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トルコで起きていること
 ――「緊急事態法制」の危険性

寄稿:飯室勝彦

2016年7月26日

2016年7月の参院選で改憲派勢力が三分の二を超えたことに勢いを得て、安倍晋三首相と自民党は秋に始まる国会で改憲論議を本格化する構えを見せている。

突破口として想定しているのは「緊急事態法制」を盛り込む改憲だ。東日本大震災、熊本地震など災害への対応を正面に出せば国民の理解を得やすいとの思惑がある。

しかし、テロ、クーデター未遂などが相次いだトルコでいま起きている事態は、この法制の危険性を物語っている。軍の一部によるクーデターを鎮圧した後、エルドアン大統領が「非常事態」として強行している反政府勢力の弾圧、粛正で人権が著しく抑圧されている。

決してよそ事ではない。トルコで何が起きているか、これから何が起きるか、日本の改憲問題を考えるにあたって目が離せない。

大統領は7月22日、憲法に基づいて「非常事態宣言」を出した。この宣言は「暴力事件の拡大、公共の秩序の深刻な混乱」に対処する必要があるとされる場合に出すことができ、宣言すると議会の審議も議決もなしに、法律と同等の効力を持つ政令を閣僚会議(議長は大統領)で発布できる。

イスラム傾斜派(イスラム主義に基づく国政運営を主張するグループ)のエルドアン大統領は、イスラムと世俗的価値観の調和を目指す、いわゆる世俗派を排除する強権的な政治をこれまでも続けてきた。クーデターは決して許されないが、世俗派の多い軍幹部が大統領の強引な政治に反発して起こしたといわれている。民政に対する軍の挑戦といった単純な図式だけでは理解できない複雑な要素をはらむ。

ともあれ大統領は非常事態宣言により、テロ対策を名目にした白紙委任状を入手した。宣言直後には基本的人権の保護を定めた欧州人権条約の効力を一時停止し、犯罪に関連したと当局がみなす人物を令状なしに拘束できる期間を30日に延長した。今後、政権に批判的な勢力の弾圧につながる政令を出すおそれもある。

クーデター未遂の直後からこれまでに、裁判官を含む公務員ら数万人が身柄拘束、解職、停職となった。政権側がクーデターの首謀者とみなす、大統領に批判的な宗教指導者ギュレン師らと関係あるとされたからだが、証拠は示されていない。身柄拘束者が1万人を超えるとの情報もある。

ギュレン氏らの信奉者が多いとみられる学校や財団などが破壊、閉鎖され、多くの大学教授、研究者らが出国停止命令を受け、放送免許を停止されたテレビ、ラジオ局もある。大統領の素早い対応に「自作自演のクーデターでは?」との見方も一部で流れた。

トルコの人権情況は極めて深刻だ。

自民党が改憲草案に盛り込んでいる緊急事態条項もトルコと同種だ。

内閣総理大臣が「緊急事態宣言」を発すると、内閣が国会に諮らないで法律と同じ効果を持つ政令を制定でき、総理大臣は地方自治体の長に必要な指示ができる。予算に計上されていない財政上の支出も可能だ。総理が独裁的な権力を握ることになる。

しかも緊急事態宣言のもとでは「何人も……国その他公の機関の指示に従わなければならない」のである。

宣言できる非常・緊急事態はトルコより幅広いようにみえる。「わが国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」である。内閣、首相ら時の権力者の意向次第で、恣意的な運用がなされかねない。

エルドアン大統領は大統領権限をさらに強化する改憲を急ぐ考えと言われるが、既に自民党は「公益」「公の秩序」を重視して個人の自由や権利を軽んじる改憲草案を発表している。自民党的発想では、緊急事態法制は公権力が政治的少数派の人権を踏みにじる武器になるおそれが大きい。

人権思想の源流の一つであるフランスでさえ、非常事態宣言の制度は人権にとって脅威となっている。当局が治安への懸念があると判断すれば、デモや集会を禁止でき、令状なしで家宅捜索、物品押収ができる。「危険がある」とみなした人物に自宅軟禁を命じることも可能だ。

2015年11月のパリ同時多発テロ以来続く非常事態宣言下で、これまでに3500件を超える令状なし捜索が行われ、100人近くが軟禁されているという。

権力の行動を制約するのが憲法の役割である。その憲法で権力に白紙委任するような制度を設けるのは矛盾している。まして立憲主義を理解せず、人権意識が希薄なこの国の政治家たちに制度作りや運用を委ねるのは危険だ。

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