NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  複数国籍第二回

【NPJ通信・連載記事】二重国籍 いまとこれから/殷 勇基

過去の記事へ

複数国籍第二回

2016年11月24日

1 複数国籍はどんなとき生ずるか(再)
 複数国籍がどんなときに生ずるかについて再度、説明すると、(1)赤ちゃんが複数国籍で生まれてくる場合と、(2)(赤ちゃんのときは複数国籍ではなかったが)、成長してから複数国籍になる場合、とがあります。
(1)はたとえば日本人父、韓国人母のあいだの赤ちゃんは日韓の複数国籍です。また、日本人父母がアメリカで赤ちゃんを産むと、赤ちゃんは日米の複数国籍です。日本人父、韓国人母がアメリカで赤ちゃんを産むと日韓米の3重国籍です。
(2)はイギリス人の大人がアメリカ国籍を取得すると(「帰化」)、(イギリス国籍を自ら放棄しない限り)英米の複数国籍となります。他方、日本人の大人がアメリカ国籍を取得する場合は複数国籍にはなりません。「自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と日本の国籍法が定めているからです(11条1項)。
ちなみに、逆の場合、つまり、外国人が日本国籍の取得(「帰化」)を希望する場合、日本の国籍法は「日本の国籍の取得によつてその国籍を失う」ことを帰化を認める条件としています(5条1項5号)ので、複数国籍にはならないはずですが、ただ、「外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合においては」もとの国籍を保持したまま日本国籍を取得(帰化)することを認めるときがあるとしています(5条2項)。特に兵役などの関係で、自国籍を放棄することを認めない国があるからです。こういう人の場合は日本国籍を取得することによって複数国籍となることになります。

2 駐在員になったとき親の留意すべき事項
 アメリカのような生地主義(出生地主義)の国で赤ちゃんを出産した場合、前記のとおり父母が日本人でも赤ちゃんにはアメリカ国籍が認められます。このように駐在している国の国籍法によってはその国の国籍が赤ちゃんに認められることがあります。他方、父母が日本人ですから、この赤ちゃんには日本国籍も認められるわけですが(複数国籍)、生まれてから3ヶ月以内に(戸籍法104条1項)、「日本の国籍を留保する」届出をしておく必要があります。この届出をしておかないと赤ちゃんの日本国籍は「出生の時にさかのぼって」消滅してしまいます(国籍法12条)。

3 複数国籍から脱するための手続きと障碍
(1)複数国籍で生まれた赤ちゃんや、20歳以前に複数国籍となった人は20歳から22歳のあいだに国籍を選択しなければなりません(国籍法14条1項)。20歳に達した後に複数国籍となった人は複数国籍となった時から2年以内に国籍を選択しなければなりません(同項)。
(2)国籍の選択には3つの方法があります。1つ目は、外国の国籍の方を離脱(放棄)する方法です(14条2項)。2つ目は、「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する」旨の宣言をする方法です(同項。戸籍法104条の2)。3つ目は日本の国籍の方を離脱する方法です(国籍法13条1項。なお、11条2項)。日本の国籍の方を放棄するということです。(なお、これら3つの方法とは別に、前記のとおり、生まれてから3ヶ月以内に日本の国籍を留保する届け出しないために、赤ちゃんが日本の国籍の失い、このために複数国籍でなくなる、ということもあります。)
2つ目の方法では、「外国の国籍を放棄する」とはいっても、そう宣言するだけで、実際に外国の国籍を放棄するわけではありません。つまり、国籍の選択には3つの方法があるとはいっても、2つ目の方法では、複数国籍が続いていることになります。
(3)もっとも、この2つ目の方法をとった人は、外国の国籍の離脱に努めなければならないとされています(国籍法16条1項)。しかし、前記したとおり、自国籍の離脱を許さない国もありますから、この場合は、離脱はできません。また「努めなければならない」というのは努力義務という意味ですので、法的義務ではありません。自国籍の離脱を許す国の場合でも、複数国籍者が実際に離脱の手続きをしなかったとしても、ペナルティはありません。結局、2つ目の方法の場合には、日本国籍を選択したとはいっても、選択宣言の後も、実際には複数国籍が続いていることになります。ただし、国によっては、日本国籍の選択の宣言が、同時に、自国籍の放棄の宣言を意味する、と解釈する国がありえます。こういう国の場合は、日本国籍の選択の宣言により、複数国籍ではなくなることになります。
(4)2つ目の方法は、1984年の国籍法の改正で導入されました。ただ、改正前の中間試案の段階では、「日本国籍の選択宣言をした人が外国の国籍を離脱することができるのにしないときには離脱を実行するように法務大臣は催告することができる」、「それでも離脱をしないときには日本の国籍を失う」となっていました。しかし、法律になる段階でそれを緩和して上記のとおり「日本国籍の選択の宣言後は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」とされました。その理由は、離脱に関する外国の法律が国によって大きく異なっており、離脱の仕方を知ることが必ずしも簡単でないこと、さらに特に韓国・北朝鮮、中国・台湾という日本が承認していない国が絡んでくる問題があり、国籍の離脱といってもますます簡単ではないのを配慮した、ということです。
(5)報道による限りですが、蓮舫さんの場合は2つ目の方法を(蓮舫さんがこどものときに、蓮舫さんのお父さんが蓮舫さんに代わって)とったケースのようです。日本国籍を選択する宣言をしたあとも、実際には台湾国籍を離脱していなかったのを、今回、台湾国籍の離脱の手続きをとった、ということのようです。(もっとも、蓮舫さんのケースについては、上記した台湾が絡んでくる問題があります。日本が台湾を法的に承認していないため、少なくともこの問題の関係では日本にとって台湾は法的には「無」であり、そうだとすると、「台湾国籍」や、そこからの「離脱」もまた日本にとっては法的に「無」なのではないか、したがって、台湾国籍の離脱手続きをしたか、どうかはここではあまり重要なことではないのではないか、ということです。国会の方でも前記のとおりこの辺りの問題も考えてあえて「離脱に努めなければならない」という努力義務にとどめたのでした。)
(6)さきほど2つ目の方法についてはペナルティがないといいましたが、国籍法16条2項は例外です。同項は、「選択の宣言をした日本国面で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合」において、「その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるとき」は、法務大臣はその者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる」としています。
(7)さらに、これもさきほど、20歳から22歳のあいだや、複数国籍となってから2年以内に国籍の選択をしなければならないと規定されていると説明しました。「しなければならない」ですからこちらは(努力義務ではなく)法的義務です。もし期間内に選択をしないときには、法務大臣は「国籍の選択をすべきことを催告することができ」ます。さらに、催告を受けた人が「催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う」と定められています(国籍法15条1項、3項)。
この規定も、1984年の国籍法の改正で導入されました。もっとも、そこからもう30年以上が経過していますが、法務大臣がこの「催告」を行った例はなく、したがって、この規定で日本の国籍を奪われた人は現時点でもゼロと思われます。
この点について以前、法務省の担当者が国会で答えています。よほどのことがない限り、今後もこの規定を使って日本の国籍を奪うことはしない見込み、という回答でした。
 こういうことになっている理由ですが、複数国籍者がどれだけいるか、日本政府も正確に把握しておらず、一部の人だけから日本の国籍を奪うと、不平等になってしまいかねない、ということもあるのではないかと思われます。複数国籍になるかどうかは、日本の国籍法だけではなく、他国の国籍法もあいまって決まることですが、そのため日本政府も正確に把握するのがむずかしい、ということがあります。たとえば生地主義の国で生まれた人の場合、自分が複数国籍かどうかも分かっていない人もいるのではないかと思われます。生地主義といっても実際はいろいろあり、アメリカの場合は、生地主義が強く、アメリカの在留資格がない(非正規滞在、不法滞在の)父母から生まれた赤ちゃんであっても、アメリカで生まれればアメリカ国籍が認められますが、そこまででない国(たとえば、その国に5年以上住んでいる外国人父母の場合に限って赤ちゃんに自国籍を認める)もあるなどの事情があるからです。
 日本の複数国籍者は100万人前後ほどもいる可能性もあり、その全員に対して手続きを行って、場合によっては日本の国籍を奪う、ということはむずかしいという状況といえます。
 さらに、(法律の規定はそうなっているとはいっても)そもそも複数国籍は解消されないといけないことなのか、ということがあります。1984年(の日本の国籍法の改正)以降に、特にヨーロッパでは、複数国籍を認めていこうという潮流に変わってきているという状況もあります。この点は次回にとりあげます。

4 複数国籍から脱するときの困難
 複数国籍から脱するのが困難、ということはあまりありません。前記の方法をとれば、複数国籍でなくすることができます。ただ、これも前記のとおり、国によっては兵役などの関係で国籍の離脱を認めていない国がありますから、この場合は、複数国籍を止めることがむずかしい、ということになります。もっとも、この場合も、日本の国籍の方を放棄して、他国籍の方を残す、ということでよいのなら、複数国籍を止めることはできます。というより、複数国籍を止めるどうか、ということではなく、自分がいま持っている国籍のどれかを放棄することでよいのか、どれを残すのか、ということを考えて、結果的に複数国籍でなくなることもある、というのが複数国籍者にとっての実際でしょう。
逆に、国家の側から言うと、複数国籍を解消したいのなら、他国と足並みを揃えることが必要です。条約などを結んで足並みを揃えない限り、自国の国籍法だけでは限界があります。たとえば、外国の国籍を離脱しろと自国の法律でいくら規定をしても、その外国の方で自国籍からの離脱を禁止しているような場合には複数国籍を解消できない、というのは先に見たとおりです。

こんな記事もオススメです!

米中露三大軍事大国に囲まれた日本ー「1984年」の全体主義世界における日本の立場 ー*

馬鹿げたウォーゲーム

防衛力抜本強化予算 = 5年間43兆円を上回る軍拡の兆し

国立大学法人法成立 : その先に見える景色と私たちの課題