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【NPJ通信・連載記事】選挙へ行こう~自民党改憲草案と参議院選挙@2016

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民主主義を殺させない

寄稿:飯室勝彦

2016年6月23日

選挙の前には国民に不人気な問題を隠し、選挙後は「信任された」と突っ走るのが安倍政権の常套手段。特定秘密保護法、安保関連諸法などもそうやって強引に成立させた。

今度の参院選では「改憲」を隠している。公約の正面に掲げず、「私の在任中に成し遂げたい」と言っていた、同党総裁であり内閣総理大臣の安倍晋三も演説では触れない。

朝日新聞と東京大学・谷口将紀研究室の調査(2016年6月21日付け朝刊)によると、自民の候補は全員が改憲に賛成しながら、今回の選挙で重視する上位3つの政策のうちに「憲法」を選んだ人はゼロだ。

だが頭隠して尻隠さず、改憲の時期は自民候補の67%が「次の任期中」「どちらかといえば任期中」と答えた。安倍もネットで「次の国会で議論する」と発言した。

改憲の意図を隠して批判をかわし、選挙後には改憲に拍車をかけようという本音が透けてみえる。主権者を欺く不誠実な態度だ。

 

熱湯の中にカエルを入れると驚いて飛び出すが、水に入れてゆっくり温めると飛び出さずにゆだってしまうという。繰り返される安倍流手法に慣れると、はじめの違和感がなくなり当たり前のようになりかねない。

「熱狂なきファシズム」という評もある現状から脱するために、何が隠されているか、権力の本当の狙いは何かを見極め、はじめに抱いた違和感を忘れないで一票を有効に活用しなければならない。

 

ネットでの安倍発言には争点隠しとは別の問題も含まれている。発言骨子はこうだ。

「次の国会から国会の憲法審査会を是非動かしていきたい」「どの条文をどう変えていくかしっかり議論しながら、いい条文を作っていきたい」「決めるのは国民投票、国会議員は発議をする。発議のために憲法審査会で議論するのは当たり前だ」

 

まず「どの条文を……」発言は、必要性あっての改憲ではなく「とにかく改憲ありき」という安倍の狙いを物語っている。憲法を変えるのなら、直面する問題に対処するには改憲以外に方策がないかどうかを徹底的に議論することが必要なはずだ。

それをしないで「どこを変えるか議論する」というのでは切迫した改憲の必要性がないことを認めたも同然だ。もちろん安倍の本当の狙いは第9条の骨抜きだが、支持されないと分かり、とりあえず批判の少なそうな部分に手を付けて風穴をあける作戦に転じた。

その手段として選んだのが緊急事態条項だ。人権を無視してファシズム再現につながりそうなことを隠すために、東日本大震災、熊本の大地震などを利用して「国民の生命、財産を守るために」と甘い言葉を並べている。

北朝鮮の不安定、中国の軍拡を宣伝して安保法制の必要性を強調した手法と同じだ。

 

次に指摘したいのは「決めるのは国民投票、国会議員は発議をする」という発言の危険性だ。国会議員には改憲発議について自由裁量権があり、3分の2超の勢力さえあればどんな内容でも発議できるかのようだ。

憲法第96条は「各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議」「国民投票の過半数の賛成」と改憲のためのハードルを二つも用意している。いずれもかなり高いのは「改憲は慎重なうえにも慎重に」との趣旨だ。

憲法が改憲条件を厳しくしている趣旨を考えると、発議を国会議員の自由意思に任せるわけにはいかない。発議に備えた議論、提案も主権者の監視、チェックのもとで行われるのが当然だ。

憲法のどこをどう変えたいのか、なぜ変える必要があるのかなど、開かれた議論をしたうえで発議の前に堂々と公約に掲げて信を問うべきだ。それなしに選挙後に「信任された」と走り出すのは政治的詐欺とも言えよう。

 

安倍政権は選挙を通じて権力を握り、形式的には「民主的」な手続きを通じて教育基本法の改悪など復古的施策を進め、安保法制で第9条を実質改憲した。いまや憲法全体の解体、戦前回帰を狙う段階に来ている。

政権と足並みをそろえる右派グループ「日本会議」も署名運動、地方議会への請願、地方運動組織の結成など「民主的」手法で改憲の機運を盛り上げている。

皮肉な言い方をすれば、民主主義が民主的に殺されようとしている。

 

人類は議会という民主的手続きを経てナチス流ファシズムを誕生させた苦い過去を有している。軍国主義下の日本でも市民は必ずしももっぱら被抑圧者だったわけではない。無関心、あきらめ、慣れによる寛容などが軍の暴走を許した面もある。

民主主義を殺すも生かすも市民次第、安倍政権の意図を見破り暴走を止めるチャンスが目の前にある。(敬称略)

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