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学習しない政治家たち

寄稿:飯室勝彦

2015年6月21日

「国家・国民が、個別的現象に対する情動的反応から徒に『力』や『支配』を求めて狂奔することなく、広い長期的視点に立って地道に課題に取り組んでいく必要がある。その際求められるのは、多様な人間の共生を可能とする基礎的条件である『寛容』と『知恵の交換』である。われわれは、立憲主義を侮蔑し、『力』への信仰に走った国々によってあの第二次世界大戦という未曾有の悲劇が引き起こされたことを決して忘れてはならない。」

佐藤幸治・京都大学名誉教授による新刊「立憲主義について―成立過程と現代」(左右社)の「はじめに」からの引用である。

人類が英知を結集して築いてきた立憲主義は、ファシズムによる集団的興奮、狂気の中で蹂躙され、歴史に類を見ない大量殺戮が行われ、膨大な数の犠牲者が生まれた。佐藤教授は、大戦とその後の国際社会の動き、各国憲法の展開をたどったうえで「悲惨な経験の後で、人間として、国家として、なすべきことは『立憲主義の復活強化』だった」と現代立憲主義の柱を提示する。

A 国民が憲法制定権力として憲法を制定し、その憲法によって統治権力の仕組・根拠を明確にする。その仕組みは権力乱用の防止に十分配慮したものでなければならない。

B 基本的人権の保障を徹底する。

C 憲法の法的規範性を可及的に実現する。

以上の三つに続く四本目の柱として

D 戦争が立憲主義にとって最大の“敵”であるとの痛切な思いに立ち、憲法を通じて平和国家への志向を明確にする。

――と付け加え、日本国憲法は人類の長い経験と英知が結集した「現代立憲主義展開の到達点」であり「高い普遍性をもつ」と説く。

内閣総理大臣、安倍晋三に率いられた自民党とその政権の動きがこの四本柱にことごとく反していることは多言を要しない。

国民不在、自民党主導の改憲の企みは憲法制定権力が国民にあることを無視しているし、2012年に発表された自民党の改憲草案は基本的人権より“公”を優先している。

「戦力なき軍隊」と称して軍事力を拡充強化してきた歴代自民党政権、そのうえ第9条を粘土細工のようにこね回し、解釈改憲で戦争ができる国にしようする安倍政権は、現代の立憲主義をまったく理解していない。

第96条改憲先行という奇策が厳しく批判されて以来、立憲主義の重要性を学ぶ機会は十分あったのに、学習する気がないのか、その能力がないのか。たぶん両方だろう。

安倍は6月18日にも衆院予算委で「国際関係に目をつむり、従来の(憲法)解釈に固執するのは政治家としての責任放棄だ。」と胸を張った。集団的自衛権の行使を合憲と言いつくろう第9条の強引な解釈改憲を正当化した発言だが、これでは現実に憲法を合わせることになり、憲法が憲法ではなくなってしまう。防衛相の中谷元も同月5日の衆院安保特別委で「憲法を法律に適合させる。」と発言したことがある。二人とも「憲法の規範性」などまるきり念頭にない。

国会審議への対応も立憲主義に反している。質問にまともに答えず、議論が深まり、本質に迫られそうになると「レッテル貼り」と入り口ではね返す。異論を敵視し、その背後にいる主権者は意識の枠外だ。

ごまかしも目立つ。事実上の参戦である米軍への「兵站」を「後方支援」と言い替え、集団的自衛権行使を容認する理論付けに使った砂川事件の最高裁判決については、「判断回避判決」を「合憲判決」とすり替えた。最高裁は日米安保条約の憲法判断をいわゆる統治行為論で「逃げた」のに、合憲判断したかのように説明するのは明らかに偽りだ。

安倍がことさらに強調する「国際関係の緊張」に惑わされ、「米軍と自衛隊の一体化による抑止力」に期待する国民も少なくない。しかし、米軍とともに戦う旨の宣言がなぜ抑止力強化になるのか、安倍から論理的説明はない。米軍の相手からの日本攻撃を誘発するのでは、という懸念にも答えない。

「これ(憲法解釈の変更)が、国民に熟慮する時間的余裕と場を与えることなく性急に事を進める、その方法を含めて、日本の『立憲主義』にとって何を意味し、何を結果するのか、真剣に監視し問い続ける必要がある。」

省庁再編、司法制度改革など政府の重要な政策にも参画してきた佐藤教授だが、黙っていられなくなったのだろう。慎重な言い回しながら強い不安と危機意識が伝わってくる。

「われわれの憲法は、第一世代のアメリカ人からわれらへ、そして将来の世代へと続く誓約である。それは首尾一貫した連続である。」―教授は、1992年に米連邦最高裁で出た、ある判決の一節を紹介している。

日本国憲法も前文で、「われらとわれらの子孫のために」、「諸国民との協和による成果と……自由のもたらす恵沢の確保」および「不戦」を誓い、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言している。

人類が長い歴史を通じて学び取った英知である立憲主義と、その展開の到達点である日本国憲法を、無知、無責任な政治家がもてあそぶことを許してはいけない。

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