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急がれる“反安倍”の受け皿整備

寄稿:飯室 勝彦

2017年7月11日

 2017年7月2日の東京都議選で惨敗し、表向きには「反省」を口にした安倍晋三首相だが、方針の大転換など決して考えていない。安倍政治に対する怒り、不満が噴き出した形の選挙結果は、同時に民進党が怒りの受け皿になり得なかったことも示しているからだ。

 2018年秋には自民党総裁選に続いて衆院議員の総選挙が行われる見込みだが、都議選で都民の怒りや不満などを吸収して圧勝した「都民ファーストの会」は、国政の場には存在しない。
 安倍政権とそれを支える勢力は「国民は、消去法による選択にしても、安倍政権についてくるしかない」「改憲も強行できる」と内心ではたかを括っているだろう。内閣改造などは国民の怒りをかわして当座の危機を乗り切るための目くらましに過ぎまい。

 都議選では、自民党が支配してきた都政と国政に対する都民の怒り、不満、苛立ちなどさまざまな要素が絡んで自民党を惨敗させた。
 ここで燃え上がった安倍政治批判の炎を持続させて総選挙へつなげ、「改憲勢力が3分の2超」という国会の情況を打破しなければならない。それには野党第一党の民進党が都議選の大敗をもっと深刻に受け止めて総括することが必要だ。民進党こそが真剣な反省を求められる。

 自民党のボス議員が支配していた都議会と知事部局との馴れ合い、伏魔殿と評される行政の不透明性など都政固有の問題に有権者の目を向けさせたのは、小池百合子知事の優れたコミュニケーション能力によるところが大きい。
 しかし、自民党離れの最大の要因は都民が安倍政治の本質にやっと気づいたことだ。
安全保障法制制定をめぐるトリッキーで強引な手法の記憶がさめやらぬうちに共謀罪法案を強行採決し、森友学園、加計学園をめぐる疑惑に関しては解明に消極的なばかりか、隠蔽と疑われるような閣僚、官僚の言動さえあった。閣僚の失言が相次ぎ、安倍首相の人気のお陰で当選したとされる議員たち、いわゆる“安倍チルドレン”の不祥事も続発した。

 あまつさえ首相は、現行の第9条はそのままにして自衛隊の存在を追加明記する9条加憲の改憲案を、お気に入りの特定メディアを通じて突然ぶち上げ(2017年5月3日付け『読売新聞』朝刊、4日付け各紙朝刊など)、年内に自民党案を明らかにするよう指示した(6月25日付け各紙朝刊など)。
 かつての自民党なら侃々諤々の議論が巻き起こるところだが、抵抗する声は小さい。活発な党内議論の場は失われ、「自由民主」とはほど遠い独裁的政治が罷り通っている。

 こうした現状に、有権者が、自民党という組織の規律の緩みとおごり、自民党政治家の能力や質の低下、個々の議員、閣僚の政治家としての自覚欠如、総じて「自民党政治家と自民党による政治の劣化」を感じ取ったのは当然だ。直近の世論調査では内閣支持率が急落しており、選挙結果は決して都政に限定した反応ではない。

 惨敗に衝撃を受けたのか都議選直後の首相は「これからは丁寧な説明を心がける」と反省のそぶりを見せた。しかし安保法制をめぐり世論の厳しい反発を受けたときも同じことを言いながら何も変わらなかった。現に都議選後も新聞のインタビューで「改憲の行程に変更はない」と言い切っている(2017年7月4日付け『毎日新聞』朝刊)。

 森友学園の疑惑で、財務省理財局長として徹底調査を拒否し、証拠の文書隠しさえ疑わせる国会答弁を繰り返した佐川宜寿氏を国税庁長官に昇格させた人事からも反省がうかがわれない。国有地の超安値売却の裏に首相と首相夫人の森友学園との関係があるのではないかという疑惑が、結果的にうやむやになっただけに「論功行賞人事」の評はあながち的外れとは言えまい。

 もともと首相は、複雑に入り組んだ利害を調整する論理的思考は苦手で、シロかクロかと言った二項対立式の議論をしがちだ。語彙の貧しさ故もあって激しやすくもある。
 そのためだろう、国会質疑で質問に正面からは答えずにヤジを飛ばしたり、質問者を揶揄するような反論をしたりする。都議選最終日の街頭演説では、聴衆からわき上がった「帰れコール」に激高した。
 謙虚な“反省”や“丁寧な説明”とは縁遠い政治家なのである。
 腹心の菅義偉・内閣官房長官にも変化はあまりみられない。記者会見における批判的、あるいは問題提起の質問にも「まったく問題ない」などのそっけない答えが続く。指摘された批判をいったん受け止め考えてみる姿勢はない。

 それでも自民党内では大きな波風が立っているようには見えない。関係者は、安倍首相が「自民党総裁として」発した指示に従い、具体的な改憲案づくりを急ぎ出した。
 この動きに石破茂・元防衛相が「手順としておかしい」と活発に異議を唱えているが、石破氏は積極的な武力肯定論者であり、護憲のための異議ではない。
 都議選で揺らぎが見え始めたとは言え、安倍改憲を阻止できる保障はないのである。

 風がいつも同じように吹くとは限らない。都議選では安倍・自民党批判の票が雪崩を打つように「都民ファーストの会」に流れたが、国政選挙ではその「都民ファーストの会」がいない。だからといって都議選で民進党を置き去りにした反安倍票が流れの向きを民進党に変えるとは容易には考えられない。民主党の支持率は依然として低い。

 過去の各種世論調査では、安倍内閣、自民党を支持する理由として「他の内閣(政党)よりましだから」と答えた人が多かった。次の総選挙では、安倍政治に対して批判的だが受け皿のない票がかなりの程度、自民党に回帰するのではないか。
 一部で云々されるように「都民ファーストの会」が国政に進出すれば、改憲論者とみられている小池知事の影響を受け、憲法問題では安倍政権にとって追い風になりかねない。

 ところが民進党内の危機感は弱く、受け皿になり得なかったことについて、深刻な反省があるようには見えないのが現実だ。
 都議選直前には、沈みかけた船からネズミが逃げ出すように離党者が相次ぐ異常事態だった。この期に及んで蓮舫代表を引きずり降ろそうとする動きが出るなど、内紛めいたごたごたが続いている。肝心の憲法問題に関する党の姿勢さえはっきりしない。
 このままでは安倍政治の延長を許し、安倍壊憲を可能にしてしまうのではないか。

 そうならないために、民進党は安倍批判票の吸収へ向けてまず自らの足下を固めなければならない。
 森友、加計学園をめぐる疑惑を国会で鋭く追及した自由党の森裕子参院議員は「民進党は野党になり切れていない」として次のようにアドバイスしている。

 「民進党は提案型政党を目指すと言っているが、野党が良い提案をしても政権にいいとこ取りされるだけ。そもそも安倍政権は野党の話なんかまともに聞いていない。そういう状況ですべきことは、政権のおごりや緩み、権力の暴走を野党として厳しくチェックすること。そこに全力を傾け、どんなに批判されてもやり通す。それでこそ野党である。民進党にはなりふり構わずというのが足りない」(2017年6月29日『毎日新聞』夕刊「特集ワイド」・要旨)
―――― 野党のあるべき姿勢を示す、一つの見識と言えよう。

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