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原寿雄著「安倍政権とジャーナリズムの覚悟」発刊によせて

寄稿:高橋千剱破(たかはしちはや)

2015年5月3日

「言論表現報道の自由」と「平和」は、民主主義国家にとっての基本理念である。だがいま、その理念が脅かされようとしている。誰によってかといえば、日本国総理大臣によってだ。

2012年4月、安倍晋三総裁の下で自民党は、「天皇を元首とする」憲法改正案(日本国憲法改正草案)を作成した。これまで歴代の内閣が護り通してきた憲法による不戦の誓いを改正して(正しくは改悪というべきか)、日本を戦争のできる国にしようというのである。具体的な政策としては、13年12月に世論の強い反対を無視して強行成立させた「特定秘密保護法」と、国会での議論を経ず14年7月に閣議決定された「集団的自衛権」の行使容認である。

「特定秘密保護法」は、かつての名だたる悪法「治安維持法」を思わせる。公務員が特定秘密を漏洩した場合の罰則を厳しく定め、それをマスコミ等が入手しようとしたときの共謀、教唆、扇動も懲役刑を受けかねない。しかも、何が特定秘密であるかは秘密だというのである。秘密漏洩をそそのかす行為を教唆として罰するというのであるから、ジャーナリストの取材も、公務員に対する教唆と受け取られれば罪となる。これは、役人や警察官や自衛官への「取材禁止」に他ならない。

また「集団的自衛権」の行使容認論は、明らかに自衛隊の海外派兵の自由を目論んだものだ。こちらは、「国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険があり他に手段のないとき」などの縛りはあるものの、一度行使が容認されれば、既成事実として憲法改正論につながっていくことは、まちがいない。

本書の筆者原氏は、元共同通信の編集局長、編集主幹で生粋のジャーナリストだ。だからこそ、言論表現報道の自由の危機ともいえる現状を、看過できないのである。現状は、大正デモクラシーが衰退した昭和前期に似ているという。その後日本は、戦争へと突き進み、広島・長崎に原爆を落とされ、無条件全面降伏することになる。また、ヒトラー率いるナチスが、ドイツでの総選挙の勝利から、やがて独裁ファッショ体制を実現させ、ホロコーストへと突き進んだ歴史も忘れるべきではない、という。

原氏は1925年、治安維持法と普通選挙法が成立した年に生まれた。「言論には言論で対抗すべし」と強く訴えるジャーナリスト魂が、読者の胸にしみる。

(編集局注:「安倍政権とジャーナリズムの覚悟」は岩波ブックレットから2015年4月に発刊された)

高橋千剱破氏プロフィール

作家、文芸評論家 日本ペンクラブ常務理事 日本文芸家協会理事

著書 「江戸の旅人」集英社文庫「花鳥風月の日本史」河出文庫ほか多数

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