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平和を生きた責任
―安倍政治に終止符を

寄稿:飯室 勝彦

2018年1月9日

 「自衛のための最小限度」という歯止めにならない言い回しをよいことに、自衛隊の増強に拍車がかかっている。陸上イージス、長距離巡航ミサイル、そしてついに空母…憲法第9条に基づく日本の大方針「専守防衛」は捨て去られたかのごとくである。他方で福祉予算の抑制や改憲の動きが着々進む。北朝鮮や中国の“脅威”を利用して国民の不安を煽る安倍晋三政権の思惑通り、この国の形がさま変わりする危機に直面している。いまこそ一人ひとりの国民が、目先の利害にとらわれず、政治を長期的視点で監視しチェックしなければならない。

◎護衛艦を改造しステルス機搭載
 北朝鮮によるミサイル試射、中国の海洋進出など「安全保障環境の緊迫化」を背景に、2017年には自衛隊に関する報道が目立った。とりわけ注目を集めたのは暮れも押し詰まってから伝えられた「空母保有を検討」のニュースだ。
 海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」を空母に改造し、ステルス機能を有する米国製の戦闘機F35Bを搭載する予定だという。「いずも」は甲板が平らなことから2015年の就役当時から将来は空母にするのではないかと話題になっていた。 

 自衛隊側は「攻撃型空母ではなく、離島防衛の補給拠点など防衛目的で利用する」というが、戦闘機を積んだ空母が周辺海域に展開すれば北朝鮮、中国などとの関係がいま以上に緊張するのは明らかだ。空母に積まれた戦闘機は世界のどこへでも進出できるし、物資補給、給油など米軍と一体化した作戦もどこででもできる。他のアジア各国も警戒感を強めるだろう。

◎「必要最小限」を逸脱
 ましてその空母に搭載予定のステルス機はレーダーに捕捉されずに敵地深く侵入できる。典型的な攻撃型兵器だ。いくら「離島防衛用の武力」と説明しても納得は得られまい。
 客観的には歴代内閣が踏襲してきた専守防衛、つまり「憲法第9条に照らし、自衛のために必要な最小限度の範囲を超える武力は持てない」という見解の逸脱である。
 小野寺五典防衛相は「具体的検討はしていない」と表向き否定しながら「不断の検討は必要」と言い、語るに落ちたかっこうだ。

 空母のニュースに先立ち12月8日、防衛相は長距離巡航ミサイルの導入を正式に表明した。ここでも「離島防衛のため」と称し、「有事の際に敵の艦船を攻撃する」「敵基地の攻撃を目的としたものではなく専守防衛には反しない」と釈明したが、射程500㌔~900㌔で日本から北朝鮮、中国、ロシアに届く。盾どころか、自衛のための槍としても長すぎないか。

 まだある。19日には陸上配備型ミサイルシステム「イージス・アショア」2基の導入を閣議決定した。北朝鮮の弾道ミサイルに対応するというのが理由で、イージス艦搭載のミサイルなどと共に運用するという。
 しかし本体設置だけで1基ざっと1,000億円、レーダーの種類も決まっておらず総額は明らかではない。さらに搭載を想定されるミサイルは開発中で導入の効果は未知数だ。

◎防衛費は6年連続で増加
 安倍内閣は自衛隊の増強に熱心で防衛費はふくらむばかり。2018年度の予算案では5兆1,911億円で6年連続の増加である。調査、準備段階のミサイル導入が本格化すればさらに大きく膨らむことが確実だ。
 まるで新しい玩具を欲しがる子供のように防衛庁は「安倍内閣のうちにあれもこれも」と新しい兵器を買いあさっているように見える。その兵器はほとんどが米国製で、安倍首相が来日時に武器証人のように振る舞ったトランプ米大統領の言いなりになっているようでもある。

 他方で生活困窮者の命綱である生活扶助費を切り下げたり、高齢者の医療費などに切り込んだりしている。新聞の川柳欄で「バターより大砲という予算案」(水野敏男作・12月20日付け朝日新聞朝刊)と皮肉られたのは当然だ。
 来年度の沖縄振興費が2年連続で減らされ3,010億円にとどまったことも見逃せない。2月の名護市長選、秋の沖縄県知事選を睨み、翁長雄志知事ら米軍普天間飛行場の辺野古移転に反対する人々に対する露骨な牽制だ。

◎「抑止」という「脅し」
 自衛隊の増強をめぐってはいつも「抑止」「抑止力」というキーワードが持ち出される。「相手に行動を起こすのをあきらめさせることができる武力を保有する必要性がある」というのだが、巡航ミサイル導入は「いざという時に直接攻撃を受ける前に敵の基地をたたける能力を持つ」、あるいは「相手が攻撃してくる元を制圧して2発目以降の攻撃を防げる実力を備えることによって相手に攻撃する気を起こさせない」という意味もあるという。
 いわば一種の「脅しによる平和」であり、安倍首相が付き従う姿勢を隠そうとしないトランプ大統領の「力による平和」に通じる。

 自衛隊の増強、特に攻撃型兵器などの導入は、いくら「自衛のため」と言っても、相手と想定される国々を刺激して軍拡競争を招き、不測の事態も起きかねない。
 ほとんどの戦争は自衛の名の下に始まる。その歴史を踏まえて生まれた日本国憲法のどこを読んでも「脅し、力による平和」は書かれていない。あるのは「日本国民は…国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は…永久にこれを放棄する」という第9条である。

◎平和憲法の骨抜きを狙う
 安倍首相が進める政治は戦争ができる「普通の国」への回帰である。すでに安全保障法制の施行で日本領土外での武力行使、それも米軍との連携による武力行使さえ法制上は可能になった。全面改憲が難しいと分かってからは、第9条に自衛隊の役割を明記した第3項を追加する加憲で平和不戦条項を骨抜きにしようとしている。
 それでも安倍内閣の支持率は比較的高く、自民党内の一強多弱も変わらず、長期政権になりそうだ。

◎昭和史を直視し教訓を生かす
 いまの日本の政治の中心にいるのは、戦争の悲惨さを体験したことがなく、非武装平和の理想を掲げて戦後民主主義を築いてきた先人の苦労に学ぼうともしない人たちである。
 安倍政治の危険性を察知している国民も多いが、人口の80%以上は戦後生まれ、戦争に関する現実感覚を欠いたまま「安全保障環境の緊迫化」という常套句に惑わされてナショナリズムが高揚している。このままだと危険な安倍政治に引きずられ気がついたら「あの時代」に逆戻りしていた、ということになりかねない。

 国際連盟から脱退し、新聞紙法の改正で言論、報道など表現の自由の規制が強化され、国定教科書に「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」という文章が登場したのは昭和8(1933)年、それ以後の日本は急速に軍国主義化、ファシズム化し長い戦争に突入していった。
 安倍政権は、改憲の策謀にとどまらず、特定秘密保護法や共謀罪を強引に制定、教育の憲法と言われた教育基本法を改悪、道徳教育を正式教科化し、教育勅語の教材使用を否定していない。そして軍拡…。時代の雰囲気は似ているのである。
 
 統一ドイツの初代大統領、ヮイツゼッカーは「過去に目を閉ざす者は現在に対しても盲目になる」とドイツ国民にナチスの過去を直視するよう呼びかけた。
 昭和史を誠実に振り返って教訓を学び、現在に生かして、日本の目指すべき未来を誤らないようにする。それは平和の時代を生きた者に課された責任である。

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