【NPJ通信・連載記事】心の免疫・体の免疫/佐藤 義之
第3話 体温が低下すると免疫力が低下する訳(その1)
実は今でも医学大辞典には、日本人の平均体温は、36.8±0.34度と記されています。しかし現実にこの体温を有する人は、今や殆ど皆無なのです。
そして皆さんも、体温が下がると免疫力が低下することは、よくご存知のことと思います。体温が1度下がると、免疫力は30~40%低下すると言われています。しかし、なぜ体温が下がると免疫力が低下するのか、その原因をご存知の方は少ないと思います。
今回は、そのメカニズムの一部をお話しましょう。
1)血液中の赤血球や白血球そしてリンパ球などは、血液に運ばれて、体内
を巡ります。この様な細胞を「遊走細胞」と申します。
2)心臓から出た動脈は、太さによって大動脈そして細動脈、最後に毛細血
管と呼ばれるものになります。心臓に戻る時はその逆で、毛細血管→細
静脈→大静脈となります。
3)大動脈、細動脈、細静脈、大静脈の血管の壁には穴が開いていません
が、毛細血管だけは白血球やリンパ球が出入りできる大きさの穴が開い
ています。
以上3点が、メカニズムを説明する際の前段の約束事と思ってください。
さて、心臓から動脈を通って運ばれたリンパ球は、毛細血管から血管外に出て、各細胞へと出向きます。そしてウイルスを退治したり、異形細胞や癌細胞があれば除去していきます。
赤血球は心臓から動脈を通って、体の隅々まで行き、静脈を通って心臓に戻ります。しかしリンパ球は血管の外、即ち細胞の組織の掃除をして、心臓に戻る時には静脈ではなく、別のリンパ管という管の中を通って戻ります。
わかりやすく、例え話でご説明いたしましょう。
リンパ球という兵隊が、秋田新幹線で秋田まで行くとします。東京から盛岡までは、新幹線という大動脈です。盛岡から秋田までは細動脈と思ってください。秋田市内の道路が毛細血管で、リンパ球は秋田市内で解散して散り散りとなり郊外へ散らばります。そして、歩き回って掃除をします。
隣接する市、さらに県境を越えて山形県、青森県へも掃除に出かけます。そして帰る時は、リンパ管という在来線で東京に帰ってくる訳です。決して帰る時は新幹線で東京に戻ることはありません。
ところが体温が下がりますと、当然ながら毛細血管は収縮します。収縮すると毛細血管の穴も小さくなり、リンパ球は毛細血管の外へ出られなくなります。外は寒いので、新幹線を降りなかったリンパ球(兵隊)は、帰る時もそのまま、静脈という秋田新幹線を利用して東京に戻ります。
もうここまでお話すれば、おわかりですね。リンパ球は細胞組織の掃除をすることなく心臓に戻ってしまいます。
細胞組織のウイルスや異形細胞、癌細胞は除去されません。
以下図解説明です。
※拡大図
実は「遊走試験」という基礎医学における実験があります。これは、毛細血管からリンパ球がどのくらい血管の外へ、即ち細胞組織内に出ていくかをチェックする実験です。
まさに血管の外に出て行くことを「遊走」という表現で言い表しているのですが、体温が1度下がると30?40%血管外へ遊走するリンパ球の数が減少します。
このことから、よく体温が1度下がると免疫力が30数%低下するという言い方をされる訳です。
つまり、体温を理想的な温度に保つことが免疫力を低下させないためには必要であるということになります。
これで、体温が低下するのが好ましくない理由がお分かり頂けたと思います。理想的な、また望ましい脇の下での体温は36.8度というのには、更にもう1つ理由がありますが、それはまた次回お話申し上げることにしましょう。
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