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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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集団的自衛権行使容認 憲法を破壊する閣議決定 
2014年7月1日閣議決定の分析・批判

2014年7月2日

6月29日に広島県母親大会のシンポで私が発言した際に、参加者から閣議決定に対してどんなことができるのか質問がありました。多くの市民や団体が閣議決定をさせない運動に取り組んできたことから、閣議決定をされたことにより、一種の敗北感が出ることを懸念した質問だったと思います。閣議決定が今後の解釈改憲の中でどのような位置づけになるのか、正確に理解する必要があると感じました。

私がそれに対して回答したことを踏まえて、すこし詳しく意見を述べます。

閣議決定は公明党が妥協してしまった以上、阻止することは不可能です。他方で閣議決定だけではほとんど意味はありません。確かにこれまでの政府解釈を根本的に変更するのですから、大きな一歩を踏み出したことは間違いありません。しかしそれだけで物事が変わるというものではないという点も、抑えておく必要があります。

閣議決定があるなしでどこが違うのかは、2013年12月17日に閣議決定された国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を見ればわかります。これらの中には、集団的自衛権という文字はありませんし、集団的自衛権行使に該当するような政策決定はありません。この時点では,安倍内閣は集団的自衛権行使はできないという立場であったからです。

7月1日の閣議決定により、二つのことに途を開こうとしています。一つは12月に予定されている新しい日米防衛協力の指針に集団的自衛権行使や国際平和協力活動での武力行使、グレーゾーンで自衛隊が行動することを前提にした内容を盛り込むこと。もう一つは9月から始まるはずの臨時国会で、集団的自衛権行使や国際平和協力活動で武力行使をすることを前提にした防衛法制の改正法案を閣法として提出するということです。

日米防衛協力の指針策定は阻止できないでしょう。しかし、臨時国会へ提出される法案に対する反対運動をこれから強めて行けば、それを阻止できる展望はあります。臨時国会で防衛法制の改正が安倍内閣の思うようにならなければ、防衛協力の指針の内容にも影響を与えるでしょう。

私は、閣議決定はこれから始まろうとする本格的なせめぎ合いの「号砲」という位置づけと理解しています。閣議決定に対する市民の怒りは今頂点に達しています。6月30日の官邸前の抗議行動では4万人が声を上げたとのことです。安倍内閣がいくら憲法破壊の閣議決定をしても、憲法9条は無傷で残っています。

閣議決定やこれから提出される法案が憲法違反であることは動かせません。今こそ憲法9条の意義を私達が確かめ確信し、安倍内閣には思い知らせるチャンスです。

 

2014年7月1日閣議決定への分析・批判(緊急)

 

閣議決定全文を新聞で読み、緊急に分析をしましたので、以下に紹介します。

1 これまでの憲法解釈のどこを変更したのか

安倍首相は記者会見で、「現行憲法の解釈の基本的考え方は変わらない。海外派兵は一般的には許されないという従来の原則は変わらない。」、「今回の新三要件も、今までの三要件と基本的な考え方はほとんど同じと言ってよく、表現もほとんど変わっていない。憲法解釈の基本的な考え方は変わらない。」と述べた。本当にそうなのか?

従来の三要件は次の通り。

自衛権発動の三要件

①    我が国に対する急迫不正の侵害あること、すなわち武力攻撃が発生したこと

②    この場合これを排除するために他に適当な手段がないこと

③    必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

新三要件は次のとおり。

武力行使(自衛のための措置)の三要件

①    我が国に対する武力攻撃が発生した場合、我が国と密接な関係にある国に対する武力攻撃が発生した場合、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合

②    これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない場合

③    必要最小限度の実力行使

新三要件は、第一要件で集団的自衛権が行使できること、「明白な危険」という新しい要件を付け加えたことで、これまでの三要件とは異質なものである。第二要件でも第一要件に対応して、「我が国の存立を全うし、国民を守るため」が加えられている。

海外派兵は一般的に許されないのか?

海外派兵とは政府解釈によると、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること」(昭和55年10月28日政府答弁書)である。閣議決定文書では新三要件のうち、③要件がそれに該当する可能性があるが、「他国の領土、領海、領空には派遣しない」とはどこにも述べていない。政府見解(想定問答集)でも、その点は曖昧であり、機雷掃海では他国の領海内でも活動できるとしている。そうすると、海外派兵の上記定義を前提にする限り、海外派兵は許されないとの従来の原則は放棄されたものである。

2 集団的自衛権の限定行使か?歯止めになるのか?

閣議決定は、「安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であっても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こりうる。」とのべ、新三要件の①「我が国と密接な関係にある他国」という要件も外している(閣議決定に内在する矛盾でもある)。つまり地理的限定はないのである。閣議決定はこの安全保障環境の変容につき、「脅威がどの地域において発生しても、我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼしうる状況になっている。」と述べていることを受けたものである。

集団的自衛権行使の際の武力行使についても閣議決定は何らの限定を加えていない。「後方支援と武力行使の一体化」についての閣議決定は、集団的自衛権行使とは別分野である。新三要件の③要件の記述のみである。従来の自衛権発動三要件の下での③要件は、専守防衛の観点から限定になっていたが、閣議決定の新三要件の③要件は、集団的自衛権行使を含むものであるから、限定にはならない。「我が国と密接な関係にある他国」という限定要件が既に閣議決定では無視されている。「我が国の存立を脅かす」場合には「我が国と密接な関係にある他国への武力行使」と判断するのであろう。

武力行使に歯止めはあるのか。歯止めという以上、政府による自衛隊派遣、武力行使の判断に対する歯止めである必要がある。「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」と二重要件で歯止めをかけているような記述だが、政府見解(想定問答集)では、国家と国民は一体であるとして加重要件ではないと明確に否定している。そうであるなら、「我が国の存立が脅かされる」という判断だけで集団的自衛権が発動されることとなる。ではその政府の判断に対する歯止めはあるのか。「我が国の存立が脅かされる」という判断と、その「明白な危険」が歯止めの記述と思われるが、いずれも曖昧な概念であり、政府の恣意的判断が容易な概念である。さらに、その判断に至った情報が特定秘密保護法で国民や報道機関、国会までも隠されれば、歯止めなき海外派兵になる。

3 国連の集団的措置(軍事的措置)への参加は可能か?

閣議決定には国連の集団的措置(軍事的措置)への参加はしないとはどこにも記述がない。むしろ閣議決定は国連の集団的措置(軍事的措置)へ参加する途を開いているのだ。閣議決定は「自衛権発動の三要件」とはせず、わざわざ「自衛のための措置」という新しい概念を導入している。自衛権行使と自衛のための措置とでは国際法上の意味は全く異なる。我が国が国際法上個別的自衛権や集団的自衛権を行使している際に、当該武力紛争に対して安保理が憲章第42条の軍事的措置を決議した場合、憲章第51条により、それ以降の自衛権行使は違法となる。閣議決定は「国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。」と述べていることに注目すべきである。つまり、憲法解釈上は「自衛の措置」だが、国際法上の根拠はこれとは異なるというものである。閣議決定は自衛の措置が「国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。」と述べている。つまり、集団的措置は排除されていないのだ。政府解釈(想定問答集)は、「新三要件」を満たすならできるとしている。

4 国際平和協力活動

閣議決定は「2国際社会の平和と安定への一層の貢献」という表題で、「後方支援と武力行使一体化」原則の変更と、「国際的な平和協力活動に伴う武器使用」を拡大しようとしている。

「後方支援と武力行使一体化」原則の変更は、国連安保理による軍事的措置へ参加する場合に適用される記述と考えられる。ここで述べているのは、戦場で戦闘行為が行われている場合以外には後方支援活動が可能であるというものである。後方支援活動中に戦闘が始まれば、自衛隊は活動を中止するというが、敵部隊は自衛隊部隊を攻撃するはずであるから、当然それに備えた部隊編成と装備で後方支援を行うはずである。そうなれば、後方支援といいながら際限なき武力行使の突破口に過ぎないことになる。

「国際的な平和協力活動に伴う武器使用」では、「駆け付け警護」と「任務遂行のための武器使用」権限を付与しようとしている。その結果、治安維持活動まで行うことを想定している記述となっている。これはイラクにおいて米・英軍が行った掃討作戦と何ら異ならない軍事活動になり得る。

閣議決定は「2国際社会の平和と安定への一層の貢献」において、在外邦人救出活動を含めている。この活動は、こてこての国益を前面に出した活動であり、これを「2国際社会の平和と安定への一層の貢献」へ入れている閣議決定は、きわめて出来の悪い文書となっているのである。

5 今後の法整備の進め方

閣議決定には、立法措置をとると明確に記述している箇所が3カ所ある。グレーゾーン事態での米艦防護のための自衛隊法第95条の改正、国際平和協力活動での「駆け付け警護」と「任務遂行のための武器使用権限」のための法改正(PKO協力法と思われる)、集団的自衛権行使である。それ以外にも、グレ-ゾーン事態での自衛隊の出動規定についても法改正の可能性を示唆している。

現在の有事法制を含む防衛法制はすべて個別的自衛権行使とそれ以外での海外での武力行使禁止原則に基づいて組み立てられている。今回の閣議決定が国内防衛法制に及ぼす影響はすべての防衛法制にわたるものになる。

集団的自衛権行使、国連安保理による軍事的措置に関しては、武力攻撃事態法と自衛隊法、防衛省設置法、周辺事態法、周辺事態船舶検査法の改正が必要になる。武力攻撃事態法では、集団的自衛事態や国連安保理の軍事的措置の事態での自衛隊の出動手続き、自衛隊法では、第3条自衛隊の任務、第6章自衛隊の行動、第7章自衛隊の権限のいくつかの条文の改正が必要となる。防衛省設置法は防衛省の任務、所掌事務の改正が必要になる。周辺事態法では、後方地域支援概念を取り払うこと、第3条別表を大幅に改正が必要になる。周辺事態船舶検査法は全面改正になるであろう。同法は戦時臨検とは異なり、対象船舶の国籍国の同意、乗船検査は船長の同意、進路変更や寄港地変更については強制措置は出来ない、船舶への危害射撃は出来ないなど、軍事的強制は不可能な法律だ。

グレーゾーン事態では、領海警備法(仮称)のような新規立法が企てられているが、現在のところ公明党との合意がないので、今後の動きを注目する必要がある。グレーゾーン事態で米艦防護のための自衛隊法第95条(武器防護のための武器使用)改正が必要だ。

PKO協力法改正は、既に民主党内閣時代に法案化作業は終了し、内閣法制局との意見調整が残されるだけとなっている。内容は不明であるが、それが出発点となろう。

在外邦人救出では、自衛隊法第84条の3、同法第94条の5の全面改正が必要になる.現行法は在外邦人の輸送に関する規定であるから、在外邦人救出活動が加わるであろう。

有事法制の改正では、集団的自衛事態での国民保護法の改正、米軍支援法、特定公共施設利用法などの個別事態法制の改正も不可欠になる。

政府は閣議決定と同時に各省庁で防衛法制改正に関する検討を開始している。新しい日米防衛協力の指針の内容をにらみながら、防衛法制の改正作業が進められるであろう。しかし、検討される防衛法制の改正は、閣議決定が憲法第9条に違反する内容であるから、いずれも憲法9条との矛盾抵触は避けられないであろう。

どのような法案を何時提出するかは、今後政府内での法案作成作業の進捗と、国民世論の動向を見据えて判断されるであろう。例えばグレーゾーン事態での自衛隊の行動・権限の強化は、警察庁や海上保安庁が強く抵抗するであろう。臨時国会へ提出される法案がどのくらいの本数になるかわからないが、最低限度、自衛隊法、防衛省設置法、周辺事態法、同船舶検査法、PKO協力法くらいは予想される。

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