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表現の自由と知る権利の危機をどのようにして克服するのか
―国連表現の自由特別報告者ケイ氏の暫定所見を契機として―

寄稿:海渡雄一

2016年5月10日

はじめに

表現の自由は民主主義の存立の基礎を作っています。市民がその国で何が起きているのか、正確な事実を知ることができず、また正確な事実の報道と意見表明の自由がないところでは、民主主義政治は成り立ちません。

日本は、戦前に表現の自由を完全に奪われた社会のもとで、破滅に向かう戦争を選択し、国土を廃墟としました。その反省に立って、日本国民は、日本国憲法を制定し、国際紛争の解決手段として戦争を選ばないことと併せて、すべての基本的人権の中で、表現の自由は生命に対する権利にも匹敵する最重要のものであると考えてきました。

しかし、安倍政権のもとで、日本の市民社会における表現の自由の前途には黄信号どころか赤信号が点滅をはじめています。

デビッド・ケイ氏の日本に対する公式訪問と示された所見は、日本の市民社会が表現の自由と知る権利を回復し、民主主義的な政治過程を取り戻すことができるかどうかの瀬戸際に立っていることを示しています。この勧告に示されている意義を正確に把握し、これを実現するための方策を考えてみることとしましょう。

第1 公式訪問の実現

1 どのような調査がなされたのか

国連人権理事会が任命した「意見及び表現の自由」の調査を担当する国連特別報告者のディビッド・ケイ氏が、4月12日から4月18日まで日本の表現の自由と市民の知る権利に関する公式の調査を行い、4月19日、日本政府などに対する予備的勧告(Preliminary Observation)を公表しました。

予備的報告は、A4版で8ページに及び、かなり詳細な事実認識と改善すべきポイントが指摘されています。主な訪問と対話の対象は次のとおりとされています。

(政府機関)外務省、法務省、総務省、参院法務委員会、内閣情報調査室、最高裁判所、警察庁、海上保安庁、内閣サイバーセキュリティセンター、文部科学省

(メデイア)NHK、民間放送協会、新聞協会、雑誌協会、日本インターネットプロバイダー協会

(市民社会)さまざまなNGO、ジャーナリスト、弁護士

この勧告については4月19日の会見時に公表され、日本語にも訳された短いプレスリリースが公表され、国連広報センターのHPで確認できます[1]。また、今回私と小川隆太郎弁護士が共同で、この暫定所見を仮訳しました[2]。また、外国特派員協会における報告会見の記録も日本語で公表されています[3]

今回の所見は暫定的なものであり、ケイ氏は、2017年に人権理事会に対して、より完全な報告書を提示することを約束しています。

2 特別報告者制度とは何か

特別報告者は人権侵害を調査し、「特別手続き」に従って個々のケースや緊急事態に介入するための独立の人権専門家です。特別報告者は、個人の資格で務め、任期は最高6年ですが、報酬は受けません。2015年3月現在、41人のテーマ別、14人の国別の特別手続きの専門家がいます(国連人権理事会のHPより[4])。この特別報告者による調査と報告、それに基づく勧告は、人権条約機関の活動と並んで、各国の人権政策の向上に資することを目的としています。日本政府は、いつでもこのような調査を受け入れること(standing invitation)を人権理事会の場で約束しています。

特定秘密保護法の国会審議中に、ピレイ国連事務総長とともに、国連人権理事会に対する表現の自由に関する特別報告者であったフランク・ラリュ氏が市民の知る権利の観点から懸念を表明したことがあります。最近では、原発事故後の健康問題についてアナンダ・グローバー特別報告者が報告したレポートなどが有名です。

3 公式訪問調査が実現するまで

日弁連は、特定秘密保護法の成立直後から秘密保護法について特別報告者の日本に対する訪問調査を要請してきました。その理由は、フランク・ラリュ氏が法案の国会審議中に秘密保護法について懸念するコメントを表明されたという事実があったからです。

2015年3月30日には、フランク・ラリュ氏の後任であるデビッド・ケイ氏が、ごく短時間ではありましたが、日本を非公式に訪れ、外務省と日弁連・NGOと懇談の機会を持ち、公式訪問の可能性を探りました。

2015年7月にデビッド・ケイ特別報告者は日本政府に公式訪問の申し入れを行いました。日本政府は8月に暫定的にこれを受け入れるとし、日程などの調整に入りました。2015年10月21日に12月1-8日に日本を訪問することが公式に承認されました。調査対象は秘密保護法だけでなく、メディアによる取材報道の自由、市民の表現の自由などに関する事項を含むものへと広がりました。

ところが、11月13日ジュネーブの日本代表部から特別報告者に対して、「関係する部局の担当者とのミーティングがアレンジできない」という理由で、2016年秋まで訪問を延期するよう要請が届けられました。

ケイ氏は、日本政府に対して予定されていた日程での調査の実現を求めましたが、11月17日日本政府の対応に変化が見られないためキャンセルを受け入れ、このことを11月18日早朝(日本時間)に関係していたNGO関係者にメールで連絡しました。

アムネスティ・インターナショナルとヒューマンライツ・ナウ、秘密保護法対策弁護団の3団体は連名で、日本政府に対して、表現の自由の国連特別報告者の公式訪問を、2016年の前半中のできる限り早い時期までに実現すべきことを求める声明を公表し、外務省に協議を申し入れました。

この申し入れを受けて、外務省人権人道課を中心とした日本政府と国連人権高等弁務官事務所との協議によって、いったん中止された公式訪問が、本年4月に実施されることとなりました。

今回の公式訪問の早期実現のために政府の担当部局と国連機関が行った努力に対して、私たちは深く敬意を表するものです。

第2 ケイ氏が指摘する日本の表現の自由の危機

それでは、調査の結果出された暫定所見の説明に入りましょう。ケイ氏は、冒頭で日本における表現の自由が重大な危機に瀕していることを明確に指摘しています。

「報道の独立性は重大な脅威に直面しています」「脆弱な法的保護、新たに採択された『特定秘密保護法』、そして政府による『中立性』と『公平性』への絶え間ない圧力が、高いレベルの自己検閲を生み出しているように見えます」「こうした圧力は意図した効果をもたらします。それはメディア自体が、記者クラブ制度の排他性に依存し、独立の基本原則を擁護するはずの幅広い職業的な組織を欠いているからです」「多くのジャーナリストが、自身の生活を守るために匿名を条件に私との面会に応じてくれましたが、国民的関心事の扱いの微妙な部分を避けなければならない圧力の存在を浮かび上がらせました。彼らの多くが、有力政治家からの間接的な圧力によって、仕事から外され、沈黙を強いられたと訴えています。これほどの強固な民主主義の基盤のある国では、そのような介入には抵抗して介入を防ぐべきです」(離日時のプレスリリース[5]より)

ここで、ケイ氏の指摘は、政府の介入によって、メディア内部の自主規制、自主検閲が強まっていること、メディアが政府に対する監視役として、積極的に問題を提起していく役割を負っていることが認識されず、連帯の精神にもとづく政府への抵抗が弱いことを厳しく指摘しています。この点の重要性は、最後にもう一度検討します。

また、勧告は特定秘密保護法と歴史教育と教科書、差別とヘイトスピーチ、選挙運動の規制、インターネット表現、デモにおける警察による規制などにも言及し、具体的な改善点を指摘しています。

第3 メディアの独立性に関する危機

1 放送メディアに対する政府と与党の直接的な介入

暫定所見は政府からの直接の干渉を受けている放送メディアに関して、次のように述べています。

「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は放送について自主規制のプログラムを実施しようとします。これらの公式の保護にもかかわらず、私が会ったかなりの数のジャーナリストは、政府からの強い圧力を感じ、経営陣から、その報道と政府の公式の政策の優先順位を整合させるように指示されていました。」

「放送法第4条は、「公安(公共の安全)及び善良な風俗を害しないこと。」「政治的に公平であること。」「報道は事実をまげないですること。」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」という基本的な専門的な倫理規範を設定しています。これは(放送に対する)正当な期待です。しかし、誰が、このような広範かつ極めて主観的な概念に適合していると判断できるでしょうか?私は、政府、いかなる政府も、何が公平であるかを決定する立場にあってはならないと思います。これは、公衆による討論の問題であり、日本は、既にBP0という自主規制団体を持っているのです。」

「政府は、反対の見解を採っています。2月に、総務大臣が表明し、その部下によって確認されたように、放送法第4条に違反したと判断した場合、放送法第174条によって放送事業免許の停止等を命ずることができます。政府高官は、これらの発言は、脅威ではなく、単に法律が述べていることであると主張しました。しかし、私は、第一に、放送法の法的解釈はまだ決定されていないと信じていますし、第二に、この発言は、メディアを制限する脅迫として合理的に認められるものです。」

「もしこの大臣のコメントだけが存在しているのであれば、私は、その意味を割り引いて考えることができるかもしれません。例えば、政府は、番組内容を理由に、今まで放送免許を中断したことはありません。しかしながら、他の例では、本当の政府の関心は、報道の内容とトーンであることを示唆しています。例えば、2014年11月20日、自民党の首脳が、「選挙時の報道の公平性、中立性、正当性を保証するための要求」と題する手紙を、放送ネットワークに送りました。この手紙では、「中立性・公平性」という名目で、例えば、回数、ゲストスピーカーの時間や選択まで言及しています。自民党は、一週間以内のうちに、テレビ朝日に対して、「報道ステーション」のアベノミクスに対する11月24日の報道を批判し、「公正で中立なプログラム」を要求しています。この手紙は、この番組が放送法第4条第4項の基準を十分に考慮していないと述べています。」

この自民党による選挙報道に関する要請は公になっていたことですが、テレビ朝日・報道ステーションに対する批判が公式に認められたことには大きな意義があると思います。

「私はまた、メディア、特に放送ジャーナリストが、メディアとのオフレコ会見で、政府関係者によって行われたコメント(そのコピーが広くジャーナリストの間で回覧されているものですが)によってプレッシャーを感じているという報告を受けています。例えば、2015年2月24日のオフレコ会談で、菅官房長官は、名前を明示しませんでしたが、あるテレビ番組が放送法に準拠していないと批判したと伝えられています。」

「厳しい質問をすることで評判でよく知られているニュースキャスターやコメンテーター[6]が、政府からの敵対的な雰囲気や批判の影響を恐れて、長期間にわたって保持していたそのポジションを離れました。これは、従業員が企業に数十年もの間とどまる(日本の放送)業界においては驚くべきことです。あるよく知られているコメンテーターである古賀茂明氏は、政府の圧力により、もはやテレビ番組に出演することはないと言われています。」

2 NHKに対して掛けられている圧力

「私と対話した一部の方々は、NHKに対してかけられている圧力に懸念を表明しました。国会が一つの政党連合によって強く支配されている場合、国会がNHKの理事会のメンバーを任命するという事実だけでなく、国会がNHKの予算を承認するということは、放送局が独立性を欠いているという認識をもたらします。例えば、NHKの籾井会長は、(国際放送において)、「政府が右と言っているときに、私たちが左と言うのは、よくない。」と言っています。この言葉は、後に籾井氏によって取り消されましたが、NHKの役割は、政府の政策を推奨することであると、多くの人に理解されました。NHKの経営幹部は、そのような圧力があることは否定しましたが、番組や報道の選択に関して、そのような圧力があるというふうに広く信じられ、懸念されています。」

3 放送法4条を削除し、政府から独立した機関に放送の規制権限を委ねるべきである

「これらの懸念を考慮して、私は、政府に対して現在の法的枠組みの見直しを提案し、特に、放送法第4条を廃止し、政府自らをメディア規制活動の外に置くこと勧めます。」

このように、ケイ氏は高市総務大臣による放送法に基づく電波停止の発言に根拠がなく、そのような形で放送法が用いられるとすれば、それは憲法21条と自由権規約19条に反することを明らかにし、さらに、このような解釈を許すような放送法4条を廃止し、放送の規制の権限を政府から独立した機関に移すように求めたものです。この法的な提言は、今起きているメディアの独立に対する危機を根本から改めるために極めて効果的なものであると思います。

4 印刷メディアにおける自主規制の進展

ケイ氏は放送以外のメディアに対する政府の干渉と自主規制について、次のように述べています。

「印刷媒体のマスコミも、同じような問題を経験しています。私は、現場の記者から、政府に批判的な記事を書いた後、その記事の出版のキャンセルや延期、または記者の降格または異動を求められた、という報告を受けています。何人ものジャーナリストが、マスメディアは、福島の災害や、従軍慰安婦などの歴史問題等、政府の批判につながる可能性のあるトピックをカバーすることを避けようとしていると私に言いました。ある記者は、福島原発に関する記事を書いた後、降格され、給料を削減されました。」

5 メディア自らに連帯して抵抗する責任がある

「メディアは、その脆弱性に対して、かなりの部分の責任があります。もちろん、もし日本のジャーナリストが、職業的でメディア横断的な、そして独立し、互いに連帯できる機関を持っていたなら、政府の影響に対して、容易に抵抗することができたでしょう。しかし、そのようなものはありません。いわゆる、「記者クラブ」システム、プレスクラブは(所属する者の情報への)アクセスに役立ち、フリーランスとオンラインジャーナリズムに不利益をもたらし、(彼らを)除外することに役立つだけです。」

「メディアの経営者は、政府の高官と緊密な関係を築いています。そこでは、規制する側と規制される側が、東京のレストランで一緒に食事を楽しみます。そして、まだ、主流派のジャーナリストとフリーランスのジャーナリストをともに結集するような幅広い協会[7]は存在せず、共通の目的のため、連帯し擁護していく可能性も限られています。更に、プレスの評議会として、独立して、ジャーナリズムのすべての領域について自主規制しようというものも存在しません。代わりに、ジャーナリストは、彼らの声を上げ、彼らを保護するための独立した機関を欠いているために、経営者からの報復があるのではないかと恐れ、匿名を条件に私と話さなくてはならないと感じています。」

6 自民党憲法改正草案への危惧

「これらの懸念の複合体は、しばしば見落とされているのですが、自由民主党が起草したと報道されている憲法改正案は、憲法21条において「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」という改正を含んでいます。

この広範な制限を可能とするただし書きは、自由権規約第19条と矛盾し、表現の自由とは相容れないと思われます。メディアにいる人たちが、この改正は、自分たちに向けられていると信じていることには根拠があります。」

7 メディアの独立性の回復のために、政府、メディアそして市民が取り組むべきこと

ケイ氏の指摘した改善のためのポイントをまとめると次のようにまとめられるでしょう。

①  放送法4条の削除と放送に対する規制権限を総務省から政府から独立した機関に移すこと

②  NHKの人事権が政府に委ねられ、予算についても国会によってコントロールされている実情を変えることです。この点は、もともとNHKの経営委員の人事は国会における慣習として国会における与野党の同意人事とされてきました。安倍政権は、公正な人事のために不可欠な前提であったこの長く続いた不文律を反故にし、自らの個人的な友人を経営委員に任命するという偏頗な人事を強行してきました。この点を元に戻すことも極めて重大な課題の一つです。

③  ジャーナリストが政府に抵抗し、圧力を跳ね返すための連帯と共同のための組織を作ること

④  自民党改憲草案に基づく表現の自由に対する制約を認めないこと

この所見の持つ意味については、最後にもう一度検討することとします。

第4 特定秘密保護法

1 メデイアの萎縮につながっている秘密保護法

こうした環境下で『特定秘密保護法』は、実施の初期段階ながら、重大な社会的関心事のメディア報道を委縮させる効果を生んでいるとケイ氏は述べています。

「すべての政府は、国家安全保障と公共の安全に不可欠な情報の保護を確保しなければならず、また、情報アクセス権を保証するメカニズムを国民に提供しなければなりません。日本の法律では、情報公開法を含む、国民の知る権利を保護するための仕組みがあります。しかし、特定秘密保護法(「秘密保護法」)は、情報公開から必要以上に情報を保護しており、原子力発電、国家安全保障、防災など、公共の利益の分野において、国民の知る権利を危機的な状況にしています。私の前任の特別報告者は、自由権規約委員会と同様に、秘密保護法の採択プロセスや国民の知る権利に対する制約について懸念を表明しました。私は、次の事項に関して政府高官に問題提起をしたところ、彼らは、寛大に時間をかけて誠実に秘密保護法の必要性を説明してくれましたが、私にはまだ懸念が残っています。」

このように、今回の所見は政府関係者による時間を掛けた説明と討論に基づいて専門家が作成したものであることがわかる。

2 秘密指定の要件が限定されていない

「まず第一に、自由権規約委員会の2014年の定期審査でも指摘されていますが、秘密保護法は、私の見解では、秘密指定ができる事実、もしくは、秘密指定をする前提条件について、適切な規定がなされていません。政府の運用基準では、情報を秘密として指定できる4つの特定のカテゴリー(国防、外交、特定有害活動の防止、テロ活動防止)について明らかにしようとしており、私はその努力を評価します。しかし、特定のサブカテゴリーは、過度に広範なままです。私は政府に対して、公開されても日本の国家安全保障を危うくすることがないような秘密が特定秘密に指定される可能性がないよう、継続的な努力と警戒を促します。」

3 ジャーナリストと情報ソースの処罰が避けられない

「第二に、秘密保護法は、ジャーナリストや情報ソースに、刑事処罰を受けるリスクを課しています。秘密保護法第22条が表現の自由に配慮していますが、その評価は「何もないよりまし。」と言う人もいます。しかし、結局は、法律家ではないジャーナリストに対しては、未だ懸念を持たせる可能性を残しています。当局者は、第22条での「専ら」という用語は、「主に」という意味で解されるべきとしていますが、私は、権限に秘密を公開した場合、政府が第22条をどのように解釈するのかという点については懸念を拭えません。さらに同法は、記者が秘密情報へアクセスを試みた場合、「極めて不当な手段」を採用したとみなされなかった場合には保護されるとしています[8]が、その具体的なところはきちんと定義されないままです。」

「私は、政府が秘密保護法第25条の過酷な罰則をジャーナリストへ適用することを意図していないと政府高官から聞いて喜んでいましたが、そうであれば秘密保護法は、萎縮効果を排除するためにそのように改正されるべきです。私はまた、ジャーナリストによって意図せざる情報公開が行われた場合、その情報が公共の利益になるとき、かつ、善意で取得されたものであるとき、かつ、合法的な報道目的で取得されたときは、処罰されないということも政府高官から聞いて理解しました。しかしながら、自由権規約委員会の勧告を踏まえると、私は、政府に対して、ジャーナリストであれ公務員であれ、誰でも、国家安全保障に害を与えず公共の利益に資する情報を開示した場合は、処罰されないことを保障する例外条項を明記するよう奨励します。」

4 不十分な内部告発者の保護

「第三に、不適切な指定がなされた場合に適用できる保護は別として、内部告発者の保護制度が、一般的に弱いように見えます。これは、特に公益通報者保護法と秘密保護法との相互関係において、どのような取り扱いがなされるのかが不確実のままです。しかし、最低限、特定秘密にアクセスを許可された人が開示した場合の処罰規定において、情報公開が公共の利益になり、かつ、日本の国家安全保障を危うくしないと真摯に確信して情報をリークした個人は罰しないという例外規定を含める必要があります。」

5 監視メカニズムに独立性が欠如している

「第四に、秘密保護法によって設置された監督メカニズムは、独立性が十分でなく、秘密指定が適切かどうかを決定するための情報へのアクセス権も十分に保障されていません。国会の常任委員会[9]は、行政部門を外から監督する機関(私は、そのメンバーに会うために努力しましたが失敗しました。)ですが、政府は、特定秘密に、国会の常任委員会がアクセスすることを許可するかどうかについて裁量権を持っています。したがって、常任委員会は、ある情報の特定秘密指定が適切かどうかを決定するために十分に具体的な情報を与えられなかったようです。更に、委員会の勧告は、本質的に拘束力がありません。衆議院は、政府に対して説明責任を向上させるように要求しましたが、私としては政府に対して、専門家による独立した監視委員会を設置して、この目標を追求することを奨励します。」

6 暫定所見に従って、政府は特定秘密保護法を抜本的に改正する作業に着手せよ

ケイ氏による提言をここにまとめておきます。

①  秘密の定義が広範に過ぎ、適切に限定されていないこと、

②  ジャーナリストに対する保護規定(同法22条)は不十分であり、公益のために秘密を開示したジャーナリストや公務員を処罰の対象から除くこと、

③  特定秘密についても、公益通報した者が刑事罰から保護されるように法を改めること、

④  特定秘密の指定と解除について法が設立した監視のメカニズムが十分に独立性のあるものとなっていないこと、とりわけ国会内の情報監視審査会の勧告に拘束力がないこと

これらの指摘は市民団体や日弁連が同法の成立前から指摘してきた法の問題点の指摘とも一致するものです。ケイ氏のフルレポートが公表されれば、次の人権理事会におけるUPR審査(普遍的定期審査)では、多くの国々からこの所見の実現を勧告されることとなるでしょう。政府は国連人権理事会での勧告を待つまでもなく、この所見に基づく秘密保護法と関連する情報公開法、公文書管理法、公益通報者保護法などの法改正の準備を始めるべきです。

第5 歴史に関する教育と報道への干渉

1 植村隆・元朝日新聞記者に対する脅迫

ケイ氏はメディアの内容に対する政府のものの見方の影響は、歴史的な事実にまで広がっていることを指摘しています。

「私の訪問中、第二次大戦中の慰安婦問題に関して、二つの状況を知りました。2014年の人権委員会(の勧告)を含む国際人権機構が、日本に対して、繰り返し、その問題を回避しないで対応するように求めてきました。これは、メディアの自由と知る権利の双方を含む表現の自由に関する問題の一つです。」

「まず、最も初期に、韓国で慰安婦の取材を行った日本のジャーナリストらのうちの一人である植村隆氏に対する嫌がらせです。朝日新聞が他の記者らが書いた一連の記事[10]に関して攻撃に直面し、植村氏は、その朝日新聞のジャーナリストとしてのポジションから離れました。しかし、この攻撃を受けた一連の記事について、植村氏は関与していません。朝日新聞は後に他の記者らが書いた慰安婦に関する一連の記事を撤回しましたが、植村氏の記事は(撤回されず、残っています。)。それにもかかわらず、朝日新聞退職後に植村氏を受け容れた大学[11]は、彼を解雇するよう圧力を受け、外部の個人から、彼や、更に彼の娘までもが、暴力、性的暴力や死さえも含む暴力を加えるという脅迫を受けました。植村氏は、警察の保護を受け、いくつかの権限ある当局が大学の立場を支持しましたが、このような事態は、ジャーナリストとして根本的な仕事をするための植村氏の権利を保障する権限ある当局から、はるかに強い非難が行われるに値するものです。」

多くの人権条約機関が慰安婦問題への対処を繰り返し日本に要求してきました。にもかかわらず、この問題を報道した朝日新聞の元記者である植村隆氏と所属する大学、家族までが脅迫されているにもかかわらず、政府による保護が不十分であると指摘しています。

2 教科書から慰安婦問題に関する叙述が削除されている

「「慰安婦」問題も、権限ある当局による学校の教科書の準備の過程において、政府の影響のもとにおかれています。私は、文部科学省の教科書部門の高官と会いました。そこで、私は、教科書評議会(教科用図書検定調査審議会のこと)のメンバーは文科省により最終的に任命され、指定された基準に基づいて教科書を評価することを知りました。

文科省では、いくつかの高校の世界史の教科書に慰安婦問題の記述があると述べました。外部の専門家らは、私に日本史を義務教育として教えないといけない中学校の教科書からは、慰安婦問題の記述が編集され削除されたと教えてくれました。」

「一つの例では、「慰安婦」という記述がある場合であっても、「政府は、女性を強制連行した事実はないという見解である。」という責任を否認する文言が、政府のとっている逆の見解を示しています。」

「政府が教科書において第二次世界大戦で行われた犯罪の現実がどのように扱われるかについて影響を与えることで、人々の知る権利及び過去を把握し理解する能力が阻害されています。」

「政府は、歴史的な事実の解釈に干渉することを止めるだけでなく、このような重大犯罪を人々に知らせるための努力を支援すべきです。最初のステップは、教科書評議会(教科用図書検定調査審議会のこと)から、政府からの影響を排除できるように考え直すことを含むものと考えられます。」

さらに、日本は過去の歴史についての議論を制限し、従軍慰安婦への言及は、中学校で必修科目である日本史の教科書から削除されつつあるという具体的な事実を指摘し、若い世代が歴史について正確な知識を持つことを阻まれ、国民が日本の過去の問題に取り組み理解する力を低下させていることを、重大な知る権利への制限であると指摘しているのです。

第6 差別とヘイトスピーチについて

1 まず差別行為を規制する法の制定を

ケイ氏は国会を訪れ、法務委員会の委員と面会し、ヘイトスピーチの法規制に関する継続中の議論への関心を示しました。

「近年、日本は、マイノリティーに向けた憎悪的表現の急増に直面しています。差別行為が問題の根本ですが、まだ、日本では、差別行為と闘うための包括的な法律がありません。2014年の人種差別撤廃委員会や今年3月の女性差別廃止委員会が、日本に対して、差別禁止法制の採用を勧告しました。この差別禁止法制が、このような憎悪的表現に対応するための極めて重要な第一歩です。すなわち、日本は、広く適用可能な差別禁止法制を採用しなければなりません。ヘイトスピーチ問題に対する最初の回答は、差別行為を禁止する法律を備えることです。それが実現すれば、憎悪的表現に反対する政府の広範な活動、すなわち憎悪に反対する教育や公的勧告等ですが、それらが差別に対する戦いにおいて真の影響力を持つことができます。」

「私は、国会の法務委員会委員と会い、少数派に対するヘイトスピーチを戦うための法案作りについて学ぶ機会を持ちました。私は、委員会メンバーが、弱者に有害なスピーチを止めさせることと表現の自由の尊重の間で、彼らが、慎重にバランスをとろうと努力していることを賞賛します。私は、法案が、表現を犯罪とはしない一方で、ヘイトスピーチを受け入れない文化を作成するためのステップであると思います。それは、ヘイトスピーチを予防し排除するもので、私は、教育と(差別に)反対するスピーチに焦点を当てた取り組みをすることを奨励します。」

2 傾聴すべき人種差別禁止法の先行プラン

ケイ氏は、差別禁止法によって人種差別の包括的な禁止を法制化することを優先させるべきであるとしました。ヘイトスピーチに対する答えは、まず、差別行為を禁止する法律を制定したあとで考えるべきだとしているのです。ヘイトスピーチに対する刑事規制については、レポートは明言していません。ヘイトスピーチに対する刑事規制は表現の自由に関する過剰な規制を招きかねないことが指摘されてきました。私自身は人種差別的暴力を誘発させる現実的な危険を含む言論は刑事法的に取り締まるべきであると考えていますが、現在の日本の政治状況も踏まえて、まず人種差別禁止の法制の整備を促した今回の所見の戦略は、私たちの取り組みの方向性とその順番、法戦略について、貴重な示唆を与えてくれるものです。

第7 デジタルの権利

1 インターネットにおける自由

ケイ氏は、インターネットにおける自由の領域では日本の状況について高い評価を示している。

「私は、インターネットにおける自由の領域において日本が示しているモデルがいかに重要であるのかという点を強調したいと思います。日本は、インターネットの普及というレベルでは高度な状態にあり、日本政府は、コンテンツ内容の制限に踏み込んでいません。ディジタル情報の自由(digital freedoms)への干渉がとても低いレベルにあることは、日本政府が表現の自由にコミットしていることを示しています。」

インターネットの自由に対する規制が世界各地で強められている中で、日本の状況は守るべき点を残しているという見方は、重要な指摘です。

2 通信傍受法の拡大について

ケイ氏は政府が提案し、国会で審議中である通信傍受法の改正・拡大についても次のように言及しました。

「日本政府は通信傍受に関する法案を立案し、サイバー・セキュリティ(cybersecurity)への新しい取組を考えていますが、私が希望するのは、自由の精神、通信の安全確保(communication security)およびオンライン上の技術革新などが、このような規制の試みの中核部分において保持されることです。国会がこのような試みに関して公開の討論を行うことは重要であり、かつ、法律がプライバシーの権利や表現の自由を保護するさまざまな基準を尊重することが重要です。法律は、国家による通信に対する監視が、最も例外的な状況の下においてのみ、かつ、独立の司法機関の監督の下でのみ行われるということを明記しなければなりません。とりわけ、法律は、いかなる電子的な又はディジタルの監視であっても、少数派集団を標的にしたり、監視したりするなどの差別的運用が行われないことを確保する基本原則に忠実であるべきです。」

所見は、通信傍受は例外的な措置でなければならず、独立の司法機関による監督が不可欠であることを指摘しています。ところが、現在提案されている刑事司法改革関連法案では、傍受対象の犯罪に、窃盗、詐欺、傷害や児童ポルノ規制などが含まれ、通信傍受の制限的な運用となっていた通信事業者の立ち会いもデータの暗号化によって省略できることとされています。例外的な状況に限定されていた制度の運用が爆発的に拡大するおそれがあるのです。このまま、この法案を成立させてはなりません。

第8 選挙運動に対する制限

選挙運動に対する制限は、2008年にも自由権規約委員会によって取り上げられていたテーマです。ケイ氏は、次のように述べています。

「私は、調査活動中、選挙運動に対して長年にわたって制約がなされてきたとの懸念をくり返し聞きました。政府は、公衆が候補者の情報にアクセスする能力を向上させ、国民が政治に十分関与できるようにする上で明らかに重要なインターネットでの選挙運動に対しては制約を適用していません。」

「しかしながら、公職選挙法は、通常の選挙運動に制約を課すことを続けています。自由権規約委員会は、日本が公共の福祉を守るためであれば(表現の自由を制限できる)という前提で、表現の自由や公共の事項に関する行動に参加する権利を弱体化させていることから、日本に対して、選挙運動における不合理な制約を課す法律を廃止するよう注意を呼びかけています。選挙運動に対する規制は、選挙手続において開かれた表現空間を確保するためには許されるとしても、現在の規制は、過剰であり不均衡と思われます。」

第9 公共のデモ行進による表現の自由

1 抗議活動に対する過剰な規制

「日本には公共のデモ行進という強力で素晴らしい文化があり、これは、時には路上での静かな抗議行動であったり、時には鳴り響くメガホンで実際より膨らんだ小規模な行進であったりします。国会に対する抗議に数万人が参加したことはよく知られています。とはいえ、活動家の中には、抗議行動に対して不必要な規制があったり、抗議行動の参加者を記録したり、政治的には右の立場から抗議行動に干渉する人たちを押さえられなかったり、イスラムコミュニティに対する監視の主張などの点について懸念する声があります。私との開かれた討論に参加した警察庁の担当者と私は、このような懸念を共有することができました。私は、これらの問題をフォローし、公共の抗議行動のための完全な表現空間を認めるために日本が行ったコミットメントについて、今後も対話を続けていくつもりです。」

2 沖縄の状況

「私はまた、とりわけ沖縄における海上保安庁と公共の抗議行動との関係についての懸念を共有しました。昨年、私は、沖縄における抗議行動に対して過大な規制が行われているとの主張に関して私が抱いた懸念を、すでに関係機関に伝えていました。行き過ぎた実力行使がなされ、多数の人々が逮捕されたという点について信頼のおける報告を聞いています。私が特に懸念を抱いたのは、抗議行動の参加者を録画していた複数のジャーナリストに対して実力行使がなされたという点でした。国家の安全保障を確保するためには一定の範囲において制約を実施することが必要となりますが、行き過ぎた制約を避けるためには、慎重な審査手続が実施されなければなりません。この点についても、私は、沖縄での状況を注意深くフォローし、かつ、沖縄における平和的な抗議行動を認める表現空間を促進するために必要に応じて私の懸念を表明するつもりです。」

第10 表現の自由・特別報告者の画期的な暫定所見を契機に表現の自由を回復しよう

1 国連の条約機関が取り上げてきた日本の表現の自由に関する問題

国連の条約機関や特別報告者制度、人権理事会はたびたび日本の人権問題を取り上げてきました。しばしば取り上げられてきたテーマは、死刑制度、代用監獄システム、慰安婦問題、女性差別、外国人に対する差別、難民などの諸問題でした。

表現の自由に関して取り上げられてきたテーマは、選挙法における過剰な規制や市民によるビラ配布に対する刑事処罰の問題が、自由権規約委員会の2008年第5回審査の際の最終見解において取り上げられたのが最初でした。最終見解は次のように述べていました。

「委員会は、公職選挙法による戸別訪問の禁止や選挙活動期間中に配布することのできる文書図画の数と形式に対する制限など、表現の自由と政治に参与する権利に対して加えられている不合理な制限に、懸念を有する。委員会はまた、政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に、懸念を有する(規約19 条、25 条)。

締約国は、規約第19 条及び25 条のもとで保障されている政治活動やその他の活動を警察、検察及び裁判所が過度に制限することを防止するため、その法律から、表現の自由及び政治に参与する権利に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである。」(26項)

2014年の自由権規約委員会の第6回審査の際の最終見解においては、「公共の福祉」を理由とした基本的自由の制限の問題が取り上げられ、「委員会は,「公共の福祉」の概念が曖昧で制限がなく,規約の下で許容されている制限を超える制限を許容し得ることに,改めて懸念を表明する(第2条,第18条及び第19条)。

委員会は,前回の最終見解(CCPR/C/JPN/CO/5, para. 10)を想起し,締約国に対し,第18条及び第19条の各第3項に規定された厳格な要件を満たさない限り,思想,良心及び宗教の自由あるいは表現の自由に対する権利への如何なる制限を課すことを差し控えることを促す。」としました。ここでは、日の丸君が代の強制問題が明示はされていませんが、言及されているものと思われます(22項)。

さらに、特定秘密保護法に関する問題が新しく取り上げられました。秘密保護法については、ドイツのアンヤ・ザイバート・フォー委員が、詳細に質問しました。またロドリー議長から「そもそもどういう問題が起きたから特定秘密保護法が必要ということになったのか」という立法事実を問う質問がなされました。これに対して日本政府は、法全体の英訳を委員会に提供し、一部の答弁は英語で、今回の立法は欧米なみのものであり、恣意的な運用はされない、報道目的の情報取得は処罰されないなどと回答しました。このような審査を経て、委員会は、勧告23項において、規約19条にもとづいて、「委員会は,近年国会で採決された特定秘密保護法が,秘密指定の対象となりうる事項の定義が曖昧かつ広汎であること,秘密指定の要件が漠然としていること,及びジャーナリストや人権活動家の活動に対して萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されていることに懸念を有する。」としたうえで、「締約国は,特定秘密保護法とその運用が,自由権規約19条の厳格な要件に合致することを確保するため,あらゆる必要な措置を取らなければならず,特に次の事項が保障されなければならない。

(a) 特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されること,かつ,情報を求め,受け及び伝える権利に対するいかなる制約も,国家安全保障に対する特定かつ同定可能な脅威を防止するためのものであって,法定性,比例性及び必要性の原則に合致するものであること

(b) 何人も,国家安全保障を害することのない正当な公共の利益にかなう情報を拡散・頒布したことについて罰せられないこと」を具体的に勧告したのです(23項)。

さらに、24項では福島原発事故の問題が取り上げられ、「委員会は,福島において締約国が設定した公衆の許容被ばく限度が高いものであること,及び避難区域の一部が解除される決定がなされたことによって,人々が放射能で高度に汚染された地域に帰還する以外の選択肢を与えられないことに懸念を有する(6条,12条及び19条)。締約国は,福島原発災害によって影響を受けた人々の生命・生活を保護するためあらゆる必要な措置を講じ,かつ,放射線のレベルが住民にリスクをもたらさない場合に限って,汚染区域として指定されていた避難区域の指定を解除すべきである。締約国は,放射線量のレベルを監視し,かつ,このような情報を時機にかなった方法において,原発災害の影響を受けている人々に開示すべきである。」としています。

2 秘密保護法について自由権規約委員会の勧告を一歩進めた暫定所見

この自由権規約委員会の最終見解とケイ氏の暫定所見を比較すると、秘密指定される情報の厳格な定義と公共の利益にかなう情報を提供した者を刑事処罰から解放することは共通していますが、ジャーナリストに対する保護規定(同法22条)は不十分であり、公益のために秘密を開示したジャーナリストや公務員を処罰の対象から除くことを明記したこと、特定秘密についても、公益通報した者が刑事罰から保護されるように法を改めることも明記されたことが特筆されます。さらに、特定秘密の指定と解除について法が設立した監視のメカニズムが十分に独立性のあるものとなっていないこと、とりわけ国会内の情報監視審査会の勧告に拘束力がないことを指摘した点は重要です。最後の点は自由権規約委員会の勧告内容には盛り込まれていなかった勧告であり、特定秘密保護法が市民の知る権利を決定的に損なうものに発展してしまうかどうかのカギを握るポイントであると考えます。

我々は、この勧告の実現を政府に強く働きかけ続けなければなりません。

3 メディアの政府・スポンサーからの独立性を確立するために

メディアの独立性を確保するための勧告が国連関係機関から日本政府に対して行われたのは、今回が初めてのことです。

実は、日本弁護士連合会は、ケイ氏の来日中であった2016年4月14日に「放送法の『政治的公平性』に関する政府見解の撤回と報道の自由の保障を求める意見書」を取りまとめ、2016年4月27日付けで総務大臣に提出しています。この意見書は、「1 政府が放送事業者の放送番組について、放送法4条1項2号の「政治的に公平であること」の該当性を自ら判断し、その判断に基づいて放送事業者に対する行政指導や電波法76条に基づく無線局の運用の停止等の処分を行うことは、放送による報道の自由を侵害するものとして許されない。

2 政府は、上記に反する見解を撤回し、放送局の自律的な取組によって放送倫理が確立されることを尊重すべきである。」というものです。

この見解は、放送法4条1項2号の「政治的に公平であること」は、法規範性を持たないというBPOも採用している通説的な見解に立脚したもので、ケイ氏の見解とも共通するものですが、ケイ氏の見解は、このような誤った見解を導く危険性のある放送法4条そのものの削除、さらには放送規制権限を総務省から政府から独立した機関に移すべきとした点で、より進んだ内容であると評価することができるでしょう。

NHKの経営委員の人事を政府ができ、予算についても国会で審議される点が問題としている点も重要な指摘です。

さらに、特筆すべきことは日本におけるメディアが政府との適切な対抗関係を維持し、共同して政府からの圧力と闘わなければならないとした点です。この点はとても大切な指摘です。いま、世界を揺るがせている「パナマ文書  PanamaPapers」の報道は、全世界で100を超える報道機関の連携作業となっています。関わったジャーナリストは約400人で、全体を仕切ったICIJ (the International Consortium of Investigative Journalists) が「勝手のわからない外国のことは、その地の報道機関・ジャーナリストに任せよう」という方針で、この「特大リーク」に臨んだのです。

少し前のエドワード・スノーデン氏によるアメリカの国家安全保障庁(NSA)のプリズムなどのシステムの内部告発報道は、アメリカの個人ジャーナリストのグリーンウォルド氏とイギリスの新聞ガーディアン、さらにはアメリカの新聞ワシントン・ポスト、CNNなどが、共同してスクープを展開し、ジャーナリストに対する弾圧の危険を分散し、回避することに成功しました。

日本においては、朝日新聞の慰安婦報道と福島原発事故吉田調書報道の際に、メディアがメディアをバッシングする異常な展開となりました。メディア間の会社の枠を超えた連帯の復権、そのための具体的な手段と言うべきジャーナリストのユニオンの設立、記者クラブ制度の撤廃などを強く訴えた点においても、ケイ氏の暫定所見は極めて適切であり、深い内容を持つものだったといえるでしょう。

このメディアの独立性をめぐる勧告こそが、ケイ氏の今回の公式調査において、もっとも時間を掛けて調査がなされ。重要なメッセージが込められているといえます。

筆者プロフィール

1981年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。2010年から2012年まで日弁連事務総長、日弁連刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行、日弁連自由権規約WG座長、監獄人権センター代表、秘密保護法対策弁護団共同代表、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、原発情報公開弁護団代表。


 

[1] http://www.unic.or.jp/news_press/info/18693/

[2] この仮訳にあたって、野津孝義弁護士の作成された訳、新倉修教授の作成された部分訳を参考にさせていただいたが、本書面における翻訳の責任は私と小川隆太郎弁護士の二人にある。

[3] http://logmi.jp/139415、http://logmi.jp/139875、http://logmi.jp/139768、http://logmi.jp/140667

[4] http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/SP/Pages/Welcomepage.aspx

[5] http://www.unic.or.jp/news_press/info/18693/

[6] ここに言及されているのは、2016年3月末に、NHKクローズアップ現代の国谷裕子キャスター、テレビ朝日報道ステーションの古舘伊知郎キャスター、TBSのニュース23の岸井成格キャスターが同時に番組を離れたことを指しています。

[7] このunionは労働組合ではなく、報道協会のようなメディア横断的なジャーナリスト組織のことである。

[8] 特定秘密保護法22条は、「著しく不当な方法によるものと認められない限り」と定めています。

[9] 情報監視審査会のことを指しています。

[10] 吉田証言に関する報道のことです。

[11] 北星学園大学のことです。

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