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置き去りにされる主権者

寄稿:飯室勝彦

2015年7月9日

新しい安全保障体制に関する法案審議が新局面を迎えた。政府・与党は衆議院での採決を急ぎ、憲法違反の法律を「主権者の意に反して」成立させる、究極の憲法違反を行おうとしている。

圧倒的多数の憲法学者が「法案は憲法9条に反し明白な違憲」と言っている。自民党副総裁の高村正彦らが、国民の目をくらまそうと、古めかしい概念法学の論理をひねくり回して考え出した合憲論は破綻している。

新聞社などによる世論調査では、法案に反対する意見が賛成意見をはるかに上回っている。賛否は留保しながらも「もっと慎重な審議」を要求する声も多い。

300を大きく超える地方議会が国会や政府への意見書を可決し、ほとんどが反対を表明するか慎重審議を求めた。賛成意見は極めて限られた数に過ぎない。

こうした状況下でも、採決が強行されれば、議席数で優位を占める自民党、「平和の党」の看板を掲げながら与党でいることが自己目的化した観のある公明党の協力で、法案は可決されるだろう。

それは、9条違反の法律を「主権者は国民」と明定している前文と「公務員は全体の奉仕者」と定めた15条に違反して成立させることになる。いわば二重の違憲立法の強行だ。主権者として見過ごせない。

安倍晋三の率いる政権、特に安倍自身の民主主義に関する理解は極めてお粗末で、しばしば理念を無視する。

最近のわかりやすい例が「表現の自由」論だ。“安倍親衛隊”の若手議員たちの勉強会で出たメディア恫喝や沖縄県民侮蔑の発言について、安倍は最初「議員にも表現の自由がある」との論理で擁護するかのような国会答弁をした。

「表現の自由は民主主義の根幹」だが、権力者、統治者に非権力者、被統治者と同質、同等の自由があるわけではない。ましてメデイアを恫喝する自由などあろうはずがない。「表現の自由」は自己実現、自己統治のために欠かせないのであり、非権力者が権力をチェックし対抗する場合の必須武器と言える。

国会における質問者やメディアは、自己のためというより非権力者たる有権者のために自由を行使しているのである。

それに対して権力者は真摯に対応しなければならない。「表現しない自由」の恣意的行使は許されない。安倍が若手の暴言を擁護しそうになったり、質問に正面から答えずヤジを飛ばしたりするのは、表現の自由の理解が誤っているからだ。

安倍の好んで使う台詞に「決めるべき時には決める」がある。新安保法案の衆議院採決を急ぐのも「決めるべき時がきた」というのだろう。現に「審議時間が間もなく100時間に達する」などの声が聞こえる。

審議は儀式ではない。法案などの疑問を徹底的にただし、議員、有権者が理解し判断できる、十分な質量の情報を示して議論を尽くすのが民主主義だ。時間は問題ではない。

現状は情報開示も議論も不十分で、国民の不安は募るばかり。納得を得られたなどといえないことがメディア報道や世論調査、地方議会の意見書などに表れている。

採決強行は米議会での安倍の誓約、「夏までに実現」を守るためのように見える。米国に対する忠誠と引き替えに日本の主権者を置き去りにする、明らかな憲法違反だ。安倍が忠誠を尽くすべきは日本国民なのに、これでは本末転倒だ。

新しい安保法制案、日米防衛協力の新ガイドラインが現実となれば日米関係は決定的に変わる。自衛隊は米軍の兵站部隊となり、一体化した「米日軍」の誕生となるだろう。

「第一次世界大戦でわたしたちは肩を並べて戦った。今度の戦争でわたしたちはお互いに対して戦っている。しかしわたしたちが肩を並べて戦うときが10年もたてばまたきそうだ」

日米開戦のため帰国することになった当時の駐米大使、野村吉三郎に大統領のルーズベルトが最後の面会でこう話したという。帰国の船中で野村から聞いたとして、経済学者の故都留重人が紹介している。10年ではなかったがルーズベルトの予言をこのまま的中させてしまうのか……。

司法制度を大変革するきっかけになった司法制度改革審議会の報告書は、国民自らが国の主人公として制度の変革や運用に積極的に参画する必要性を強調し「統治客体意識から統治主体意識」への転換を求めた。

安倍政権が強引な解釈改憲で平和憲法を骨抜きして「戦争ができる国」に変えようとしているいまこそ、統治主体としての積極的行動が求められる。デモ、集会、議員への働きかけなど自分にできることを何でも粘り強く……。

日本の民主主義が問われている。

 

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