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憲法無視の政治に終止符を

寄稿:飯室 勝彦

2017年9月19日

 これ以上憲法を無視する政治を続けさせてはならない。安倍晋三首相が政権浮揚を狙う衆院解散・総選挙は、有権者にとっては安倍政治に終止符を打つチャンスである。

 安倍首相が28日に召集される臨時国会中に衆院の解散、総選挙に踏み切る見通しとなった。開会直後にいきなり解散し、10月22日に投開票となる公算が大きい。
 衆院議員の任期を1年以上も残して解散する意図はなにか。第一に、北朝鮮によるミサイル発射、核開発問題を利用してナショナリズムを煽り、政権浮揚、基盤固めを狙っているとみるべきだろう。その先に第9条を骨抜きにする改憲を見据えているに違いない。

 もちろん森友学園、加計学園をめぐる疑惑を国会で徹底的に追及され窮地に追い込まれる前に先手を打って選挙を実施する、という思惑があることも明らかだ。首相の妻が名誉小学校長を務めていた森友学園に対するただ同然の国有地売却、首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設をめぐる異例の手続き経過……国会での疑惑解明を国民が注目しているのに、不意打ち解散で追及を逃れようとするのだから“疑惑隠し解散”と言わざるを得ない。

 その裏には、新しい代表が決まったものの離党者が相次ぐ民進党の混乱や、いわゆる若狭新党の準備不足などを突くメリットの方が、疑惑隠しと批判されるデメリットより大きいとの計算もあろう。
 北朝鮮をめぐる情勢の緊迫化は安倍政権にとって強い追い風になるとの判断があることはいうまでもない。
いずれにしろ「政権維持」を最大目的としての計算、判断、思惑であり、わざわざ開く臨時国会の冒頭で解散する大義名分はない。憲法上も疑義がある。

 野党は3ヶ月前の通常国会閉幕後、憲法第53条の定める要件を満たした正当な手続きを踏んで臨時国会の召集を要求していた。これに対し政府は「(要件を満たした召集要求があった場合)内閣は、その召集を決定しなければならない」とある憲法を無視して要求をたなざらしにし、違憲状態を続けてきた。
 その挙げ句、せっかく召集しても何も審議しないで冒頭解散では、議員要求による国会の召集を政府に課した憲法は空文となる。
 臨時国会は議論すべきことがあるから召集要求が出たのだ。ただ召集すればいいのではない。特別の理由もなく、冒頭解散で議員の発言の機会を奪うのは憲法53条の趣旨に反する。

 議論すべきテーマは山積している。森友、加計疑惑はもとより、北朝鮮問題への対処、安保法制施行いらい着々と進む自衛隊と米軍の運用一体化、ミサイル防衛強化などによる防衛費の増加、政権の看板である働き方改革……など、どれも重要な問題であり、憲法と密接に関係している。
 国際的には米国のトランプ大統領と一緒になって圧力、制裁を叫ぶばかり、国内的には騒ぎが大きいだけで役に立ちそうもないジェイアラートで安倍政権は国民の危機感を煽り立てている。その効果か、一時は30%台に落ちた内閣支持率は回復傾向である。

 国際情勢の緊張を宿願である改憲のために利用しているようにも見える。
 都議選の惨敗、内閣支持率の急落で「自分の政治手法を反省する」と述べざるを得なくなった安倍首相は、「憲法問題は党(の議論)に任せてほしい」という高村正彦・自民党副総裁に同意した。一部では憲法問題は仕切り直し、首相は改憲の主導権を失ったと言われた。
 しかし、現実には副総裁は「第9条第1、2項を残し、自衛隊の存在を明記する新たな条項を追加する」という安倍提案に沿って党内の意見を集約しようとしている。
 高村氏は集団的自衛権を認める憲法解釈をひねり出して安保法制の理論的基盤を作り出した、首相の「番頭」のような存在だ。改憲でも番頭が旦那の意向を忖度して党内論議を仕切っているようなものである。異論があっても北朝鮮の振る舞いを前にして発言しにくくなっている。
 
 マスコミ各社の9月の世論調査では内閣支持率は30%台後半から40%台後半に上昇し、なかには読売新聞のように50%の調査もある。過半数の調査で支持率が不支持率を上回った。通常国会が終わって森友、加計問題の追及が小休止し、マスコミも沈静化していたこともあるが、北朝鮮のミサイル、核に対する不安が強硬姿勢を取り続ける安倍政権支持につながっているのだろう。
 
 選挙戦で自民党は改憲などの微妙な問題を避け、“北の恐怖”や経済問題などを前面に出してくることは確実だ。そして選挙が終わった後は争点になかった問題も有権者に信認されたとすり替えるのが安倍政権の常套手段だ。もし今度の選挙に勝てば「改憲の発議」への動きが加速するだろう。

 前途に改憲を見据えながら、政権基盤を固め浮揚を目指す安倍内閣の思惑がこもった総選挙は、憲法を大事に思う人たちにとってのチャンスでもある。
マスコミも有権者も恐怖、不安に踊らされず、安倍政治の一つひとつを憲法に照らして洗い直し点検したい。有権者の積極的な選挙参加と冷静な選択で「憲法を無視する政治」に終止符を打ちたい。

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