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ルポ「震災4年の福島」 ①
東京電力 廣瀬社長が1F緊対本部で訓示
「加害者と被害者が同じ方向を向いて」

寄稿:尾崎 孝史(写真家)

2015年3月24日

震災から4年を迎えた福島。全面開通した国道6号から見えるのは、普段着のまま放射能まみれになって田畑を除染する住民たちだ。

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原発事故のため故郷は無人の町となった。職も失い、除染作業でなんとか食いつないでいる。賠償金を打ち切られた地域のある老夫婦は、真冬であってもガスを沸かさない。現金収入を断たれて2年あまり、ぎりぎりまで切り詰めた暮らしを送っているという。

2015年3月11日、1F(福島第一原発)構内で行われる追悼行事を取材するためバスで向かった。国道を海側に折れて数分後、東電の担当者がアナウンスした。「ここから先は撮影禁止です」。正門の数百メートル手前から、核物質保護法による取材規制エリアになっている。

構内に入ってすぐのところに真新しいビルが出来ていた。作業員が防護服に着替えたり、食事や休憩をするための入退域管理施設だ。私に線量計を渡してくれたのは20歳前後とおぼしき女性だった。東京電力の社員だろうか。こんなところで働いていて大丈夫なのだろうか。一般の作業員へのインタビューが厳しく制限されているため、尋ねることもできない。

汚染水問題で関心を集めるK排水路や死亡事故が起きた現場など、この目で確かめたい場所は多くある。せめて、バス移動の行程に含めて欲しいと前もって依頼していた。しかし、要望は何一つかなわなかった。

免震重要棟に入ると、見覚えのある男性が防護服姿で階段を上っていた。昨年来、何度か話を聞かせてもらっている廃炉推進カンパニーのプレジデント、増田尚宏氏だ。全面マスクをはずしたばかりなのか、顔が少し赤らんでいた。

午後2時46分、緊急対策本部で黙祷が行われた。100人ほどの東電社員たちが頭をたれる。かつて、吉田所長が座っていた椅子の前には「本部長」のプレートが見える。円卓の上のテレビモニターには原子炉建屋と排気筒がリアルタイムで映し出されている。

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廣瀬直巳社長の訓示は10分ほどだった。震災5年目を迎えるにあたって訴えたいのは、安全の徹底とあわせてもう一つ、以下の点だと語った。

「もちろん我々は加害者であって、福島のみなさんは被害者です。しかし、それを乗り越えて、復興に向けて同じ方向を向いていくことが大事になる。それによって信頼を勝ち取れたら、こんなに素晴らしいことはない」

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言葉尻をとらえて揶揄するつもりはないが、私には現在の東京電力を象徴する言い回しに思えた。事故の当事者でありながら、不気味なほどの余裕と自信を感じさせるのだ。

最近、福島の人たちと話をしていてよく耳にするのは、「もう、あの事故はなかったような雰囲気ね」という言葉だ。あれだけのことを起こして誰も罪に問われないなんて、全くもって信じられない。将来に向けて何の教訓も残せず、あまりに虚しい、と。

追悼行事の終了後、さっそく廣瀬社長に聞いてみた。

筆者 震災から4年がたちました。事故当時の東電幹部が、誰一人も裁かれることなくこの日を迎えてしまいました。一方、東電の収益は過去最高だとのことです。福島の避難者のみなさんは、言葉も出ないと嘆いておられます。どのように受け止めるか、福島のみなさんに語って下さい。

廣瀬社長 大変な事故を起こしてしまって、その影響は4年たってもまだまだ継続している。たくさんの方々にご迷惑をおかけして、申し訳なく思っております。我々として一日も早くですね、元の形に戻すというのが福島への責任を果たしていくということだと思っております。それは東京電力の使命だと思いますし、東京電力のこれからの様々な取り組み、いわゆる計画のようなもの、それは今後ともやっていくと思います。

筆者 事故の当事者の幹部が裁かれていないということについてはどうでしょうか。未来に教訓を語り次ぐためにも、責任者は裁かれるべきだというのが国際世論なのですが。

廣瀬社長 訴訟は提起されておりますし、裁判の結果を云々する立場にはないですので、それはそれでやっていただくと。その結論は、我々はもちろん法治国家ですので尊重しなければならないと思っております。

いま1Fにおいて汚染水は全くコントロールされていないが、構内の視察や業者選定、取材などあらゆることについて、東電が完全にコントロールしている。福島の人たちが起こした訴訟についても、多額の経費を投じて腕の利く弁護士を抱え込み、完全防御に成功している。2011年8月、営業停止に追い込まれた二本松市のゴルフ場が、除染を求めて東電を訴えた裁判はシンボリックだった。

「福島原発から外に出た放射性物質は、すでに東京電力の所有物ではない『無主物(むしゅぶつ)』だ。したがって、東京電力に除染の義務はない」

これが、東電側の弁護士の主張だった。10月31日、裁判所はゴルフ場の訴えを退けた。

“加害者と被害者の関係を乗り越えて、信頼を勝ち取れたら素晴らしい”

廣瀬社長が全東電社員に向けて行った訓示の先に、どんな未来が待っているのか。

この日の会見で廣瀬社長は、新潟原発の再稼働に取り組む姿勢をあらためて示した。

ドイツ・メルケル首相の「福島を見て脱原発を決めた。日本も共にこの道を」とのシンプルかつ崇高なメッセージは、政府や東電に届くことなく雲間に消えた。

文・写真 尾崎 孝史(写真家)

 

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