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報道を兵糧攻め…暗い予感

寄稿:飯室勝彦

2015年12月6日

権力の別働隊による兵糧攻めではないのか―TBS系列のニュース番組「NEW23」を放送法違反と攻撃する動きに、日本歴史に残る大汚点、桐生悠々の「関東防空大演習を嗤ふ」事件を思い出した。構図が似ているのである。

「NEW23」で問題になっているのは、番組の中でアンカーの岸井成格が「メディアとしても(安保関連法案の)廃案に向けてずっと声を上げ続けるべきだ」と発言したことだ。

任意団体「放送法遵守を求める視聴者の会」(以下、視聴者の会)が、2015年11月26日に記者会見して明らかにした。

「視聴者の会」は、政治的公平や多角的論点の提示を求める放送法第4条に反するとして、岸井やTBS、総務省に見解を質す質問状を送ったという。読売、産経の両紙に意見広告も出し、賛同のネット署名を集めている。

質問状とはいえ、岸井やTBSに対しては降板要求、総務省には一層強権的な放送行政を促す意味を持つことが明らかだ。既に関係者の周辺では岸井降板が取りざたされている。

悠々は1933(昭和8)年8月、信濃毎日新聞の主筆として執筆した社説「関東防空大演習を嗤ふ」が攻撃された。

悠々は折から関東地方で行われた防空演習を批判し、「木造家屋の多い東京では空襲があれば焦土と化す」「灯火管制は近代技術の前に意味はなく、かえってパニックを起こして有害である」などと12年後の惨状を的確に予言して「敵機を迎え撃つということは敗北そのものである」と主張したのである。

これに陸軍が怒って信濃毎日に圧力をかけ、悠々は退社に追い込まれた。

安倍晋三政権はメディア介入をためらわない。安倍自身が、まだ若手代議士と呼ばれていた頃、従軍慰安婦に関するNHKの番組作成に放送法第4条を盾にとって介入した。

政権を握ると攻撃、介入がより露骨、頻繁になった。国会答弁で自身がメディアを攻撃したり、党機関としてテレビ局幹部を呼びつけて事情聴取、公平中立を求める文書を突きつけたりしただけでなく、総務相が強権を振るってテレビ局を行政指導したこともある。

HPなどによると、「視聴者の会」の中心メンバーは安倍も関係の深い保守的団体「日本会議」のメンバーと重なる。今回はむき出しの権力的介入と批判されるのを避け、民間の別働隊が動き出したようにも見える。

信濃毎日の場合も軍そのものが動いたのではない。在郷軍人で組織された信州郷軍同志会が展開した不買運動に新聞社が耐えきれなかったのである。

「視聴者の会」はスポンサーに対しても個別に問いかけてゆくことにしている。問いかけとは言えスポンサーを降りるよう働きかけるのと同様な効果を産むだろう。すでに降りたスポンサーもあるという。

この年6月、自民党の勉強会「文化芸術懇話会」で「マスコミを懲らしめるために広告料、スポンサー料を減らすよう経団連に働きかけよう」という暴論が続出した。自民党が動かなくても「視聴者の会」の問いかけで同様のことが実現しかねない。

不買運動とスポンサーへの働きかけ、どちらも兵糧攻めである。言論、報道の自由を経済的側面から形骸化し、この国をどこへ引っ張っていこうとするのか。「重苦しく暗い時代の再来」の予感がする。

悠々の受難は、日本が中国侵略を本格化し、満州国をつくり、国際連盟を脱退して孤立を深めてゆく時期に起きた。言論、報道を権力的にコントロール、国民的熱狂の中で軍が暴走して泥沼にはまっていった。

安倍政権は解釈改憲で「戦争ができる国」にして自衛隊の軍事的プレゼンスを強化しようとしている。時代状況は似通っていないか。

こんな時こそニュースキャスターが意見を述べ、視聴者に考え方、選択肢を提示するのは当然である。

テレビもジャーナリズムである。報道番組のアンカー、キャスターは、「視聴者の会」が言うように単なる司会者ではなくジャーナリストである。「公正」であろうと心がけ「公平中立」の姿勢を保つことは大事だが、「公平中立」とはどっちつかずの姿勢のことではない。

「多角的な事実追及と正確な事実報道」「事実報道とオピニオン活動の分離」という客観報道の二大原則を守ったうえで、アンカー、キャスターが、自らの経験、知識、見識などを生かして達した、それらの情報の解釈、判断の仕方、そこから導き出される選択肢などを視聴者に提示するのはジャーナリストとしての重要な責務といえる。

どっちつかずの報道姿勢では、大量の情報を保有し、その情報を自力でばらまく組織、手段を持つ権力側のスピーカーと堕してしまう。メディアの権力的統制は主権者の正しい判断、自発的選択を不可能にする。

それがどんな結果をもたらすか。日本の近現代史が教えてくれる。

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