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威嚇を牽制と言うまやかし
―日米合同訓練と憲法

寄稿:飯室 勝彦

2017年11月14日

 牽制と言おうが警戒と言おうが、武力をバックにしたそれは威嚇にほかならず、重大事態を誘発しかねない。「北の脅威」を強調して国民を煽り立てる安倍晋三政権のもとでは、そんな危険な行為が当たり前のように繰り返されている。威嚇を牽制と言い替えることで国民の目を曇らせ、安倍政権の憲法無視、暴走を見逃しているのではないか。

 北朝鮮に対する米軍の示威行動が活発化している。米軍機が北朝鮮の領域近くを飛ぶ挑発的な偵察飛行をしたかと思えば、原子力空母3隻を含む艦隊群がそろい踏みして朝鮮半島に近い日本海に展開する大訓練も行われた。国際社会の警告を無視してミサイル試射や核兵器開発をやめようとしない北朝鮮を睨んだ軍事行動であることは言うまでもない。
 
 「軍事力行使を含む全ての選択肢を用意している」と公言してきたトランプ米大統領の国連演説や記者会見、ツイッターでのつぶやきなどは著しく過激になっている。「北朝鮮はこれ以上アメリカを脅かさないのが最上だ。さもないと北朝鮮は世界が見たこともないような炎と怒りに直面する」「米国と同盟国を守ることを迫られれば、北朝鮮を完全に破壊する以外に選択肢はない」などと武力攻撃の可能性を露骨に示している。

 専門家から「6歳児なみの語彙しかない」と酷評されるトランプ氏による表現は直截で刺激的である。北朝鮮の最高指導者、金正恩氏を「リトルロケットマン」「ボーイ」と侮蔑的表現で呼ぶなど、外交関係に配慮する抑制、修辞とは無縁だ。粗野な言動、その誘因として知性や教養の不足を指摘されてもいっこうにひるまず、強大な軍事力を誇示してひたすら北朝鮮を屈服させようとしている。
 安倍首相とトランプ氏はウマが合っているようで、首相は北朝鮮へのトランプ流対応に同調し「対話より圧力」と叫び続けている。「知的営為に対する敬意を欠く政治家」との評が定着している首相と大統領の同質性を感じる人は多いのではないか。
 しかし、世論調査によると首相の圧力路線への支持は根強い。
 フィリピンのドゥトルテ大統領の率直な発言もしばしば話題になるが、国際社会への影響の大きさは比べようがない。「比類なき」と大統領が誇る軍事力を誇示する訓練、それを背景にした過激な発言は威嚇であり、戦争を引き起こしかねない危険性をはらんでいる。現に北朝鮮側が「米国による宣戦布告だ」と激しく反発したこともある。
 
 安倍政権下の自衛隊はそのトランプ流威嚇に荷担しているように見える。自衛隊は北朝鮮の鼻先の海域などで米軍と合同訓練を繰り返している。原子力空母3隻との訓練も合同だった。米軍の艦船をエスコートする米艦防護や駆けつけ警護も実施した。米艦への給油はもはや珍しくなくなった。
 
 「憲法は集団的自衛権の行使を禁じていない」という閣議決定、それに基づく安保法制の制定以来、自衛隊と米軍の一体化、あるいは自衛隊の米軍従属が急速に進んでいる。米海軍と自衛隊の合同訓練はその流れに沿ったものだ。
 メディアはそれに慣れきったのか、いまや報道も地味で合同訓練に対する疑問や批判はあまり見られない。実質的には自衛隊が危険をはらんだ威嚇行動に加わっているのに、訓練の狙いを牽制と説明する報道は、米日合同訓練の危うさに国民が気づくことを妨げている。
 他方で北朝鮮のミサイル試射などは「挑発」と呼んでいるのである。

 憲法第9条第1項は「日本国民は(中略)国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。
 安倍内閣が集団的自衛権の行使、そのための安保法制を合憲と強弁しようとも、憲法が戦争と武力による威嚇を禁じていることは厳然たる事実だ。北朝鮮に対する威嚇を真の目的とする米軍の訓練に自衛隊が加わることは、憲法に照らして重大な疑義がある。自衛隊が米軍と合同で威嚇行動をすることになるからだ。
 憲法で放棄を宣言しているのは戦争だけではない。武力による威嚇も許されない。

 特定秘密、共謀罪、安保法制、臨時国会の開催要求無視、手前勝手な自己都合による衆議院の冒頭解散など立憲主義に反する既成事実を積み重ね、次々と憲法を踏みにじる安倍政治に終止符を打たなければならない。

 国民生活の貧窮には目もくれず、国連に集う世界各国民の願望にも背いて軍事力強化に走り、危険な火遊びのようなミサイル試射をやめようとしない北朝鮮の指導者が非難されるのは当然だ。
 しかし、ミサイル試射や核開発が挑発なら、核兵器も搭載できる空母の展開は威圧であり威嚇であろう。「脅しには脅しで」と言わんばかりのアメリカの対応に荷担するのは国連の精神や、戦後の日本が守ってきた平和主義にも反する。
 牽制ではなく威嚇、米軍、自衛隊の合同訓練を実態に即した呼び方に変えるだけでも安倍政治の危うさ、違憲性がより明らかになる。

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