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“銃剣とブルドーザー”再び

寄稿:飯室勝彦

2015年3月27日

自衛隊が憲法改定を待たずに「軍隊」になった。2015年3月20日の参院予算委で首相の安倍晋三が「我が軍」と答弁したのである。

歴代内閣は、日本が憲法第九条で軍備不保持を定めていることを意識して「軍」の呼称を避け、「自衛隊は憲法が禁じている軍ではない」と答弁してきた。だからこそ自民党は改憲草案に「国防軍」と明示して軍備保持をうたっているのだが、饒舌な安倍の舌はこれまでの経緯など飛び越えてしまった。

この日、国会外では、自衛隊の活動範囲を飛躍的に広げる安全保障法制再編の基本方針について、自民、公明の与党が正式合意した。前年7月には、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更も、閣議決定で強行済みだ。平和国家解体の構想が着々実現してゆくという高揚感ゆえに飛び出した本音の発言だろうが、まるで改憲の先取りである。

2日後、安倍は防衛大学校の卒業式で「不戦の誓いを現実のものとするためには、私たちもまた先人たちにならい、決然と行動しなければなりません」と訓示した。どんな先人の、どんな行動にならうのだろうか。

安倍答弁に先立つ3月16日には、やはり参院予算委で自民党参院議員の三原じゅん子が、日本による侵略戦争のスローガンだった「八紘一宇」を今後の日本が守るべき行動指針として持ち出している。まさかこれではあるまいとは思うものの、安倍答弁や三原発言などから響いてくるのは復古の響きであり戦後平和の否定である。これが現在の自民党主流の空気だ。

自民党右派は「まず異論の少ない環境権導入などで国民を改憲に慣れさせた後、9条を変える本格改憲を実現する」「2年以内に最初の改憲発議をする」と段取りを公言するほど自信を示している。

そうした雰囲気のなかで安倍が言う「決然と行動」の柱が、先に行われた解釈変更という事実上の改憲と、それに沿って再編される安保法制に基づく行動であることは言うまでもない。

それは一口で言えば「世界中のどこへでも出かけて行って武力を行使する」ことである。こちらは「我が軍」発言どころではない重大な実質改憲だ。

「国民の生命などの権利が根底から覆される明白な危険がある場合」「日本に重要な影響がある場合」「後方支援」などさまざまな修辞をこらして国民の目を欺いているが、武力で戦う一方を支援する日本は他方にとって当然、敵となる。自衛隊員に犠牲者が出ることは避けられない。戦後70年間続いた、武力行使で人を殺したり殺されたりしたことはない輝かしい歴史に終止符を打つことになるだろう。

平和憲法によって築いてきた国際社会からの信頼も失われる。

日米安保条約、自衛隊との密接な関係からみて支援の主たる対象は米軍であり、実態としても、法制度からも、自衛隊は米軍の予備軍、肩代わり部隊となることが明らかだ。

沖縄に目を向けると日本の向かう方向がより鮮明になる。

政府は2015年早々、米軍の普天間飛行場を辺野古沖に移設する工事に強行着手した。基地撤去を求める沖縄の世論を背負って当選した新知事、翁長雄志からの面会要請は拒否し続けた。工事で海底のサンゴが押しつぶされたことから翁長知事が出した作業停止の指示は無視している。

移設のための海面埋め立てを前知事の仲井間弘多が承認したことを前提に、政府は「法に従って粛々と進める」というものの、その仲井間は承認間もない知事選で県民の信任を得られず、選ばれたのは移設阻止、飛行場撤去を公約した翁長だった。

しかし「沖縄に寄り添う」と言ってきた政府がひたすら寄り添っているのは米軍だ。沖縄県民の命を盾にして戦争を長引かせた歴史に対する贖罪意識はみじんも感じられない。

8年前の2007年5月、工事に先立って現場海域の環境調査が行われた際には、海上自衛隊の掃海母艦が出動し、警備や潜水調査にも自衛隊員が参加した。いまも、住民の抗議行動には米軍、海上保安庁、警察の目が光る。サンゴに工事が与えた被害をつかむための県による調査は米軍に阻まれ、抗議した住民が身柄拘束される事態も起きている。

あの大戦の直後、米軍基地建設のために「銃剣とブルドーザー」で土地を無理矢理奪われた沖縄県民の目には「再び……」と映る。

改憲が具体化し、「戦争ができる普通の国」へ向かって暴走する安倍政権下の情況に違和感を抱く人は少なくないはずだ。だが、沖縄を除けば燃え上がるような大衆運動は起こらず、内閣支持率も下がらないのはなぜか。

不安は感じても、圧倒的多数の人が「誰かがなんとかするだろう」「そのうちどこかでどうにかなるだろう」と自分の殻にこもり、「戦後最大の危機」に正面から向き合おうとしないのではないか。

振り返れば、あの戦争のときもそうだった。

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