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去ってはいない“壊憲”の危機

寄稿:飯室 勝彦

2017年9月1日

 平和憲法の強引な骨抜きをもくろんだ安倍晋三首相は有権者、世論に冷や水を浴びせられた。だが「これで改憲の実現が遠のいた」と考えるのは早計に過ぎる。「戦後レジーム」の解体を目指す安倍首相の執念は衰えておらず楽観は許されない。

 今年2017年の憲法記念日、安倍首相は「2020年に新憲法施行」の方針を突然打ち出し、現行の第9条第1、2項を残したまま自衛隊の存在を明記する案などを提示した。読売新聞のインタビューではかねて固執している緊急事態条項の必要性も強調し、その後この秋には衆参両院の憲法審査会に自民党の改憲原案を示す考えを表明した。
 これより前、首相は、与野党合意を重視してきた、自民党憲法改正推進本部に路線転換、議論加速を指示し、推進本部の人事にも介入して信頼厚い高村正彦・副総裁を顧問に据えて睨みをきかせる態勢を組んだ。

 ところが東京都議選で惨敗、首相の独裁的政治手法に対する有権者の反発などで内閣支持率が急落すると党内に慎重論が噴出した。高村氏から「これからは憲法は党に任せ、内閣は経済第一でやって欲しい」と釘を刺され、同意せざるを得なかった。
首相は会見で「党総裁として一石を投じたがスケジュールありきではない」と修正、今秋の原案提示にこだわらないと表明した。
 メディアは「憲法問題の主導権は首相から党に移った」「改憲が遠のいた」と一斉に報じ、憲法問題の報道は低調になった。

 しかし、報道は楽観的すぎないか。記者会見で自らの政治手法を反省してみせ「これからは国民に丁寧に説明する」と述べた首相だが、改憲をあきらめたわけではない。あくまでも戦争ができる「普通の国」を目指し、第9条骨抜きと、有事の際に人権を制限できる緊急事態条項の新設を譲れない一線と考えているのではないか。
 風向きの厳しいとき、あるいは選挙の前などには、戦後的価値観を否定する持論や憲法論議に封印し、機を見て復活させるのが安倍流だ。今回も経済優先で目先を変え、支持率が回復すれば改憲へ陣頭指揮を再開するだろう。「改憲容認勢力が3分の2超」という数の力が頼りだ。

 支持率低下で自民党内の改憲エネルギーが衰えたわけでもない。かえって“安倍一強”の揺らぎで議論が活発化し、2012年に党が発表した改憲草案のような復古調の意見も息を吹き返しつつある。
 内閣改造後も自民党執行部は憲法改正推進本部の体制を見直し、新設した事務総長ポストに安倍首相に近い根本匠・元復興相を据えた。野党に気配りしてきた保岡興治本部長に対する睨みを一層強めようとする思惑とみられる。今秋には第9条の改憲素案が推進本部の会合で示されるという。

 支持率急落でスピードダウンを余儀なくされたが、安倍首相も自民党も改憲への歩みは止めていない。かつて「任期中の改憲実現」を宣言したこともある首相だけに、来秋の自民党総裁選で続投が決まれば、自らの政治的総決算として改憲へ拍車をかけるだろう。

 対する民進党は野党第一党とはいえ支持率一桁、党勢衰弱が止まらない。「右から左まで」ばらばらの党員を抱え、改憲に関する確固たる意見を打ち出せない。蓮舫・前代表の後任の座を争った前原誠司、枝野幸男両氏とも態度を明確にしなかったが、前原氏は改憲が持論だ。党分裂の恐れさえあり、改憲阻止を同党に期待するのは無理がある。

 流動的要因もある。「東京ファースト」として都議選で圧勝した小池百合子・都知事を中心とするグループが、「日本ファースト」として国政選挙に進出すれば一定数の議席を獲得するとみられる。
 民進党離党者、あるいは民進党議員の一部が提携を模索しているが、小池氏はもともと自民党員で改憲容認派であり、自民党側も接近を図っている。小池人気は改憲阻止に結びつきにくい。

 安倍政権の一翼を担う公明党は、首相の9条改憲論と距離を置いていたが、公明党が自民党の重要政策を拒否したことはほとんどない。基本的には自民に追随してきただけに今後も多くは期待できない。「折あらば権力に加わりたい」のが本音の日本維新の会は言わずもがなだろう。

 安倍首相が矛を収めたかにみえても“壊憲”の危機は決して去ってはいないのである。
 遅くとも来秋には衆議院議員の総選挙、それまでには国会議員の補欠選挙もある。“壊憲”の危機を脱するため、一時は内閣支持率を30%台に急落させた安倍政権への怒りを有権者が持続し、「改憲容認派3分の2超」態勢を崩さなければならない。

 そのためにメディアの役割は重要だ。憲法をめぐる個々の事実を伝えるだけでなく、それらの事実の意味、関連性などを分析、解説したり論評したりすることを通じ、国民に選択肢を示す積極報道も求められる。 
 その際、公平、公正な報道とは「どちらつかず」ではない事に留意すべきだ。権力におもねらず、常に「国民のための報道」を意識して取り組む報道のことだ。日本の復興と発展、平和の礎であり、世界平和の道標である日本国憲法を守り抜く、ジャーナリストとしての気概に支えられた報道である。

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