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再論:“改憲隠し”のまやかし

寄稿:飯室勝彦

2016年5月15日

2016年7月に行われる参院選が近づくにつれ、改憲論を引っ張ってきた内閣総理大臣、安倍晋三の口から「憲法改正」の言葉があまり出なくなった。選挙の焦点は、自民、公明の与党が改憲発議に必要な「3分の2以上」の議席を得られるかどうかなのに、自民党執行部は改憲についての論議を選挙前は封印することを決めた。

改憲を断念したわけではない。議席獲得のためには詳しい改憲論議は不利という計算からだ。いわば改憲のために改憲論を隠して国民の目を欺くまやかしである。

安倍は「改憲を在任中に成し遂げたい」と明言している。具体的な改憲内容について「わが党は新憲法の草案を示している」と胸を張る一方で、「どの条文から変えるか国会の憲法審査会で議論がまとまることを期待している」とも言ってきた。

ところが5月12日、自民党憲法改正推進本部長の森英介、衆院憲法審査会会長、保岡興治、幹事長の谷垣禎一らは改憲項目に関する議論を選挙後に先送りすることを決めてしまった。参院憲法審査会での議論も停滞し、自民党内の議論も低調だ。

森らは「選挙前では冷静な議論ができない」などと言うが、本音は選挙対策であることが明らかだ。

安倍と自民党は政権を握っているメリットを最大限に生かし、熊本地震の復旧、保育所の拡充、同一労働同一賃金の実現など分かりやすい政策、施策を次々繰り出して存在感を示している。そのためか世論調査では依然として内閣支持率は40%前後を維持している。

しかし改憲に関しては反対ないしは懐疑論が賛成を上回る。特に安倍が反故にしたい第9条は存続論が圧倒的だ。

こんな情勢下で具体的な論議をすれば、改憲が争点として有権者に強く意識されるだろう。自公両党で「3分の2超」獲得には今度の選挙で85人が当選しなければならず、現実問題としてはかなりハードルが高い。

「それなら沈黙した方が得策」という計算だ。

安倍の任期は2018年9月まで。2年余しか残されていない。任期内の改憲実現のためには今度の選挙はまさに正念場だ。

にもかかわらず、憲法のどこをどう変えるのか具体的イメージを示さないで有権者に改憲の是非を問う安倍や自民党のやり方は、商品をきちんと見せないで売りつけようとする商法に似ている。童話に登場する、牙を隠して甘言でヒツジを誘うオオカミのようでもある。

改憲隠しに国民が安心ないしは油断した結果として自公で「3分の2超」になれば安倍政権は牙をむくだろう。

それでは改憲発議に必要な「3分の2超」の議席さえ与えなければ憲法を守りきれるのか。安倍政権の過去の振る舞いを見ると疑問だ。過半数を握っている限り憲法無視の暴走を続けるだろう。安倍政権と自公両党に決定的打撃を与えなければならない。

誤解を恐れずに言えば、こんな情勢だからこそジャーナリズムは数量的な公平、形式的な公正にこだわってはならない。

権力者として、あるいは行政の最高責任者としての安倍の言動を詳しく報道するのは当然としても、それらには選挙運動の側面があったり、選挙に好結果をもたらしたりしていることに留意しなければならない。

サミット、オバマ米大統領の広島訪問に同行など派手な外交行事も続く。安倍にとっては日々の行動が実質的な選挙活動のようなものだけに、報道する側の視点や姿勢が問われるのである。

同じように政党の動向も、事実だけでなく背後に潜んだ思惑を分析してきちんと伝えなければ有権者、国民の判断、選択を誤らせる。

客観報道とは「見たまま、あったまま」報道ではない。「公平、公正」とはどっちつかず、責任放棄の姿勢を言うのではない。物事に対して多様な角度から光を当て掘り下げることから客観的で公正な報道が生まれるのである。

その時、軸足を憲法、統治者より被統治者、権力者より弱者の方に置くべきことは言うまでもない。

現状は安倍政権の攻撃もあってマスメディアの萎縮が著しい。テレビニュースは表面をなぞるだけの「あったまま」報道が目立ち、各局が安倍に媚びるかのように単独出演を競っている。政権に辛口のキャスター、アンカーは次々降板していった。

新聞の批判力も弱まった。深層をえぐるような鋭い記事は紙面から消え、活字離れを意識した読み物が幅をきかせている。

一国の首相が議会で虚偽の事実を材料に特定の新聞を攻撃しても、テレビの所管大臣がやはり国会で停波の脅しをかけても、安倍応援団のようにみえる団体がテレビスポンサーへの圧力をほのめかしても、マスメディア組織や幅広いジャーナリストが団結して闘う動きは生まれなかった。

あらゆる人権がそうであるように表現、報道の自由も闘いなくしては守れない。報道の自由が「情報を受ける自由」と裏表であることを考えると、メディアには受け手のために闘う責務もある。

先進国最下位の61位。「国境なき記者団」による報道自由度ランキングで日本のマスメディアはその責任を問われたのではないか。

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