【NPJ通信・連載記事】読切記事
平和憲法を守る選挙に―”風”や”空気”に惑わされない選択
2017年10月22日投票の衆院議員総選挙は、「希望の党」「立憲民主党」の登場や、民進党の事実上の解体で、改憲国民投票の前哨戦といった様相を帯びてきた。改憲に関する自民党と「希望の党」代表、小池百合子・東京都知事の立ち位置はさして離れてはいないだけに、今度の選挙は日本国憲法と日本の将来にとっての重大な岐路になる可能性がある。有権者が公約に盛り込まれた美辞麗句や選挙用キャッチフレーズに惑わされると悔いを残すことになりかねない。政治手法も含めて冷静に吟味し投票したい。
☆モリ・カケ問題は終わっていない
希望の党の登場でメディアはさながら小池劇場と化し、森友・加計学園の疑惑に関する報道は消えてしまった。解散前は「丁寧に説明を重ねてゆく」と言っていた安倍晋三首相は街頭演説でも語らない。他の問題には雄弁な小池百合子代表もあまり関心がなさそうだ。
しかし、モリ・カケ問題は終わったわけではない。法外な安値で国有地が学校法人に売却されたのは、安倍首相や首相夫人の法人との親しい関係があったからではないのか、加計学園による獣医学部開設の認可(見込み)には首相の意向が影響していないか。いずれもまだ解明し切れていない。
総選挙後の特別国会での厳しい追及を前提に総選挙の大きな争点になるはずだったのに雲散霧消した観がある。特別国会でどこまで追及できるかも、民進党の事実上の解体で未知数になった。希望の党の誕生で自民党の議席が大幅に減り、権力維持は難しいとの予測もある安倍首相だが、この点に関する限り希望がもたらされたのではないか。
ただし主権者には一票がある。約束を破って真摯に説明しようとしない首相、公平・公正が守られない政治、行政を正そうとしない政党、議員、議員候補者たちを投票行動によって追及することはできる。
☆各党が「改憲」問題を公約
かわって憲法問題が風雲急を告げてきた。主要政党が改憲問題を公約、政策などの優先順位の高位にそろって盛り込んだのは最近の選挙ではなかった現象だ。このうち9条改憲に対する姿勢を見ると、積極的なのが自民、日本維新の会、日本のこころであり、反対は立憲、共産、社民、改憲には賛成だが9条改憲論には距離をおく、あるいは慎重なのが公明、希望、と整理できる。
☆立ち位置が近い自民と希望
しかし希望の「慎重」には「?」がつく。同党の路線は同党を独裁的にコントロールしている小池代表の意向次第で決まる。その小池氏は「安倍政権打倒」を叫び、9条改憲は「屋上屋を重ねることになる」と疑問を呈しているが、元々の立ち位置は安倍首相や自民党に極めて近い。
自民党時代には安保法制に賛成投票し、自民党の改憲草案に盛り込まれた国防軍創設の明記に賛成する国会質問をしたこともある。希望の公認を求める立候補予定者に安保法制容認の踏み絵を踏ませ、公約にも「9条を含め議論を進める」と明記して、自民党を後押しする立場をはっきり打ち出した。
自衛隊を「軍」とする憲法草案をつくった日本のこころの代表だった中山恭子参院議員を新党にすんなり迎え入れた。
安全保障問題に限れば安倍首相との違いを探すのが難しいくらいだ。改憲一般には極めて積極的で、政策発表の場でも「改憲に向けた大きなうねりをつくる」と宣言した。
だからこそ平和憲法を守り抜こうとする、民進党リベラル・グループの枝野幸男氏らの希望への合流を拒否したのである。枝野代表のもとで立憲民主党に結集した人たちには希望の党は自民党の補完勢力としか映らないだろう。
独裁的な政治手法も似通っている。築地市場の移転問題や国政政党設立に関する動きを見ていると、何かにつけ「首相指示」を連発したり、9条加憲を突然言い出して、改憲発議のスケジュールまで党に指示したりした安倍首相に通じるところがある。
☆「リセット」でゴール変更?
小池氏はこんどの選挙を「政権選択の選挙」と位置づけ、安倍内閣を倒すことが目標だという。だが「リセット」と称するどんでん返しは小池氏の得意技である。その”サプライズ効果”は既に実証済みだ。獲得議席数によっては9条加憲に慎重な公明党と安倍自民党政権の間に割って入り、特別な地位を確保することも想定外とは言えまい。自民党が議席を激減させれば党内の安倍批判派と希望が結びつくかも知れない。
時の権力者に寄り添って政治的地歩を築いてきた小池氏にとって、どちらの選択肢にも違和感はないかも知れない。現に小池氏は記者会見で選挙後の連立の可能性を否定しなかった。
いずれにしろ「希望の党」は平和憲法を反古にする勢力に与することは間違いない。
☆美辞麗句に惑わされないで
「原発ゼロを憲法に明記し、30年までに実現を目指す」「消費増税の凍結」「生活に最低限必要なカネを国民全員に給付する」「新たな経済政策『ユリノミクス』の導入」―希望の党の政策には、魅力的な政策がずらりと並んでいる。他党と同じものもあるが、財源の検討がなかったり、「タブーに挑戦する気持ちで思い切った案を盛り込んだ」と記者会見で小池氏自身が自認したりした政策集だ。
いわば数々の政策は客の目を引くためにショーウインドウに飾られたサンプルのようなものに過ぎない。響きのよい美辞麗句、一見知的なカタカナ言葉、メディア利用の巧みさなどに目を奪われていると、戦後70有余年かけて築いた平和国家日本の地位を失うことになりかねない。
この選挙の結果次第では国会の改憲発議、国民投票が可能になるかも知れない。その意味では国民投票の前哨戦だが、有権者の選択で壊憲勢力の動きを”リセット”し、決勝戦に変えることはできる。
風や空気に流され惑わされないよう留意し、主体的に情報を取捨選択、判断して誤りのない選択をしたい。
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