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秘密保護法 パブコメ、もう出しましたか

寄稿:海渡雄一(弁護士)

2014年8月17日

いま、秘密保護法のパブコメをやっています。皆さんはもう出しましたか。私は、この文章の末尾につけた意見を提出しました。私が提出したパブコメ意見を公表します。これまで考えてきたことをまとめたものです。

転載歓迎著作権フリーです。お気に入ったら、一部でも切り取って皆さんのご意見としてお使い下さい。24日が締めきりです。あと一週間を切りました。法律が施行されるまえに、市民の秘密保護法廃止の声を政府に届ける貴重な機会だと思います。

秘密保護法は市民の知る権利を侵害する憲法21条、自由権規約19条違反の法律だ。秘密保護法の下では、市民が知るべき情報が特定秘密に指定されてしまうことは防げません。特定秘密保護法をそのままにして、政令や運用基準でさまざまな監視機関を作ったり、内部通報制度を作っても、有効に機能するわけがないのです。

違憲な法律は、まず廃止するしかないし、我々は、政令や運用基準の制定そのものに反対です。せめて、行政機関の法令違反の事実を指定してはならないことを法律あるいは政令のレベルで明記するべきです。独立公文書管理監の独立性を確保するには、政令レベルせめて運用基準で、秘密指定行政機関に帰るような出向人事は否定するべきです。

内部通報窓口を19機関と独立公文書管理監に設置したとされるが、法律や政令中に、政府の法令違反について秘密指定をしてはならないという規定がない以上、公務員が、その秘密指定が秘密保護法に違反していると確信できるなどという場合はほとんどあり得ず、公益通報の実効性は全くありません。

日弁連のHPにパブコメの案内と簡単な文例が載っています。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/secret/about.html

秘密保護法廃止実行委HPに例文集が載っています。また、5分程度のパブコメミニ講座が動画で掲載されています。秘密保護法対策弁護団の矢崎暁子弁護士があつく語ってくれています。

http://www.himituho.com/

秘密保護法対策弁護団HPにも例文集が載っています。

http://nohimituho.exblog.jp/

ぜひ、皆さんも、簡単なものでいいですから、思い思いのパブコメを提出し、これをウェブ、ツイッターやフェイスブックでひろめましょう。

第1 総論

1 パブリック・コメントに臨む私の基本的立場(統一運用基準Ⅰ1)

私は、秘密保護法は廃止すべきだと考えている。

今回のパブリック・コメントでは、法律をそのままにして、政令案や運用基準案についてだけ、意見を述べることを求めている。しかし、特定秘密保護法は市民の知る権利を侵害する憲法21条、自由権規約19条違反の法律である。この秘密保護法の下では、市民が知るべき情報が特定秘密に指定されてしまうことは防げない。特定秘密保護法をそのままにして、政令や運用基準でさまざまな監視機関を作ったり、内部通報制度を作っても、有効に機能するわけがない。違憲な法律は、廃止するしかありません。私は、政令や運用基準の制定そのものに反対である。

2 自由権規約委員会からも見直しが求められている(統一運用基準Ⅰ1)

2014年7月24日、自由権規約委員会より日本政府に対して以下のような勧告意見が出された。

私は、この委員会に日弁連の代表団の代表として参加した。

秘密保護法については、日本のNGOは19団体のジョイントレポートを提出した。日弁連、アムネスティもこの問題を取り上げ、ツワネ原則を起草したオープンソサエティ・ジャスティスイニシアティブも、秘密保護法の内容を検討した詳細なレポートを提出した。このような動きを受けて、審査の第二日目にドイツのフォー委員が表現の自由について質問する中で、秘密保護法について詳細に取り上げた。

日本政府は、法全体の英訳を委員会に提供し、今回の立法は欧米なみのものであり、恣意的な運用はされない、報道目的の情報取得は処罰されないなどと回答した。

しかし、委員会は、勧告23項において、規約19条にもとづいて、「近年国会で採決された特定秘密保護法が、秘密指定の対象となる情報について曖昧かつ広汎に規定されている点、指定について抽象的要件しか規定されていない点、およびジャーナリストや人権活動家の活動に対し萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されている点について懸念する」として、「日本政府は、特定秘密保護法とその運用が、自由権規約19条に定められる厳格な基準と合致することを確保するため、必要なあらゆる措置を取るべきである。」とし、「(a)特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されていること、また、情報を収集し、受取り、発信する権利に対する制約が、適法かつ必要最小限度であって、国家安全保障に対する明確かつ特定された脅威を予防するための必要性を備えたものであること。(b)何人も、国家安全保障を害することのない真の公益に関する情報を拡散させたことによって罰せられないこと。」が具体的に勧告された。

秘密指定には厳格な定義が必要であること、制約が必要最小限度のものでなければならないこと、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動が処罰からの除外されるべきことが求められた。

パブコメの開始されたのと同じ日である7月24日に示された自由権規約委員会の勧告は下位法令や運用基準レベルでの小手先の対応ではなく、法そのものの廃止を含めて抜本的な見直しがなされなければ国際社会の日本政府に対する言論弾圧の疑念は払拭できないことを示している。

日本政府は、この勧告にしたがって、ただちに特定秘密保護法を抜本的に見直すべきである。

3 ツワネ原則に従い全面的な見直しを(統一運用基準Ⅰ1)

特定秘密保護法は、既存の国家公務員法や自衛隊法、日米安全保障条約に関連する秘密保全法制度、情報公開制度、公文書管理制度、公益通報者保護制度を含めて、自由権規約19条によって保障される表現の自由・知る権利と国際的に承認されたツワネ原則などに基づいて、より情報公開が図られ、市民の知る権利を保障する方向で、以下の諸点を含む全面的な制度の見直しを行うべきである。

① 秘密指定の立証責任は国にあることを法律に明記する。

② 何を秘密としてはならないかを法律において明確にする。

③ 秘密指定について60年よりも短い期限を法律で定める。

④ 市民が、秘密解除を請求するための手続を法律に明確に定めること。

⑤ 刑事裁判において、公開法廷で秘密の内容を議論できることを法律において保障すること。

⑥ すべての情報にアクセスし、秘密指定を解除できる政府から独立した監視機関を法律に基づいて設置すること。

⑦ 内部告発者が刑事処罰から解放されることを法律上明確に保障すること。

⑧ ジャーナリストと市民活動家を処罰してはならず、情報源の開示を求めてはならないことを法律に明確に定めること。

4 ジャーナリストと市民活動家を処罰の対象としてはならない(統一運用基準Ⅰ2(1)ウ)

(1)ジャーナリストだけでなく市民活動家も保護すべき

運用基準では、「出版又は報道の業務に従事する者と接触する際には、特定秘密保護法第22条1項及び第2項の規定を遵守し、報道又は取材の自由に十分に配慮すること」とある。

まず、なぜジャーナリストの報道又は取材の自由だけが特に留意され、その他の環境活動家や人権活動家等、公益活動を行う者の情報公開又は情報収集活動が保護されないのかを指摘しなければならない。ヨーロッパ人権裁判所の判例(2005年2月15日SteelおよびMorris対イギリス事件。通称「マック名誉毀損事件」)によれば、ジャーナリストだけではなく、人権活動家等も同等の保護を受けるべきとされている。法にはこのような配慮が全く見られない。

(2)特定取得行為はジャーナリストと市民活動家を対象としている

秘密保護法は、23条において、ジャーナリストと市民活動家らによる特定秘密取得行為を「秘密の管理者による管理を害する行為」によって取得することを処罰の対象としている。取材源などの情報源の開示を求められないことの保障も見あたらない。

秘密保護法が定める特定取得行為という犯罪類型は明らかに公務員以外の者の処罰を意図している。ここでは、ジャーナリストも原則として排除されておらず、その取材行為のやり方によって処罰の対象とされる仕組みとなっている。そして、この点は、自由権規約委員会からも最も厳しく規約19条違反が指摘された。

(3)ジャーナリストと市民活動家を処罰の対象から除外することを求めるツワネ原則

ツワネ原則は公務員については、処罰される場合があり得ることを否定していないが、公務員でない者(ジャーナリストと市民活動家)は処罰してはならないことを明確に定めている。

原則47(a)は「公務員以外の者は、機密情報の受領、保有又は公衆への暴露に関して、制裁を受けない。」「 (b)公務員以外の者は、情報を求めたり入手したりしたという事実を理由に、共謀その他の容疑で訴追されるべきではない。」としている。ただ、この条項に付けられた注によれば、「情報の入手又は複写に対する刑事訴追を防止することを目的にしている。しかしながら、この原則はその他の犯罪、たとえば情報を探索又は入手する過程での不法侵入や恐喝のような犯罪の免責を目的とするものではない。」としている。この原則は、ジャーナリストが情報の入手の過程で犯した犯罪があれば、これを処罰すれば、足りると考えているのである。

また、公務員でない者は、情報流出の調査において、秘密の情報源やその他の非公開情報を明らかすることを強制されるべきではない(原則48)ともしている。

(4)ヨーロッパ人権裁判所の判例

(a)ヨーロッパ人権条約10条

ツワネ原則が採用している秘密を公にした場合に、それによる公益と秘密を漏らしたことによる不利益のバランスを考慮して、バランスがとれていれば処罰しないという考え方は、ヨーロッパ人権裁判所で近時急速に発展してきた考え方である。

取材・報道のための活動が形式的には法に違反しても、刑事処罰を求めることが表現自由を保障したヨーロッパ人権条約第10条に反するとされたケースがヨーロッパ人権裁判所の判決には多数含まれている。

ヨーロッパ人権条約第10条は、国際人権規約19条と同様に、表現の自由を保障している。表現の自由に対する制限が条約に反するかどうかを検討する場合には、第1に、この制限が法によって規定され、第2に、その制限が(a)他の者の権利又は信用の尊重、(b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護という合法的な目的にかなっていなければならず、第3に、その制限が、「民主社会において必要」でなければならないとされている。「国の安全」、「公の秩序」などの用語は日本で準備されている秘密保全法制と共通するようにも見える。しかし、その中味はかなり違う。

(b)「フレッソおよびロワール対フランス」事件

この中で「必要性」の要件が最も重要である。ヨーロッパ人権裁判所の興味深い判決を二つ紹介する。一つ目は「フレッソ(Fressoz)およびロワール(Roir)対フランス」事件である。

同事件では、二名のジャーナリストが、匿名の税務関係者による違法な情報漏えいを受けて、プジョー社の取締役の納税申告書を公表したことから、盗難資料を入手したとしてフランスの裁判所から贓物(ぞうぶつ)贓物(不法入手物)犯罪で有罪判決を受けた。

この取締役が二年間で45・9%の昇給を自らに与えていたことを示すこの二名のジャーナリストによる記事は、プジョーの労働者が昇給を要求して拒否されていた労使紛争のさなかに発表された。裁判所は以下のように判断し、両名に対して刑事罰を科すことはヨーロッパ人権条約10条に反するとした。

「民主主義社会において報道機関が果たす不可欠な役割を認識しながらも、裁判所は、第10条がその保護を認めているという前提で、原則としてジャーナリストを通常の刑法に従うという義務から解放することはできないことを強調する」、「つまり、取材に携わる個人は、法を犯すことを全般的に許可されているのではなく、個々の事例において、世間に情報が知らされることの重要性が刑法によってもたらされる利益にまさるかどうかを評価しなければならない」、「欧州人権裁判所は、フレッソとロワールが、透明性の高い方法で誠実に行動しており、納税申告書のコピーを入手するという犯罪行為が彼らの記事の信頼性を証明するのに必要であったと判断した」、「課税査定の真正さを検証したRoire氏は、ジャーナリストとしての自身の職業を遂行する(倫理)基準に従って行動した。個々の資料からの抜粋は問題となっている記事の内容を裏付ける目的があった」。

(c)「グジャ対モルドバ」事件

外形的には違法行為でも、違法行為として責任を問うことがふさわしくないとヨーロッパ人権裁判所が判断した最近の判例として2008年2月の「グジャ(Guja)対モルドバ」事件がある。

このケースは、モルドバ検察庁の報道室長であったグジャ氏が政治家による不当な検察への圧力を証明するメモを事前の検察庁からの承諾なしに新聞社に渡したという内規違反で解雇されたことについてその解雇が「表現の自由」に違反しているかが争われた。グジャ氏はこの解雇は不当としてモルドバ国内で解雇取り消しの民事訴訟を起こしていたが認められず、その後ヨーロッパ人権裁判所に訴えていた。ヨーロッパ人権裁判所は以下のように述べグジャ氏の解雇は第10条違反にあたるとした。

「民主社会において政府の行為や怠慢については立法機関や司法機関だけでなく、報道機関や世論などの緊密な監視の下に置かれなければならない。ある情報に関して市民の関心が特に高い場合には、時に法的に科されている秘密保持の義務でさえくつがえすことができる」。

(5)秘密を暴露したことで罪に問われたアメリカ人ジャーナリストはいない

アメリカの国家安全保障会議(NSC)元高官のモートン・ハルペリン氏が、2014年5月初旬に日弁連と秘密保護法廃止実行委員会などの招きで来日し、東京と名古屋で院内集会や市民集会で講演した。ハルペリン氏はアメリカの核戦略と国家秘密法制の専門家であり、国防総省の高官として沖縄返還交渉に関与した。佐藤栄作首相の密使だった若泉敬氏とも親交がある。また、ハルペリン氏はオープンソサエティの上級研究員として、ツワネ原則の起草にも深くかかわった。

ハルペリン氏は秘密保護法がツワネ原則に反する点を多数上げたが、とりわけ秘密保護法は市民やジャーナリストら民間人が刑罰に問われる点が特に問題であるとした。アメリカでは、明文の法規定はないが、これまでにジャーナリストが秘密保護法違反の罪で起訴され有罪となったケースはないという。公務員で内部告発した者の保護も十分でないと批判した。

(6)政府に不都合な情報の秘匿を防ぐために

ジャーナリズムのことを社会の木鐸と呼ぶことがある。社会を教え導くことが報道機関には求められている。その大きな役割が、政府が秘密にしている「不都合な真実」を明らかにしていくことである。

エルズバーグ氏の内部告発と「ワシントン・ポスト」「ニューヨークタイムス」の記者たちの努力が実らず、ペンタゴンペーパー事件とこれに続くウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任に追い込まれていなければ、ニクソン大統領は再選され、ベトナム戦争は泥沼化し、核戦争にまで発展していたかもしれない。

政府にとって都合の悪い情報を徹底して秘密にしようとする政治体制は、チェルノブイリ事故後のソビエトの例を見ても、民主政治の根本を危うくする危険性がある。

ヨーロッパ人権裁判所はこのことを深く自覚し、ジャーナリストやNGO(非政府組織)活動家が政府の隠された情報にチャレンジして情報を入手して公開する過程に形式的な法違反があっても、その情報が公共の討論に貢献し、違反による害が大きくなければ、倫理的な基準に沿ってなされた行為に対して刑事罰を科すべきではないという法理を確立したのである。

また仮に均衡を欠き、刑罰を科さざるを得ない場合も、表現行為に対する刑罰は罰金に止めるべきであるという判例理論も確立している。

世界一の厳罰国家となっているアメリカですら、政府の秘密にチャレンジするジャーナリストは処罰しないことを実務運用の根本原則としてきた。

ジャーナリストや市民活動家を刑務所に送り込もうとしてやまない日本政府とは根本的に違う価値観がヨーロッパとアメリカでは共有されている。ツワネ原則は、このようにしてヨーロッパにおいて発展してきた民主主義と国の安全保障を両立させる考え方をガイドラインとして定式化したものだと言える。秘密保護法は、この決定的に重大な点においても、明らかにこの原則に違反している。

5 秘密法違反の法廷では特定秘密を開示すること(施行令18条)

特定秘密保護法により起訴された刑事事件の裁判手続において、証拠開示決定がなされた場合には秘密指定を解除しなければならないとされているが(逐条解説57頁)、証拠開示決定に至らなかった場合には、刑事弁護人に対しても特定秘密は開示されないこととなると考えられる。

逐条解説57頁によると、「かかる検察官による裁判所への提示のほか、当該捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者以外の者に当該特定秘密を提供することがない」と記述されており、「検察官」「裁判所」は明記されているのに対して、「弁護人」が明記されていない。裁判所がインカメラ手続を経た上で証拠開示決定を行わなければ、「弁護人」に対してのみ公訴事実となっている特定秘密が提供されないことになる。

ツワネ原則は秘密に関わる裁判手続についても、重要なことを決めている。原則28(a)は「公衆が訴訟手続へアクセスする基本的な権利は、国家安全保障が持ち出されてもこれに依拠して損なわれてはならない。」「 (d)国家安全保障を理由として、公衆の訴訟手続へのアクセスの制限が絶対に必要だとする、公的機関によって発せられるあらゆる主張に対して、公衆は異議を申し立てる機会を有するべきである。」

刑事訴訟について定める原則29(b)は、「いかなる場合でも、被告人が証拠について精査、反論する機会を持たないまま、有罪判決を下したり、自由を剥奪したりするべきではない。」「(c)法的公正さの点から、公的機関は被告人と被告人の弁護人に対し、その個人が問われている容疑と、公正な裁判を確実に行うために必要なその他の情報を、たとえ機密扱いの情報であっても、原則3〜6、10、27、28に従い、公共の利益を考慮した上で、開示するべきである。」「(d)公正な裁判を保証するために必要な情報の開示を公的機関が拒んだ場合、裁判所は審理を停止、若しくは起訴を棄却すべきである。」と定める。また、民事裁判についても、原則30(b)は、「人権侵害の被害者は、被った侵害についての情報公開を含む、実効的な救済及び補償を受ける権利を有する。公権力は、この権利に矛盾するような方法で、被害者の主張のために不可欠な情報を秘匿してはならない。」と定めている。

日本国憲法82条は表現の自由など人権に関する裁判の公開を絶対的な要請としており、秘密保全法違反の裁判の公開は絶対的な要請のはずである。しかし、この点について秘密保護法は、刑事裁判と民事裁判に関して裁判所へ特定秘密の情報を提供するインカメラ手続については10条1項ロ、ニにおいて規定しているが、その場合にツワネ原則の定めるような、公開の法廷において特定秘密を公開して審理できることを保障するような根拠規定が欠けている。前述のように、裁判官が証拠開示命令を認めなければ、検察官と裁判官だけに秘密が提示されて弁護人には提供されない裁判が現実のものとなる。また、法には公開の法廷で秘密の内容に言及したことで弁護士も刑事責任を問われるような扱いがなされても、これを食い止める保障がない。

このような刑事裁判は、実質的武器対等の原則に反し、被告人の防御権に対する不当な制約となる。このような裁判は公正な裁判といえず、自由権規約14条に違反していると言わざるを得ない。

第2 秘密の指定・解除

1 政府は自らの違法行為を秘密指定するな(統一運用基準Ⅱ1、同Ⅲ2(1)、同Ⅲ2(2))

近現代の歴史を見ると戦争の始まりには必ず政府のウソがあり、そのウソは秘密とされてきた。

1931年9月18日、柳条湖(りゅうじょうこ)付近で、日本の所有する南満州鉄道の線路が爆破された。関東軍はこれを中国軍による犯行と発表することで、満州における軍事行動と占領の口実とした。しかし、この事件は、関東軍高級参謀板垣征四郎大佐と関東軍作戦主任参謀石原莞爾中佐らが仕組んだ謀略事件であった。

アメリカ軍が本格的にベトナムに介入するきっかけとなった1964年8月の北ベトナム海軍による魚雷攻撃事件のうち、2回目に起きた8月4日の事件は、8月7日の議会の宣戦布告の理由とされたが、ペンタゴンペーパーズによって、アメリカ側が仕組んだ捏造された事件であったことが明らかになっている。

2003年2月6日国連でパウエル国務長官が説明したイラクが大量破壊兵器を保有しているという説明は、CIAの情報に基づくとされたが、長官退任後にパウエル氏自身がこの発言は間違いだったと認め、「人生最大の恥」とまで述べている(2004年4月3日BBC)。

秘密保護法は、政府の秘密を拡大し、民主主義を破壊し、市民の判断を誤らせ、むしろ国の安全保障を根底から危機に陥れる可能性がある。

本来は、法律の段階で、せめて政令の段階で、特定秘密の指定と解除、廃棄の各段階において、政府の違法行為や汚職腐敗、環境汚染の事実などを秘密指定してはならないことを要件としてきちんと書き込むべきだ。そして、このような事項を違法に秘密指定したり、これを黙認した公務員に対して懲戒責任を問えるようにするべきだ。

2 法令違反の秘密指定禁止は法律政令事項にせよ(統一運用基準Ⅱ1(4))

運用基準の特に遵守すべき事項として、「公益通報の対象事実その他の行政機関の法令違反の隠蔽を目的として、指定してはならないこと。」が決められた。

ツワネ原則では、原則10で何を秘密としてはならないかがA-Fに詳細に示されている。この項目は、原則37によって内部告発によって免責される開示情報のリストともなっている。原則10は膨大なので、これを要約した原則37から引用すると「(a)刑事犯罪/(b)人権侵害/(c)国際人道法違反/(d)汚職/(e) 公衆衛生と公共の安全に対する危険/(f) 環境に対する危険/(g) 職権濫用/(h) 誤審/(i) 資源の不適切な管理又は浪費/(j) この分類のいずれかに該当する不正行為の開示に対する報復措置/(k) この分類のいずれかに該当する事項の意図的な隠蔽」とされている。これらの情報を明らかにした者は保護されなければならない。

ところが、秘密保護法は、3条と別表において、秘密指定の対象となる事項を定めているが、極めて広範な事項が秘密指定の対象とされ、他方でどのような種類の情報を秘密指定してはならないかという観点から定められた規定は皆無である。「何を秘密にしてはならないか」という観点からの規制が欠如し、これと連動する内部告発者の保護の規定が欠如することとなっている。

隠蔽目的は必要なく、政府の違法行為を秘密指定してはならないことが法規範として明確化されることが決定的に重要である。そのためには、「公益通報の対象事実その他の行政機関の法令違反の事実を指定してはならないこと」を法律、せめて政令のレベルで明記するべきだ。

第3 適性評価

1 医療機関に対する医療情報の照会をするな(統一運用基準Ⅳ5(5))

医療機関に対して個人の医療情報の照会を行うことは、医師に対して守秘義務違反の情報提供を強要することとなる。

2 適性評価の強制は許されない(統一運用基準Ⅳ3(3)ア)

適合事業者の従業者についての適性評価は、「契約後当該事業者が特定秘密の取扱いの業務を行うことが見込まれることとなった後に実施する」とされており、まだ契約締結が不確かな「見込まれる」という状況であっても、契約を締結するために適性評価に進んで応じざるを得ない状況を作り出している。

3 適性評価の範囲が無限定だ(統一運用基準Ⅳ5(6)ア)

運用基準では、面接などで「疑問点、矛盾点その他の事実を明らかにすべき事項がないかどうかを確認することを基本とし、これにより疑問点が解消されない場合等に、公務所等への照会を行うものとする。ただし、調査を適切に実施するために必要があるときは、これらの手続の順序を入れ替えて実施することを妨げない」として、「調査を適切に実施するために必要があるとき」という極めて不明確な要件で、要件充足の判断手続も明らかでないまま、評価対象者の極めて個人的な情報について公務所又は公私の団体に対して調査を行うことが可能とされ、原則と例外が逆になってしまうおそれがある。

第4 第三者機関

1 独立公文書管理監には独立性が欠如している(統一運用基準Ⅴ3(1)ア、内閣府令)

(1)ツワネ原則が求める監視機関の独立性

ツワネ原則は監視機関について、重要な原則を提供している。安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきである。監視機関は、実効的な監視を行うために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきである(原則6,31-33)としている。

ツワネ原則は第5章において、監視機関のあり方について、詳細に規定している。

まず、原則 31は、独立監視機関の設置について規定し、「国家がまだ安全保障部門の組織を監視するための独立監視機関を設置していないならば、これを設置するべきである。監視項目には、機関の活動・規則・指針・財務・管理運営が含まれる。このような監視機関は、監視対象機関からは、組織・運営・財政の面で独立しているべきである。」としている。

次に、原則 32は、任務の遂行のために必要な、情報への無制限のアクセスについて規定する。「 (a)独立監視機関が、その責務を遂行するために必要な全ての情報にアクセスできることは、法によって保証されるべきである。情報の機密性のレベルに関わらず、合理的な安全保障上のアクセス条件を満たしていれば、アクセスに制限を設けるべきではない。(b)監視機関がアクセスできる情報には以下のものが含まれるべきであり、しかもこれに限定されない。

(i)安全保障部門の機関が保有する記録、テクノロジー、システムの全て。その形式と媒体、その機関によって作成されたものであるか否かは問われない。

(ii)所在場所、備品、施設・設備。

(iii)監視職員が、監視職務に関わりがあると判断した個人が保有している情報。

(c)機密性を保持する立場にある公務員が負っているあらゆる義務は、彼らが監視機関へ情報を提供することを妨げるべきではない。このような情報の提供は、守秘義務を定めた法律又は契約の違反とみなされるべきではない。」

さらに、原則33は、情報へのアクセスを保証するために必要な権限、資源、手続きについて規定する。「 (a)独立監視機関は、責務を遂行する上で必要とみなされるあらゆる関連情報にアクセスし解釈できるために十分な法的権限を有するべきである。

(i)上記の権限は少なくとも、現在と過去の行政府の成員と公権力の被雇用者及び契約業者に質問し、関連がある記録を要求・検査し、さらにその物理的な所在場所と施設を視察する権利を含むべきである。

(ii)また独立監視機関は、必要な場合には法執行機関による十分な協力のもと、これらの人物を召喚し記録を取り寄せ、責務を達成する上で必要な情報を保有していると判断された人物に、宣誓の上で証言させる権限を与えられるべきである。

(b)独立監視機関は、情報を処理する際と証言を強制する際には、自己負罪に対する保護やその他の適正な法の手続きが求める条件とともに、とりわけプライバシーに関する法律を考慮に入れるべきである。

(c)独立監視機関は、その責務の効率的な実行に関わる情報の特定、アクセス、分析を可能にするために必要な財的・技術的・人的な資源へのアクセスを有するべきである。

(d)法は、独立監視機関が責務を遂行するために必要な情報にアクセスし解釈できるように、安全保障部門の組織による協力を義務付けるべきである。

(e)法は安全保障部門の組織に対し、監視者が責務を達成するために必要と判断した特定の種類の情報を、積極的且つ速やかに、独立監視機関へ開示することを義務付けるべきである。これらの情報には、法や人権基準の違反の可能性についての情報が含まれ、しかもそれだけに限定されるべきではない。」

原則34では、独立監視機関自身の透明性について規定し、定期的な報告書の作成などを求めている。

(2)独立公文書管理監

このように、独立監視機関は、対象機関から、組織、運営、財政の面で完全に独立していなければならないこと、この機関は対象機関の保有している情報に対する完全なアクセスの権限が認められなければならないとされている。また、その権限を行使するための尋問などの権限を認め、安全保障部門は独立監視機関には協力しなければならないとされている。

このような国際水準に照らして検討すると、独立公文書管理監について、内閣府令に設置根拠だけは作られたが、その構成メンバーの選任基準は全く明確にされていない。事前の報道では防衛省、外務省、警察庁の審議官レベルで構成するとされていた。人事などの組織、運営、財政などあらゆる面から見て、秘密指定機関からの独立性が欠如している。秘密へのアクセスも制限されている。

知る権利と安全保障に関する国際基準であるツワネ原則は、すべての情報に対するアクセスを認められた、独立第三者機関が必要であるとしている。独立公文書管理監はこのような機関に該当しない。制度設計を根本からやり直すべきである。

2 独立公文書管理監の秘密指定行政機関からの出向人事を禁止せよ(統一運用基準Ⅴ3(1)イウ、内閣府令)

独立公文書管理監は秘密の指定、解除について、行政機関を管理監督するというが、独立性を確保するには、政令レベルせめて運用基準で、秘密指定行政機関に帰るような出向人事は否定しなければ、最低限の独立性も確保できない。

3 秘密開示の権限がない機関では意味がない(統一運用基準Ⅴ3(2)ウ、内閣府令)

独立公文書管理監が特定秘密の開示を求めても、行政機関は「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認められない」ときには、理由を疎明すれば開示を拒否できるとされている。特定秘密に対する完全な開示の権限を持たないような、第三者機関は意味がない。

第5 内部通報の実効性が確保されていない

1 政府の法令違反について秘密指定をしてはならないという規定がない以上内部通報には実効性がない(統一運用基準Ⅴ4(2)ア(エ)、同Ⅴ4(2)イ(キ))

内部通報窓口を19機関と独立公文書管理監に設置したとされるが、法律や政令中に、政府の法令違反について秘密指定をしてはならないという規定がない以上、公務員が、その秘密指定が秘密保護法に違反していると確信できるなどという場合はほとんどあり得ず、公益通報の実効性は全くない。

ツワネ原則の37項に従い、「(a)刑事犯罪/(b)人権侵害/(c)国際人道法違反/(d)汚職/(e) 公衆衛生と公共の安全に対する危険/(f) 環境に対する危険/(g) 職権濫用/(h) 誤審/(i) 資源の不適切な管理又は浪費/(j) この分類のいずれかに該当する不正行為の開示に対する報復措置/(k) この分類のいずれかに該当する事項の意図的な隠蔽」については、明らかにしても処罰されないことを法ないし政令に明記するべきである。

2 このままでは内部通報制度は内部告発の封じ込め手段になりかねない(統一運用基準Ⅴ4(2)ア(エ)、同Ⅴ4(2)イ(キ))

内部通報は公務員が秘密の指定などが秘密保護法等に従っていないと考えたときにできるとされた。しかし、秘密保護法自身が政府の違法行為等について秘密指定を禁止していない以上、公務員が秘密の指定などが秘密保護法等に従っていないと考えられるような場合はほとんど想定できず、公務員が違法秘密と考えた場合も、通報は取り上げられない可能性が高い。そうだとすると、内部通報・市民団体はマスコミなど外部に情報を出ないようにするための封じ込め手段になりかねない。運用基準が定めている内部通報制度には、政府が自らの違法行為を秘密指定してはならないという根本原則が欠落しているため、実効性が欠けたものといわざるを得ない。

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国立大学法人法成立 : その先に見える景色と私たちの課題