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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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南スーダンPKOへ派遣する新しい実施計画

2016年11月13日

1 政府は2016年10月25日南スーダンPKOへ派遣する自衛隊の活動について新しい実施計画を決定しました。派遣期間を来年3月31日まで延長する内容です。国民やマスコミが関心を持って注目していた新しい任務、活動については11月中旬に再度新たな実施計画を閣議決定するはずです。
それまでの実施計画では、派遣期間を2016年10月31日としていましたので、この期間を延長したということです。

2 ところで、南スーダンPKO(以下UNMISS)は国連安保理決議で創設され、その活動期間は安保理決議で定めていました。活動期間は何度も延長されており、現在の活動期間は2016年12月15日までで、これは2016年8月12日安保理決議2304号で決めたものです。でも自衛隊の派遣期間はこれより長い来年3月31日までです。なぜか?

 当然安保理はUNMISSの活動期間を延長することを見込んでいるはずです。万一派遣期間を延長せずに活動を終了させるとしても、派遣された自衛隊員は直ちに撤収して帰国することは物理的に不可能です。撤収計画を定めて撤収するまでの期間として、3か月程度を見込んでいるのでしょう。

3 現在派遣されているのは北海道の部隊ですが、次の第11次隊は青森の第9師団の部隊になります。派遣される部隊の種類はこれまでと同じ施設部隊を中心にした部隊構成です。普通科部隊(歩兵のことです)が中心となる部隊構成ですと、PKOへ派遣される自衛隊の任務が人道復興支援という名目から治安維持活動になります。これはさすがに政府としてもできないでしょう。92年にPKO協力法が制定されて以降、政府は憲法9条違反との批判を避けるため自衛隊が派遣された任務は全て人道復興支援であり、武力行使はしない、(憲法9条で)できないと国民に説明してきたからです。

 マスコミ報道は青森の第5普通科連隊を基幹とする派遣であると報道していますが、実際に青森連隊から派遣される人数は限られており(派遣部隊長は青森普通科連隊から出します)、大半は八戸駐屯地の第9施設大隊になるはずです。ですから、自衛隊を派遣するなとの運動は、青森だけではなく八戸駐屯地でも行わなければならないでしょう。

4 第11次隊は11月中旬ころから順次派遣されて、第10次隊との指揮権交代は12月15日になるはずです。これまでの派遣部隊の指揮権交代がほぼ6月と12月の半ばになっているからです。11月中旬に再度の閣議決定で新しい実施計画を定めて、「駆けつけ警護」と「宿営地共同防護」を行わせるのは、12月15日以降になります。

5 さて、10月25日に閣議で新しい実施計画を定めましたが、同時に内閣官房は「派遣継続に関する基本的考え方」も発表しました。今回のテーマはこの内容の検討です。以下のURLでご覧ください。
   http://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/161025unmiss.pdf

 この「考え方」の内容を要約すれば、首都ジュバを含め南スーダンの治安情勢は厳しい、しかし、UNMISSへは世界の各国が派遣をしており撤退した部隊はいない(自衛隊だけ撤退できないとの言い訳)、南スーダンの安定と平和はアフリカ全体の平和と安定につながる(因果関係はないのですが)、自衛隊の活動は高く評価されている、日本1国だけで自国の平和を守れない(これは誇大妄想の類ですね)、PKO参加五原則を満たしているというものです。

 どうでしょうか。このような理由で派遣される自衛隊員とその家族が、本当に胸にストンと落ちるでしょうか。私には政府や政治家の言い訳と無理屈としか思えないのです。でもそれ以上に見過ごせなかったのは、内容には虚偽に等しいごまかしと誇張があるからです。「考え方」は自衛隊員やその家族、国民に対して意図的に間違った情報を提供するものとなっています。

6 「考え方」は、UNMISSへ派遣している国として、フランス以外の四常任理事国(米、英、露、中)、アジア各国(韓国、ベトナム、インドネシアなど9か国)、大洋州からオーストラリア、ニュージーランド、フィジーなど5か国、カナダ、南米のブラジルなど3か国、欧州からドイツ、オランダなど8か国を挙げ、特にウクライナを自ら困難な状況の中で派遣していると高く評価しています。合計62か国が部隊等(この等がくせものです)を派遣していると述べて、あたかも世界全体が自衛隊のように軍隊を派遣して頑張っていると見せようとしています。その上で、部隊(ここでは等がありません)を撤退させた国はないと説明するのです。「考え方」が述べている「部隊」とは軍事要員のことです。
 これを読めば、とても自衛隊を撤退させろとは言い難い印象を持たれるでしょう。ここに大きなごまかしと事実の誇張(私はウソだと言いたい)があります。

7 UNMISSの公式ホームページの中に、UNMISSへ要員を派遣している国別のリストがあります。このリストは2016年8月現在でUNMISSだけではなく現在活動しているPKOのすべてのミッションへの派遣の国別リストです(勤務評定ですね)。以下のURLでご覧ください。
  http://www.un.org/en/peacekeeping/contributors/2016/aug16_3.pdf

 リストは国をアルファベット順で並べて、国連PKOミッションの略号(南スーダンPKOはUNMISSで見て下さい)の欄と、派遣されている要員の種類、人数という欄となっています。派遣要員の種類は、軍隊(Contingent Troop 自衛隊もこれに該当します。)、ミッション専門要員(おそらく文民と思われます)、警察官です。

 このリストによると「考え方」が示している主だった国がどれだけのどんな種類の要員を派遣しているか一目瞭然です。米国は軍事要員3名(たったの3名です)、警察官9名、英国は軍事要員9名、とくに国名を挙げているウクライナは軍事要員20名、専門要員3名です。過去にはPKO大国と称されていたカナダは、軍事要員4名、専門要員4名にすぎません。ロシアは軍事要員3名、警察官20名、専門要員3名にすぎません。いわゆる先進国と言われる国の中では、日本と韓国だけが数百名規模で軍事要員を出しています。1000名以上の軍事要員を派遣している国としては、中国(1028名)、エチオピア(1200名)、インド(2272名)、ネパール(1541名)、ルワンダ(1803名)です。

 中国、インドはかなりの数の軍事要員を派遣していますが、見え見えの国益確保と思います。その他軍事要員の派遣数が多い国をリストで確認してください。アフリカ諸国が多いのは自分たちの国の安全保障に密接にかかわる問題だからです。

 多くの派遣国の中で,日本の派遣人員には際だった特徴があります。それは軍事要員だけを派遣しているという点です。PKOには、軍事要員の外に文官、警察官があります。自衛隊ではなく文官や警察官を派遣することは出来るはずです。これも立派な国際貢献になります。いまだ国家としての体裁すら十分出来ていない南スーダンですから、国家組織の建設には多くの専門家の知見が必要になります。行政組織、司法組織、治安組織、教育組織、保健衛生組織等々、日本が支援できる分野はいくらでもあります。

8 話が少しそれましたが、「考え方」は「部隊」を撤退させた国はないと説明しています。「部隊等」の「等」に入る警察官を撤退させた国は既にいくつかあるので、「撤退した国はない」と説明するために、「部隊」としたのです。新聞あかはたによれば、7月の首都ジュバでの激しい戦闘の際には、既にドイツ、イギリス、スウェーデン、ヨルダン政府は自国の警察官を撤退させていたとのことです。参加国の多さを説明する際には「部隊等」とし、撤退した国はないと説明するために「部隊」と書き分ける「考え方」の記述は、国民に誤った理解を与えるための姑息な記述に過ぎません。

9 新聞報道によれば、政府は11月15日の閣議決定で「駆け付け警護」任務の付与と「宿営地共同防護」活動を行わせる新しい実施計画を閣議決定するとのことです。しかし、南スーダンの治安情勢は混沌としており、現時点で首都ジュバでは戦闘が行われていないといっても、何時7月のような状態になるか誰も予測はつきません。隣国に避難している反政府軍を束ねる前第一副大統領マシャールは、停戦合意は崩壊した、我々には首都を解放する十分な軍事力がある、ジュバも攻撃目標になる、ジュバへの必需品の供給を遮断しているなどの不気味な発言をしています。

日本政府は反政府軍との交戦が発生しても、反政府軍が「国・国に準じる組織」ではないとして、武力行使にはならないと説明しています。いくら政府が武力行使ではないと強弁しても、自衛隊は軍隊との戦闘行為を行わざるを得ないのです。南スーダンの治安情勢は反政府軍との戦闘に限りません。政府軍との戦闘も十分あり得ます。

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 今年2月にジュバの北方約600キロのマラカルという街にある国連避難民保護施設(POC)を政府軍の制服を着た兵士が攻撃して、広範囲な難民キャンプを焼き払い、18名の死者と90人以上の負傷者が発生し、死者の内2名は国境なき医師団のスタッフでした。

7月8日から11日の4日間の首都ジュバでの政府軍と反政府軍との戦闘では、300名以上の兵士や住民が死亡したと報道されており、国連宿営地のすぐそばのタレインホテルで、政府軍兵士80名ないし100名が、ヌエル族のジャーナリストを射殺し、人道援助関係者の女性を集団でレイプした事件がありました。救助要請に対してPKO部隊は拒んで出動しなかったのです。政府軍との戦闘を恐れたからといわれています。

政府軍兵士はこの戦闘の際に世界食糧計画(WFP)の倉庫を襲撃して、約4600トンの食料(スーダン市民20万人の1ヶ月分の食料!)や車両、発電機などを略奪しています。

タレインホテル事件を理由に、UNMISSはPKO部隊司令官(ケニアの軍人)を解任しました。これに反発してケニアはPKO部隊を引き上げると表明しています。ケニアは、先ほど紹介した国連のリストでは825名もの軍事要員を派遣しており、8月12日の安保理決議で創設が決定された4,000名からなる地域防護軍の主要な派遣国とされていました。ケニアが撤退することにより、UNMISSの態勢の再編が迫られています。

地域防護軍はいまだ派遣できていません。何時までに派遣できるかも不透明です。地域防護軍の任務と権限は、住民保護、国連要員や国連施設の防護のため、相手が政府軍であっても、住民保護施設や国連施設、国連要員に対する攻撃を企図しているだけで積極的に先制的に攻撃できるというものです。これまでのUNMISSの性格が防御的であったものが、攻撃的なものへと変質することになるでしょう。むろん自衛隊の部隊には地域防護軍の任務は適用されませんが、南スーダン政府及び政府軍のUNMISSに対する対応がより敵対的になる可能性があり、UNMISSの軍事要員の一部である自衛隊部隊に対しても、敵対的になる可能性があります。

10 7月のジュバでの激しい戦闘についてのアムネスティインターナショナルの報告書などを読むと、「殺戮」、「レイプ」、「略奪」という言葉にあふれています。政府軍を構成するディンカ族兵士は、反政府勢力を構成するヌエル族というだけで、殺戮、レイプを行っています。南スーダンでは部族間での血なまぐさい争いに発展しかけているのかも知れません。

11 「考え方」は、派遣を継続する上でPKO参加五原則を満たしているので憲法に合致した活動だと述べています。ここで述べていることは、法的意味(あくまでも日本国内法の意味で国際法ではありません)の武力紛争は発生していないということだけです。南スーダンの現状で参加五原則の内「停戦合意」が維持されているかどうかが問題です。その肝心な点については言及していません。法的な意味での「武力紛争」は発生していないということが停戦合意が維持されているということを言いたいのであれば、その論理は逆転しています。事実問題として停戦合意が維持されているかどうかの認定が先にあるはずです。

 南スーダンの現状では、2013年12月に始まった内戦を終わらせるために、2015年8月に政府軍と反政府軍とが合意し調印した停戦と移行政府樹立合意が維持されているかが問題です。調印した一方当事者のマシャールが、停戦合意が崩壊している、ジュバを解放する軍事力がある、ジュバも攻撃目標になる、ジュバへの必需品供給を遮断している等と発言しています。明らかに2015年8月の停戦合意は崩壊しており、今後反政府軍、マシャールとの間で新たな和平合意が成立しない限り、南スーダンでは停戦合意は存在していないと言わざるを得ません。
ですからUNMISSへの自衛隊部隊の派遣は憲法9条に違反しています。

12 この様な南スーダンの現状で派遣された自衛隊部隊に対して、「駆け付け警護」「宿営地共同防護」活動とそのための武器使用をさせれば、相手(政府軍部隊か反政府軍部隊かも知れません)との戦闘になることは明らかです。いくら政府が首都ジュバの治安は安定している、武力行使にはならない、自衛隊員の安全の確保はされると強弁しても、既に南スーダンの現状ではそうは行かないでしょう。第11次隊に「駆け付け警護」や「宿営地共同防護」活動を行わせる政府は、極めて無責任で冷酷だと言わざるを得ません。たった7時間の首都ジュバでの滞在で新たな任務と活動を行うことが可能と判断した防衛大臣、新たな実施計画を決定した閣議に出席した閣僚達は、自分たちがどれほど重大な責任を負って閣議決定をしているのか自覚がないとしか思えません。

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