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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制の近未来② -狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-

2016年2月12日

南スーダンはアフリカ大陸進出の実験場

1 南スーダンには国連PKO(UNMISS)が派遣されており、それに協力するために、改正前のPKO協力法で陸自の施設部隊を中心にした約350名の部隊が派遣されています。主たる任務は、道路などのインフラ構築で人道復興支援です。UNMISSは2011年7月8日、安保理決議1996号で創設されたものです。スーダン内戦を経て南スーダンが分離独立し、新たに南スーダン共和国が誕生しました。UNMISSは、スーダン内戦後の平和構築と南スーダン共和国の建国を援助するというものでした。

ところが、独立後の南スーダン政府内では大統領派と副大統領派の対立が深刻化し、2013年7月に副大統領が罷免されたことからその後内戦となり、深刻な人道的危機が引き起こされる事態となりました。国連安保理は2014年5月27日、決議2155号によりUNMISSの任務を変更して住民保護に重点を置き、そのための国連憲章第7章による武力行使権限を付与しました。

2 自衛隊派遣部隊は当初の安保理決議1996号を受けて派遣されました。しかしその後の南スーダンの内戦により、PKO参加5原則は崩れたはずですが、撤退しないまま国連施設内にとどまって活動を続けています。安保理決議2155号によりUNMISSの性格と任務は大きく変化して、UNMISSのPKF部隊と武装勢力との激しい戦闘も想定されていました。実際に南スーダン政府軍がPKF部隊を攻撃したこともあったようです。2013年12月にはUNMISSへ派遣されていた韓国軍から、自衛隊派遣部隊へ銃弾1万発の提供の依頼がなされ、政府がそれを承認して提供したという出来事がありましたが、それは政府軍と反政府武装勢力との激しい内戦に直面して韓国軍派遣部隊が危機に直面したからでした。

3 実は、2014年1月には首都ジュバの宿営地付近で銃撃戦があり、自衛隊派遣部隊長井川賢一(一等陸佐)は陸自隊員に射撃許可を出したほどです。1月5日には陸自部隊が駐屯している首都ジュバに向けて、西側と南側から反政府武装勢力が押し寄せてくるとの情報があり、1月5日夕方には宿営地近くで銃撃戦がありました。その前の12月16日には自衛隊が駐屯している国連宿営地近くのPKO施設に大量の避難民が「雪崩のように」入ってきました。1万人以上とのこと。そのような状況の中で井川陸自派遣部隊長は自衛のための射撃許可を出したのでした。武装勢力が避難民を狙って攻撃した場合、流れ弾に当たる可能性が考えられたからです。その2週間前にインド兵が流れ弾で死亡していました。

当時の陸自部隊には駆け付け警護任務や宿営地共同防護任務は与えられていないし、任務遂行のための武器使用はできなかったので、自衛隊員が自分の身を守る自衛のための射撃しかできませんでしたが、安保法制で改正されたPKO法では、住民保護と治安維持活動、任務遂行のための武器使用も駆け付け警護も宿営地共同防護もできるので、避難民保護の名目で自衛隊の部隊が武器をもって反政府武装勢力との戦闘も可能になっていたでしょう。

南スーダンの首都ジュバはこれまで治安が安定しているからPKO参加5原則を満たしているとして、PKO協力法で陸自部隊を派遣したはずです。しかし以上のような状況であれば、陸自部隊の活動を中断して撤退すべきでした。

安保法制で改正されたPKO協力法でも、参加5原則があるから危なくなれば撤退するなどと政府は説明していますが、それが全く偽りであることは、以上のような事実を見ても明らかです。改正されたPKO法で自衛隊に与えられる任務や武器使用の権限は、武装勢力との戦闘行為を辞さないものですから、改正前のPKO活動以上に危なくなっても撤退しないでしょう。

4 2016年1月7日、大統領派と副大統領派が和平合意に基づく移行政府樹立で合意しました。南スーダンはこれまで停戦合意が何度も破られてきましたから、この和平合意が履行されて内戦が終結するとの見通しはありません。政府は参議院選挙前に陸自派遣部隊へ駆け付け警護任務を与えることは避け、秋以降に実施すると見られています。参議院選挙結果への影響を避けるためです。それだけ危険な任務だからです。

内戦が完全に収束したとは言い難い南スーダンPKOで、派遣された陸自部隊が駆け付け警護任務や任務遂行のための武器使用が認められたら、陸自部隊と武装勢力との戦闘も想定され、自衛隊員が誤って非戦闘員の市民を誤射することもありえます。その場合犠牲になった市民が属する部族による報復攻撃も想定しなければならないでしょう。自衛隊員自身の生命に危険が及ぶ事態になります。

5 南スーダンでの自衛隊派遣はそれだけで終わる問題ではなさそうです。これを実験場にして、さらに日本政府と自衛隊は米アフリカ統合軍(AFRICOM)との軍事的連携を強化することを目指しています。

2013年12月に閣議決定された新防衛計画大綱(25大綱)には、「国際平和協力活動等を効果的に実施する観点から(中略)自衛隊がジプチに有する拠点を一層活用するための方策を検討する。」と書き込まれています。ジプチはアフリカ大陸と中東をにらむ戦略拠点なのです。

2014年12月18日河野統合幕僚長がペンタゴンを訪問しワーク米国防副長官と会談した際の会談録が、安保法制法案国会審議の中で共産党から暴露されたことがあります。それと同じものを私も持っています。これによると、河野統幕長は「ジプチは海賊対処のみならず、他の活動における拠点にしたいと考えている。さらには防衛駐在官の増派も検討しており、AFRICOMとの連携を強化したい。」と発言しました。AFRICOMとは米国の地域統合軍の中でアフリカの軍事作戦を担当する陸・海・空・海兵の統合軍のことで、アフリカではなくドイツに司令部を置いています。

さらに、共産党笠井衆議院議員が防衛省の内部資料を示して、防衛省はジプチ基地をAFRICOMに対する後方支援基地として強化する調査研究をしていることを明らかにしました。ジプチ基地は自衛隊が唯一海外に持っている恒久的軍事基地です。ソマリア沖やアデン湾での海賊対処のために作られて、海自のP3C対潜哨戒機2機と基地を防護するための陸自部隊が駐屯しています。南スーダンPKOで派遣された自衛隊の物資輸送にもジプチ基地が使用されました。しかし、海賊対処とは言いながら、現在海賊による襲撃件数は激減しています。笠井議員の質問に対して安倍首相もジプチ基地の活用を否定しませんでした。

アフリカ大陸では、国連広報センターのHPで見る限り、国連PKO活動は西サハラ、マリ、中央アフリカ、コンゴ、ダルフール、スーダン、南スーダン、コート・ジボアール、リベリアで展開されています。国連広報センターで検索した16カ所のPKOのうち、何と9カ所がアフリカです。

中国がアフリカ大陸への経済進出と政治的影響力の拡大に積極的に動いており、日本は米国の副官としてアフリカを舞台に中国をけん制する動きをしています。

その意味で今後将来にわたり、アフリカ大陸は日米にとり戦略的重要地域と思われます。2007年にAFRICOMを創設したのは、米国がアフリカ大陸への軍事的、政治的覇権を及ぼすためであったのでしょう。ジプチはこのような米国の戦略に日本が協力するための重要な拠点基地となるはずです。日本政府は、ジプチを拠点として南スーダン以外にもアフリカでのPKO活動へ自衛隊を派遣するつもりではないでしょうか。その際に安保法制が機能することになるでしょう。自衛隊は今後アフリカ各地のPKO活動に参加し、アフリカ各地での部族紛争、内戦などに巻き込まれる恐れがあります。

6 アフリカは2030年までにはインドをしのぐ人口となると見られています。サハラ以南の地域経済は2000年以降世界経済を上回る経済成長をしています。レアーアース、石油、天然ガスなど資源が豊富です。いわば「地球上の最後のフロンティア」なのでしょう。

安倍政権はアフリカへの強い関心を持って取り組んでいます。2013年6月1日から3日、第5回アフリカ開発会議を横浜で日本政府が主催しました。

2014年1月10日から14日、安倍首相はアフリカを訪問しました。コート・ジボアール、モザンビーク、エチオピアを訪問し、アフリカ連合(AU)本部で演説までしました。アフリカ訪問中に13カ国の首脳と会談し、アフリカ訪問には33の民間団体、企業団体,大学の代表者が随行してトップセールスを展開し、3.2億ドルの開発援助を約束しました。

2014年9月26日PKOに関する国連ハイレベル会合で安倍首相が演説し、 PKO活動への積極的参加を述べ、特にアフリカにおけるPKOの早期展開を喫緊の課題と述べました。

安倍政権のアフリカ政策は、米国に従属しながら軍事的協力を深め、その中で経済進出をすすめようとしています。PKO協力法改正はその手段となるでしょう。

7 国連PKO活動は、停戦合意や受け入れ同意を前提にした兵力引き離しや停戦監視活動(ゴラン高原、キプロス、カシミールなど)や、新たな国家を建国・再建するための支援(カンボジアや東チモールなど)から、住民保護へと大きく変質してきています。2000年以降のPKOは、安保理決議により武力行使権限が付与されるようになっています。内戦が収束していない状態や、武装勢力が活動しているような状態で、派遣されたPKOは住民保護や治安維持活動とそのための武力行使権限を付与されています。いわば維持すべき平和がない状態での平和維持活動です。

南スーダンPKOがそうなっています。アフリカでの多くのPKO活動も同様です。

安保法制で改正されたPKO協力法はこのようなPKOの変質に対応するものです。安保法制で新たに付け加わった活動である「住民保護、特定地域の治安維持活動」(第3条5号ト)、「駆けつけ警護活動」(第3条5号ラ)、「宿営地共同防護」(第25条7項)や任務遂行のための武器使用(第26条1項)がそれです。これらの任務や武器使用権限を付与された自衛隊は、派遣地域で治安維持活動や住民保護活動、それを妨害する武装勢力に対する戦闘行為を行うことが可能になります。(続く)

 

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