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忍び寄る? 平成ファシズム

寄稿:飯室勝彦

2015年8月16日

内閣総理大臣、安倍晋三の「戦後70年談話」は、長いだけで読む人の心に響いてこない。

それは安倍自身の言葉で語られていないからだ。自分の言葉で語れないのは、自分の認識、考えと異なる内容だからだ。自身の真摯な省察の結果たどり着いたものではなく、使われた言葉、文章も自分の知的作業によって紡ぎ出されたものではないからだ。

「侵略」「おわび」「植民地支配」「反省」などキーワードといわれた言葉は含まれているが、これらは引用、間接表現であって、いわば借り物。安倍が2005年の小泉談話批判に使った用語「コピペ」がそのまま当てはまる。

それだけにかえって談話には安倍の歴史観が透き通って見える。侵略や植民地支配、反省など認めたくない安倍の本心がコピペという手法から浮かび上がってくるのである。

1995年の村山談話は、1931年の満州事変いらいの中国大陸やアジア各地などにおける日本の行為を侵略と認め、アジア諸国民への率直なお詫びを「私」として表明した。村山談話を踏襲した小泉談話も「私は…」と書き出すことで、お詫びの主体と談話で述べられた歴史認識に対する責任の所在を明白にした。

 これに対し安倍は、村山談話に先立ち衆議院で採択された戦後50年決議の採決の際、内容に不満で欠席し、小泉談話を「村山談話のコピペではないか」と評して両談話を切って捨てた。

主語をぼかし、歴史認識を借り物の言葉と文章で語った、歯切れの悪い安倍談話には、あの戦争を侵略と認め、反省することを拒否してきた安倍の本心がにじみ出ている。「歴史修正主義」と批判される歴史観を捨ててはいないのである。

歴史修正主義者たちは、単純な旗印を立て、自分に都合のよい事実の断片だけを集めて歴史を書き換えようとする。「太平洋戦争は聖戦だった」と言い、「東京裁判は戦勝国による復讐」、「憲法9条は押し付け」などと言う。こうした歴史修正主義が政治権力の歴史観と一体化していることに対するアメリカをはじめとする国際社会の警戒感は強い。

 安倍政治の実態をみれば、談話がいかに空疎なものか理解できよう。

安倍に加え、“親衛隊”のような取り巻き政治家が戦前を想起させる暴言、妄言を繰り返して安倍政治をはやし立てている状況下で、安倍談話が「歴史と向き合う」必要性を強調しても共感は得られない。

歴史に逆らう政治の典型は、日本国憲法の制定いらい定着していた9条解釈を強引に変更した集団的自衛権の行使容認だ。

解釈改憲を軸に他国の戦争に参加する道を開く新安保体制法案は「いかなる紛争も…力の行使ではなく平和的外交的に解決すべきである」という談話の内容と矛盾しないのか。「抑止のため」というが、抑止構想自体が力を背景にした威嚇であることをどう説明するのか。力の誇示は積極的平和主義とどう結びつくのか。――疑問だらけだ。

内政面では、憲法のもとで戦後積み重ねられてきた秩序が次々と破壊され、軍事優先、人権軽視の明治憲法時代に戻りかねない政策が推し進められている。天皇を元首に据え、国防軍を設けるという、時代錯誤の改憲草案を撤回するどころか「具体的提案」と誇示し、教育に対する政治の介入をますます拡充している。いまや学問の自由も危うい。

雇用面では労働者の生きる権利を守る仕組みがどんどん廃止され、資本の側は最大利益に向かってフリーハンドになりつつある。

特定秘密保護法など情報管理が強化され、NHK会長の私的人事、マスメデイアに対する恫喝と懐柔、選別など言論支配も着々と進んでいる。

ここに至って生じる「平成ファシズム体制が忍び寄っていないか」との思いは杞憂だろうか。

安倍がしばしば強調する「未来志向」のためにも、談話にいう「子や孫、その先の世代にまで謝罪を続ける宿命を背負わせない」ためにも、歴史修正主義から脱却しなければならない。きちんと歴史と向き合わなければならない。

歴史と正しく向き合えば恣意的な解釈改憲などできるはずがない。さすがに事実上の改憲の具体化によって世論の目は厳しくなっているが 、安倍に解釈改憲できる権力を与えたのは有権者である。

昭和史研究家の保阪正康はファシズム体制の枠組み作りが進んでいないか常に目配りすることを求めて警告している。「私たちの国はわずか五、六年でファシズム体制をつくりあげたという歴史を持っているのだから、同じ過ちを繰り返すまいと自戒すべきなのである」(安倍首相の「歴史観」を問う)

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