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安倍首相などの「加憲」論を考える

寄稿:清水雅彦(日本体育大学教授・憲法学)

2017年8月4日

 今年5月3日の改憲派の集会で安倍首相はメッセージを寄せた。この中で、憲法9条に自衛隊の存在を明記するいわゆる「加憲」と高等教育無償化の改憲を提案する。安倍発言を受けて自民党憲法改正推進本部も、①自衛隊を憲法に位置付けること、②高等教育含む教育の無償化、③緊急事態条項の創設、④一票の格差・合区解消で改憲の議論を続けている。都議会議員選挙で自民党が大敗し、政権支持率が20%台に突入しても、改憲の議論をやめない。国会内で改憲派が3分の2を占める中でとにかく改憲をしたいのであろう。
 今回の「加憲」論は、日本会議系の日本政策研究センターの議論が影響を与えているといわれている。機関誌『明日への選択』2016年9月号掲載の伊藤哲夫日本政策研究センター代表の論文では、国会で改憲勢力が3分の2を占めている中で、公明党に配慮するだけでなく、護憲派に揺さぶりをかけるという観点から9条「加憲」論を提案している。
 今年5月3日に日本政策研究センターが刊行した『これがわれらの憲法改正提案だ 護憲派よ、それでも憲法改正に反対か?』という単行本の中でも、伊藤は「これまでの改憲派にとっては納得しがたい議論」かもしれないが、公明党だけでなく日本維新の会や民進党の一部も巻き込んでいけるような議論として、9条「加憲」論などを提案している。
 この9条「加憲」論は、従来の2項改正論(「加憲」論は自主憲法期成議員同盟の1981年と93年の提案ぐらいしかなかった)との関係からすれば、後退といえ、平和運動の成果といえるが、手強い改憲論といえる。これまで安倍首相は歴代の自民党政権ではできなかったことを実現してきたことを考えれば、本当にやりかねないかもしれない。
 9条に自衛隊の存在を明記することは、憲法上「自衛隊違憲」が言えなくなることを意味する。単なる現状を追認するだけではない。現在でも憲法学界では自衛隊違憲論が多数派であり、これまでこのような自衛隊違憲論があったことで、自衛隊は軍隊ではなく、専守防衛・海外派兵の禁止・集団的自衛権行使の否認などの歯止めをかけてきた。憲法に自衛隊の存在を明記すれば、これまでの歯止めがなくなる。「戦争法」で集団的自衛権も行使できるようになった自衛隊を正当化することになるし、今後は「軍隊」に向けてのさらなる改憲が予想され、日本の「普通の国」化を自民党などは目指すであろう。
 法学一般の「後法優先の原則」からすれば、9条「加憲」論は9条2項の「空文化」「死文化」をもたらすことになる。ということは、「加憲」という表現よりは「改憲」「壊憲」と表現した方がいいであろう。このような改憲を認めるわけにはいかない。

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