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羊の皮を被った“改憲オオカミ”

寄稿:飯室勝彦

2016年11月8日

 安倍晋三首相の率いる自民党が国会の憲法審査会を動かそうと躍起になっている。野党をなんとか土俵に上げようと作戦も変更した。対する民進党は「自民党が2012年に発表した改憲草案を撤回しない限り議論には応じられない」としていた岡田克也代表の時代よりは柔軟になり、基本的には議論に応じる姿勢だ。
ただ、審査会という土俵には「まず改憲ありき」という危険な罠を自民党が埋め込んである。衆参両院で改憲容認勢力が3分の2を超える現状でうかつに上がると、安倍改憲が現実になりかねない。

 揺れる民進党を揺さぶるかのように、自民党は改憲草案を事実上“棚上げ”したと見せかけている。報道によると、保岡興治・憲法改正推進本部長は「草案は党の歴史的な『公式文書』だから撤回するという性質のものではない」と撤回を拒否しながらも、「草案に固執はしない」「草案やその一部を切り取ってそのまま審査会に提案することは考えていない」などと表明した。安倍首相が「党の草案を実現するのは総裁としての自分の責任」とまで言っていたのとは大きな違いである。

 その首相自身もこれまでの改憲への熱弁が影を潜め沈黙している。
 「憲法を改正する際には『国防軍』とするのが正しい」
 「まずは(改憲へのハードルを下げるために)第96条を変えるべきだ」
 「改憲を在任中に成し遂げたい」
 「わが党は草案を示している。民主党(当時)も出すべきだ」
 「憲法審査会で議論が成熟し、収斂することを期待する」
 改憲に意気込む安倍語録を拾い出すときりがないが、このところ踏み込んだ発言を控え沈黙している。
 
 そうかと言って改憲を断念したわけではもちろんない。“棚上げ”はあまりにも復古調過ぎる草案に対する厳しい批判をかわし、民進党などを憲法審査会という土俵に上がらせるための戦略に過ぎない。現に保岡本部長は「どの改憲項目を審査会に提案するかはまだ白紙だ」「他党の改憲案も参考に論議を進める」とも言っており、あくまでも改憲ありきである。
 安倍首相の沈黙も、これまでのように自分が改憲を露骨に語ると野党を刺激し、かえって改憲の実現が遠のくとの計算からだろう。

 草案の事実上の“棚上げ”も首相の沈黙も野党を土俵に引き出すための戦略変更に過ぎない。民進党や共産党を土俵に上げさえすれば、後は数の力で相撲に勝てる、という目算だろう。
 言ってみればいまの安倍自民党は「羊の皮を被った狼」のようなものである。だまされてドアを開けると危険だ。

 注意深く見れば、羊の皮の隙間から狼の鋭い牙が見える。保岡本部長は、「個人的考え」としながらも、憲法審査会でまず議論すべき項目として緊急事態条項の導入をあげているのである。安部首相も実現に積極的だ。

 自民党草案第98、99条によると、自民党が導入を目指す緊急事態に関する制度の骨格は次のようである。
 大災害、侵略などの非常事態が発生した際に内閣総理大臣が非常事態を宣言すると―
 ・内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定できる。
 ・内閣総理大臣は財政上必要な支出、その他の処分ができ、地方自治体の長に必要な指示を
  できる。
 ・何人も国、その他の公の機関の指示に従わなければならない。
==地方自治、基本的人権の尊重、権力分立など日本国憲法の重要な柱が骨抜きされ、総理大臣
 が独裁的な権力を握ることになる。指示不服従に対する罰則も排除していない。
 
 草案には人権侵害を戒める文言も盛り込まれているが、こうした制度がある限りそんな文言は役に立たないことは、最近のトルコの混乱ぶりを見るだけでも明らかだ。緊急事態宣言の下で、政権に批判的な人々が令状なしに大量逮捕され、報道機関の幹部が「テロ組織を支援した」との名目で次々拘束されるなど言論弾圧が続いている。

 立憲主義、人権意識が浸透しているとは必ずしも言い切れない日本でこの制度が導入されると、それを突破口にして日本国憲法の民主的諸条項がドミノ倒しのように覆されてゆくことになりかねない。まさに羊の皮で隠された牙である。

 憲法審査会を改憲前提で議論する場にしてはならない。首相や自民党、公明党の関係者がよく言うような、単に「改憲条項を絞り込む」ための場にしてはならない。
「審査会」である以上、真っ先にしなければならないのは憲法状況の検証だ。立憲主義がどこまで、どれだけ浸透しているか、日本の政治、行政、司法、経済、国民生活などさまざまな分野で憲法がきちんと実現しているか。それらをチェックし確かめる作業こそ最も重要な仕事だ。

 そのうえで改憲が必要と考えるなら「なぜ改憲が必要か」「改憲は絶対必要か」「どこをどう変えるべきか」「変えることの効果と弊害」などを詳細、冷静に検証し議論すべきだ。
「とにかく改憲」「まず改憲ありき」は許されない。

 事実を無視し、過去に目をふさぎ、歴史に学ぼうとしない、情緒的で没論理的、観念的な改憲論議は国の進むべき道を誤らせ、国民を再び不幸の淵に陥れるだろう。

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