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暴挙のつけは若者に

寄稿:飯室勝彦

2015年7月15日

これは論理矛盾の開き直りである。戦争法案を国民が理解していないことを認めながら、「国民を守るため」と称して衆議院特別委員会で強行可決した安倍政権とその与党は、憲法と民主主義を踏みにじった。

内閣総理大臣、安倍晋三は祖父の宿願だった「憲法改正」に向かってひた走る。憲法第9条の解釈変更という禁じ手を使い、「実質的に」という形容付きではあるが改憲が実現しかねない段階まで漕ぎ着けた。日本の立憲主義、民主主義は重大な曲がり角を迎えた。

安倍の祖父、岸信介は自ら主導して憲法調査会を設置したが期待した憲法改正を求める報告を得られず、改憲を断念せざるを得なかった。祖父の無念を晴らすことに執念を燃やしてきた安倍の目には、いまやゴールが見えてきたのだろうか。

手法は日米安保条約を改定したときの岸にならった。反対する野党は強行採決で蹴散らした。憲法解釈の変更、変更された解釈の上に立つ新安保法制、いわゆる戦争法案の憲法適合性をはじめとする重大な疑問に耳を傾けようとはしなかった。これも祖父譲りだ。

他方でアメリカには十分気を遣った。日本の国会に法案が出されていないうちに米議会で夏の成立を公約する異常さだった。

自民党内に異論がないわけではなかったが、安倍の勢いに封じられた。

公明党は与党であり続けることが自己目的化したように自民党と妥協を重ねてきて、「平和の党」の看板など投げ捨てたかのようだ。自民党について行かざるを得なくなった現状には“下駄の雪”の評もある。

「これ以上(審議を)やっても法案への理解は深まらないし、政権の支持率もやればやるほど落ちる」という公明党幹部の発言が報じられるほどである。反対の世論がこれ以上高まらないうちに採決し、衆議院可決という既成事実を前にして国民があきらめるのを待っているのだろう。

6月の憲法審査会で憲法学者3人が、9条解釈の変更を誤りと指摘し、集団的自衛権の行使を認めた法案は違憲だと断じて以来、ほとんどの憲法学者が違憲論に賛同している。広範な分野の有識者も声を上げている。

各種世論調査では圧倒的多数が「法案に反対」「政府の説明が不十分」「納得できない」などと答えた。

政権が頼りにするNHKの世論調査でさえ「安倍内閣を支持する」41%、「支持しない」43%と逆転した。法案について「これまで議論がつくされた」と「つくされていない」は8%対56%、「法案は合憲」とする政権の説明を「あまり納得できない」37%、「まったく納得できない」29%だ。

国会周辺デモ、集会、地方議会、大学など異議申し立ての波も広がる一方で、現職閣僚から「国民の理解が進んできたと言い切れる自信がない」との発言も飛び出す始末だ。

同じ1972年の政府見解を下敷きにしながら、「集団的自衛権の行使は許されない」から安全保障環境の変化を口実に「許される」に逆転した憲法解釈変更は、とうてい合理的説明ができない。恣意的な解釈変更は「憲法が権力を縛る」立憲主義に反し、権力が勝手に憲法を決めることになる。

疑問は広がる一方なのに政府、与党は聞く耳を持たない。「いつまでもだらだらやるべきではない」(官房長官・菅義偉)、「賛成、反対の視点が固まれば(審議は)同じことの繰り返しになる」(自民党幹事長・谷垣禎一)など問答無用といわんばかりだ。

15日の委員会で、安倍は「国民の理解が深まっていない」ことを認めながら「国民の生命、生活を守るために」と強行採決を正当化した。完全な開き直りであり、まるで独裁宣言である。

 国民の生死がかかり、日本という国の今後を決める法案である。このようなやり方で次世代以降の国民に対して責任をとれるのか。

中国大陸進出、第二次世界大戦などの戦火は戦争の現場を知らない軍事官僚などの主導で広がり、悲惨な結末を迎えた。その教訓から、正しい現実認識と現実的な責任感がないまま戦争をしたがる勢力に歯止めをかける基盤として生まれたのが日本国憲法だった。

ところが、戦争を知る世代が政治の舞台から去ったいま、戦争抑止の基盤であるその憲法が切り崩されようとしている。切り崩しのリーダー安倍も彼に従うその他の政治家たちも戦争の現実を知らず、真摯に学ぼうともしない。かつての軍事官僚たちのように、自分は現場に参加する可能性がないのをよいことに後ろで威勢のよい無責任な声を張り上げている。そのつけは若者に回される。

これほど重要な決定を当事者不在のままですることは許されない。実際に血を流す若者たちの声を抜きにしては語れない問題だ。

投票年齢が18歳に引き下げられ若者の意思を確認する道が開かれたばかり。この際は、法案を廃案にして、若者の意思が反映した国会で議論し直すのが責任ある政治だ。

 

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