【NPJ通信・連載記事】読切記事
自民党憲法マンガ ツッコミ入れずにはいられないネシリーズ③
さて第3回(とりあえず最終回)、自民党の憲法改正PR漫画「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」にツッコミを入れていきたいと思います。
今回は、「その2 憲法改正でどうなるの?」の冒頭部分23頁~29頁に注目してみました。
場面は、ほのぼの一家が自衛隊の航空ショーを見に来ている場面から始まります。
ほのぼの司郎さん(64歳)が、唐突に、日本国憲法第3章第12条(自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止)を読み上げます。
第12条(自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。
ちなみに、司郞さんが、なぜ第11条(基本的人権の享有)や第13条(個人の尊重・幸福追求権・公共の利益)ではなく第12条を読み上げたのかすっごく気になりますが、本題から逸れるのでそこには立ち入りません(オトナの事情があったのかもしれませんね)。
ほのぼの一郎さん(35歳)が質問をします。
「公共の福祉って?」
それに対して、ほのぼの千造さん(94歳)
「公益。つまりはみんな利益ってことじゃ」うぉっほん
Σ( ̄ロ ̄lll)、、、!!
おじいちゃん、違います!!うぉっほんじゃないです!
公共の福祉というのは、基本的人権の制約を正当化する概念です。その意味内容については、従来の通説では、「人権相互の矛盾対立を調整するための実質的公平の原理などと説明されています」。…むずかしいかな、人権を制約できるものがあるとすれば、それは「他の人の生命や人権」だけだ、ということです。
例えば、医者になりたい!職業選択の自由があるんだから今日から私は医者だっ!と何の知識も技術もない私なんかが言い出して看板立てて営業始めたら、地元界隈の人達の命と健康が危機にさらされます。だから、いくら職業選択の自由があるといっても、一定の知識と技術を持った人だけが医者になれる、という許可制にせざるをえない…こんな具合です。現在においてもその意味内容については、憲法学者により様々な議論がなされて探求されています。
決して、「公益」「みんなの利益」などという単純な言葉で説明できるものではありません。
公益とか国益とか、それが何なのか、決めるのは結局権力ですね。よく分からない曖昧な概念。権力が「これが公益だ」といって国民の人権より優先させてしまうことって、ほんとうにほんとうに危険で、暴走する権力が国民を縛るときの常套手段です。
みんなの利益で人権を制約できるのであれば、多数決で負けた人たちの人権なんてあったものじゃありませんね。戦前の全体主義に逆戻りです。
ほのぼの優子さん(29歳)は、千造さんのまちがった説明を聞き、そしてスマホでおもむろに検索をし(どこのホームページを見ているんですか優子さん!?)、千造さんに質問します。
「公益に反してなきゃ個人の幸福を追求するためなら何でもやっていいってこと?」
(繰り返しますが、公共の福祉は、公益ではありません。)
千造さんは答えます。
「原則はそのとおり!!ほかの人の人権を侵さなければ何をしても自由ってことじゃ!!」
(ちなみにここの答えを聞く限りでは公共の福祉が公益とは異なることを千造さんも分かっているようにも読めなくはないのですが…。分かってるなら、ミスリードを誘うような表現は控えてほしいですね。)
これに司郞さんが続けます。
「国際人権規約を見ると『国の安全、公の秩序または公衆の健康もしくは道徳の保護』に反する行動はダメと日本の憲法より厳密に書いてある」
「つまりは基本的人権があるからといって何をしてもいいわけじゃないってことだ!!」
一郎さん
「そうでしょうねぇ みんながワガママを主張したら社会は壊れちゃう」
千造さん
「今の日本の憲法は個人主義的といえるのぅ」
優子さんが爆発。司郞さんの胸ぐらを掴みます。
「日本じゃ国の安全に反してもワガママOKってこと!?」
…(-_-;)
ここを読むと、
今の日本国憲法は基本的人権を手厚く保障しすぎているから、国民一人一人がみんなワガママを言い放題で、日本の伝統的な和の精神(笑)が軽んじられている、このままではテロとか自然災害などで日本の安全が脅かされたときに適切に対処することができない(だから基本的人権は今よりも制約するべきだよね)
という自民党の主張が伝わってきます。
読者の方も、そんな印象を受けるのではないでしょうか。
しかし、ここのやり取り非常に問題があります。
司郞さんが引用している国際人権B規約第19条3項は、表現の自由の制約について規定していますが(もちろん日本も批准しています)、司郞さんらのやりとりをみると、今の憲法は国際人権規約に照らしても基本的人権を保障しすぎているかのような印象を、読み手に与えます。しかし、そんなことはありません。
また、今の憲法は、近代憲法の中核である立憲主義の理念のもと、成り立っていますので、当然「個人主義的」なものです。
問題なのは、あたかも、今の憲法が国民一人一人のワガママを許しており問題だというような印象操作を行っているかのようなところです。
概念の定義をまずきっちりおさえてほしい。
それから、ワガママって、一体具体的にどんなワガママのことを言っているのかさっぱり分からないので、例をあげてもらいたいですね。
人権が保障され「すぎ」ていると思うなら、その例も具体的に挙げてもらいたい。
モヤモヤっとした言葉の印象だけで話を進めるのではなく、具体的にこういう問題が起きているんだ、と提示してから議論を進めてほしいですね。そうでないと、自民党さんの議論の進め方が理論的でなくて不誠実だと思われかねません(と、老婆心ながら自民党さんを心配してみる)。
ツッコミどころが多すぎて、収拾がつかなくなるほどですが、とりあえずこの「ツッコミを入れずにはいられないネ」はここまで。(もしかしたら再開するかもしれませんが)
私たちあすわかがゆるいスタイルで憲法や自由の価値について発信している、それを自民党さんが見届けてくれたからこそ、「このゆるいやり方でいこう」とマンガをお書きになったのかもしれません(勝手に想像してるだけです)。もしそうだったら光栄!と思いつつ、しっかり「誠実に」議論していきたいなと思います。
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