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憲法研究者有志の緊急声明について

寄稿:東海大学教授 永山茂樹

2017年10月10日

 9月27日、憲法研究者の有志で、「臨時国会冒頭解散に対する憲法研究者有志の緊急声明」(https://goo.gl/GPcNkN)(以下、緊急声明)を発表しました。10月6日現在で、95名の賛同者を得ています。この声明発表にかかわったひとりとして、緊急声明の概要を紹介し、また若干の補足をします。

 わたしたちは、今回の解散・総選挙にいたる手順が、議会制民主主義の趣旨にそぐわないこと、今後の総選挙とその結果が憲法と立憲主義を危機にさらすおそれのあること、主権者がこの総選挙の意味を十分に認識し、メディアが公正な立場から報道することが必要性であることを、声明のなかでうったえました。

1、 解散・総選挙にいたる手続は、憲法がさだめた議会制民主主義に、幾重にもわたって反するものでした。

 まず、政府は、野党から出された臨時国会の召集を、必要な合理的期間をこえて、三ヶ月以上も放置してきました。このことは、国会の少数派に臨時国会の開催要求権を認めた憲法53条に反する行為です。
 次に政府は、臨時国会冒頭に、衆議院を解散しました。これは(かりに、内閣が衆議院の解散の決定権を有するという7条解散説にたったとしても)、解散権のあきらかな濫用にあたります。

 しかも臨時国会召集決定の拒否と解散が、どれも、森友学園・加計学園事件(国有財産の私物化)、共謀罪法案の強行採決(国民の多様な意見に耳を傾けてすすめられるべきである議会制の軽視)、稲田防衛大臣(当時)らの任命責任(内閣が連帯して国会に責任を負う議院内閣制の軽視)といった、きわめて重要な(そして憲法ともかかわる)問題の幕引きをはかったものでした。この点も、看過するわけにはいきません。

 緊急声明を発表した翌日に、改案・総選挙の実施は既成事実となってしまいました。
 しかしわたしは、このような議会制民主主義の破壊行為について、しつこいほどに批判を続け、またそのことをひろく主権者に知らせることが、憲法研究者に求められる役割だとかんがえています。

2、「大義なき解散」という批判にたいして、自民党は、泥縄式に「大義」をでっちあげようとしています。しかしこれは、憲法破壊につながります。

 自民党は、選挙公約に「改憲」を入れました。
 しかし「どこをどう変えるか」という具体的な内容を明記しないまま、漠然と選挙公約の項目に改憲を入れることは、ほんらい慎重な判断を必要とする改憲議論のすすめ方として、異常なものです。衆議院議員選挙とだきあわせにすることによって、国民の「承認」をかすめ取ろうとしているのであるとすれば、その「党利党略」さは許されるものではありません。
 
 首相は、憲法に自衛隊を明記する「加憲」論をとなえています。「加憲」という名をまとうことで本質を隠そうとしていますが、これはまごうことなく九条改憲であり、日本を戦争をできる国に近づけるためのものであると、わたしはかんがえます。
 自民党の公約の概要すら不明な段階での声明だったことから、この問題は緊急声明のなかで詳細にとりあげることはできませんでした。今後はこの点も、いろいろな場で明らかにしてしていきたいとおもいます。

3、マスメディアには、今度の選挙にあたって、自由闊達で国民的な論議を喚起する報道姿勢を堅持することを期待しました。またわたしたち憲法研究者の役割を再確認しました。

 今回の総選挙においてもっとも重要な課題は、強権的な政治手法と議会制民主主義を軽視する政治にストップをかけること、特定秘密保護法・安保法(戦争法)・共謀罪法を廃止し、立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻し、国民のための憲法政治を実現していく道を切り開いていくことでしょう。

 憲法は、図らずも、5年近くにわたって安倍政権が行ってきた諸施策に国民の審判が下す機会が与えられました。主権者としての見識と力量を発揮するチャンスが到来しました。

 ここで最後に、緊急声明の最終パラグラフそのまま再掲します。

「憲法を擁護するため、わたしたち国民に、「不断の努力」(憲法12条)、「自由獲得の努力」(憲法97条)が、いまほど強く求められたことはない。しかしその「努力」は必ずや実を結ぶであろう。そのことは歴史的事実であり、また私たちはそのことを信じている。」

 
「憲法研究者と市民のひろば」https://kenpokenkyushanet.wixsite.com/toppage

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