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怖くないか “一億総活躍”

寄稿:飯室勝彦

2015年10月8日

「安保の次は経済だ」と安倍政権が走り出した。「経済だ」は本音を偽るカムフラージュ、正直に言えば「選挙だ」である。第9条の解釈改憲、安保関連法案の強行採決などで国民に定着した負の印象を、来年夏の参議院選までに薄れさせるための経済重視であることは言うまでもない。

そのための目玉政策が「一億総活躍社会」の実現だ。首相の安倍晋三は、7日に発足した第3次安倍改造内閣で新たに設けた担当相に側近の加藤勝信を起用した。

少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口一億人を維持する。国家としてのその意思を明確にする。

何よりも大切なことは、一人ひとりの日本人誰もが、家庭で、職場で、地域で、もっと活躍できる社会を創る。そうすれば、より豊かで、活力あふれる日本をつくることができるはずだ。

2020年に向けて、その実現に向けて全力を尽くす。

――記者会見などにおける安倍の説明をごく簡単にまとめるとこうなる。推進するため「国民会議」も設けるという。

心地よく響く言葉の羅列だけにちょっと聞いただけでは「なるほどけっこう」だが、冷静に考えれば「ちょっと待てよ」となる。言葉にだまされてはいけない。

「積極的平和主義」は「平和維持」と称して自衛隊の武器使用を解禁することだった。「切れめなき安全保障」とは、世界の警察官たることをやめようとするアメリカに「日本が協力します」と約束し、戦争も辞さないと宣言することだった。

多くの国民は二つの言葉の欺瞞性を見破った。だからこそ政権側は強行採決の挙に出たのだが、「一億総活躍社会の実現」宣言にも例によって言葉を操り国民を惑わせようとする、この政権の戦術がありありと見える。

「活躍」とは抽象的な言葉で、どんな状態をいうのかはっきりしない。誰が、どんな尺度で評価するのかも曖昧だ。いったい国民に何を求めるのか全く未知数である。

安倍の祖父、岸信介が安保条約改定のため強引な政治で広げた社会の傷を癒やそうと、後任の池田勇人がぶち上げた「所得倍増」計画は目標が具体的、明確だったが、一億総活躍社会のイメージは極めてつかみにくい。単なる言葉遊びに過ぎない感じがする。

結局、いくら頑張っても、「頑張り不足」とマイナス評価を押しつけられる人、「自己責任」と救援ネットで救ってもらえない人が続出するのではないか。

財政事情を理由に福祉を切り下げ、派遣労働の事実上の自由化など行き過ぎた規制緩和で、格差が拡大し、頑張っただけではどうにもならない人々が増えている。それでもなお政治は「頑張れ」と言い続けるだけなのか。

かつて響きの似ている「国家総動員」という言葉が日本を覆った。日中戦争の拡大に伴い、1938年には「国防目的達成」のために「人的、物的資源」を統制運用する権限を政府に与えた国家総動員法が制定された。その結果、経済分野だけでなく事業、文化、言論など国民生活の隅々にまで統制が及んだ。

日本国憲法第13条の「すべて国民は、個人として尊重される」という規定の背景にはそうした暗い時代への反省がある。「一億総活躍」でなくても、金子みすゞが詩にうたったように「みんなちがって、みんないい」のである。

自民党は改憲草案で「個人として尊重」を削った。草案には、個々人の個性、人格を尊重するのではなく、公権力が定めた特定の国家目標に向かって突き進むことを強いる条項が随所にちりばめられている。

草案をつくった人々の描く「一億総活躍」は、特定の目標に国民を「総動員」することにならないか。国策としての「活躍」を強いられる社会ではみすゞが求めた多様性が認められず、国民生活は息苦しいものとなることが必定だ。

「女性の活躍」も安倍政権のキャッチフレーズだが、さてどんな活躍を期待するのか。

国家総動員法の時代には「産めよ、殖やせよ」というスローガンもあった。兵士になるべき人を十分確保するために、女性が大勢の子供を産むことを国策として奨励したのである。

テレビの情報番組に出演した内閣官房長官の菅義偉は、人気芸能人の結婚をめぐってコメントを求められ、「子供を産んで国家に貢献を」「たくさん産んでください」と語った。

なぜ結婚と聞くと出産、それもたくさん産むことを連想するのか。政権中枢の発言だけに「口が滑った」と軽視するわけにはいかない。

少子化ストップ、活力ある日本、女性の活躍、多産……安倍政権のスローガンの数々を菅発言と重ね合わせ、「政権を担う人々の頭の中がちらりと見えた」と受け止めた人もいるのではないか。

繰り返す。言葉でだまされてはいけない。大事なのは事実である。参議院選に向かって次々打ち出される具体的な政策、方針などを慎重に吟味して評価しなければならない。何よりも重要なのは、安倍政権は国民大多数の意思を無視して憲法違反の法律を強引に成立させた政権である、という厳然たる事実だ。

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