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盗聴法が秘密保護法と共謀罪捜査に使われたら
-究極の監視社会によって民主主義の窒息がもたらされる-
密告・盗聴反対! なくせ冤罪3.20集会に向けて

寄稿:海渡雄一(弁護士)

2015年3月19日

はじめに

政府は、3月13日盗聴法の拡大と司法取引をふくむ刑事訴訟法等一部「改正」案を閣議決定し、国会に法案を提出した。5月連休明けの戦争法案の審議入りまでに同法を成立させようとしていると見なければならない。この法案は、一部事件の取調の可視化などと一体となった刑事訴訟法の改正案として提案されようとしている。一般市民の皆さんにはほとんど知られていないのではないかと思う。

私は、17年前に提案された盗聴法案の反対運動に必死で取り組んだ。この時は、日弁連は盗聴法は憲法31条の適正手続、35条の令状主義に反するとして、大反対運動を展開した(註1)。法律は可決されたが、反対運動の結果、対象犯罪が狭く限定され、NTT職員の立会などの手続きも定められたため、盗聴件数は、少しずつ増えているが、爆発的な件数にはなっていない。日本では、過去に共産党の緒方国際局長宅の盗聴事件が暴かれた例はあるが、今も非合法的な捜査機関による盗聴が行われているかどうかはわからない。しかし、合法的な盗聴には一定の歯止めがかかった状態で推移してきた。

それが、今回の法改正によって根本的に状況が変えられようとしている。警察が第三者の監視抜きに広範な犯罪を対象に盗聴捜査を展開できる法制度が作られようとしている。過去の経緯を振り返り、法案の内容と問題点を明らかにし、反対の声を強めなければならない。

第1 盗聴法立法の違憲性をめぐる論争

1998年3月、通常国会に通信傍受法を含む「組織的犯罪対策三法案」が提出された。

我々は、まず、盗聴捜査が憲法に違反しないかどうかを論じた。憲法35条は「正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状」を要求している。盗聴が個人の内心の秘密に対する著しい侵害性を持つにもかかわらず、すでに存在している犯罪の証拠物件を対象とするのではなく、これから話される個人の会話を対象とするため、強制処分の範囲がまったく特定されないという特質を持っているからである。

法務省の提案の理論的支柱とされた井上正仁教授の見解は、盗聴についても憲法35条により特定性が必要としながら、そもそも押収物の表示の特定は抽象的、概括的なものとならざるをえないとし、まだ存在もしていない会話の盗聴について、裁判官から見たとき既に発生した事件の存否の判断も将来発生するかもしれない事件についての予測も「蓋然性判断」としては共通であるとし、「本件犯行に関係する通信ないし会話」という表示でも特定性は満たされているとしたのである(註2)。捜査の便宜の前に令状主義による押収対象の特定の要請を事実上否定したものであり、憲法35条を有名無実化する考え方であった。

また、将来犯罪を犯すおそれのある時に盗聴できるという「事前盗聴」の制度を認めた。これは犯罪を犯す恐れのある人間を事前に逮捕できる予防検束と同質の制度であり、犯罪捜査の概念を根底から覆してしまうものだった。このように盗聴法案は、強制処分についてその内容を特定し、事前の令状提示を要求する憲法35条の令状主義に反するものであり、憲法13条(プライバシー)及び21条(通信の秘密、表現の自由)にも反するものであった。

第2 国会審議で明らかになった問題点と公明党修正案

1 国会審議の焦点

法案は電話だけでなく、電子メールやファックスなどの盗聴も認めており、この場合には犯罪と関係のない情報もすべて警察の知るところとなることは防ぎようがない。裁判に提出されない通話の当事者には通知もされず、すべてが闇の中で行なわれ、何もわからないし、取るべき手段もない。

傍受の原記録中の無関係通話は削除抹消するとされているが、それを担保する手段はない。削除すべき通話を削除しなかったり、無関係通話の内容をメモしたり、これを他の事件の捜査の端緒としても何の罰則もない。法案はEメールなど内容を即時に復元できないもの、暗号化された情報は全て傍受できるとした。記録を収集してこれを後から分析するやり方を認めているのである。

法務委員会における野党委員の調査によって、NTT外で、たとえば警察署内部でパソコンを利用しての盗聴が可能とされる技術の存在が明らかになった。このことは参議院の審議でも大きな争点となったが、法務省は警察内部での盗聴を行なうつもりはないという答弁で徹底的にこの問題をはぐらかした。法制審答申に含まれる立会の省略は、警察内部での盗聴の解禁に通じる危険性がある。

2 公明党修正案

最終的に可決された法案は公明党が提案した修正案であった。修正のポイントには罪種の限定と、立会人の立ち会い範囲の拡大、国会報告制度などである。国会報告制度などは、この制度の自己増殖を食い止めるという意味では意味のある修正であった。

修正案によって、傍受対象犯罪が薬物関連犯罪・銃器関連犯罪・集団密航に関する罪及び組織的な殺人の罪の4種類とされた。修正案では、始めと終わりだけ立ち会えば良かった立会人を常時立ち会うことにしたとされる。しかし、立会人が常時立ち合うと言っても、立会人は事件の内容も知らされないし、通信の内容を聞くことは認められない。したがって、犯罪と無関係な通信を盗聴対象から除外する切断権は認められていない。したがってこの立会人制度は人権侵害に対する有効な歯止めとは言えない。

もし、実効性のある立会人制度を作るのであれば最低限内容を聞くことができ、関係のない会話を切断したり、関係のない情報の消去をその場で命ずることのできる権限を持った公平な第三者、例えば弁護士などの立会が不可欠であった。この弱点が突かれ、今回の法制審では立会の否定へと逆行してしまった。

第3 法案反対運動と廃止運動

1 強行採決と廃止運動の提起

国会会期末の1999年8月12日、盗聴法・組織的犯罪対策法は参議院での徹夜国会の後、自民・自由・公明三党の賛成で成立した。この法案が採決された時点では、各種の世論調査でも警察による濫用への懸念から法律制定への反対意見は5割を超えていた。この法律を運用する警察組織、これを令状審査によってチェックする裁判所への信頼にも重大な疑問が提起されていた。

法案は成立したが、私たちはあきらめなかった。違法な手続きで成立した法律を私たちは絶対に認めないという強い意志を示す必要があると考え、制定された法律を国会の多数をとって廃止するための活動を始めることにした。

盗聴法の廃止を求める署名実行委員会が集めた国会請願署名は約23万筆におよんだ。当時の野党の多くが続く選挙で公約に盗聴法廃止・凍結をかかげた。国会では盗聴法廃止法案が衆議院、参議院で民主党・社民党・共産党の議員らにより合計11回も提出された。(註3)

2 徐々に拡大しつつある盗聴

盗聴法は法案可決の翌年である2000年に施行されたが、警察は2001年まで盗聴法による令状請求すらできなかった。2002年盗聴の実績をつくるために、本来は盗聴法を適用すべきでないような末端の覚醒剤の売買事件にはじめて盗聴法を適用した。

以来、国会報告によってわかる範囲での盗聴法の実施状況によれば、盗聴法は年々適用が拡大されている。また、犯罪関連盗聴のなかった件数は当初はほとんどなかったが、2011年には16件に達し、無関係盗聴率も当初は7割程度であったにもかかわらず、2011年にははじめて91パーセントと9割を超えた。令状請求が却下された件数もずっとゼロが続いていたにもかかわらず、2011年には2件の却下事例が報告されている。犯罪に関連しない多数の通話が傍受され、徐々に警察は盗聴法を大胆に適用しようとしていると見なければならない。

第4 法制審議会最終報告における盗聴制度の拡大

1 法制審部会報告の内容

2014年6月末法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の最終報告が日弁連推薦の委員を含む全員一致で可決された。この部会は、2011年、足利事件などの再審無罪、村木厚労省局長事件における無罪判決と検察官による証拠ねつ造事件の発覚などを踏まえ、えん罪が起きない刑事司法をつくるため、一刻も早く全事件の全過程の取調の録画を実現する方法について議論をするために設置されたはずであった。

私は、ウソの自白をなくすためには、根本的には代用監獄制度を廃止し、被疑者に対する精神的コントロールの容易な警察内における取調べの絶対量を抜本的に減らす必要があると考えている。また、すくなくとも全事件について、取調べの全過程の可視化を実現すること、取調べへの弁護士の立会いも認めるべきだ。しかし、法制審議会の結論は、このようなものにはならなかった。裁判員制度の対象事件(今後の拡大の余地は残されているが)に絞って、多くの例外規定が付けられて全過程の録画が義務づけられたのである。そして、証拠リストの開示や国選弁護人の拡大も進歩と評価できるだろうが、このようなわずかな改革の進展と引き換えに、最終報告に盛り込まれたのが盗聴制度の大幅拡大と司法取引の導入であった。

2 盗聴の拡大と司法取引の導入 -捜査機関の焼け太り-

法制審議会の最終報告では、窃盗や詐欺のようなありふれた犯罪についてまで盗聴(通信傍受)の対象とし、NTT職員の立会も省略して盗聴をやりやすくするための法改正の導入を提言している。

また、司法取引制度を導入して、捜査機関に重要な情報を提供した被疑者には刑が減免される制度が導入されようとしている。これまでも、共犯者が自分の刑を軽くするため、じっさいには関係のない他人を犯罪に引き込む供述が、多くつくられてきた。それを制度的に認めてしまおうとしているのである。

えん罪防止のための方法を話し合うはずだった部会が、捜査機関の権限拡大のための場所となってしまった。まさに「焼け太り」と評するしかない。

3 法務省提案に対する具体的な反論

(1)適用犯罪

適用犯罪の拡大には反対である。盗聴捜査は少なくとも組織犯罪の捜査手法に限定させ、一般犯罪への拡大を阻止することで、捜査機関の恣意的な濫用を未然に防ぐ必要がある。外国人窃盗団による窃盗や振り込め詐欺集団による電話を利用した組織的詐欺等への適用拡大が捜査側からは主張されたが、詐欺罪や窃盗罪の事犯は極めて数が多く、刑法犯の認知件数の半数に達するであろう。その全体に盗聴捜査を拡大することは広範過ぎる。団体性だけを要件とした答申案は組織犯罪だけに限定するようなものとなっていない。

(2)立ち会い

この3月に公表された18弁護士会の盗聴法反対の声明では、「通信傍受法が定める通信事業者による常時立会は,傍受記録の改ざんの防止と通信傍受の濫用的な実施を防止するという2つの機能を果たしていた。

傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化した上で送信し,これを捜査機関の施設において自動記録等の機能を有する専用装置で受信して復号化することにより, 傍受を実施するという答申が提言する技術的措置は,通信傍受記録の改ざんの防止という点は確保できるかもしれないが,無関係通信の傍受など通信傍受の濫用的な実施を防止するという点が確保されるとは考えられない。

従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり, 濫用の危険は増加する。」としている。このとおりである。

立会については、前述したように現在の制度に合理性が乏しいのは事実である。しかし、「通信事業者は通信を暗号化した上で送信し,捜査機関がそれを復号化することにより傍受を行う」という方法で、確実に令状に特定された以外の通話の盗聴を除外できるという制度的保障にはならない。むしろ、内容を聞くことができ、関係のない会話を切断したり、関係のない情報の消去をその場で命ずることのできる権限を持った公平な第三者、例えば弁護士などの立会の制度化を求めるべきである。

(3)該当性判断のための傍受

該当性判断のための傍受は、必要性のない会話の記録を捜査機関の手元に残さないことを確実にし、濫用の可能性をなくすことが目的であった。「全ての通信を,聴取することなく一旦記録した上,事後的に記録された音源をスポット傍受の方法で聴取する方法」では、捜査機関の手元にすべての会話記録が残ってしまう。これがなぜ代替手段となるのか、私には理解できない。

第5 IT技術を監視の道具とするプリズム

NSA(アメリカの「国家安全保障庁」)の契約先の技術者であったエドワード・スノーデン氏は、2013年6月米ワシントンポスト紙と英ガーディアン紙に情報を提供し、NSAがあらたに開発した「プリズム」というシステムを使って、SNSやクラウド・サービス、あるいはインターネットの接続業者など大手のIT企業9社から網羅的にデータを収集していたという事実を暴露した。我々が恐れていたとおり、NSAは無線盗聴から、IT全体を監視下に置く方向に歩み出していたのである。

今後の日本における刑事捜査に関する司法盗聴制度の拡大の是非についての議論においても、究極の行政盗聴システムといえる「プリズム」の存在を前提として、日本の情報機関がこのシステムとどのような関係を結んでいたかを究明することが、まず議論の前提とならなければならない。

第6 どのようにして反対運動を盛り上げるか

1 日弁連の不可解な対応

市民のプライバシーの危機をもたらす盗聴法の大幅拡大の動きに対して、先頭に立って反対に立ち上がらなければならないのは日弁連である。これまでの日弁連であれば、対策本部が立ち上げられ、全国で反対のための活動に立ち上がっていたはずである。

2013年の秘密保護法については日弁連は対策本部を立ち上げ、今も秘密保護法廃止のための活動に取り組んでいる。この秋の国会に提案が予定されている共謀罪についても、日弁連は対策本部を立ち上げ、反対のための活動に取り組んでいる。

なぜ、日弁連は盗聴法反対の活動に立ち上がらないのか。

2 可視化が人質に

話は、数年前にさかのぼる。そもそも、新時代の刑事司法部会は、厚生労働省局長事件、検察による証拠改ざん事件をうけて、冤罪を生み出さない刑事司法に改革することを目的として設置された。その委員には刑事法学者や裁判官・検察官・弁護士以外にも村木厚子さんや映画「それでも僕はやってない」の周防正行さんらも委員に選ばれ、取調のあり方や証拠開示のあり方について抜本的な改正が進むことが期待された。

この部会での議論は、途中で自民党への政権の交代が起きたこともあり、迷走をつづけ、取調べの録画には被疑者の供述を得ることがむずかしい場合など、あいまいな例外がたくさん設けられた。私は、えん罪をなくし、ウソの自白をなくすためには、根本的には代用監獄制度を廃止し、被疑者に対する精神的コントロールの容易な警察内における取調べの絶対量を抜本的に減らす必要があると考える。また、すくなくとも全事件について、取調べの全過程の可視化を実現すること、取調べへの弁護士の立会いも認めるべきだ。しかし、法制審議会の結論は、このようなものにはならなかった。裁判員制度の対象事件(今後の拡大の余地は残されているが)に絞って、多くの例外規定が付けられて全過程の録画が義務づけられたのである。そして、証拠リストの開示や国選弁護人の拡大も進歩と評価できるだろうが、このようなわずかな改革の進展と引き換えに、最終報告に盛り込まれたのが盗聴の拡大と司法取引の導入であった。

法務省が、審議項目の個別採決を認めず、一括採決をしたため、法制審の最終報告に対して日弁連推薦の委員は全員賛成した。さらに、日弁連は、この答申の一部に日弁連の望んでいた改革が含まれていることを理由に、答申案の全体について賛成し、盗聴の拡大と司法取引の導入にも反対しない方針を理事会における多数決で強行したのである。

我々が目にしている状況は、えん罪防止のための捜査機関への取調の録画制度や証拠開示のためのステップとしての証拠リストの開示などの規制強化と引き換えに、日弁連が通信傍受の拡大と司法取引制度の導入に反対の意見表明すらできないという前例のない事態である。

可視化や証拠開示などの我々が求めてきた改革課題をいわば人質に取られた状態で、弁護士会による新たな捜査手法拡大への批判の矛先を鈍らせようという高等戦術がとられたのである。

3 弁護士会の判断の基軸は人権擁護

しかし、日弁連は、人権擁護のために活動するのは当然であるが、可視化や国選弁護の拡大のために登庁や司法取引などの人権侵害の危険性がある制度を容認するような政治的判断をするべき団体ではない。このような判断をするべき権限は市民から委ねられていないはずである。人権の擁護を尺度として答申の一部に賛成し、一部に反対するべきだったのである。

4 秘密保護法廃止・共謀罪反対と結びつけて盗聴法反対の運動を組織しよう

盗聴という手段がもつ非倫理的な性格への嫌悪の感情は市民の間にも根強く残っている。なによりも、政府の違法行為をジャーナリストや市民活動家に内部告発する電話やメールなど、この世の中には国家権力に絶対に聞かれてはならない通信があるという想像力を持つべきだ。

政府が違法な戦争行為を準備している、違法な生物化学兵器を開発している、政府が原発の事故の発生を隠しているなど、政府の違法行為を内部告発しようとする者の通信が、傍受されているかもしれないという恐怖の前に断念されてしまえば、我々が主権者として民主政のもとでの意思決定をする上で、正確な判断に失敗する危険がある。

法案は、まもなく閣議決定され、国会に提出されるだろう。

えん罪防止のための取調の可視化はなんとしても実現しなければならない。しかし、そのために市民のプライバシーに重大な侵害をもたらす盗聴制度の拡大を許してはならない。全国の18の弁護士会の会長は、3月13日に「通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する」共同声明を発した。この声明は、末尾において、「ここで通信傍受法の対象犯罪の拡大に歯止めをかけなければ,過去再三廃案とされたにもかかわらず,未だ法案提出がなされようとしている「共謀罪」とあわせて, 盗聴社会の到来を招く危険がある。

捜査機関による通信傍受の拡大は,単に刑事司法の領域に止まる問題ではなく,国家による市民社会の監視につながり,市民社会そのものの存立を脅かす問題である。

よって,私たちは,本答申にもとづく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。」

この声明は、弁護士として人権侵害の危険性のある法制度の制定に反対するという当たり前の考え方に立脚している。私は、全国の弁護士会の約半数の単位会の連名で、このような考えが表明されたのは、弁護士会の内部に健全な良識が残っていたことを示すものだと考える。

明日、3月20日には文京区民センターで、「密告・盗聴反対! なくせ冤罪3.20集会」が開かれる。秘密保護法廃止実行委員会は、この集会に参加することを決めた。

弁護士会を含めて、広範な反対の一致点が作りやすい秘密保護法廃止・共謀罪の創設反対の課題で反対運動をひろげ、それらの反対の声を盗聴法反対の声へとつなげていく戦略が有効だと考える。時間は残されていない。ぜひとも盗聴法拡大反対の声を拡げて欲しい。

<参考資料>

2015年3月13日

通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する18弁護士会会長共同声明

埼玉弁護士会 会長 大倉 浩

千葉県弁護士会 会長 蒲田 孝代

栃木県弁護士会 会長 田中 真

静岡県弁護士会 会長 小長谷 保

兵庫県弁護士会 会長 武本夕香子

滋賀弁護士会 会長 近藤 公人

岐阜県弁護士会 会長 仲松 正人

金沢弁護士会 会長 飯森 和彦

岡山弁護士会 会長 佐々木浩史

鳥取県弁護士会 会長 佐野 泰弘

熊本県弁護士会 会長 内田 光也

沖縄弁護士会 会長 島袋 秀勝

仙台弁護士会 会長 齋藤 拓生

福島県弁護士会 会長 笠間 善裕

山形県弁護士会 会長 峯田 典明

岩手弁護士会 会長 桝田 裕之

青森県弁護士会 会長 源新 明

愛媛弁護士会 会長 田口 光伸

2014(平成26)年9月18日,法制審議会は,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を採択し,法務大臣に答申した( 以下,本答申という)が,その内容として,従来,通信傍受法の対象犯罪が暴力団関連犯罪の① 銃器犯罪,② 薬物犯罪,③ 集団密航,④ 組織的殺人の4 類型に

限定されていたものを,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などを含む一般犯罪にまで大幅に拡大することを提言している。また,これまで市民のプライバシーを侵害する危険のある通信傍受法が抑制的に運用される歯止めとなっていた通信事業者の常時立会制度も撤廃されることとされる。

このたび本答申に基づく通信傍受法の改正法案が国会に上程されたが,私たちは,以下の理由から,本答申に基づく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

重大な犯罪に限定されず

通信傍受法施行前に検証許可状により実施された電話傍受の適法性につき判断した最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを電話傍受の適法性の要素としていたが,詐欺,恐喝,窃盗については,いずれも財産犯であり,必ずしも「重大な犯罪」とはいいがたい。

詐欺罪にも様々な詐欺がありうるのであって,組織的な詐欺グループである振り込め詐欺以外にも広く通信傍受が実施されるおそれがあり,漫然と詐欺罪を対象犯罪とすることは許されない。振り込め詐欺や窃盗団等を想定するのであれば,実体法として,それらを捕捉し得る新たな構成要件を創設した上で対象犯罪にするべきである。しかも,組織犯罪処罰法には組織的詐欺罪(同法3条13号)や組織的恐喝罪( 同14号)が規定されているのであるから,それを対象犯罪に追加することで対象犯罪を必要最小限度に限定することも可能である。

また,本答申の基礎とされた「新時代の刑事司法制度特別部会」がまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」は,「通信傍受は,犯罪を解明するに当たっての極めて有効な手法となり得ることから,対象犯罪を拡大して,振り込め詐欺や組織窃盗など,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪をも含むものとすることについて,具体的な検討を行う」としている。

これは,前記最高裁決定が指摘する犯罪の「重大性」を前提とせず,対象犯罪拡大を検討したものであるが,捜査機関にとっての「必要性」「有用性」を基準とすれば,その拡大には歯止めがない結果となる。日本弁護士連合会が反対している共謀罪や特定秘密保護法違反などにも,捜査機関にとって犯罪の共謀を立証するのに「必要かつ有用」として,通信傍受の適用の拡大が企図される危険も大きい。

常時立会制度の撤廃は捜査権の濫用を招く

通信傍受法が定める通信事業者による常時立会は,傍受記録の改ざんの防止と通信傍受の濫用的な実施を防止するという2つの機能を果たしていた。傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化した上で送信し,これを捜査機関の施設において自動記録等の機能を有する専用装置で受信して復号化することにより, 傍受を実施するという答申が提言する技術的措置は,通信傍受記録の改ざんの防止という点は確保できるかもしれないが,無関係通信の傍受など通信傍受の濫用的な実施を防止するという点が確保されるとは考えられない。

従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり, 濫用の危険は増加する。

盗聴社会の到来を許さない

ここで通信傍受法の対象犯罪の拡大に歯止めをかけなければ,過去再三廃案とされたにもかかわらず,未だ法案提出がなされようとしている「共謀罪」とあわせて, 盗聴社会の到来を招く危険がある。

捜査機関による通信傍受の拡大は,単に刑事司法の領域に止まる問題ではなく,国家による市民社会の監視につながり,市民社会そのものの存立を脅かす問題である。

よって,私たちは,本答申にもとづく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

(註1)

1997(平成9)年5月23日に日弁連第48回定期総会で採択された「組織的な犯罪に対処するための刑事法」に関する決議では、次のように述べている。

「「通信の傍受」は憲法上の問題を含め、社会的に大きな影響を及ぼすおそれのある課題である。」

「「令状による通信の傍受」は、対象犯罪が組織犯罪に限られておらず、別件の傍受・逆探知を容認している。また、将来発生する犯罪へ捜査を広げ、令状に記載される通信内容の特定が不十分であり、補充の要件も緩やかである。さらに、事後救済措置にも問題があるなど憲法31条、35条の要件を満たしているとはいえない。そのうえ、令状請求権者及び令状発付裁判官の限定が不十分であり、無令状で通信傍受をした公務員への厳しい対応がなく、通信傍受の国会報告などの国民の監視システムが欠けている等問題が多い。」

「当連合会は、このような問題点を有する「組織的な犯罪に対処するための刑事法」の立法化には反対する。」

(註2)

井上正仁『捜査手段としての通信・会話の傍受』(有斐閣,1997年)5頁以下「第1章通信・会話傍受の合憲性」

(註3)

参議院8回:第147国会、第149国会、第150国会、第151国会、第153国会、第154国会、第155国会、第156国会

衆議院3回:第149国会、第150国会、第151国会

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