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衣の下に“改憲貫徹“
 油断できない反省ポーズ

寄稿:飯室 勝彦

2017年8月2日

 内閣支持率の急低下、東京都議選の惨敗で安倍晋三政権がぐらつき出した。それを機に、安倍首相が固執する改憲路線の頓挫を予測する報道が広がり、切迫感、危機意識が薄れつつあるように感じられる。しかし、それは楽観的過ぎないか。報道メディアは、政局の動きに惑わされず、結論を急がず、憲法にかかわる情報を丹念に伝えて欲しい。

 マスコミ各社の世論調査では安倍内閣の支持率は急落し、危険水域の20%台に突入した(例えば2017年7月24日付け「毎日新聞」朝刊)。森友学園、加計学園をめぐる疑惑、南スーダンに派遣された陸上自衛隊の「日報」問題など、傲慢、まやかし、逃げの姿勢に終始する政権に対し国民の憤り、不信は忍耐の限度を超えた。60%を超える人が「首相を信用していない」という調査もある(7月11日付け「朝日新聞」朝刊)。
 ここへきて自民党内でも安倍政治への批判が聞かれるようになった。首相は“お友達閣僚”の稲田朋美・前防衛相をかばいきれず、事実上の更迭に追い込まれた。

 だが現状から改憲の失敗を直ちに予想するのは早計だ。石破茂・元防衛相や村上誠一郎・元行革担当相らは積極的に発言しているが、安倍批判が党内を覆うほど盛り上がっているわけではない。
 「国民に陳謝」「丁寧に説明」など表向きは反省ポーズを見せている首相だが、反省している様子はうかがえない。むしろ「内閣改造でも骨格は変わらない」とこれまで通りの政治の継続を明言している。

 「自民党の改憲案を今秋の臨時国会に出し、来年の通常国会で改憲を発議する」スケジュールを放棄したわけでもない。それどころか安倍首相がブレーンとして頼りにする、自民党憲法改正推進本部顧問の高村正彦・党副総裁は毎日新聞のインタビューで「予定堅持」と表明した(7月29日付け「毎日新聞」朝刊)。安倍首相と高村氏の主導のもと党内論議も着々と進められている。

 そうしたなかで二階俊博・幹事長が率いる自民党二階派は「来年前半に改憲の国会発議を実現させるべきだ」という提言をまとめたと伝えられる(7月27日付け各紙朝刊)。世論の逆風の中でも安倍改憲を後押しすることを宣言したわけだ。第9条第1、2項をそのままにして新たに「9条の2」を設け、自衛隊の存在を明記する、安倍構想そのままを支持したのである。改憲応援派閥の誕生だ。

 高村氏は先のインタビューで、来年秋に予想される総選挙で国政への進出がささやかれる「都民ファーストの会」が援軍になることも期待している。この選挙で衆院における改憲勢力の「3分の2超」が崩れることを期待する向きもあるが、「都民ファーストの会」は、都議選では自民党と対決関係になったとはいえ基本的には保守で、改憲志向の人が多いとみられるからだ。

 対する野党第一党の民進党は、加計疑惑、日報問題などで安倍政権を追い詰めながら、代表が党内で足を引っ張られ土壇場で舞台から降りてしまった。内輪もめが続き、憲法問題でも改憲容認、反改憲両グループ間の溝は深い。世論調査の政党支持率は一桁、自民党に対抗できる政党と期待されていない。

 改憲は安倍首相の執念である。祖父の岸信介・元首相が果たせなかった宿題をなんとしても実現したいと考え、さまざまな手を打ってくる。内容はどうでもいい、「改憲を実現した首相」として名を残したいだけなのか、改憲項目の提案はくるくる変わる。
自民党内で一強多弱の呪縛がとけ、政権が揺らぎ始めても批判の受け皿がない。安倍首相の執念に対抗する政治勢力が頼りなさ過ぎる。これでは盛り上がった安倍批判の世論も消去法で自民党支持に回帰しかねない。

 そうならないために、野党が団結し、「壊憲」の防波堤となるグループを早急に再建することが求められる。国民は安倍政治を厳しく監視し、単なる“風”や“雰囲気”で政治的選択をするのではなく、現代史を教訓とし日本国憲法を踏まえて考えなければならない。

 それを実現するために報道メディアの役割は重要だ。憲法をめぐる情報を細大漏らさず伝え続けなければならない。表に出た政局の流れに惑わされず、水底に隠れた動きを探り当てて伝える努力も怠ってはならない。それらの情報の的確な意味づけを中心とした解説、論評で国民の判断に資するのもジャーナリズムの大事な使命だ。
 権力に迎合するのは論外、単純な「客観報道」も権力追随に堕しやすい。ジャーナリストにとって最も重要な判断基準もやはり現代史と憲法であることはもちろんである。

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