現実」を容認し理念を棚上げする雰囲気が多くの国民の間に生じかねない。現段階では政府方針に疑問を呈している公明党も、過去の実績に照らせば最後は政府について行く可能性が高い。

このように諸情勢を考えてゆくと安倍の答弁は自信の表れだったのだろう。

政治学者の丸山真男は「現実とは一面において与えられたものであると同時に、他面では日々つくられてゆくものである」「普通、日本で現実というときはもっぱら前者だけが表面に出て後者は無視される」と現実主義の落とし穴に警鐘を鳴らした。

中東の混乱も朝鮮半島の緊張も所与のものとしてあるのではなく、一面において「つくられた」ものである。そこに気づけば、国際関係の緊張を軍事力で有利に転換しようとすることの矛盾は理解できるだろう。

アフガンやイラクなどの“現実”を直視すると、紛争を軍事力で解決する可能性がほとんどなくなっていることは明らかだ。国際紛争を収拾し国家や社会を安定化させる手段としての軍事の効力はどんどん低下している。日本国憲法第九条は時代の先取りだったのであり、国家の姿として平和主義を掲げた先見性は日本人の誇りである。

カナダの核廃絶体験を想起したい。かつてカナダではアメリカの核ミサイルが全土に配備されていたが、1969年、当時のトルドー政権は全て撤去させた。約6年にわたる粘り強い市民運動の盛り上がりに押されて踏み切った重大な政策転換だった。

カナダ市民は、核が全土に展開されているという重い“現実”に惑わされず、アメリカの圧倒的軍事力、経済力などの圧力にもめげず、「つくられた現実」を疑って跳ね返したのである。

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