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決めるのは“あなた”
―主体的参加で憲法を守る

寄稿:飯室 勝彦

2017年10月30日

 衆議院選での大勝を受け、安倍晋三首相は改めて改憲に強い意欲を見せている。選挙直後の「謙虚」宣言はどこへやら、数の力を誇示し始めた。日本国憲法の危機がまた一歩近づいた観があるが、決めるのは国民一人ひとり、“あなた”である。

☆改憲勢力が議席の8割
 選挙結果は、自民党単独で単純過半数、与党の自民、公明両党で改憲の発議に必要な3分の2を超えた。希望の党と日本維新の会も加えると改憲勢力が議席の8割を占める。
 この数字だけを見ると、日本人が戦後70年間守り続けてきた日本国憲法は風前の灯火であるかのようだ。自民党の超保守系議員たちは早速、改憲運動団体の集会で「天の時を得た」「国民に約束したのだから行動を開始しなければならない」「ゆるゆるとやっていいものではない」などと気勢を上げた。

☆白紙委任ではない自民大勝
 確かに自民党は今度の総選挙で「憲法に自衛隊を明記」と公約に盛り込んだ。しかし、有権者はこれを約束と受け取って自民党に白紙委任したのだろうか。自民党の議席獲得数は民意を正しく反映しているだろうか。
 各メディアの分析によると、比例区では自民党の得票率は33%に過ぎない。立憲民主党と希望の党を合計すると票数は自民党より220万票も多い。小選挙区では得票率48%の自民党が75%の議席を獲得した。その他、投票しなかった人を含む全有権者に占める得票率なども検討に加えると、自民党は有権者の4分の1から6分の1の票で全体の6割もの議席を得たことになるという。
 自民党の大勝は、野党の分裂と、得票数一位の候補者しか当選せず大量の死票が出る小選挙区制によるものであることが明らかだ。有権者は決して白紙委任していない。

☆首相がこだわる第9条加憲
 それでも安倍首相は憲法第9条に自衛隊を明記する自説の実現にこだわり続ける。選挙直後の記者会見などでは世論を意識して「謙虚な姿勢」を強調し、「(改憲に向け)与党だけでなく与野党間で幅広い合意に努める」と語っていた。だが、その同じ口で「政治だから皆さま全てにご理解をいただけるわけではない」と述べて、第9条改憲を強く批判している立憲民主党の切り捨てをにおわせた。
 自民党は、「これだけ民意を得たのだから」という首相の意向を受けて、国会における野党の質問時間を削減する動きも見せている。「最後は数」と言わんばかり、早くも数の力を誇示し始めたかのようだ。

☆頼りのブレーンを続投させ

 打つべき布石は選挙中も打った。高村正彦自民党副総裁が総選挙への立候補を取りやめると、「副総裁は国会議員でなくてもできる」と続投させた。高村氏は最高裁の砂川事件判決を曲解し、集団的自衛権の行使を合憲とする安保法制の論理をひねり出した功労者。改憲へ向け首相が頼りにするブレーンだ。
 他方、自民党憲法改正推進本部長の保岡興治・前衆院議員の立候補断念、政界引退に首相は特別の反応を示さなかった。保岡氏は与野党の合意を重視し、国会の憲法調査会でも慎重な姿勢を取り続け、首相が苛立ちを見せていると言われた人物だ。
 
☆遊説では憲法語らず
 そして選挙戦。自民党は改憲を公約に明記したものの首相は街頭演説でほとんど触れなかった。議論が分かれる微妙な問題を選挙運動中は取り上げず、選挙が終わると一転して強引に進めるのが安倍首相の常套手段だ。共謀罪、安保法制、特定秘密保護法などみんなそうだった。今度もそうなりかねない。 

☆まず始めに国民ありき
 日本国憲法を「押しつけ憲法」「非現実的憲法」と否定する人たちは、「改憲発議は国会の権限であり義務」「改憲は自民党の党是、国民に対する責任がある」などと主張し、日本国憲法の非軍事の思想が国際社会で果たしてきた大きな役割を評価しようとしない。
 これに対し憲法を大事に考える人たちは「発議権は国会にあっても最後に決めるのは国民」と防御線を張るのが普通だが、この言い方は受動的、消極的過ぎないか。各党の想定する改憲内容がばらばら、公明党さえ9条改憲に慎重なことで議論の行方を楽観していないだろうか。
 「発議権は国会」「最後は国民」―いずれも間違ってはいないが、国会の発議権の源は国民であることを見落としてはならない。
 国会の発議は国会議員の意思の集積であり、議員の意思はその背後にいる国民一人ひとりの意思の集積である。発議された改憲案の是非に限らず、発議を許すか否か、許すとしたらどのような発議にするか、有権者国民の意思と行動しだいで決められる。「最後」を待つ必要はないのである。
 「最後は国民が」だが「まず始めに国民ありき」だ。それなのに今回の選挙の投票率は53%、有権者の約半数は投票しなかった。
                 
☆「軍事に慎重」を反古に 
 日本国憲法の前文と第9条は、日本が戦争をしないこと、戦争のための軍備を持たないことを約束したにとどまらない。国際社会にも軍事に頼ることに慎重であるよう求める、国家としての日本の姿勢を支えてきた。
 安倍内閣はそれを反古にしようとする政治を展開し、改憲で完結させようとしている。
 藤原帰一・東大教授は総選挙中の新聞コラム(2017年10月18日、朝日新聞夕刊『時事小言』)で総選挙の争点を「軍事力の行使に慎重を求めるという戦後日本の基本合意を壊してよいのか」であると書いている。
 一人ひとりの有権者にこうした明白な問題意識があれば異なる選挙結果になっただろう。  

☆一人ひとりの“あなた”
 第9条改憲に反対して立憲民主党を立ち上げた枝野幸男代表は遊説で聴衆に「あなた」と呼びかけ、「あなたの力が必要です」と「参加」を訴えて回った。「あなた」たちが同党を野党第一党として国会に送り込んだのである。
 この国をどのような国にするのか、決めるのは一人ひとりの「あなた」である。政治への主体的参加が民主主義を成熟させる。当面の選挙は終わったが参加は選挙に限らない。

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