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【NPJ通信・連載記事】選挙へ行こう~自民党改憲草案と参議院選挙@2016

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課題設定はメディアの使命

寄稿:飯室勝彦

2016年7月1日

議員選挙における課題の設定権を権力側に握られると民主主義が危うい。主権者の意思が十分反映しない議会が成立し、議会の権力チェック機能は有名無実となりかねない。

2005年、小泉純一郎首相(当時)は衆議院を解散し、「郵政民営化の是非」と単一の課題を掲げた総選挙で圧勝した。2014年には安倍晋三首相が誰も正面きって大声で反対しにくい「消費増税延期」の是非を問うと主張し、衆議院で三分の二超の勢力を獲得した。どちらも課題を権力側が設定した選挙だった。
今回の参議院選でも情況は似ている。このままでは日本の歴史が逆流しそうだ。

どの世論調査でも改憲には慎重な声が多数派だ。特に安倍政権下での改憲に反対の人が多い。しかし、安倍内閣の支持率は依然として高く、参院選の情勢も自民、公明の与党が順調に議席を増やしそうだという。
この格差はどうしたことだろう。

背景の一つはしばしば指摘される「改憲隠し」だ。改憲に意欲を示す発言を繰り返してきた安倍は、選挙遊説などでは改憲に一言も触れない。「消費増税の再延期について信を問う」ともっぱら経済を語り「アベノミクスは成功している」と自慢する。
自民党幹事長の谷垣禎一は「われわれは(改憲発議が出来る)三分の二という数字に意味をおいていない」と強調し、改憲に注目が集まることを警戒している。
与党の公明党も改憲を語らない。

改憲を語らず経済で関心をひく与党のトリッキーな戦術に惑わされ、主権者らが政権の改憲意図をしっかり見抜けていないようにみえる。気づいても近未来の問題と認識できていない可能性がある。

背景として指摘できる二つ目は、「消費増税再延期で信を問う」という課題設定のまやかしである。
増税延期自体に真っ向から反対する人は滅多にいないだろう。
だが、増税延期でさまざまな難問が生じることは前回の延期の際にもしきりに議論された。財政再建はどうするのか、先送りしただけですむのか、少子高齢化で膨らむ一方の福祉の費用をどうやってまかなうのか……。具体的にはこの春、軽減税率論議の際に議論し積み上げてきた福祉充実策の公約破棄や、現行水準の引き下げも迫られよう。延期には“光”と“影”の両面がある。

ところが政権側は“影”について憲法同様に沈黙している。有権者に問うべき信は「消費増税延期の可否」という単純な図式ではない。「増税を延期するか否か、延期するとしたらそれによって生じる問題にどう対処するか」という複雑な方程式だが、政権側は問題を単純化してごまかしている。
苦い部分を隠し甘いところだけ見せて選挙に勝とうとするのは主権者を欺くものだ。

改憲隠し、まやかし争点が成功しているのか、各種情勢調査によれば、自公の与党が過半数を占めそうで、補完勢力のおおさか維新の会、日本のこころを大切にする党を合わせると三分の二に迫る勢いだという。

このまま安倍首相に課題設定権を握られたままでは、平和憲法を反故にしようとする安倍政治にますます拍車がかかるだろう。
早急に権力側の偽りを暴き、真の課題、争点を主権者らに提示しなければならない。マスメディアの奮起が望まれる。

マスメディア、ジャーナリズムは、情報を伝えるだけでなく、集めた情報を分析し、論評し、国民に判断材料を提供する使命を負っている。なかでも情況に多様な角度から光を当て、正しい判断の選択肢を示すアジェンダセッティング(課題設定)は極めて重要だ。

安倍首相の改憲志向は周知の事実だし、大企業を繁栄させ、おこぼれを下積みの人たちに分けるというトリクルダウン政策は、貧富の格差を広げただけだったことが明白だ。日銀が紙幣を刷りまくって国債を買いまくるなどの冒険的政策も空振り続きだ。
女性の活躍できる社会、同一労働同一賃金など一見リベラルな政策も、選挙に向け泥縄式に打ち出された実体の乏しいものだった。

問われるべきは、改憲、戦前回帰に執着する安倍の政治姿勢であり、アベノミクスなる経済政策である。いまさら情報を新たに収集するまでもなく、メディアは論じるべき材料を十分保有しているはずだ。
権力の言うがままを「争点」として報じるだけではジャーナリズムの使命放棄だ。
メディア、特にテレビから鋭い権力批判が消え、新聞の報道にもある種の遠慮がうかがえることが多い。
安倍首相の自民党総裁任期は2018年9月、首相の任期も通常はそこで終わるのに、安倍首相が設定した消費増税の新たな実施日はその1年後の2019年10月だ。それでも自分が責任を負えない時期までの先送りを約束する不自然さを指摘するメディアはない。
恫喝、懐柔など安倍政権によるさまざまなメディア対策の効果としか思えない。

こんどの選挙は日本と日本人の運命を決める重大な岐路である。マスメディアにかかわる一人ひとりが「あの時こうしておけば」と再び後悔しないですむように、ジャーナリストとしての使命を自覚して報道の使命を果たさなければならない。

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