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“失言”に表れた危険な本音

寄稿:飯室勝彦

2015年7月30日

内閣総理大臣の安倍晋三や政府与党の首脳が国民を言いくるめようとしているのに、側近がつい本音を漏らしてしまった。「権力を握れば何でもできる。憲法解釈は状況次第、権力者の自由だ」と言わんばかり。有権者の意思も憲法も無視する安倍とその政権の本質が表れた“失言”だった。

テレビ画面には高校の教室が映っていた。生徒たちが集団的自衛権の行使容認をはじめとする新しい安全保障法制案をめぐって議論し考える授業風景だ。新法制案の説明があって話し合いが始まる。

議論のきっかけを提供しようと、教師が集団的自衛権の説明として「クラスで自分の友だちが……」と話し出したとたん、女子生徒が「それは話が違う。スケールが違う」とぴしゃり。教師のたとえ話に正面から反論した。他の生徒から異論は出なかった。

不良が私を「生意気だから今夜殴ってやろう」と言っているときに、友だちのアソウさんが「守ってやるよ」と一緒に帰る。そこに不良が出てきてアソウさんを殴った。そこで私もアソウさんを守る。これが限定的な集団的自衛権。――安倍がインターネット番組に出演して披露した、こんなたとえ話が欺瞞であることは若者に簡単に見破られた。

いや若者に限らずほとんどの国民が見破っている。あらゆる世論調査、政権支持とみられているメディアによるものでさえ、新法制案を憲法違反とする意見が圧倒的多数を占め、内閣不支持率が支持率を上回っている。

あわてた安倍とその取り巻きたちは、衆議院で強行採決した後、「国民に丁寧に説明する」と称してたとえ話をあちこちで繰り返した。前述の「不良懲らしめ論」はその一つである。抑止力を「戸締まりの重要性」で説明するのはずっと前から自民党の十八番だ。

集団的自衛権の容認を、「米国家の離れが燃えている、道路を挟んで隣接する日本家に燃え移りそうだ、だから日本が消火に駆けつけるのは当然」と説いたこともある。

安倍は「分かりやすいとけっこう好評だった」と自画自賛しているらしいが、このたとえ話展開は国民を馬鹿にした説得作戦だ。

国際社会では、さまざまな現実的条件が複雑に絡み、情況が刻々変化する。国家としての決断、行動は具体的情況、条件に応じた現実的選択を迫られる。だからこそ新安保法制案の審議に際して安倍らは、憲法適合性、必要性を具体的、詳細に説明する責任がある。

だが、安倍らは「安全保障環境の変化」というだけで、具体的事実を一切捨象した、幼児向けのように単純図式化したたとえ話で主権者を煙に巻こうとしている。「どうせこの程度のレベルの理解力だ」と国民を見くびっているとしか思えないが、「丁寧な説明」とはほど遠い政権側のいんちきに国民はとっくに気づいている。

たとえ話は物事の理解を助けることもあるが、しばしば本質を見失わせる。安倍の真の狙いはそちらにあることが明らかだ。

国民を馬鹿にしている、といえばもう一点指摘しなければならない。合憲性、必要性を具体的に説明できない法案を国民に押しつけようとしていることだ。「たとえ話しかしない」のではなく、安倍にしか見えない蜃気楼を追うようなもので「たとえ話しかできない」のだ。

安倍の頭の中には憲法も主権者の意思もないと言うしかない。

それを裏打ちするように安倍の側近で首相補佐官である礒崎陽輔の口から「法的安定性不要論」が飛び出した。「憲法解釈を変更した場合に法的安定性が保たれる必要性はない」という。

野党が「法的安定性」という法律用語に着目して追及したため、礒崎発言はいかにも高度な法律論のように一部で受け取られたが、実際はとんでもない憲法骨抜き論だ。発言の後半でこう明言している。

「憲法解釈を変えるのはおかしいと言われるが、時代が変わったのだから政府の解釈は必要に応じて変わる」

憲法は現実を規制し、権力を拘束する。憲法が現実に適合しなくなったら、現実を憲法に適合させる努力をするか、国民の意思を問い、憲法を改正するしかない。

権力の解釈次第で憲法の意味内容が変わり得るのでは、憲法は存在意義がなくなり形骸化する。これは事実上の独裁である。礒崎発言は立憲主義を真っ向から否定している。

反立憲主義、主権者無視は安倍政権の本質である。防衛相の中谷元も「新安保法案に憲法を適合させる」と答弁して問題になった。安倍が野党の礒崎解任要求を拒否したのは本音を代弁してもらったからだろう。

礒崎発言を単なる失言に矮小化せず内閣の本質として追及しなければならない。

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