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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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私たちは北朝鮮脅威論にどのように向き合うのか?
―憲法9条護憲論の本気度が問われている (下)

2017年10月11日

6 北朝鮮の脅威に対してどのように向き合うか?
 総選挙での争点は、北朝鮮の脅威を軍事的抑止力と制裁の強化で解決するのか、それとも北朝鮮との外交交渉で解決するのかという二つの路線の対立です。どちらの途も北朝鮮の脅威を削減する、なくすることを目指しているはずです。その選択肢としては以下の三つをあげることができるでしょう。

(1) 北朝鮮の脅威を物理的に破壊、一掃する。
 この方法は国連憲章と現代国際法の下ではとりえません。北朝鮮がいかに脅威であっても、米国や日本に対して武力攻撃を行っていないので、自衛権行使はできません。

(2) 軍事的抑止力を高めて北朝鮮の脅威を封じ込める。
 安保法制と憲法9条改正の立場です。これが成功する見込みはありません。失敗すると武力紛争になるリスクが高いものです。軍事的緊張が高まる中で、双方が互いの意図を読み違えた結果偶発的な軍事衝突から本格的な武力紛争になることが懸念されます。

(3) 外交手段(「安心の供与」を含む)で相手の脅威を削減する。
 経済制裁は外交手段の一部です。しかしこれだけでは成功する見込みはありません。北朝鮮との対話を通じて北朝鮮にたいする「安心の供与」で解決しなければなりません。「安心の供与」とは、こちら側が北朝鮮の脅威にはならないと確信をさせる外交のことです。

 北朝鮮の核・弾道ミサイル開発はすべて米国の軍事的脅威に対して対抗するためです。その目的は北朝鮮の国家と金正恩政権の存続です。決して戦争を望んでいるわけではありません。

7 戦争のリスクを高める安倍政権の北朝鮮政策
 安倍政権には包括的な北朝鮮政策と呼ばれるものはありません。場当たり的な脅威対抗政策です。ある時は拉致問題を圧力路線で解決することを優先させていました。現在では核・弾道ミサイルの脅威に対して脅威対抗政策をとっています。制裁の強化と軍事的抑止力の強化です。これでは決して北朝鮮の脅威はなくならないばかりか、脅威は高まり、武力紛争のリスクを高めるだけです。

8 憲法9条と恒久平和主義の価値が問われている北朝鮮問題
 北朝鮮問題は長年にわたり、憲法9条改正の圧力となってきました。97年の日米防衛協力の指針(ガイドライン)策定と周辺事態法制定、2003年以降の有事法制制定と憲法明文改憲の動き、2006年7月の最初の核爆発実験と周辺事態法発動の動き、米軍再編協議と日米同盟のグローバル化、新ガイドライン策定と安保法制などです。

 しかしながらよくよく考えてみると、北朝鮮脅威は憲法9条改正とは無関係なはずです。9条を改正してみても、抑止が効かない北朝鮮の核・弾道ミサイル開発は解決しないからです。北朝鮮脅威論は憲法9条改正に都合の良い口実として使われているだけです。問題は憲法9条にあるのではなく、我が国の北朝鮮政策にあります。対話を拒否した制裁強化と軍事的抑止は、憲法9条に真っ向から反する政策です。

 北朝鮮問題を解決するための我が国の包括的北朝鮮政策には、憲法9条こそが生かされるものです。金正恩政権が最も望んでいることは、北朝鮮の体制保証と経済発展です。そのためには、日朝・米朝の国交正常化、朝鮮戦争終結のための平和条約の締結、米国による消極的安全保障の法的誓約(北朝鮮にたいして核兵器使用をしないとの条約による誓約)、不可侵条約締結、経済制裁解除と経済支援などです。

 これらの問題はこれまで六者協議の中で一部は合意されてきたものです。六者協議は2008年12月に中断したまま現在まで再開されていません。しかしこれらの北朝鮮を巡る問題の解決のためには六者協議再開は不可欠です。今年8月6日に日本政府を含む全会一致で採択された安保理決議2371号は、六者協議再開を要請し、2005年9月の共同発表文で定めた合意事項やその他すべての関連する約束を支持するとしています。

 北朝鮮は国連加盟国の中で我が国が唯一国交を結んでいない国です。国交正常化を目指す交渉の中で、歴史問題、拉致問題、文化財の返還問題などを解決することが可能です。北朝鮮との国交正常化にあたり日本政府が北朝鮮にたいして行う経済援助は、日韓国交回復後に日本政府が行った経済援助と同じとすれば、現在の貨幣価値に換算して1兆円を超えると言われており、北朝鮮にとっては強いインセンティブになるはずです。
 
 核開発問題は、日本の安全保障政策の要である米国の核抑止力に日本の安全を依存する政策の転換を迫られるでしょう。なぜなら、米国の核抑止力に依存する政策は、いざとなったら日本の安全を守るために北朝鮮を核攻撃してくれと要求している政策だからです。米国が北朝鮮にたいして消極的安全保障の法的誓約をしようとすれば、日本に対する米国の核の傘はそれだけ弱まることになります。日本政府が米国の核抑止力依存政策にしがみつけば、米国が北朝鮮にたいして消極的安全保障の法的誓約をしようとした場合、日本政府がその足を引っ張る恐れがあります。

 北朝鮮問題を解決するためには、日米同盟の在り方自体を再検討しなければならない事態が必ず来るはずです。私達は相当に腹をくくる必要がある問題なのです。

 現在の北朝鮮をめぐる軍事的緊張状態を武力紛争にしないためには、日本政府が北朝鮮との対話のイニシアチブを取ることが重要です。トランプ政権につき従うだけで軍事的圧力を高めるよう米国に要求するのではなく、米国に対話を促す、日本政府が持っている独自の北朝鮮との対話のチャンネルを活用する、国連外交により国連事務総長の仲介外交を求める、韓国と対話路線で共同歩調を取る、中・露・韓国と六者協議再開の話し合いをするなど多彩な外交が可能なはずです。

 北朝鮮の脅威に対して私たちがどのように向き合うかを考える場合、私たちの憲法9条を守るという気概の本気度が問われています。

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