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危険な権力者 “消し炭総理” 

寄稿:飯室勝彦

2015年3月8日

安倍晋三という政治家は、民主主義国の内閣総理大臣でありながら民主制をきちんと理解していない。憲法の役割は勘違いしているし、権力者に求められる寛容、謙抑などという意識は頭の片隅にもなさそうだ。

その端的な表れが国会で閣僚席にいながら発する声高なヤジだ。国民の代表である議員から監視、チェックされるべき内閣の最高責任者、つまり権力者であることをまるきり忘れたかのような行為である。

批判があるから議論が起こり、過ちに気づけば正すことができる。内閣など権力側に批判や疑問をぶつけるのが議員の使命であり、それを冷静、謙虚に受け止めて自らの方針や政策などを点検、検証するのが民主制における権力者の責務である。けんか腰で、それも答弁ならともかく不規則発言で反撃するのは、国会における質疑の意味を理解していないと言わざるを得ない。

内閣のトップがこれでは日本の民主主義のレベルは国際社会で笑いものになっているのではないか。

ヤジや答弁に虚偽が混じることもある。2015年2月19日、衆院予算委で違法献金が追及されると、根拠のないヤジで質問者の属する民主党を誹謗し、事実無根の主張を繰り返した。後に訂正、謝罪したがあっさりしたもので「反省」は伝わってこなかった。

そもそも、これは「謝ったからいいだろう」と簡単に済ませられる問題ではない。重大なことが明らかになった。

それは、他人が傷つく発言を、真偽を確かめもせずに公式の場で公然とする無責任な人物に、国民の生命さえ左右する絶大な権力が握られていることである。彼の軽はずみな言動、判断が日本人と日本をとんでもない方向へ引っ張って行くかも知れない。そんな怖さを感じた国民は多かったのではないか。

安倍が国会という公式舞台で事実に反する発言をしたのはこれが初めてではない。

「朝日新聞は安倍政権を倒すことを社是としている、とかつて主筆がしゃべった」(2014年2月5日、参院予算委)、政治資金問題の疑惑追及をめぐり、自身が事態収拾を期待したとされるいわゆる“撃ち方やめ発言”の報道について「朝日新聞の捏造」と二度までも決めつけた(2014年10月30日の衆院予算委と翌日の衆院地方創生特別委)……どちらも事実無根の発言だが訂正も謝罪も行われていない。

他方で身内の人権には敏感だ。テレビ中継中の参院予算委で野党議員が各閣僚の疑惑を記した顔写真付きパネルを使って追及すると「名誉毀損だ」「公共の電波を使ってイメージ操作をするのはやめろ」といきり立った。

民主主義に関する無理解を示す例はまだある。テレビ報道への介入、テレビ局に対する恫喝である。

若手議員のとき従軍慰安婦に関するNHKの番組づくりに介入したのは広く知られている。首相になってからも総選挙を前にして民放の生放送番組に出演中、取材、報道に厳しく注文をつけた(2014年11月18日)。挙げ句に自民党は民放キー局各社に「公正、公平な選挙報道を」と脅しめいた申しれをした。衆院予算委で「報道の自由への介入」と批判されると「私が意見を言うのも言論の自由だ」と開き直った(2015年3月3日)。

「表現・言論の自由」を保障する意義の根幹は、統治者が被統治者の意見表明、それに基づく行動などを妨げないことであって、権力者を制約する原理である。それを権力者が権力を振るうツールとして援用するのは本末転倒もはなはだしい。

国民にとって不幸なのは、総理大臣が民主主義や憲法を知らないことだけではない。その総理が“消し炭”のような人物であることの方がもっと深刻かも知れない。

いまや死語になりつつある消し炭は木炭や薪の火を途中で消してつくった炭のことで再着火しやすい。転じて、感情の抑制ができず激しやすい人物を評するときに使われる。

他人の言論にすぐ反応し、感情を押さえきれず、直接的で単純な言語と論理で声荒く反論することが少なくない安倍を評するにはぴったりだろう。

権力者に求められるのはこのような反射神経ではなく、相手の言うことを謙虚に受け止め、冷静、沈着に熟考して正しい解を導き出す演算能力、高度な知力である。国内外の諸情勢が緊張し、複雑、多様化すればするほど感情的にならないよう自己を抑制し、意思決定や言動を慎重にしなければならない。

第9条の解釈改憲、安全保障法制の改編などで自衛隊の活動範囲が広がり、文官優位の撤廃で自衛隊における制服組の存在感が増大する。こうした日本の動向は、中国の軍拡、中東地域、朝鮮半島の不安定などを背景に国際的にも注目されている。

そんななかで自衛隊という軍事組織をコントロールする最高指揮官が消し炭のように着火しやすいのは危険きわまりない。いま安倍の暴走を止めなければ、歴史の歯車が逆回転することになりかねない。

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